時計塔
時計塔についた二人は、あまりの時計塔の大きさに驚いている。流石この街のシンボルと言われるだけはあると納得していた。
時計塔の真下にはちょっとした広場がある。この街の住人は皆この時計塔が好きらしく、広場で世間話をしているご婦人方や、ワゴンでコーヒーショップを営み、そこでコーヒーを飲みながら寛ぐ人々。観光目的なのか、自分達と同じ様に時計塔を見上げて驚いている人々。時計塔を掃除したり修理したり、メンテナンスをする男性。祭りだからか、そこかしこに歌う人や楽器を演奏する人、それに合わせて踊る人。沢山の人達がここに集まっていた。
時計塔に上ると、いかにこの街が大きな街かというのがよくわかる。そしてこの時計塔がいかに高いかということも。普通の家の4つ分くらいの高さと言ったところか。かなり遠くまで見渡せるが、見渡す限り建物ばかりだ。その時、
リンゴーン、リンゴーン、リンゴーン、リンゴー……
時計塔がお昼を示す鐘を鳴らす。とても大きな音で、鼓膜が破れるかと思った。ただ、このくらい大きな音でなければ、街の端までは音が届かないのだろうが……。
二人の近くで作業をしていたおじさん二人の会話が聞こえてくる。先輩作業員が後輩作業員に説明しているらしい。ふと耳を傾けたクロは、何となくその話を覚えている。
「大事に扱えば物にも心が宿るのだ。だから物は大切にな。」
二人はここまで来て、一つわかったことがある。それは、この街の住人には、自分達が見えていないのだ、ということ。すれ違っても相手が避けることもないし、幽霊のようにすり抜けてしまう。話しかけても無反応。むしろそこにいることすら気付いていない風だった。クロはこの街の人々は幻か、本当に魂だけの存在なのだろうと理解した。
時計塔から出ると、カナンは急に走り出した。
「パパ!!」
カナンの父親もやはりこの世界に飛ばされていたらしい。しかし相変わらず反応が無いようだ。だが、少し違う所もあった。何とカナンが父親の体に触れることができたのだ。なるほど、きっとこの街で死んで肉体がなくなった住人と、今回の件で巻き込まれて肉体の残っている人との違いだなと感じた。
何はともあれ、カナンの父親は考古学者なのだという。付いていけば何かの手がかりが掴めるかもしれない。クロはカナンと共にカナンの父親の後を追った。