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ヒーロー×ブレイブ~世界を救った英雄は静かに暮らしたい~  作者: 橋藤 竜悟
第一章:帝国編 第二部一節 英雄の死
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42 リベリアの虚妄

 マイト砦の攻防から2週間、リベリアは防衛部隊と反抗部隊の再編に上や下への大わらわとなっていた。

 俺も例外ではなく、作戦終了後1日だけ休暇がもらえはしたがすぐさま隊の再編のため、書類と格闘する日々となった。


 そんなある日、その事件は起こった。


「カイン・リジル、直ちに我々と共に出頭してください」


 俺が執務室で頭を抱えながら書類と格闘していると、突然ノックもなくドアが開けられ近衛騎士数名に囲まれた。


「な、なんだ?何が起こったんだ?」


 あまりの出来事にわけがわからず周囲を見回す。

 フィードも話を聞いていなかったようで、ぽかんと様子を見ていた。


「貴方には国家転覆の容疑がかかっています」


「は?国家転覆ぅ!?なんでだよ、何をすればそんな疑いがかけられるんだ!そもそも、誰ががんばって帝国から砦を取かえしたと――」


 誰か何かやらかして立会人として協力するのかと思いきや、言うに事欠いて国家転覆の容疑ときた。意味がわからなさ過ぎる。


「詳しい話は王族の御前でお話します。なお、現在貴方の要人としての権利は一切ありません。よって速やかにご同行お願いします」


 周囲の騎士が剣に手をかける。どうやら相手はこちらを動けなくしてでも連れて行くらしい。


「ちょ、ちょっと待ってください、そんなの何かの間違いですよ!リベリアのために一番がんばってたのはカイン様じゃないですか!」


 フィードがようやく状況を飲み込み割って入ってくる。


「それを今から判断するのです。自身が潔白というのなら、どうぞそのことを訴えください」


 だが近衛騎士たちは一歩も譲らない。そりゃこの人たちだって仕事してるだけだから引きはしないだろうな。

 近衛騎士といえば王族直属の私兵だ。それが俺を呼びに来たということは王族からの申し立てということだ。

 くそっ、こうなる可能性もあることは想像していたが、相手の動きが速すぎる。この調子だと最悪すでに罪が確定しているかもしれない。


「……わかった」


「そんな!これはどう考えてもおかしいじゃないですか!絶対あの――」


 フィードが必死に止めようと言葉をかけてくる。だがそれ以上はいらないことまで悟られてしまう。

 俺は咄嗟に言葉を挟んだ。


「この書類を終わらせたら向かう。それまで少し待ってくれ」


「先程も言ったはずだ、貴方には既にその権利も義務もない。速やかに移動しろ」


 背後の騎士が剣の柄頭で背を押してくる。どうやら少しの時間稼ぎもさせないつもりらしい。


「了解、了解。すぐに行くさ。フィード、お前は大人しくここで待ってろ。俺の仕事もほっといていい。いいな?いつも通りにしとけよ!」


「……わかりました。その代わり、絶対に帰ってきてくださいね」


 フィードは諦めたように一歩下がると、真剣な声色でそう言った。


「ああ、できる限り善処するよ」


 そう言い残し、カインは近衛騎士とともに執務室を後にする。

 扉は音を立てて閉まる。この先、彼はこの部屋へ戻ることはなかった。




 王城内にある議会場の扉をくぐる。

 中では国のお歴々がずらりと顔を並べていた。重要会議でもここまでは集まらない。


「来たか。ではこれよりカイン・リジルの裁判を開始する!」


 俺が到着したことを見るや否や、おそらく今回の発端であろう第1王子のゴウサムが高らかに宣言した。

 第1王子直々のお出ましとなると、これはもう方々の手回しによりシナリオが用意されていると見たほうがいい。

 彼は頭の回るような男ではない。それの癖に野心家で、何より致命的なのは自分のことをキレ者だと思い込んでいる節があるところだ。その為、ちょくちょく軍に口を出し、作戦や編成に介入してくる厄介者扱いを受けている。


 その第1王子がここまで大きな行動に出るとなると、誰か信頼できる人間の入れ知恵だろう。

 それの正誤がどうであれ、ここまでの事をするならば、勝つ自信があるということだ。


 考えを巡らせているとき、ゴウサムの罪状読み上げが始まった。


「被告人のカイン・リジルはこともあろうに帝国とつながり、我国リベリアを帝国の手中に落とさんと画策した!奴は自分の立場を利用し、帝国軍が擁立している勇者と内通、国内の町村を混乱に落としいれ帝国が有利に進むようこの戦争を導いた。そうだろう?」


 周囲がざわめく。どうやらこの裁判は急ごしらえらしい、“事実”を知っているのは語る第一王子と、反応を見るに一部の将軍、議員くらいか。

 見事に彼の息がかかっている連中のみだ。しかし、彼が俺を追い込む意味がわからない。なぜわざわざ戦時下に戦力を減らすような真似ができるのか。

 だが、おかげでまだ味方を作ることはできそうだ。


 それにしても、台詞だけ見てもわけがわからないことを言っている。どうして俺がそんなことをしなければならない?これには俺の動機が不足している。事実を無理やり縫い合わせて作った張りぼてに、そこまでの信を置く理由はなんだ?

