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ヒーロー×ブレイブ~世界を救った英雄は静かに暮らしたい~  作者: 橋藤 竜悟
第一章:帝国編 第一部一節 帝国の勇者
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06 作戦前夜

 空が白み始めたところで行動を開始する。

 まずは敵監視網の把握、遠見の魔術での周辺帝国兵の状況を確認する。


 物見にいる兵の人数、交代の時間、装備など遠くから確認できることだけだが1日かけて下調べをする。


 魔術紋による監視網は発見次第マッピングしていき、どこが薄くなっているのかを調べる。

 監視網の増設を行う場合は確実に魔術師本人がその現場に現れるため、気づかれないように追跡し、その時魔術師についている護衛の人数、設置場所により敵拠点の規模を推察する。

 こうすると頻度や人数で敵の兵力と設営力、場所の距離で魔術師の力量や拠点にある魔術兵装のランクがある程度わかる。


 ちなみに魔術兵装とは、魔力(マナ)を通して操作する道具「魔術道具」の中で主に兵士に扱われる物のことであり、魔術道具は鉱脈から産出する魔鉱石「マグナイトクリスタル」を核にして作られる。


 マグナイトクリスタルは魔力(マナ)伝導率がかなり高い上、魔力(マナ)そのものを増幅する性質をもつ。

 それゆえこの鉱石を用いて作った道具は大変便利で貴重なものとなっている。それが魔術道具、いわゆる魔具だ。

 例えば光、火魔法をこめることで明るさを得るランプや、属性に限らず無属性の「物体を動かす力」を増幅し移動手段にした車などがある。

 まぁ、車は使用クリスタルが多いためかなりの高級品だし、動かせる場所も限られているのだが……。


 そういった便利な物の中で戦闘に特化しものが魔術兵装になる。

 俺の持っているロングソードもその一つだ、属性を乗せた魔力を込め、その形をイメージし発現させる。

 ようは簡単な魔法を撃っているのと変わらない。

 通常魔法を発現させるよりも早く、魔力も少ない代わりに限定的な効果しか得られないという代物だ。

 剣であれば切断、盾であれば防御、杖であれば単純な短縮増幅器など装備によって様々である。


 この魔術兵装の量と質で戦況が左右されるといっても過言ではないほど影響力があり、強い兵士ほど強い魔術兵装を持っているため、見るだけでわかりやすい指標となる。


 我が国リベリアはマグナイトクリスタルの最大産出国で、この魔術兵装を下級兵士まで行き渡らせている。

 これにより戦力の増強を図っているが、そもそも兵士が少ないことから可能になっていることでもあるため、強国とはいえないのが現実でもある。

 そこを帝国に狙われ、その理由に俺を使われているのが現状だろう。


「魔術紋のマッピング完了しました」


 偵察に出ていたジンとマオが、周辺の状況を地図に書き込みつつ戻ってくる。


「こちらも敵兵力の周辺配置とだいたいの兵力を目算してみた」


「どのくらい……いる……?」


 マオがどことなく不安そうにこちらを見てくる。


「ざっと40人前後だな、これなら何とかなりそうだ」


 もうちょっと多いものかと思っていたが、どうやら何か事情がありそうだ。


「なんといってもこちらにはあの救世の英雄様がいますからね!さっさと制圧して王都へ凱旋です!」


「カイン様!殲滅!殲滅しましょう!」


 ジンとフィードが息巻いている。

 エルフ族はこんなに血の気の多い種族だったか?やる気がありすぎて怖い。

 一人にいたっては殺る気だが。


「落ち着け、俺たちの役目は追い返すまでだぞ?無理をする必要はない」


「でも全滅させるなとは言われてませんよ?」


 フィードさん、血の気が多すぎやしませんか。


「全く……油断しすぎだ。いいか?戦場では臆病なくらいがちょうどいいんだ、マオを見習え」


 俺は黙ったままのマオに話を振る。

 ここまでの道中で隊員の性格は把握できたと自負している。

 マオはいつも眠そうだが地獄耳だし着眼点も鋭い、絶対に無理をしないタイプだ。

 血の気の多いどこかのエルフどもと違って本当に頼りになる、いい子だ。


「たいちょー……」


「ん?どうした?」


「じょーきゅーまほーでいっぱつ……!」


 神は死んだ。


「マオは傭兵所でも男勝りで評判でしたからね。見た目じゃそうは見えませんが」


 おい、そういうことは早く言え。これからの作戦に響くかもしれないだろうが。

 何よりいろいろ言い切っただけに無性に恥ずかしい。

 隊の選抜基準は練度って話だったが、選抜教官は何故他の全てを無視したのか……。

 思わず頭を抱えたくなるがぐっと堪える。


「いいか、俺がいいというまで目立つ行動は禁止だ!いいな!?」


 もう必死である。


「はーい、わかりましたー」


「了解しました、努力してみます!」


「ざんねん……」


 なんと気のない返事だろう、俺がしっかりしないと……!

 トントまでもう一歩の距離にいながらだが、改めて気合を入れなおした。




 昼ごろようやく自警団の伝令と接触することができた。


「あ、あなた様が英雄殿でございますでしょうか!自警団から伝令のため参じました!」


 おいおい、そいつはジンだ。そんなに見た目の威厳ないかな……俺。


「あー、この隊の指揮官は俺なんだが」


「も、もも申し訳ございませんン!お話だと見目麗しいと聞き及んでいたので!失礼しましたッ!」


 そっかー、町で噂されてる俺はそんな感じなのか。ご期待通りじゃなくてほんとゴメンネ。

 というかそれ謝ってないね?完全に煽ってきてるよな?


