27 変身
「なんでここに彼女がいるんだ……!?」
ジンは何をしているんだ?さすがに子供を逃がすような奴ではないはずだが。
くそっ、考えている暇はない。
「こちらへ来てはだめだっ!フィード、彼女を外に!」
「はい!」
近づくフィードに目もくれず、リードはこちらの声が聞こえていないかのように屋敷のほうへ駆け出した。
「姉さん!姉さんなんでしょう!?生きていたのね、返事をして姉さん!!」
なおも屋敷へ声をかけ続けるリード、なんとかフィードが追いつき彼女を止める。
「お姉さんはまだ探している途中なの、だからはやくここから出ましょう。ここは危険ですから!」
「やだ、やめて!だって姉さんはそこにいるじゃない!」
リードがバルコニーを指差す。
「そこにいるのはあなたのお姉さんじゃありません!この町をめちゃくちゃにした魔人です!」
「嘘よ!姉さん、ねえ、そうでしょう!?」
なおも呼びかけ続けるリード、その呼びかけにこたえるように、トパズの魔力が動いた。
「……リードット、来てくれたのね。嬉しいわ」
「ッ!フィー危ない!」
瞬間、複数の目玉がリードの周りに出現し、棘になった。
俺もとっさにフィードへ駆け寄る、だが追いつかない……!
「こんな子供を狙うんですかっ!――風よ!」
フィーはすんでのところでリドに追いつくと、必死にナイフと魔法を駆使して棘の嵐を捌く。が、多勢に無勢だった。
そのうち一本がフィードを超え、リードを貫いた。
「あっ、姉さ……」
「リード!」
最悪の事態だ、せっかく救助できた生き残りをみすみす死なせてしまうのか……?
「姉さん……?なん……で……?」
「あぁ、リードット……。早くこちらへ来てちょうだい」
二人は噛み合わない会話をしている。
あの傷では光魔法程度では間に合わないか?いや、できることをするまでだ。
なんとかたどり着き光魔法で活性化を行う。
「間に合ってくれ……!」
「ねえ、さん、ねえさ……」
リードが動かなくなり、瞳から力が抜ける。彼女から魔素が散っていく。
「くそっ……!」
どうしてこんなことになった。何が間違っていた?最悪の状況に俺が頭を巡らせていると、それは起きた。
「な、なんですか……これ?」
突然、リードを抱えるフィーが困惑した声を上げた。
貫かれ、血で染まった彼女の腹部が淡く輝いている。その輝きが一瞬強くなりはじけ消えた。
リードの全身から血の気が引いていく。真っ白な、まるで人形のような白さ。
髪もそれまでの赤毛がかったブラウンから白銀へと変わる。まるで色が抜けていくような変化だった。
腹部の血の色が鮮明に映える。いったいどうなっているんだ。
「うっ、ね、ねえさ……」
「リードちゃん!?」
生きているのか……!?俺は彼女から魔素が消滅したところも見た。そんなことはありえないはずだ。
「……姉さま」
リードが瞼を上げる、そこには血よりも赤い瞳があった。
その瞬間、彼女は霧散しフィードの腕から跡形もなく消えてしまった。
「どう、なっているんだ……」
「カイン様、あそこ!」
フィードがバルコニーを指差す。
そこには蹲るトパズの横に立つリードの姿があった。
「一瞬であそこまで行ったのか?」
「どうやらそうみたいですね……魔力の痕跡があります」
言われて気づいたがここからバルコニーまで一直線に魔力の跡が続いていた。しかもこれは……。
「どうやら一番嫌なパターンみたいだな……」
「ですね……。まどろっこしいことをしてくれます」
「姉さま、大丈夫ですか?ドレスが破れてしまっていますわ」
リードがトパズに声をかけている。トパズはその声に反応し、顔を上げた。
「リードット……帰ってきてくれたのね、あなたがいなくて寂しかったわ」
「フフッ、そういう演目でしたもの。終われば戻ってきますわ。ですが、どうでしたでしょうか?わたくしの演技は」
スカートの端をつまみお辞儀をしてみせるリード。いや、この場合はリードットなのか。
「ええ、一つの欠点もないすばらしい演技でしたわ。あなたは見事に『悲劇の町娘』を演じきりました」
「ありがとうございます姉さま!ですがわたくしの演技では彼らを導けても仲間にできなかったようです。残念ですわ」
演技……?あれを演技だというのか?こちらの目からは疑わしいところなど何もなかった。
力や感覚、臭いや魔力においてさえ彼女が演技をしていたなど思いもしなかった。あれはもう変身と呼べるものの域だ。
「やっぱり、騙されていたみたいですね」
「……みたい」
いつの間にかマオも合流している。
しかしトパズはもう魔力の吸収を終えているはずだ、この後は真体化するしかない。
この時点で魔人二体を相手にしないといけないとなるとかなり辛い状況だ。
ジンはいったいどうなったのか、そこが不安ではあるが今は確かめようがない。
「リードット、ワタクシ少し踊ろうと思いますの。一緒にいてくださる?」
「あたりまえですわ姉さま。一緒にワルツを踊りましょう!」
「ありがとう、リードット」
言いきるとトパズが魔力を開放する。
瞬間的にバルコニーが巨大な触手であふれ返った!