 意味がわからなさ過ぎてもう一度丁寧に最初から説明して欲しいほどだ。

 なんで最近俺の周りにはこんな妄言を垂れ流す輩が多いのだろう。これこそ帝国の策略なのではないかと思う。


「それは全くの事実無根です。そもそも、私はリベリアのためにその帝国と戦い、先日はマイト砦の奪還にも貢献しました。私が帝国の狗だというのなら、このような結果にはならないはずです」


 とりあえず自身の潔白を相手の理性に訴えかけてみる。というより、俺はこう言うしかない。そもそも事実以上のことは言えないだけだが。


「フン、その砦で貴様は少数で敵本隊、それだけに飽き足らず音に聞く聖都の騎士にまで囲まれたそうじゃないか。そうだというのに隊員が欠けることもなく、五体満足で生きている。いくら救世の英雄とはいえおかしなことだ。それに、報告ではその戦いの前に勇者と会話をして別れているそうじゃないか!これは複数の兵が証言していた。大方この時に後の算段でもしていたのだろうよ。これでもまだ帝国とは無関係と言い張るのか?」


 この言葉に、将軍は大きく頷く。それにより俺への疑いが強まり、流れができ始めていた。


 まずい、話が悪い方へ繋がっている。実際にユカリとは話したし、囲まれたときはそれが功をそうして助かった。この事実は見る者によっては帝国との内通者と取られてもおかしくない行動だ。

 しかしその内容を聞いていた者などいない。難癖にもほどがある。


「待ってください、そもそもこの作戦自体、軍務会議で決まったことです!私一人が自由に動けるわけがない!」


「いいや、貴様は自分が遊撃隊という立場を利用し、自らが跳梁させた盗賊を捕らえることで信用を得、その後町一つをまんまと滅ぼして見せた。そもそも、3人の魔人族をたったたった4名の戦力で無力化できるはずがない。16年前ですら、英雄は1人だけではないのだ。シーディアの聖女、エルフの大賢者、裏切ることにより敵軍の情報を持たらした魔人族という破格の戦力で魔王率いる魔人族共に勝利していたのだ」


 ひどい言いがかりだ。そんなマッチポンプを起こして、俺に何があるというのか。


「まあ、それだとしてもだ。この男一人で全てを画策することは不可能であろうことは誰が見ても明らかだろうな。俺も馬鹿ではない、それくらいはわかっているとも」


 突然、ゴウサムが俺を擁護してきた。なんだ、何を考えて――


「そこで、その最後の()()()を呼んでおいた」


 その声とともに、法廷の扉が開く。そこにはいってきたのは、近衛騎士に連れられた第3王女ルクレツィアだった。

 彼女はそのまま俺の隣へ並ぶと目を伏せた。


「申し訳ありません、カイン様。あと一歩のところで相手に先手を打たれてしまいました……」


「……いや、仕方ないさ。相手の方が時間も、準備も上回っているんだ。はじめから後手に回らざるを得ない時点で厳しい戦いだよ。それに、俺が無用心だったから招いたことだ。謝るとするなら俺のほうだよ、すまない」


 相手を見ず、小声でやり取りをする。しかし、王女殿下まで引っ張り出されたとなると、ゴウサムの狙いはここか……!


「ここまで足労痛み入るぞ妹よ。して、お前はここへ呼ばれた理由はわかっているな?」


「お言葉ですがお兄様、部屋を騎士に踏み入られ、説明もなく連れてこられた。としか私は判断できません。どうかその真意をお話してくださらないでしょうか?」


 ルクレツィアはこの場に立とうと、凛としたたたずまいで兄を見据えていた。本当に、年齢を見せない少女だ。


「フン、いいだろう。状況も飲み込めていない暗い妹に、兄が直々に教えてやろうじゃないか。お前はこの“英雄”を利用し、帝国と密約を交わした上で招きいれ、この国の王になろうという算段だったのだろう?」


 ゴウサムは全てお見通しだと言わんばかりに、不敵な笑みを貼り付ける。しかし、残念ながらその予想は見当違いどころか大暴投だ。

 こいつが()()なのではないかとさえ思えてくる。


「お兄様が何を言っているのか、私にはさっぱりわかりませんが、只一ついえることはあります。もし、帝国に恭順を示しその力でもって王になろうとも、それは虚飾です。帝国は独立を決して許しません、今後この国を帝国の属州として捧げるくらいならば、私は戦いに命をかける方を選びます」


 そう言いきる彼女は、気高く、強く、何より壊れてしまいそうなほど危うく見えた。


「よく言い切った妹よ!それでこそリベリア王族だ。だが、異なことを言う、貴様がそこの英雄を使うために遊撃隊なぞに推挙し、その上近衛にも組み込もうというのだから、これが謀反といわずして何というのだ?」


 遊撃隊を推し進めたのはルクレツィア様だったのか。なるほど、彼女もまた自分の味方を作るのに手回しをしていたということか。

 だが、今その手回しが裏目に出てしまっている。


「お言葉ですがお兄様、その推理は予想を超えて妄想です。私は軍事的に英雄を最大限に活用できる状態を目指したまで、帝国、ましてや王になるための謀反など罵倒以外のなにものでもありません」


「はッ、よく言う。いい、これ以上言葉を重ねようと平行線、無駄だ。こうなれば、この場を収めるのは女神より他にないだろうな?」


 そう言い、ゴウサムは不適に笑う。俺がいつ切り出そうかと思案しているとき、まさか自身の優位を疑わない彼から切り出すとは思っても見なかった。


「全て神判、決闘で決めようじゃないか」

ここから新しい部となります。

敵は帝国だけではありません。個人の思惑でさえ、敵となりつつあります。

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