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ヒーロー×ブレイブ~世界を救った英雄は静かに暮らしたい~  作者: 橋藤 竜悟
第一章:帝国編 第一部三節 死霧の町
23/48

22 黒い町

 ウルの村を早々に出、ロータスへ馬を走らせる。

 村で様子のおかしかったマオだが一段落したらコロッと元に戻っていた。

 ……何かあるのだろうか。しかし、踏み込んでいい問題なのかわからない。

 こういうときに考えすぎてしまう性分をよくディノに笑われたが、性分なのだ。仕方ない。

 付き合いの長いジンも知らない様子だった。このことが問題にならなければいいが、そればかりは神のみぞ知る、だな。


 ロータスへの道のりはそれなりにあり、途中二晩野宿をした後夕暮れ前に到着した。

 天気は快晴、雲一つなかったはずだ。なのにロータス近郊は異様なまでに暗かった。突然そこにだけ夜が訪れたような、異様な光景だった。


「何ですか、あれは……」


「……くろい」


 ジンとマオも絶句している。

 遠目に見てもわかるほどロータスの町は黒く染まっていた。

 話では綺麗な町だと聞いたことがある。移り住む者も多く、貿易や旅人により成長している活気に溢れた良い町だとも。

 それが、どうやったらこうなる……?


「警戒しながらゆっくり近づこう」


 斥候が帰ってこなかった話を聞いていると、あの状況が冗談でなく危険なモノだとわかる。

 不用意に近づくべきではない、少しずつ調査しながら慎重に進む。

 周辺の環境に変化はない。ただ町に近づくにつれ動物や人間の屍骸が多くなっていき、しかもその全てが町から逃れるように息絶えている。


 はじめの方にある屍骸は時間経過での腐敗や、なにかの動物に食われた跡を除けば、死ぬような傷を受けていない綺麗なモノが多かった。

 しかし町に近づくとその様相は変わり、徐々に裂傷が激しくなっていく。鋭利なもので切り裂かれていたり、噛み千切られたような跡が多い。

 増えていく死骸につられ、異臭も強くなっていく。虫がたかり、まともに息ができないほどだ。

 マオはこの匂いが辛いらしく、水魔法で鼻周りを覆っている。くそ、便利そうだがあれを維持し続けれるほど俺には潤沢に魔力がない。


 どうやらこの惨状のおかげで動物も寄り付かなくなったようで、先ほど通りがかった周囲の森にも動物の気配はなかった。

 ロータスの町を中心に死が広がっているような光景だ。

 これを異様と言わずして何というのか。


「悲惨ですね……」


 延々と続くこの光景を見てジンがつぶやく。


「いったい何があったらこんなことになるんでしょうか」


「わからん。ただ言えることは、ロータスはもう助からんだろうということだけだ」


「……そうですね」


 ジンが目を伏せる。

 恐らく斥候がここに到着した時点で、これに近い惨状だったのだろう。しかしソレを伝えることもできず、戻ることすらできなかったことを考えるに、これ以上近づくのはまずいかもしれない。

