クマのマオウ。
って、魔王?
あたしそんな存在考えて居たっけ?
魔王が出てくるお話は別に書いてたはずだけどこのお話には魔王なんてカケラも考えて無かった筈なのに。
どう言うこと?
この世界の、物語のプロットは、確か天上界に住む貴族、下界である地上に住む人族、そして地下のそのまた裏側の世界に住む悪魔族、そんな人々が存在する世界で織り成す冒険ファンタジー、のはずだった。
主人公のイリスはその無限の魔力特性値でありとあらゆる魔法を使いこなし、そしてその身におこる事件を解決していくうちに悪魔と貴族の争いに関わっていき……。
そして世界を、実の父母をも救ってしまう。そういうお話で。
といってもね。あたしの脳内プロットでしかないからそこまできっちり詰めて考えてたわけじゃ無いんだけど。
悪魔族は天上界の貴族と対立するこの世界の悪役のつもりで設定しただけで、主人公が戦う相手としかまだ考えてたなかったはずで。
魔王って言ったら悪魔族とはちょっと違うことない?
魔族の王って意味だよね?
まあ少しひねった魔王とかも別のお話で考えてたし正義の味方の魔王のお話とかも書いてたりしたからふにゃぁなんだけど。
どうしよう。
読み進めるともしかしてこの魔王の封印が解けちゃうんだろうか? もし悪い魔王だったら困るかな?
でも、もしほんとに悪い魔王なら退治しちゃってもいいか。あたしのこの力ならそこまで困らないかな?
そんなふうに思いながら次のページをめくるあたし。
ふわっとした光が本から溢れ、そこに書かれて居た文字が浮き上がる。
目の前の窓にかかるカーテンの隙間から覗く陽の光に、その浮き上がった文字が照らされて。
幻想的な光景がそこに現れた。
ある でるた ふぉん まぐ まぎあ まぎれいす
あたしはそのうかびあがった文字を、そのまま口にする。
そんなファンタジックな、非現実な光景に頭の中が麻痺して。見たものを見たまま口に出してしまったところで。
あ、だめ!
まずい! っと思った時にはもう遅かった。
1ページ目の魔法陣が浮き上がり、光る。
七色の虹がそこから天井に向かって伸びて。
そして。
ぼん! という煙と共に眩い光の中から黒い塊が現れた。
本の上、あたしのすぐ目の前にぷかぷか浮かぶそれ、は、ニコッと笑いこちらを覗き込み。
「やあ。出してくれてありがとう。ボクはデルタ。一応魔王ってことになってるよ?」
そう可愛らしい口を開き名乗ったのは、真っ黒な子グマのぬいぐるみ? みたいなそんなもふもふだった。
ありがとうございます。