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ヒーロー×ブレイブ~世界を救った英雄は静かに暮らしたい~  作者: 橋藤 竜悟
第一章:帝国編 第一部一節 帝国の勇者
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08 トント正面戦(ジン視点)

 ****



 カインたちに進行の合図を送った後、自警団とともにジンとマオはトント正面門を目指していた。

 ほとんどが戦争とは無縁な農民や商人の寄せ集めなので、隊列は形だけで機能しているとは言い難い。

 おかげで進軍速度は亀のように鈍間だが、形だけでも今は十分だった。


「これで相手が怯んでくれるといいのですが。結局ちゃんと確認された時点でハリボテだとわかりますよね、コレ」


 先導しているジンがため息混じりに言う。

 正直な話これなら一人で戦ったほうが動きやすいのだが、さすがに20人以上もの敵に囲まれたら帰ってこれない。

 殆ど戦力にならなくとも、相手が簡単に手が出せない形を作ることは今回の作戦にとっては重要なのだ。


「……じしんない?」


 並んだマオが問いかけてくる。

 彼女とはもう少ししたら分かれて別行動となる。後方で遠距離魔法による攻撃と支援をしてもらうので今回の要と言えよう。


「本音を言うと、あまり自信はありませんね。守るのは得意ですが、この人数、ましてや民間人を一人で軍から守りながらというのは……緊張しないほうがおかしいですよ」


 ジンは攻撃よりも守る戦い方が得意だ。そのため、剣より盾の性能を重視した魔装具を身につけている。

 だからといって、どうなるかわからない戦場で大人数を抱えながら被害を抑えることができるのか、それが自分に勤まるのか自信はなかった。


「マオもいる……」


「そうですね、ありがとうございます。マオのおかげで自分も耐えられますから、期待していますよ」


 マオが前を見たまま視線もかえずに、だが力強く放った言葉で少し心が軽くなった気がした。

 ジンが今まで経験した部隊での行動ではなく、少数での個人に負担のかかる作戦であるものの、何とか乗り越えて“あの人(カイン)”に少しでも追いついて見せよう。


「……じゃあマオはもりにいく。がんばって」


「そちらも頑張ってください。自分は何があってもやりきって見せますよ!」


 マオはジンに頷き返し、森の中にすばやく消えていった。

 そろそろ敵の警戒網に突入する。ここからが正念場だ……!


「みなさん、そろそろ敵正面に出ます!何があっても自分より前には出ないでください!遠距離攻撃はすべて自分が何とかします!あなた方は敵兵と接敵した時、武器で追い返すのをお願いします!」


「「「オオオオオォ!!」」」


 自警団は雄叫びを上げる。戦意は上々、戦いの高揚感が伝わってくる。

 ここまできたら相手にもこちらの存在はバレているだろう、あとは迅速に、且つ慎重にだ。


「――風よ、其を守りたまえ!」


 ジンは風の魔力を盾に通し、広域に風の盾を巡らす。

 彼を基点に風の壁が広がり、ついで魔法が地面に干渉するとその表面を少しだが削っていく。

 そのまま進むと、程なくそこかしこから魔力が霧散していく感覚があった。

 ジンの詠唱した風の盾により地面の土を削り、帝国の魔術紋を無力化しているのだ。


「やはり帝国は魔術が杜撰ですね。この程度で魔術紋がはがれるのは魔力の無駄でしかない」


 ジンは小さくつぶやきながらゆっくり前進し続ける。

 トント正門がはっきりと見えるようになった頃合で、敵陣から矢の雨と魔法による攻撃が飛んできた。

 だがこれもジンの魔法はものともせずかき消し、打ち払いながら進んでいく。

 若干自警団がおびえて足を止めたが、ジンの魔法が相手の攻撃すべてをかき消している様子を見ると小さく歓声を上げて、意気揚々とついてきた。。


 相手もこの状況に打つ手がないのか、散発的に遠距離からの攻撃を行っているだけだった。

 しばらくそれが続くと、諦めたのか攻撃が止み、正面に集まり陣形をとりはじめる。


「どうやら、門を背にして守りを固め始めましたね。ならこちらが烏合の衆だと思わせて、引き付けたところをマオに攻撃してもらいましょうか」


 そのまま徐々に前線を上げていくジン。ここまで自警団の被害もなく理想的な運びとなっている。

 このまま相手の体制が整う前に目の前の敵を無力化できれば、カインが言っていた正面門の制圧も自分たちだけでできるのではないか。そう思い、進む足が自然と速くなってしまっていた。だがその油断が大きな(あだ)となる。

