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ヒーロー×ブレイブ~世界を救った英雄は静かに暮らしたい~  作者: 橋藤 竜悟
第一章:帝国編 第一部三節 死霧の町
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23 霧に沈む(複数視点)

 これといって何も起こらず、無事にロータス西門にたどり着く。かなり近づいたら霧のため暗く、黒いのであって光が届いていないわけでないことがわかる。そして門から先は切り取られたように霧に覆われていた。

 カインたち4人はマスクをつけ、最終確認をする。


「気味悪いが、この町に入ると闇魔法の霧に覆われることになる。視界がかなり悪くなるだろうから全員離れ過ぎないように注意しろ。まずは拠点になるような建物を探しに住宅区へ向かおうと思っている。途中魔法の影響で体調が悪くなったら俺に言ってくれ、できる限り中和していく。中で敵対する生物に当たった場合は俺がさっき説明を受けた結界を展開しながらその場で戦う。ジンは俺と一緒に前衛、マオは魔法で援護、フィーはマオの支援をしてくれ。敵が魔人族であるなら、おそらく三人で行動しているはずだ。まあ、あの頃から変わっていなかったらだが、魔人は大体二人か三人はいると思ってくれ」


「わかりましたー」

「了解しました」

「……うん」


 言葉はバラバラながら、3人の返事がそろう。


「よし、ではロータスに入るぞ」


 ロータスは東西で商業区と住宅区に分かれていて、その中央に各行政機関や、公共施設、富裕層の屋敷などが集まっている。

 この町は西側諸国から東にある砂都アレーナへ向かう中継地点にもなっている。そのため物品が集まり、商人が行きかう町だった。

 その町が、今はただ闇に閉ざされてしまっている。


 ロータス西門から中に入る。一歩踏み込んだとたん、町の内部だけ空気が変わっていることに嫌でも気づく。

 町の外は快晴だというのに、町は異様に冷たく、霧のせいか空気が重い。加えて闇魔法のおかげで軽い倦怠感まである。最悪だ。

 これを浴び続けると死ぬ前に精神が壊れるのではないかと思う。早めに拠点を作成しなければならないな。


「ひどい空気ですね……、こんなのまともに耐えれませんよ」


 ジンがうめく。マスクがなかったらそれこそひとたまりもないことは簡単に想像できた。


「うへー、こんなにひどいならベッドで寝とけばよかった……」


 フィードは不満そうに漏らすがしっかりついてきている。ここで逃げられたら軍法会議ものだ。


「……」


 マオも黙々とついてきてはいるが、耳を閉じて尻尾を体に巻きつけているあたり結構堪えているのであろう。


 そのまま中心部へ伸びる大通りを進む。途中には重なるように倒れて動かない町の人々の死体がある。どういうわけか外のものと違いそこまで大きな裂傷はない。


「よし、推測どおり拠点になる場所を見つけた。中は狭い、警戒を密にしろ」


 途中かなり大き目の宿屋を見つけることができた。行き来の多い通りで貿易の中継地点でもあるこの町ならあると踏んでいたが、すんなり見つけることができたのは大きい。

 警戒しつつ中に入る。スタッフや旅人のものであるだろう死体が見えるが、生物の姿はなかった。

 そのまま2階の大きめの部屋を選び、空間魔力中和装置を設置する。部屋全体をカバーしきれていないが、そのまま部屋からはみ出て外から丸見えになるような間抜けはしたくなかった。


「ふぅ、これで一息つけるな」


 大きく息をつく、ここまでさほど移動してきたわけではないが、闇魔法の影響は大きく、かなりの疲労感を覚えた。


「この黒い霧にはどうがんばっても慣れることができそうにありませんね」


「慣れたら怖いですよ。同じ闇魔法使ってる私ですら性格悪いと思いますもん」


「でも……ここまでできるのはスゴイ」


 マオは何故か相手に感心している。魔人族はビックリ人間ショーみたいなものだからな。これをいうとハウレスあたりに殴られるのだが。


「ここを基点に調査を開始することになる。まずは周辺にある住宅街北区と南区の調査だ。そこが終われば中央の行政区、正直そこが一番危険だと踏んでいる。何も見つからないようであれば、残った商業街北区、南区とする」