「いや、大丈夫だ。慣れてるしな……。で、自警団の状況はどうだ?」


 嘘だ。慣れることはない。


「心遣い感謝します!自警団はここより南西にある帝国軍の足のついていない森で待機しております」


 しかしそれも時間の問題だろう、帝国はその版図を徐々に拡大させている。

 いつこの町の周辺が帝国の手に落ち切るかわからない。


「そうか、ならあまり時間の余裕はないな。そちらの規模はどれくらいだ?」


「周辺農村の義勇兵と元トント自警団合わせて48名です」


「1小隊程度か……数としては十分だな」


 あたりまえだが軍と違い対人練度はゼロに等しい。

 戦力としてはほとんど期待できないが、数はそのまま恐怖になる。

 ゴブリンの大軍団とか本気で逃げたくなったからなぁ……。


「なら、明日夜が更けてから街道に集まってくれ、ジンとマオをそちらにつける。二人は自警団を率いてトントを正面から攻撃、敵の陽動を任せる。俺とフィーはその部隊が敵をひきつけている間に内部に潜入。魔術師、うまくいけば指揮官を無力化させた後、内と外で挟撃する」


「じ、自分は英雄様と別行動なのですか……?」


「じんせんミス……マオとフィードをチェンジ」


 あわてたようにジンとマオが抗議してくる。


「むっ!いくらマオちゃんでも譲れませんよ、私は副官ですからね!」


 いやいや、立場は関係ないからね?

 お前らいつのまに仲良くなったんだ……その人徳を分けてほしい。


「ですがカイン様、そんなに簡単に決めてしまってよかったんですか?」


 フィードが話を変えるようにこちらに聞いてきた。


「どうしても時間が惜しいからな。時間をかけて作戦を準備しても、自警団の居場所が知られたり帝国の増援がきたらまずい。それに、町の拠点化が進んでいない今が絶好のチャンスだ」


 その間もジンとマオの抗議はやまないが、それを遮るように話を終わらせる。


「とりあえずこれで決定だ、ジンとマオは文句を言わずに従うように」


「いや、まだだ。合流してからが本番だ!いの一番に敵陣を突き抜ければ……」


 なんとしてでも諦め切れない様子のジンが何かつぶやいている。

 俺は自警団の指揮を任せるといったはずなんだが。


「ん……ジンはマオがカバーする……マオたちならやれる……」


 突然協力的になる二人、その連携は戦場で見せてほしいが今回ばかりはいらない。


「あー自警団が半数以下になったら作戦失敗だなー。失敗したら上に報告してこの隊は解散だなー。とても優秀な人材を集めたって聞いたけど仕方ないなー」


 俺がかなりわざとらしく独り言を言う。


「作戦というのはやはり協調性が一番大事なのだと自分は思う」


「マオのまほーはしえんむき……さすがたいちょー……よくわかってる……」


「わ、私は関係ないですよね……!?」


 素晴らしい手のひら返しだ。芸術点も高い。きっと世界も狙える。

 ホントにそれでいいのかこいつらは……。

 あとフィードさんも関係あります。


 そんな悲しいやり取りを自警団の伝令はポカーンと見ている。

 笑わなかっただけほめてやりたい。


「脱線してすまん、とりあえずそういうことで自警団のほうに報告頼む。帰る護衛にジンとマオも同行させるからそのまま作戦まで待機してくれ」


 このままにしていると、この漫才のような何かが果てしなく続きそうなので話を進める。


「は、ハイ!了解しました!では失礼します!」


「仕方ないですが了解です、見事この任務成し遂げて見せます!」


「わかった……すぐおわらせる」


 伝令は必要以上にビシッと敬礼し、ジンとマオはどこか不服な様子で自警団のいる農村へと向かっていった。


「二人で任務なんて久しぶりですね」


 3人が見えなくなるとフィードがこちらに笑いかけてくる。

 以前は国外任務とかではよく二人で行動したが、最近は教練とデスクワークに忙殺されていたしな。


「確かにそうだが、浮かれて気を抜くなよ?」


「フフン、私を誰だと思ってるんですか!影の中の影、ベストオブ影と言われた女ですよ?」


「毎回言ってるが自称だろそれ……」


 影とは聖都シーディアの諜報専門部隊の通称である、信じがたいがこのポンコツエルフはその影出身だ。

 おれも実際目にしなかったら絶対に信じないだろう。


「じゃあ聖都に言って聞いてみてくださいよ!」


「その聖都に近づけないから困ってるんだろうが……」


「それなら今回見ててください!帝国に(なび)いた貧弱な影どもなんてワンパンで倒しちゃいますから!」


 自信満々にシャドーボクシングを虚空に向けて繰り返すフィードさん。

 ……不安だ。


「やる気があるのは嬉しいし頼もしいが、明日は夜明け前から行動だ。早めに寝るぞ」


「はーい」


 そのまま早めに床につく。

 明日でなんとかトントを奪還しなければここからの戦況はどう転ぶかわからない。聖都から救援が来ようものなら絶望的だ。

 不安な要素も多いが、俺にも多少なりとも「英雄」としての自負はある。まあ今のこの状況ならほぼ負け筋はないだろう。

 明日の英気を養うため、考えるのをやめ眠りに落ちた。

次回からトントでの戦いが始まります。

勇者編ではとても厳しい状況に追いやられますが、その時カインは何を思っていたのでしょうか?

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