37 第一砦
途中立ちふさがる帝国兵を薙ぎ倒しながら、カインたちは砦の上部を目指す。
前線が耐えてくれているうちに砦前面を制圧し、開門することで帝国軍の防御を崩さなくてはならない。
砦門周辺の構造は通路が狭く、集団では動きづらい。間隔としてはすれ違える程度の幅しかないため、剣を振るうのもやっとである。
それは逆に大人数での乱戦がないという意味で、個人の実力が如実に現れるためカインとしてはやりやすかった。
「道をあけろ!――火よ!」
火魔法で正面の兵を吹き飛ばす。勢いでひるんだ後続にすぐさま近寄り斬激を浴びせていく。
この閉所においてカインを止められる者など誰もいなかった。後ろから続くフィードたちも後方の警戒をする程度でただカインについていっているだけのようなものだ。
「……英雄様は凄まじいですね。ロータスのときも思いましたが、こういった局面になると『救世の英雄』たる意味がよくわかります。少し怖いくらいですよ」
「カイン様はいつも必要以上を嫌いますから、何事にもそれを解決できる程度の力しか出さないので仕方ないです。まぁそのせいでいらないピンチになったりするところがほっとけないんですけどね!」
「……ざんねん」
何か後のほうで言いたい放題言われている。そんなに暇なんだったら正面を換わってやろうかとも思うが、今は何より時間が惜しいのでそのまま走り続ける。
流れるように上階へ突き進んでいると、弓兵の数がとたんに増える。どうやら最上部付近に到達したらしい。
ならばこの周辺に装備や兵が待機する砦内で一番大きな詰所があるはずだ。そこさえ押さえれば後は展開している兵を叩くだけだ。
砦内の配置図ではこの辺にあるはずだが……。
通路が狭く敵兵で視界が悪いため奥の様子を見通すことができない。かといって奥へ行きすぎ袋小路に陥るとまずい事になる。
今は何とか進む速度を確保できているため後ろからくる兵の勢いも弱いが、どこかで詰まってしまうとほとんど身動きができない状態になり、たちまち挟撃にあってしまう。それだけは避けたい。
「迷っている暇はないか……!」
自分の記憶力と感覚を信じ、奥を目指すと徐々に帝国兵の数が増える。これはビンゴだ。間違いなくこの奥の部屋を押さえれば勝利に近づく!
「この奥だ!勢いを上げるぞっ!」
帝国兵を切り倒し、飛んでくる弓を叩き落しながら声を上げる。
後ろを確認している暇はない、後方から聞こえてくる足音と、階段を駆け上がる足音とで状況を悟る。
迫る兵をなぎ倒し、踏み抜きながら進むと奥に見える扉前に大盾と槍を構えた騎士が見えた。
ここに帝国騎士がいるということはこの扉が拠点だろう。ならば押し通るしかない!
「来たな、リベリアの狗共め!我は帝国騎士団下五位ウェイデっ!!?」
「――火よ!いちいち名乗ってる場合か、どけっ!」
相手の足元を小さく爆発させ、盾を浮かせる。
そのよろめいた隙に槍を剣で打ち上げ、もう一方の手で盾をこじ開け脇を抜ける。
その途中、無防備になった腕を流れるように剣で切りつけておく。鈍い音が響いた。
堅い鎧で守られているため切断まではできないが、打ち付けてはいるため痺れてすぐに武器を振れないだろう。
「グォォッ!貴様それでも……っ!」
「今急いでるんでゴメンなさいね、――闇よ」
そのまま後続から来るフィーの闇魔法で強制的に意識を一瞬で刈り取られる。
普通はこんなにあっさり意識を失わないのだが、かなり動揺していたのだろう。
やっといてなんだが少し同情する。
そのまま奥の部屋へ飛び込む。そこには数名の兵とここを預かっているのであろう騎士が書類を片付けながらあわてて臨戦態勢をとっていた。敵ながら器用だな。
「さ、先に行け、伝令は頼んだぞ!――おのれ、また英雄かっ!!貴様っ、どうやってここまできた!ウェ、ウェイデンスはどうしたっ!」
騎士が声を荒げる。なんとか重要なものだけまとめられたのだろう。先に兵を逃がし、構えながらジリジリと反対側の扉へよっていく。
この拠点を放棄するつもりなのだろう。判断が早い、こちらとしても助かるがこのまま放っておいて情報が伝わり、混乱を小さくされるのもまずい。
それになんだろうか、こちらを積年の恨みがこもったような眼で睨んでくる。……どこかで会ったことでもあるのだろうか?
