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夢魔。

 世界から色が消え。周囲が灰色に覆われた。もじもじしていたルークの身体が硬直している。いや、この場にいる全ての子供の身体が硬直している。


 観覧席の親の姿は見えない、か。


 イリスはそうひとりごち周囲の気を探った。世界が完全に切り離されているかのようにここには子供たちと自分、そして神父しか居ない。


 ここだけ隔離されている。それは間違いなかった。




 そんな灰色な空間の中、神父の姿をした何かが言う。


「ああ子供達の夢はうまそうだねぇ。このままみんな食べてしまおうか、いやいや少しは残しておかなければ次の収穫が楽しめないか」


 気持ちの悪い声でそう舌なめずりをしながら子供達に近づくその闇。


「おや、このはざまの世界に紛れ込んだ悪い子がいるようですねえ。どうれ」


 イリスに気がつきじろっと舐めるように観る神父の姿が、だんだんとぼやけていった。


「お前は、何? 神父様じゃ無いよね?」


 イリスはそう声に出した。


「おやおや。誰かと思ったら魔力特性値ゼロの子供じゃないですか」


 イリスを見て真っ赤な長い舌をベロンと出すその神父だった何かは、


「わたしは夢魔、こうして人のレイスを食べて生きているのですがね。特にこういった幼い子供の夢が大好物なのですよ。親の保護下ではなかなか効率が悪いのですが、こうしてひとまとめにまとめて食べることの出来るチャンスを待って居たのです」


 そう言うとゆっくりとイリスに近づいてくる。


「なあに、少し頂くだけですよ。今すぐ命に別状があるわけでもありません。また成長した後も美味しく頂いてあげようと思って居ますしね」


 手を伸ばし、さらに続けた。


「しかしお前は別だ! 俺様の事を知ってしまったお前のレイスは根こそぎ食べ尽くしてやる!」


 顔が豹変する。それまでかろうじて神父様の顔をしていたその闇の顔の口が裂け牙を剥き目がつり上がる。




 ☆☆☆☆☆




「あーあ。もう、嫌だなぁ」


 あたしはそう言うと右手を前に突き出した。


 あたしに襲い掛かろうとしていたその悪鬼、夢魔と名乗ったその悪魔があたしの手の平の前に展開したバリアウォールによって弾かれる。


 勢い余って尻餅をついたその悪魔は驚愕の顔をこちらに向けた。 


「ほんとに嫌になる。僕は平穏に何事もなく暮らしたかったのに」


 あたしは一歩前に出る。


「だからさ。


 君はここで消えるといいよ」


 目の前の悪魔の頭に手のひらを近づけ、マナを集中する。


「そんな! 馬鹿な! お前は魔力特性値マギアスキルゼロの筈!」


「さあね。っていうか僕、魔法が使えないなんて一回も言った事ないんだけどな」


 自らの周囲に炎の因子が集まるのがわかる。


 あたしはそのまま右手に集まった炎の因子、アークに自らのマナを注いだ。


「ファイヤーバースト!!」


 爆発的に膨らんだその高熱の炎が目の前のかつて神父の姿をしていたそれ、を、焼き尽くした。


 あたしは一瞬で消し炭になったそれを眺め。でも、そこには案の定もうレイスのカケラも見当たらない、か。


 ——くっ! これで終わりではないぞ! 


 どこからか、離れて行きながらそう念話を飛ばすその悪魔。


 まあね。あれで殺せるとは思ってなかったけどやっぱりね。


 あたしはギア、アウラ向かって念じる。


 この世界を元に戻して、と。


 空間の位相を司るアウラ。彼女たちによってこの場所は先ほどまでの通常の空間に戻された。色のついた世界に戻り、ちょっとほっとしたとも束の間。


 急に目の前にいた神父が消え去った事に驚いて子供たちがざわめく。観覧席にもざわめきが走った。



「にいたま。漏れる!」



 ルークのその声に、あたしは彼の手を引っ張ってお手洗いまで急いだ。



 ☆☆☆☆☆




 世界に色が戻ったあと。


 停止した時空の中で固まっていた子供たちが動き出し、目の前にいたはずの神父が忽然と姿を消した事に驚きざわめく。


 観覧席の親たちも騒ぎ出した所で教会の関係者たちが出てきてその場を収めた。


 そして。代理のシスターによって無事その後の儀式を終えたのだった。

ここまで読んで頂きありがとうございます。

次回から新展開です。

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