 目の前に強い死が漂っていることが容易に感じ取れた。


「……わかった」


 マオが突然口を開く


「何がわかったんだ?」


「まちがくろいりゆう……」


 どれだけ近づいても町は黒い、異様な光景が目の前に広がっている。


「これはやみまほうのきり……」


「なっ、そんな馬鹿な」


「町全体がですか!?」


 ジンと二人で驚きの声を上げる。

 実際に町一つ覆うレベルの魔法を行使するとなると、何人がかりでやるのかもわからないレベルの超魔法だ。

 しかもそれを維持するとなると国中の魔術師を集めてできるかどうかだぞ。


「流石に間違いじゃないか?そんなわけのわからないことどこの誰がやるんだよ」


「まちがいじゃない……しかもこのまりょく、まざってない……ひとりだけ」


「一人の魔力!?」


 ジンが驚いている。本当に驚かされっぱなしだ。

 だが、一人の魔力と聞いて逆に納得がいった。ならば、こういう例外の心当たりは一つしかない。


「そうか、なるほど。なら今回は十中八九魔人族の仕業だろう」


 魔人族とは、魔物のような形態をもった人類の一種で、千差万別の力を持った種族である。

 魔人族に定まった形態はなく、個人個人で得意なものも、能力も、形すら違ってくる。


 唯一共通点を上げるとするなら、協調性に欠ける者が多く、普通の魔法が苦手といったところくらいだ。

『普通の』魔法が苦手なだけであって、逆に『普通じゃない』魔法、主にその個体でしか行使できないような魔法を使ってくる。おかげで魔王軍にはかなり手こずらされた。


 ……生き残った奴がいまさら何をしたいのかはわからんが、最悪のタイミングと場所といえるだろう。


「これも運命か、それとも自分の尻拭いなのか……」


 何か、後ろから追いかけられているような、嫌な予感めいたものがある。あの時の事は、思い出したくはない。


「まずこの状況をリベリアに報告する、このまま町に入るかどうかはその返答しだいだな。今の装備でここに乗り込むのはおそらく自殺と変わらん」


 遠めに繋いでおいた馬と荷物のところまで戻り、通信用の魔術紋を使う。この魔術紋もこれが最後だ。おそらく一度帰ることになるだろう。


 と、思っていた俺の予想は裏切られた。上はこの件を非常に重く受け止めたらしく。可及的速やかに解決するように言ってきた。

 その為に新たな人員と必要な装備と新しい通信用の魔術紋も送ってくれるらしい。大盤振る舞いだ。……正直ここに数人追加されたくらいではどうにもならないと思うのだが。上は馬鹿なのか。


 この事をジンとマオに知らせると二人とも青い顔をしていた。


「上は自分たちに死ねと言っているのでしょうか……?」


「……しょうきじゃない」


「本当にな。あいつらもこの現状を見れば一個師団くらい送る気になるだろうに……その装備と人員は明日朝に到着するらしい、それまで待機だ。逃げ出したかったら別に止めはしないぞ」


「いえ、英雄様もいますし、自分は頑張ります!魔人となんて戦ったこともないので、足を引っ張らないようにするので精一杯でしょうが……」


「……マオも、まほうがつかえるかもわからないけど……がんばる……」


 二人とも今一つ自信のない返事を返す。俺もこんな任務やりたくない、でもやるしかないのだ。

 雇われ軍人の辛いところである。送られてくる装備と人員がとてつもなく素晴らしいことを祈りながら次の日の朝を待つことにした。




 次の日、天気は変わらず晴れてはいたが、風が強かった。その風にも流されない黒い霧が、本当に闇魔法であることを知らしめている。


「話だとそろそろ到着する頃だが……」


「周辺を通る人影なんかも見えませんね。本当に来るんですか?」


 ジンが不安そうにあたりを見回す。


「来なかったら俺たちが特攻して犬死する羽目になるが」


「……こまる」


 ホントに困る。装備すら来ないのはまじめに困る。


「誰も来ませんねー、カイン様ちゃんと時間聞いてました?」


「あってるよ、向こうも朝方合流としか言ってなかったし、とりあえず待つしかないか」


「暇ですねー。あ、私カード持ってきたんですよ!これで暇つぶししましょう!」


「おい、フィー、お前なんでそんな物持ってきてる。遊びできてるんじゃないんだぞってなんでいるんだお前!」


 いつの間にかしれっと混ざっていたフィードに驚く。自然に隣にいるのは怖すぎる……!