「ところで相手の数も勢力も、はたまた存在してるかもわからないのですが、どこで終わりにするんですか?」


 ジンが質問してくる。もっともな質問だ。


「そこに関してはこの闇魔法を行使している根本の確保、または排除がラインだ。一番の脅威であることは変わらない上、この魔法さえ何とかすれば国の増援も呼びやすい」


「なるほど。では目標はこのめんどくさい霧を何とかすることですね!」


 フィードが声を張る。まぁ端的にいうとそうだがそう簡単なものでもないだろうことは目に見えていた。


「各区を2時間ほど調査後、毎回この拠点に戻って休憩。回復した後次の区へ調査に移ることとする。では準備を整えたら10分後出発だ」


 またあの霧の中に戻ることを考えると動きたくはないが、ここに籠っていても事態は進展しない。行動あるのみだ。




 ****




 ある一室、二人の少女が談笑している。そこから少し離れた所に青い肌の悪魔が壁に寄りかかっていた。


「姉さま、また子羊たちが迷い込んできたわ」


「そう、嬉しいわね。また住人が増えるわ」


「そうね、姉さま。この町をもっと素敵にしていきましょう」


「ええ、ではお迎えの準備をしましょうか」


「わかったわ。盛大に歓迎しますわ!」


 それを聞いていた青い悪魔は小さく舌打ちをした。


「なぁに、ブレイデン。何か言いたいことがあるの?」


「貴様らの悪趣味なごっこ遊びには付き合いきれん」


 呆れたように扉のほうへ歩く。


「あなたは私たちの護衛でしょ?フフッ、しっかり守ってね?」


「生憎だが畜生の世話など任務には入っていないのでな、守られたければせめて“人間”程度にはなることだ」


 そのままブレイデンと呼ばれた悪魔は部屋を出る。


「あらあら、機嫌を悪くしてしまいましたわ。怖いわね」


「彼女はまじめすぎるのよ。もっと楽しめばいいのに」


 部屋に広がる少女たちの笑い声。それはかつての町に日常的にあったものだが、今の町のように強い闇を孕んでいた。




 ****




 10分後、体力が回復したカインたちは拠点にしている宿屋がある住宅街北区の調査に移る。

 町は少し荒れてはいるが大きく破壊されている様子はなく、そこかしこに住人と思われる死体がある程度で他に目立ったものはなかった。

 ただ、そこで生活していた住人達の痕跡を見ると嫌な気分にさせられる。闇魔法とあいまって黒い感情が渦巻いた。


 どうやら北区には何もないようだった。敵である魔人も見られないどころか、自分たち以外の音すら聞こえないほど町は静まり返っている。


「今回は見事に空振りでしたね。一応探してはいましたが、やはり生存者もいないようですし……」


「ここまでひどいと難しいか。いたら事情が聞けるが、こうなってからどれくらいの時間がたってるかもわからん以上絶望的だな」


「次の南区でも探してみるしかないですね。それより早く拠点に帰って休憩しましょうよ」


「つかれた……」


 皆この状況で頑張ってはいるが、死体しかない町でこの悪い視界、降りかかる闇魔法により疲労の蓄積が早い。

 定期的に光魔法で中和もしているが、やりすぎると俺の魔力の問題もある。今回はかなりやり辛い相手だ、ユカリよりはましだが。


 一度拠点に帰り回復を行う。皆が休息している間に、俺は見てきたものをレポートにまとめておいた。


「あ、カイン様が自主的に書類作ってるなんて珍しいですね。なんです、槍でも振るんです?」


 俺だって仕事はするわ!そりゃ平時はできるだけ逃げていたが……。


「昔からやってるメモみたいなもんだよ。魔人族相手はわからないことだらけだからな、まとめておくと便利なんだ。今回の奴に逃げられたり、俺たちが全滅したときとかにな」


「だ、大丈夫です!英雄様がいる限り魔人族には遅れを取りませんよ!なにせあの魔王を倒した方ですから」


「……まけない」


「わ、私だって負けるなんて思ってませんよ?ただ何の書類かなーと」


 ジンとマオが口をそろえていうと、フィーがあわててよくわからないフォローをしている。


「ありがとうな。まあしておくに越したことはないって保険だよ」


