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ヒーロー×ブレイブ~世界を救った英雄は静かに暮らしたい~  作者: 橋藤 竜悟
第一章:帝国編 第一部一節 帝国の勇者
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04 遊撃隊結成

 数刻後、詰所でうたた寝していた俺に受付から声がかかった。


「編成が完了しましたので隊員表をお渡しします」


 俺は慌てて立ち上がり身だしなみを整える。


「あ、ありがとう。一度集めて方針を話し合いたいのだがすぐに集めれるか?」


「大丈夫です、どこに集合させましょう?」


 俺は少し考え、


「では1時間後に俺の執務室で頼む」


「かしこまりました、では各隊員に伝えておきます」


 渡された書類にさっと目を通す。

 戦闘技能に関しては申し分ないメンバーだが、少々個性豊かすぎやしないか?


 いや、そもそもリベリアには個性的な顔ぶれしかいないか……。

 生かすも殺すも自分次第という責任の重さがのしかかる。




 俺は執務室に戻り、隊員が揃うのを待つことにした。

 ここからは訓練とは違う、威厳があるよう出迎えなければ。

 久しぶりに少人数で行動することもあり、少し緊張しながらメンバーが集まるのを待っていると、


「『ジン・フォガード』!到着いたしました!!」


 裏返りそうな声とともにエルフの男が入室してきた。

 先ほど握手を求めてきた彼である、実際に残ってくるとは思わなかった……。


「キミが残ってくれるとは、嬉しいよ。これからよろしく頼む」


 そういいながら握手しようと手を差し出すと、


「うぅ……!英雄カイン様と一緒の隊なんてっ……!ゆ、夢みたいだぁ……」


 いきなりその場で泣き崩れた。


「ちょ、なんだ!?俺が何かしたか!?」


 握手のため差し出した手が虚しく空気をつかむ。さっきはできたのに……。


「自分、英雄様のファンで……!ずっと憧れてて……!」


 それは知っている。少し前のやり取りでわからない奴はいまい。

 床に座り込み泣いているエルフ、どう見ても俺が何かやらかしたようになっているぞこの状況。


「お、おう。気持ちはうれしいが落ち着いてくれ、俺がいたたまれない」


 ここまでの熱意を向けられたのは初めての経験だ、正直怖い。


「旅立ちから魔王討伐までの全シリーズの木彫りで作ってしまうほど大ファンで……」


 こいつ、熱狂的を通り越して職人の域に達しているぞ。そのエネルギーを鍛錬に回してほしい。

 いや、回したからこそここにいるのか……。

 突然よくわからない告白を受け混乱していると、


「え!?あの木彫りシリーズってあなたが作ってらっしゃったんですか!?」


 扉が勢いよく開きフィードが駆け寄りつつ、何か言っていた。

 来たのなら一声かけようなフィーさん、しかもこいつ知ってたのか。そんなに有名なのか。

 それでもってこいつがここに来たのは……。


「フィー、お前いつの間に志願していたんだ?」


「そんなことはどうでもいいです」


 あまりに対応がぞんざい過ぎませんかね?

 フィードさん、あなた俺の副官的立場だよね?


「あ、あなたはまさか……」


「私はカイン様のパートナーのフィードと申します、今回の遊撃隊の一員でもあるのでこれからよろしくお願いしますね」


 おぉ、綺麗に挨拶できたな偉いぞフィー。でも何で俺に挨拶できないの?そういう病気?

 それでもってお前の肩書が非常に紛らわしいのでやめてください。


「で!あなたがあの正規ルートでの入手が困難を極まり、一時期は同重量の金と交換されていたというあの木彫りシリーズの作者様って言うのは本当なんですか!どうなんですか!?」


 さっきまでの(取り繕われた)綺麗なフィーはいったいどこに行ってしまったんだろう。

 というか同重量の金だと?下手したら俺より稼いでるんじゃないのか……?


「そ、そういうこともありましたが今は販売はやっていないので……」


「うっ、やはり噂は本当だったんですね……私とカイン様との運命の出会いを彫ってもらいたかったのですが……」


 フィードさん、いったい何を作らせようとしてるんですかね。そもそも肖像元の許可取ってないですよね?


「それ詳しく聞かせてもらってもいいですか?」


 ジンの目が怪しく光った。


「「え?」」


 俺とフィードの声が重なる。

 これはまずい流れでは?