「まずい、想定以上にでかいぞ!」
「うわわ、何ですかあれっ!?」
「……きもちわるい」
そのまま触手は屋敷を押しつぶしながら肥大化していく。
庭の柵も押しつぶし、隣の建物もなぎ払っていく。あまに巨大すぎる体躯は両隣の建物を半壊させた時点で成長を止めた。
屋敷以上に大きくなった触手の束はどうやら中央に巨大な目玉があるらしい。よく見ると触手のいたるところにも目玉がある。
あまりにおぞましい見た目とスケールの大きさから一同は唖然と見上げていた。
「でかくなったな……」
「こんなの倒せるんですかね……?」
「……むり」
諦めないでマオさん。いまからそれと戦うんだから。
「え、英雄様ー!」
その時遠くからジンの声が聞こえてくる。
「ちょっとどいてくださいっ!英雄様!やっと見つけました!」
白い霧の中からジンが死体に絡まれながら出てきた。今までどこで何をやっていたか問い詰めたくなったが、ジンの様子からとりあえず無事だとわかったので、不問にしておく。
「英雄様!大変です!拠点が突然白い霧で覆われたかと思ったらリードちゃんが突然跡形もなくいなくなったんです!探そうにも霧でわからないし、死体は襲ってくるしで、とりあえずみんなと合流しようと行政区の方へ来てみたんですが、そしたら突然地響きと轟音が聞こえ出して、世界の終末かと駆けつけてみたら皆さんが!あぁ、すみません!リードちゃんを見失いました!」
矢継ぎ早に説明してくるジン。彼自身混乱しているようで、その説明はよくわからないことになっている。
「まあ落ち着け、大体わかってる」
「え、どうしてですか?は、まさかこれが英雄様の真の力……!」
カインは無言で化け物の方を指差す。
そこにはトパズの真体(触手の化け物)の中央付近に、寄り添うように宙に浮くリードットの姿があった。
「あぁ、なるほど……。ってあのリードちゃんのそっくりさん誰ですか!?それにあの化け物何なんですか!!?」
「敵だ」
「……あ、はい。ちょっと考えさせてください」
頭を抱えるジン。思考が追いつかない気持ちはわかる、俺もここまでの規模の質量を真体として持つ魔人は初めてみた。
魔人はこんなこともできてしまうという事自体、できれば知りたくなかった事実である。
そういえば屋敷内に逃げたブレイデンは無事だろうか?敵だがアレに潰されて死ぬのは同情してしまう。
残念で律儀な魔人のことを考えていたらリードットと目があった。
「貴方たちはもうだめよ。仲間に加えようとしてあげたのに、お姉さまを怒らせてしまうなんて」
リードットは嗤いながら言う。
「だから、ここでみすぼらしく潰れてね?」
カオスになってまいりました。
果たして今後どうなってしまうのでしょうか?




