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時計塔の見る夢  作者: 柊 里駆
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魔物と少女の不思議な出会い

黒猫の魔物は、今は滅んだ花の都ルーシェリアにいた。そこで行方不明の父親を探しにやって来た少女、カナンと出会う。この出会いが二人の運命を大きく変える。

数百年前に巨大地震で滅んだ、花の都ルーシェリア。その中心には大きな時計塔があり、都の人々に時を告げていた。今でもそこには、その時計塔の残骸が残っている。さすがに数百年も経つと、大きな瓦礫だけが残り、その瓦礫にも蔦や草が絡んで風化してきている。その滅んだ街の入り口に、一匹の黒猫、いや、魔物が独り言をぶつぶつと呟いていた。見えない壁を右足でたしたししながら、

「この気、時間の関連の魔法だな。いつまでこの世に未練残す気なのか。まぁ俺には全くもって関係のない話だがな。」

とか言っている。只でさえ、黒猫が喋っているというだけで奇妙なのに、独り言を誰に聞かせるでもなくずっと話していると、ただの危ない奴である。折角黒猫に化けているのに台無しである。


すると、の〜んびりした声で、

「あ〜、喋る猫さんだ。すご〜い。」

魔物は背後の気配に気付かなかった。魔物は何とも間抜けなこの声の主に、いともあっさりと抱き抱えられてしまった。何とも間抜けな話である。

「うぎゃ〜!!誰だお前!離せ〜!!」

魔物は騒ぎ、暴れ、逃げようとするも、上手くいかない。

「え〜?私はカナンだよ〜?」

話が全く噛み合わない。仕方なく魔物が諦めて顔を見ると、なんとそこにいたのは10歳にも満たない幼い幼女であった。魔物は愕然とする。こんな幼い幼女に俺は捕まったのかと。俺もヤキが回ったものだと、一人で溜め息をつき項垂れた。

「んで?お前は何でこんなとこに来たんだ?どうやって来た?近くの街まではかなり距離が離れているだろう?」

するとカナンは突如涙目になり、魔物に訴える。父親がルーシェリアに来てから行方不明なのだと。


昔から、この場所を訪れた人が行方不明になるという事があるのは、この周辺の地域では有名だった。カナンの父親は考古学者で、国からの要請で、この街で起こった事、この街の歴史や、その後の行方不明事件等を解明すべく、ここを訪れたらしい。


母親と事件を知らせに来た役人の話を聞いていたカナンは、その時、父親が行方不明なのだと知った。心配でいてもたってもいられなかったカナンは、母親に内緒で一人、たまたま村に来ていた行商の荷馬車にこっそり乗り込み、乗り継いでここまでやってきたのだ。カナンの家はサンジェという村で、ここから何と、片道1週間もかかる場所にある。


魔物はこの話を聞き、呆れていた。子供の行動力は侮れない。しかも怖いもの知らずだ。よくもまぁ、ここまで子供一人で、何事もなく辿り着けたものだ。道中で迷子になるかもしれないし、最悪、悪人に捕まり、売られる可能性だってあった。無断で乗ってた事に気づいた行商が、その場で少女を捨てることもあり得る。今頃家では、カナンがいなくなったことに気がつき、慌てていることだろう。捜索隊が出ているかもしれない。しかしまさか、こんな遠くにまで来ているとは思わないだろう。


ま、自分には関係のない話だが。さっさと立ち去るに限る。そう考えて魔物はふと、自分の置かれている立場を思い出した。そう、魔物は今、カナンの腕の中にいる。ここから脱出しないことには逃げられない。魔物はカナンの腕を振りほどこうと、必死に暴れた。しかしそんなことはお構いなしに、カナンは魔物を抱え、遺跡の中心部に進んでいく。

「やめろ!それ以上進むと俺達も……」

そこで魔物の声はかき消えた。何と、魔物もカナンも消えてしまったのである。後に残ったのはカナンが踏み潰した草の跡だけだった。



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