 レポートをまとめ終わると南区の捜査に出る。

 そこで思いがけないものを発見した。


「やはりこちらも変わらない現状ですね……」


「あぁ、生物がいるとは思えんくらい静かだな」


「……!……きこえる」


 畳んでいたマオの耳が立ち、周囲をうかがうように細かく動く。


「どうした?」


「……なきごえ……!」


 マオが走り出す。


「ま、待て!罠かも知れないんだぞ!」


 なんとかマオに追いつくと一軒の家の前で止まっていた。


「……ここ」


「ちょっと待て、マオ、集団行動中なんだ、いきなり走り始めるのは、やめてくれ」


「カイン様は突然走ると息切れや脇腹が痛くなるんで配慮してあげてください」


 うるさい、言うな。


「……!本当だ、かすかに声が聞こえます!」


「……仕方ないか。さっきも言ったが、敵の罠かもしれない。慎重にいくぞ」


 俺が先頭になりゆっくりとドアを開ける。

 軋むような音を立てて扉が開くが、中には誰もいない。

 声は小さいがはっきり聞こえるようになった。


「……ちかからきこえる」


 マオが奥の扉を指差す。

 万が一を考え他の部屋も確認しておき、敵や罠がないことを確かめる。

 最大限警戒しながら地下へ入った。階段を下りると、どうやら食料などの貯蔵庫になっているらしい。

 その最奥の部屋には鍵がかかっていた。


「パニックルームのようですね。かなり頑丈にできています」


 ジンが扉を調べながら言う。呼びかけるしかないようだ。


「誰かいるのか?俺たちはリベリア軍だ、君を助けに来た!」


 扉を軽くたたきながら呼びかけると、泣き声が止んだ。

 少し間をおいて、重いものを引きずる音と共に声が聞こえる。


「……ホントに助けに来てくれたの?」


 小さい女の子の声が聞こえる。ほかに音はない、どうやら一人らしい。


「あぁ、本当だ。君を無事に外に連れて行く」


「お外はもう怖くない?」


 外が怖い?霧のことを言っているのだろうか。しかし霧は扉も壁もお構いなく侵入してきている。


「えぇ、外は大丈夫ですよ。怖い霧もお姉ちゃんたちが守ってあげますから」


 フィードが答えてくれる。やはり同性のほうが安心できるのか、恐る恐るといった感じで鍵が開いた。

 ゆっくり扉を開けると、泣き腫らした目をした10歳ほどの少女が大きな魔法ランプを横に立っていた。

 どうやら魔法ランプに光魔法を溜め込み灯すことで小さな結界代わりにしていたらしい。子供がぎりぎりは入れる大きさだが、そのおかげでこの娘は助かっていたようだ。

 この霧が闇魔法であると気づきとっさに準備したのだろう。部屋には女性の死体もある。……母親だろうか。


「大丈夫ですか?自分で歩けます?」


 フィードが優しく問いかけると、少女は小さく頷く。


「あなた、名前はなんていうんです?」


「……リード」


「じゃあフィーはリードを頼む。俺たちは周囲を警戒、一度拠点に戻るぞ」


「わかりました」


「……わかった」


 ほかに何もないか確認してから、足早に家を出る。

 出た瞬間、何が起こったのか誰も理解できなかった。

 ――そこは一面の白い霧に覆われていた。


「なんだ、どうなってる……?」


「……わからない、やみまほうのきりがきえてる……」


「いきなりどうして……」


 いわれてみれば動きやすくなっている。ずっとあった倦怠感も徐々に引いてきていた。


「確実に何かが起きているのだろうが、ちょうどいいと考えるしかないな。渡りに船だ、全力で拠点へ向かうぞ」


 声をかけ、移動しようとした瞬間、静かだった町に音が返ってきていることに気づく。


「なんだ……?」


 引き摺るような、這いずる様な音。獣のような息遣い。


 ――グ、ガゴ……ガ


「なんです……これ?」


 ジンが驚愕の声を上げる。

 とっさにジンが見ているほうを向くと、そこにはゆっくり立ち上がる死体がいた。

今までと毛色の違う問題が町を覆っています。

これまで通りにはいかない戦いになるので、カインの頑張りに期待です。

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