「部屋前の騎士なら10秒とかからなかったよ。それより今お前が抱えている大事な書類とこの砦の情報、置いていってもらおうか?――フィード、回りこめるか?」
「余裕ですよ」
言うが早いか、フィードは即座に飛び上がり壁と天井を蹴り回りこむ。その一連の動作の速さと華麗さに、敵も味方も一瞬魅入ってしまうほどだ。
「一瞬でこの距離を……!?普通の兵ではない……な、お前はっ!」
「あ、どこぞの町でいじめた騎士さんじゃないですか。ハロー?」
ん?フィードの知り合いなのか?言われてみれば俺もどこかで見たことがある気がする……。
すると、すぐ後ろにいたジンが声を上げた。
「あなたはトントにいたキースさん!こんなところで何してるんですか」
あぁ、あのトントでジンと追いかけっこしていた騎士か。あの時少し見ただけだったので顔を覚えていなかった。
「貴様はあの時の筋肉エルフ!こんな場所でまた貴様らの顔を見るとは……!貴様らのおかげでオレがどのような辛酸を舐めさせられていたか!順風だった出世街道からも外され、挙句あの原黒瓢箪の配下になったかと思えば、こんなところで最前線のあってないような指揮を任される始末……!!これが体のいいトカゲの尻尾だということをわかりつつも、命令違反は軍法会議送りだ……。それも、それも、お前たちが愚かにもこの大帝国に刃向かうから……!この場で顔を合わせただけで腸が煮えくり返って憤死しそうだわ……!!」
尋常ではない怒りを燃やしながら怨嗟の声を上げるキース。鎧がカチャカチャと音を鳴らすほど震えているところを見ると、言葉は誇張などではないらしい。その気迫だけで人を殺せそうだ。
その境遇に同情はするが、ある意味自業自得でもあると思うが……。
「でもあなたとあなたの部隊が弱かったからこうなっているんですよね?こちらを恨むのはお門違いではないのです?」
あいつ言いやがった。どれだけ火に油を注ぎたいんだ……。
空気を読めないのか?それともわざとか?
「き、貴様ッ!我が兵たちがわかっていても言わなかった事をそう易々と……!」
どうやらその辺の判断はドライらしい、それでもって皆そっとしてくれていたのもわかっていたなんてチームワークどころか優しさすら感じる。
うちの隊にも分けてほしい。切実に。
「貴様ら皆殺しにして晒してくれるっ!と言いたいところだが我が部隊にそんな余力もないっ!よって逃げさせてもらう!部隊の撤収は終わったか!?」
「今最後の兵とウェイデンス様が連絡橋をわたり終えました!」
「上出来!お前たちとの馬鹿な会話も以上だ!オレたちも帰らせてもらう、この借りはいつか必ず返すぞっ!必ずだ!」
いつのまにか足音や扉の外で寝ていた騎士達がいなくなっていた。乗せられて無駄話をしすぎたか。
喚きながらキースは帝国兵と一箇所に固まる。この状況だとフィード側の扉から突破するのが一番現実的だが、それでも敵兵に挟まれている室内という状況で到底成功するとは思えない。
どうするつもりだ……?――まさか!
「フィード、その騎士を黙らせろッ!」
「遅いわ馬鹿めっ!――轟雷よ、我が障害を崩す槍となれ!」
キースは呪文を詠唱するとそのまま剣を足元に突き刺した。
その瞬間足場が魔法に耐え切れず崩れる。
「くそっ、間に合わなかったか」
とっさに飛び退き、魔法に巻き込まれるのを回避する。
土埃が舞い上がり視界をつぶす中、下の階から声だけが聞こえてくる。
「見たか、我が最強呪文を!貴様らなどオレの手のひらでゲホッゲホッ!、くそっ、貴様ら次はないからなっ!」
キースの罵声が遠くなっていく。前回同様捨て台詞をしっかり残していくあたり慣れているのだろうか?
最後まで騒がしい奴だったが、その手際は認めざるを得ない、ある意味強敵だった。
その戦況判断を撤退以外にも使えたら昇進なんてあっという間だとは思うのだが……。
「最後は取り逃がしたが、なんとか正面門は片付きそうだな。このまま敵兵が残っていないか警戒し、制圧し次第開門、その後第2門攻略へ移る」
「わかりました。早めに門を開けて前線に状況を伝えないと、急ぎましょう」
ジンが珍しく前のめりな提案をしてきた。
「そうだな、ここで思った以上に時間をとられた。ジンとマオは元の扉から部屋を出て上を目指してくれ。俺はフィーと一緒に奥の扉の先にある反対側の階段から上を目指す、最上部で別ルートから潜入していた部隊と合流後、開門する」
「わかりました。いきましょうマオ!」
「……うん」
ジンとマオが部屋の外へ駆け出していく。
「俺たちも行くぞ」
「りょーかいです!逃げられちゃいましたし、残りをさくっと制圧しちゃいましょう」
フィーの軽さはどうやってもかわらないな。
もう嗜める事すら諦めつつ部屋を出、奥に見える階段を目指した。
キースさんは下級騎士の中でもできる方なんですが……。
相手が悪すぎて出世できなさそうです。




