そして未来へ
カナンが目を覚ますとそこは最初にいた遺跡だった。もうあの華やかな都の名残はどこにもない。時計塔だった物の残骸が転がるだけだ。クロの姿もない。あれは全て夢だったのだろうか。
「……う…う…ん…」
すぐ後ろで声がする。それは行方不明だった父親だった。他にもあの世界に迷い込んだ人達がそこにいた。
あれは夢じゃなかった。本当にあったことなんだ、とカナンは理解した。だから、
「クロちゃん、さよなら。ありがとう。」
カナンが父親に駆け寄り抱きつく。
その様子を遥か上にある崖の上で、尻尾をテシテシしながら、満足そうに見ているクロ。
『これでよかったのですか?』
と遠慮がちにクロに訊ねる、時計塔に宿っていた精霊。クロはこの精霊に、どこかの国の時を司る神の名、クロノスと名前をつけた。
三人がこちらに戻った後、あの世界に迷い込んでしまった昔の人々は、クロノスが責任をもって過去に送り届けたらしい。
「これがいいんだよ。人と魔物が一緒に暮らすとロクなことにならない。俺は満足だ。」
クロはニッと笑って空を見上げた。
この話は、魔物のクロが過去を乗り越え成長する物語です。心を持つ者は生きるのがとても大変です。でも心を持つからこそ手に入れられる物もあると思います。