 そのとき、いつの間にか一人の少女が正面門にいたことに彼は気づいていない。


「――水よ」


 少女が魔法を唱えると、突然中空に直径三十センチ程の氷の槍が三本出現する。

 今までいなしてきた魔法とは明らかに格が違う魔力が渦巻く。

 そのことに今になって気付いたジンは、突然現れたその魔法をあっけに取られて見上げるしかなかった。


 詠唱終了と同時に氷槍がこちらへ向けて飛来する。

 氷槍は帝国兵の横をすり抜け、ジンたちに向かって殺到してきた。


「なっ、その質量で短詠唱初級魔法!?――風よ、この身を護れ!」


 こちらに向かってきた数本は何とか逸らすことに成功する。

 帝国にこれほどの魔術師が存在するとは……。魔道技術はこちらのほうが上だが、そうもいっていられなくなりそうだった。


「これを、いったい誰が……!」


 周囲を見渡す。自警団にも被害が出てしまっているが、防御魔法の影響か軽傷者のみで被害は大きくない。

 相手の魔法はきれいに帝国兵だけを避け、こちらに向かって飛んできた。こんなことができるのはかなりの使い手だ。

 だが、そんなことができる人間は見当たらない。そこまで研鑽を積んだ魔術師となると、風格でわかるものなのだが……。

 ただ、戦場に一人、違和感があるものがいた。

 帝国騎士の鎧を身に着けた若い女性の隣にいる、これもまた先程より一回り年若い少女が一人。

 こんな戦場に不釣合いな人物であるにもかかわらず、彼女は平然とそこにいた。


「――水と風よ、」


 その少女が、魔法の詠唱を行うのが聞こえた。すると周囲に先ほどより一回り小さい多数の氷槍が出現し、それが淡く発行すると風の渦をまとう。

 間違いない、彼女は帝国の魔術師だ。だがなんだ、一人で習得すら難しい複合魔法の詠唱を行い、制御しているというのか?

 そんなもの大魔術師どころではない。研鑽に研鑽と偉業を積んだ賢者のような技術だ。

 それを、こんな年端も行かないような少女がこなすというのか……!


「さすがに笑えませんね……」


 ジンは自嘲気味につぶやく。

 その事実も、この状況もおかしいところしかなかった。

 今まで順調すぎるほど順調に進んでいたのに、ここからというところでこんな怪物が出てくるとは思いもしなかった。


「我が敵を貫け!」


 少女が詠唱を終えると、一斉に氷槍がジンたちに殺到した。

 ジンは防御体制をとりつつ、魔法を詠唱する。


「――狂風よ、我らを遍く敵から離したまえ!」


 咄嗟に中級魔法を展開し、目の前の広範囲に厚い風の層が出現する。

 だが、それをいともたやすく氷槍は貫いていった。

 ジンの魔法で勢いを落としただけの氷槍は背後の自警団を貫き、その攻撃を受けて彼らはパニックに陥っていた。

 氷の槍はとどまることを知らず、統率の取れなくなった自警団の被害は加速度的に増えていた。


 このままでは相手を引き付ける前にこちらが瓦解してしまう。

 ここまでの手練れが出てくるとは予想もしなかった。どうすればいい?英雄様ならどうする……!?


