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時計塔の見る夢  作者: 柊 里駆
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花の都ルーシェリアへ

魔物は自分の迂闊さをとことん嘆いた。何故こんなことになったのか。結局自分まで巻き込まれて、こんなところにまで来てしまった。そうだ、全てはこの目の前でイビキかいて爆睡しているガキのせいだ。よくこんな時に眠れるな。魔物は自分の肉球でカナンの額をペシペシ叩いた。ようは八つ当たりである。少し気がすんだのか、魔物はカーテンを開き、窓の外を見た。


遺跡でカナンと一緒に飛ばされたのは、見たこともない大きな街で、気が付くと宿屋にいて、カナンと一緒にベッドで眠っていた。窓からは、この街のシンボルでもある大きな時計塔が見える。どうやらここは、先程までいた遺跡の街、ルーシェリアらしい。花の都ルーシェリアの名前の如く、そこかしこに花が咲き乱れていた。今日はお祭りらしく、朝早くから街の人々はその準備で忙しそうに動いている。


ルーシェリアは数百年前に地震で滅んだはずだ。もといた時代のルーシェリアには、確かに時間関係の魔力を感じた。とすると時間を遡ったのか?それともこれは夢の中なのか?考えても答えは出ない。


その時、ベッドで眠っているカナンが、急にうなされだした。とても苦しそうなカナンを見て、思わず魔物はカナンを起こそうとする。カナンは涙を流し、「助けて助けて」と、うわ言のように言い出した。


ハッと目を覚ましたカナンは、心配そうに覗きこむ黒猫の魔物の姿を見つけると、ぎゅっとその腕に抱いた。あまり人間に抱き抱えられるのは好きではないのだが、今は仕方ないと思うことにした。そういえば遥か昔にも、こんな風に人間の子供になつかれたことがあったなぁと、魔物は思い出した。落ち着いたカナンは夢で見たことを教えてくれた。それはこのルーシェリアが滅んだ時の、実際に過去にあったであろう話だった。


『一年に一回の祭りの日の夜、突如大きな地震が起きて、時計塔が崩れて、街の家々も崩れた。色々な所から火の手が上がり、人々は逃げ惑う。炎はやがて街中に広がり、街は火の海になった。沢山の人々が目の前で死んでいく。しかし自分はそれを見ているだけで何もできない。助けて。私の大切な人達を助けて。』


魔物は話を聞き終わると、少し考え込む。もしかしたら誰かの強い思いをカナンは敏感に感じ取り、それが夢に表れたのではないか。その夢の中の助けを求める人物が、自分達をここに呼んだのではないか。その人物を探し当て、助けたいという願いを叶えれば、この世界から出られるのではないか。という仮説を立てた。


「しかし助けたい、と言われてもなぁ。実際はもう滅んでいるわけだし。数百年前の事だし。ん、そういや祭りの日?」


そう、どうやら今日は祭りの日らしい。ということは、地震は今日の夜に起きるということだ。とりあえず二人は一度街に出てみることにした。自分の仮説が正しければ、まずは自分達をここに呼び、助けを求める人物を探し出さなくては話にならない。


宿屋の外に出ると、そこは絵画にでも描いたような、美しい光景が広がっていた。時計塔を中心に放射状に大通りが伸び、地面にはレンガが敷き詰められている。大通りの中央には等間隔で木が植えられていて、脇には花壇があり、花が咲き乱れている。花壇のすぐ横に小さな水路も流れていた。大通りに面した所に、様々な店もある。宿屋、武器や、防具屋、薬屋、雑貨屋、服屋、レストランやカフェ。ここにはありとあらゆるものがある。


「ねぇ、クロちゃん。」

不意に呼ばれて、つい「何だ」と答えてしまった魔物だか、ハッと我に返る。

「おい、何だそのクロちゃんってのは?」

「黒猫だからクロちゃん。」

安易なネーミングセンスに脱力する、魔物改めクロ。まぁ何でもいいか、と自分を納得させる。

「クロちゃん、時計塔に行ってみようよ。」

「…ほぅ、お前にしてはいい提案だな。確かに高い所なら何か見えるかもしれない。」

「う〜ん…、それもそうなんだけど、何となく、あの時計塔に何かあるような気がするんだよねぇ。」

子供の勘は、感受性が強い分案外侮れない。行く当てもないし、二人はとりあえず時計塔に行ってみることにした。










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