「あ、驚きました?やったー、大・成・功ー!!」


「じゃねえよ!それに、お前怪我は大丈夫なのか?」


「それについては大丈夫です!お医者さんには止められましたが私的には余裕です!」


 それは大丈夫とは言わねえよ……。


「フィードさん、合流できたんですね。復帰おめでとうございます!」


「フィーがいないとさみしかった……」


「ありがとうございます!皆様もカイン様の面倒を見てくださりありがとうございました」


 ジンとマオが喜んでいる。

 いや、俺が面倒見てる立場だからね?今のところ俺が一番苦労してるよ?たぶん。


「で、だ。フィードさんはちゃんと命令でここに来たんだよな?」


「ええ!なんかカイン様に新しい装備を送るとかいう話を聞きまして、直談判しても通らなかったので、その大役に抜擢された子を買収して代わってもらいました」


 ほとんど無理矢理じゃないか……。まぁこうなったらどうやっても帰らないのは見えている。


「……無理するなよ。また倒れたら縛り上げてでも送り返すからな」


「キャー!カイン様やっさしー!!フィーのこと心配してくれてるんですかー!?もうしょうがないですねー、今回は譲ってあげます!今回だけですからね!」


 よし送り返そう。


「ジン、マオ。フィードを囲め。縛り上げて城へお帰り願う」


「じょ、冗談ですって!ホントに!カワイイジョークですって!」


 慌てて逃げるフィード。逃げ足だけは無駄に速い。


「チッ、じゃあフィードさん。他の人員とあなたが預かってきた装備を見せてください。ほら、預かってきたんだろ?」


「もう少し感動の再会感がほしかったのになー。まぁいっか。わかりました、わざわざ魔道研まで行ってもらってきたんですから感謝してくださいよ?」


 フィーがごそごそとカバンをあさる。他に何が入ってるんだあのカバン・・・。


「あ、あった。じゃじゃーん!魔力中和マスク~!四人分~」


 フィーは口元を覆う形の少しごつめの皮でできたマスクを出してきた。


「わかりやすい説明をありがとう。要するにそれをつけて中和しながら進めって話だな?」


「……でもくちだけじゃ、ふじゅうぶん」


 だよなぁ、そりゃ呼吸ではいる部分が割合大きいとしても、接触でかかる闇魔法はどうするんだ。


「開発責任者のロザリーさん曰く、『あの男ではどうせこんなこともわからんだろうから説明しておく。このマスクはマグナイト鉱石が魔力を吸収する特性があることを利用して作られた装備だ。よって容量以上に吸収すると内部のマグナイト鉱石はそのまま破裂する。そうならないように定期的に中の魔力を使用するなどして外に出さねばならない、まあ自殺したいのなら無視してくれても構わんがね。使用耐久時間は大体3時間ほどだ。後その装備は呼吸による吸収量が多いもののために作られた装備だ。今の君たちの状態なら大体50%程度しか防げやしまい。よってもう一つ拠点作成の道具をつけさせてもらう。あとはそこで体が手遅れになる前に闇魔法を光魔法などで中和すればいいさ。最後に、以前言っていたことを今後とも忘れないことを祈ってるよ。子供に負ける英雄君』だそうです」


 長っ、しかもおもいっきり嫌われてる!?


「お前よくそんな長台詞覚えてきたな……」


 しかも声マネが地味に似ていたのがムカつく。


「ホントに大変でしたよー。来る途中がんばって練習しましたもん」


 そんな練習する暇があったら休んでいてほしい。本当に。


「話を聞くに、もう一つ拠点作成用の道具があるみたいですがどんなものですか?」


 ジンが話を進める。

 よくあの突っ込みどころしかない会話をスルーできたな……。俺が気にしすぎなのか?


「あぁ、この道具ですね。じゃじゃーん!空間魔力中和装置~!」


 三脚のようなものがついた少し大きめのマグナイト鉱石でできた装置を出してきた。


「これも開発責任者のロザリーさん曰く、『この装置は――」


「まてまて、もうその下りはいい。簡潔に使用方法を説明してくれ」


「えー、がんばって覚えてきたのにー」


 むくれるフィード。おれの精神を削ってそんなに楽しいかこいつは。


「わたしもききたかった……」


 マオ、お前もか。

 俺の味方はいないのか……?