「前々から思ってました、あなたとカイン様には何かがあると。それに英雄になってからのカイン様の話もご存じなら是非……!」


 前のめりになりながらフィードの手を取り跪くジン。

 絵面だけ見れば綺麗だ。美男美女の告白シーンに見えなくもない。話の内容を除けばだが。


「いい加減に俺の話を聞いてくれ。あとその商品は次から俺を通すように」


 俺がため息をつきながら話に割って入る。これ以上続けられたら収拾がつかなくなる。


「えー、ここからがいいところじゃないですか!私を助けてくれた騎士のようなカイン様……!あの時は上級雷魔法に撃たれたようでした」


 フィードさんそろそろ自重してください。あなたを雇用している俺の評価にかかわります。

 それにあの時実際俺は潜入のために騎士の格好してたし、お前が撃たれたのは中級雷魔法だけどな?上級ならお前は死んでる。


 頭を抱えていたところで、見るからに魔法使いという感じの若い女の子が入室し、開口一番、


「……なんでこんな、いや、でも……」


 思わず固まる俺をよそにフィーとジンは気にせず(俺にとって)危ない会話に花を咲かせている。

 とりあえず追及は後にして今は挨拶をしないと……。


「これから一緒の隊で行動することになったカイン・リジルだ。これからよろしく頼む、頼りにしているぞ!」


 俺は同じ間違いは2度しない。さっきは俺の挨拶というアプローチが弱かったが故、向こうのペースに引きずり込まれたのだ。

 ならば、と歯を輝かせつつ渾身のスマイル。決まったッ!


「あぁ……マオは『マオ・イベイ』……どうして……」


 こちらをチラリと見やり、ぞんざいに手を振ってソファーに座るマオ。

 どうしよう、こんな反応初めてだ……もしかして俺って自意識過剰だったのかもしれないと不安になる。

 しかも相手は勧めもしていないソファーに座ってこの対応だ。これは大物かもしれない。


「その笑顔気持ち悪いですよカイン様。気を付けないとまた変な噂たてられますよ」


 うるさいぞフィード。お前俺の話聞こえてるんじゃないか、喧嘩売ってるのか?言い値で買うぞ?


「これがえーゆー……おもったよりへんなやつじゃなさそう……かも……」


 そう言うとまたちらりとこちらを向いて、すぐにそっぽを向くマオ


「……えらばれたからがんばる……よろしく。あ……おねがいします?」


 もしかしたら不器用なだけで良い子なのかもしれない、と一縷の望みに希望を抱いていると視界の端で何かが動く。

 黒い猫のような尻尾だ、マオは獣人のようだ。思わず触りたくなる。

 じーっと見ていると、


「えっち……」


 ぼそっと呟きジト目を向けられる。


「なっ!?ち、違うぞ、俺はただ!」


 ただ、なんだと言うのだろうか。必死の弁明もどこ吹く風で尻尾を立てゆらゆらさせているマオ。

 これは本当にアクのある……アクしかないんじゃないかと思えるメンツだ。


 数人の編成なら得意とは一体何だったのか、自信にヒビが入る音が聞こえる。

 この先この隊を率いる俺はどうなるんだ……今日何度目になるかわからないため息をついた。


「とりあえず集合!自己紹介と自分の得意な武器、魔法属性、あと好きな子のタイプを言え!」


「カイン様パワハラなので訴えますね」


「やめてくれ!ゴホン、先ほどの冗談はさておきフィードから頼む」


「カイン様の冗談は冗談に聞こえないんですよ。私はダークエルフのフィードです。武器は短剣で得意魔法は風と闇、好きなタイプはカイン様です」


 え、訴えるとかいってたのにそれ言うの?