『――玄武よ……重く鈍間な壁となり……遍く全てを呑み込み喰らえ……』


 その時、背後の森から小さく詠唱が聞こえる。


 突如巨大な水の壁が目の前に立ち塞がる、それは暗く深い水の底を映したような色をしていた。

 その水壁にはかなりの粘性があるようで、触れたそばから氷槍に纏わりつく。遂には全ての氷槍を呑み込むと、そのまま水の壁が帝国兵の方に倒れ込み、敵兵ごと門へと押し流していく。


「ッ!マオ、ですか。間一髪で助かりました、ありがとうございます!」


 瞬間、戦場にぶちまけられた水壁がたちまち凍り付いた。

 氷は前線から離れた少女達の元まで届き、門の壁すら浸食していた。


 構えを戻し、戦場を見直す。その時魔術師の少女と目が合った、彼女は魔法でマオの攻撃を相殺したようだが、完全にうろたえ怯えているようだ。そして、その後ろから騎士が前に出てくる。この二人がこの戦場の要か……!

 今なら戻って自警団を立て直せる。だが相手は子供、その事実が頭にちらつく。いや、しかし今しか彼女を倒し無力化するチャンスはない!

 ここは戦場だ、子供だからといって手加減はできない。いや、できる相手ではないことは先ほどの魔法攻撃でわかっていた。


「うぉぉおおおおお!!!」


 声を上げ、己を鼓舞しながら走り突き進む。相手との距離はもうさほどない、このまま切り捨てる!


「――だから、えぇと、!?――す、朱雀よ!」


 魔術師の少女が咄嗟に魔法を唱えるとジンは業火に包まれた。


「グッ、これはっ!?」


 上級魔法を短詠唱でやってのけることにまた驚かされる。

 特殊な魔装具をつけているのか……!?

 このままではまずいが、だがこういった状況にはきちんと手を打ってある。


「――海嘯よ、其を浄化し満たせ」


 ジンの詠唱でマオによって描かれた魔術紋が起動、突如周囲に水が溢れる。

 一度きりの周辺防御用魔術紋だったが、そのおかげで何とか炎から身を守ることができた。

 遠くから魔法支援をもらえるのは心強い。


「せぇぇえええい!!!」


 ジンは目の前に広がる炎の魔力を絶つ。これは武器が魔装具だからできる芸当ではあるが、それ以上にジンの鍛錬の賜物でもある。

 そのまま少女めがけて剣を振り上げる。

 彼女は咄嗟に頭をかばいしゃがみこんだ。その時彼女の耳がエルフのようにとがっていることに気づく。


「っな!?」


 そんな馬鹿な、帝国のそれもこんな戦場にエルフの子供がいるなんて、あるわけがない……!

 ジンはその時一瞬躊躇し、剣を止めてしまった。

 その一瞬、隙を突くように帝国騎士の女性が間に割って入ってきた。流れるような動作でこちらに剣を打ち込むと、その重さにジンはよろける。そのまま女騎士は流れるように剣戟を続け、ジンはそれを受けるだけで手一杯になってしまった。


「サラ!ここは一度引きましょう!態勢を立て直します!」


 エルフの少女の名前はサラというらしい。これはエルフに見られる名前の特徴でも間違いはない。

 ()()()()()()がこんなところにいるわけがない、ジンの困惑は深くなる。だからこそ、ここで逃がしてはならないとも強く感じた。


「させませんよ!」


 帝国騎士の少女とつばぜり合いをしつつ、力で抑え込みにかかる。

 そのまま呪文を詠唱し、押し切ってしまえば次の一撃で無力化できる!


 その時、サラが叫んだ。


「――青龍よ、我求めに従い、天へ昇れ!」


 途端、周囲に暴力的なまでの風が吹き荒れ、全てを薙ぎ飛ばす。

 その勢いでジンも森へ押し飛ばされてしまった。


「……っあの子たちはどこへ!?」


 風が収まると、そこにはマオの魔法で倒れた帝国兵と、風の勢いで散り散りになった自警団しか残されていなかった。

57 南門防衛戦(クリス視点)の英雄版です。

勇者パーティーが強すぎて苦しいです。評価して下さい

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