「これはですね、こう脚を伸ばして広げて……と、まずマグナイトクリスタルに光の魔力を充填します。ではカイン様、おねがいします」


「この時点で俺しか使えないということがわかった」


 今いる面子で光属性が使えるのは俺だけだもんな。人の仕事を増やしてきやがった。


「こんなもんかな?入れ終わったぞ」


「ありがとうございます。それでですね、このプレートに結界の魔術紋を描きます。それでこれを上部にはめ込んで押し込むと……」


 ガチッという音と共に光の結界が広がる。規模は少し大きめのテントくらいか?


「なるほど。魔力が切れるまで結界が維持される仕組みか」


 もしかしてこれの仕組みとして魔術紋の種類を変えたら別のことができるんじゃないか?何かの研究の流用でできていそうだ。


「移動するときにはたたんで持ち運べとのことです。後、壊したら代金はカイン様に直接請求されるそうです」


「なん……だと?」


 この規模のマグナイト鉱石を使った装置なんか個人で弁償できるわけがない。俺は名誉はあっても金はない。

 期せずして全員の命の次に大切なものができてしまった。なんとしても守らねば……!


「そんな感じです。では片付けますねー」


 ガシャ、と適当にカバンに放り込むフィーさん。


「お、お前!それがいくらするかわかってるのか!?」


「え?カイン様英雄なんだからこれくらいの出費痛くもかゆくもないですよね?」


「何で払うことが確定してるんだよ!それに俺はそんなに持ってない!」


「そうなんですか……。なんか聞いちゃってごめんなさい」


 すまなさそうに謝りつつ目をそらすフィードさん。やめろ。


「それにこれから命を預ける道具を適当に扱うな。全員の命がかかってるんだぞ」


 あと俺の財布もな。


「う、すみません。調子に乗りすぎました」


「本当にしっかりしてくれよ?今回はかなり難しい相手だからな」


 できれば昔のメンツがほしい。特にハウレスとか、魔人に詳しかったしな。

 昔を懐かしみつつ、全員で装備を整える。


「それで、装備についてはわかったから、お前以外の人員を紹介してくれ」


 そうフィードに尋ねると、彼女はきょとんとした顔を浮かべている。


「どうした?これだけいろいろ装備をよこしたんだから他にもいるだろ?」


 そのとき、カバンの中身を思い出し嫌な予感がした。そういえばフィードが持ってきたものは拠点用の装置が1つにマスクが4つだったような気がする……。

 まさかこれは――


「なにいってるんですかカイン様。今回支援でよこされたのは私一人ですよ?」


 なんてことだ……!城の連中わかってないどころか、負傷者をよこしてきやがった!

 いや、フィードは無理やり交代してきたわけだから、負傷者をよこすつもりはなかったんだったか。しかし、結局一人の追加で何とかなると思っていたのか……。


「なんです?戦力に不満があるんですか?大丈夫です、私が居れば問題なしです!なんてったって万能のフィードちゃんですから!」


 初めて聞いたよその二つ名。少し前、胴体に風穴開けられていたやつの台詞とは思えませんね。


「ソウデスネ、トテモタヨリニナリマスネ」


「なんですかその棒読み!せっかくこんな重い物担いでここまで来たのに、あんまりです!」


「よーし、何を言っていても始まらないな。では、只今をもってロータスの調査を開始する。わからないことだらけの戦いになる、できるだけ固まって動くぞ」


「無視しないでください!」


 フィードをいじりつつ準備を整え、ロータスに向けて出発する。

 こんな状況でも逃げることができないのは、あの頃と一番違うところだなとしみじみ感じた。


 そして四人は町へ向けて歩みを進める。

 この町でカインを待つ、残酷な過去と強大な未来も知らないまま。

到着したロータスの町はひどいことになっていました。

そしてリベリアは一生人手不足です。

あいうぉんちゅー

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