 しかも俺の名前言われるのが地味に恥ずかしいことがよくわかった。やめてください。


「自分はエルフのジン・フォガードと言います!武器はカイン様と同じロングソードで、得意魔法は風です!好きなタイプはカイン様です!」


 エルフが近接主体で戦うのか、かなり珍しい戦闘スタイルだが先ほどの選抜を通るとなるとかなりの手練れではあるのだろう。

 ん?待て、俺が悪かった。お願いだから好きなタイプとかいうのは冗談だといってくれ。


「マオはねこじゅうじん(リンクス)の……マオ・イベイ……まじゅつぎしでみずとかみなりがとくい……すきなタイプは……たいちょーっていったほうがいいの……?」


 彼女はみたとおり猫型獣人で魔術師か。俊敏性のあるこの種族が魔法に傾倒するのも面白い、しかも二属性持ちとはかなり才能があるのだろう。

 あとそんな気の回し方は入りません!若干同情されてる感じも出てるから変にむなしくなるだろうが。


 気にしている俺が一番むなしいかもしれない……。

 とりあえず俺の自己紹介も済ませておくか。


「俺はカイン・アインザム。救世の英雄だとか言われているが元々はしがない冒険者だ。みんな知っていると思うが今はリベリアで戦闘特別教官をやっている。今回はこの遊撃隊の隊長を勤めさせてもらう。俺はお前たちを信頼している、だから俺のことも信頼し任せてほしい。そして好きなタイプはおっぱいの大きい包容力のある美人だ!!!」


 俺は勢いよく言い切った。言い切ってやったぞ!


「あ、セクハラですね?」


 フィードが間髪入れずに発言する。え、これってセクハラなの?


「冗談、冗談だから落ち着こう。俺を通報しても誰も得をしない」


 俺は手をかざし、首を振りながらフィードを制止する。


「私がすっきりします」


 え、もしかして半分八つ当たりみたいなものなの?隊長兼雇用主の扱いひどくない?


「……なんとなくはお互いのことがわかったと思う。俺はわかりたくないところもあったが俺も大人だ、そこには目をつぶろう。ではこれより今回の作戦概要を説明する。」


 机の周りに全員を集め、任務についての説明を始める。


「概要といっても現地に着かなければわからない点も多いので細かい作戦は現地で考える、大まかな流れとだけ思ってくれ。我が隊は聖都国境付近の町トントの自警団とともに町の解放を目指す」


 説明しながら周辺地域の地図を開く、


「まずは現地まで1日かけて移動、距離としては日没くらいに到着するはずだ。到着後、町周辺の森で野営を行う。次の日に町の調査をおこない、自警団と接触、そのときに詳細な作戦を立てていこうと思う。なにか質問は?」


 俺は言い切ると周りを窺う。任務概要程度しかないが、ほんとにわからないことだらけなので許してほしい。


「それ……だけ……?国はそんなところに行けというんですか?」


 ジンが唖然としている。気持ちはわかる。


「カイン様の作戦は毎回こんなんですからね、今のうちに慣れておいた方がいいです」


 残念ながら今回はフィードに怒ることができない。実際俺の作戦はその時その時で組み立てるものが多いので現場対応が多いのだ。


「し、仕方ないだろ!ほとんど情報がないんだ!そうだ、それだけ我が隊の力が認められてるということなんだな。ウン」


 言い訳はしておく。事実そうなんですもの、俺だって被害者ですもの!


「はっきりいって……おそまつ……」


 マオの鋭い指摘。ここにはもう俺を心から尊敬してくれている人物はいないのかもしれない。


「ぐ、ぐぬぬ」


 そんなに隊長をいじめて面白いのか!この血も涙もない奴らめ!


「くっ、俺自身もこれ以上の判断は今のところできない。申し訳ないがこれで動いてもらう!移動は明日の明朝から開始する!それまで英気を養うように!質問はないか?ないな?以上、解散!」


 俺は無理やり終わらせることでこれ以上の追及をかわす。これが大人の賢いやり方だ。

 このままこの弾劾裁判が続けば、俺が明日仮病で休む羽目になる。


「移動は馬でいいのですか?」


 フィードがいつも通り申請書類をまとめながら聞いてくる。手際がいいですね、とても助かります!


「はいそのとおりです!言い忘れてすみませんでしたぁ!」


 そのまま投げやり気味に解散宣言を行い、皆自室へと帰っていく。

 俺もなれない采配に変な疲れを感じつつ、自身の寮へと帰る。


 明日からまた戦いの日々かと思うと気が重くなるが、置物にしかなれない会議に出席させられるのとを比べると……。

 そんなに悪くないのではと思い直す。


 後はあいつらがどれだけできるかを見極められるかだ、当たり前だが指揮官となる以上誰一人として死なせたくはない。

 自分のみを守ることは息をするようにできるが、他人となると全くの別である。


 トントにユカリのような化け物がいないことを祈りつつ、俺は眠りについた。

こちらも勇者に負けず劣らず個性的なメンツが集まりました!

カインの苦労は続きます……。

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