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ヒーロー×ブレイブ~世界を救った英雄は静かに暮らしたい~  作者: 橋藤 竜悟
第一章:帝国編 第一部二節 盗賊の山
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20 不可解な魔物

「な、なんだ!?」


 地響きは次第に大きくなっていく。それと同時に、崩れた洞窟の魔力が一層強くなった。

 次の瞬間、突然崩れた瓦礫が盛り上がる。


「何が起こってるんですか……?」


 ジンがマオをかばうように盾を構える。

 すると、それまで膨れ上がっていた魔力が止まり、一箇所に集まった。


「……来るぞ!」


 叫ぶと同時に、岩と瓦礫の塊がカインへ叩きつけられる。

 それをすんでの所で回避し、瓦礫だったものを睨む。


 目の前で瓦礫や岩、森の木々が寄せ集まっていく。それが徐々に形を成していくと、10mを超える瓦礫の人形が立ち上がった。


「何でこんなところにゴーレムがいるんだよ……!」


「わかりませんけど、これって今出てきたんですか!?」


 ジンがその大きさに圧倒され顔を引きつらせている。

 そのとき、ゴーレムがおもむろに腕を振り上げこちらへ叩きつけてきた。


「さあな、地面にでも潜ってたんだろっと、危ねえ!――火よ!」


 それをこともなげに避けるとすかさず火魔法を詠唱し、叩きつけられた腕にあたるであろう部分を焼く。


「まあゴーレムは火の魔法に弱いからな、さっさと燃やしきっちまうに限る」


 腕を破壊し、動きが遅れたゴーレムに駆け寄ろうと踏み込んだ。その瞬間、破壊したと思っていた腕が横殴りにカインを襲う。


「うおっ!?なんで崩れてないんだ!!?」


 そんな馬鹿なことがあるか、ゴーレムは植物系魔物の核が岩や地面に根を張りそれを操る魔物だ。

 岩や地面を纏うため物理的に切り崩すことが難しく、その装甲ともいうべき体は根で操ってるため、火魔法で簡単に焼ききれ無力化できる。

 そのまま核を焼くか岩の鎧から露出させたところを物理的に叩くのが定石だ。

 なのに何故、このゴーレムは火を浴びてビクともしないんだ!?


 ゴーレムの腕を咄嗟に剣で受けるが、勢いを殺しきることはできず横方向に飛ばされる。

 なんとか着地することはできたが、弱点をついた攻撃で破壊できない理由がわからないでいた。


「自分が援護しますので、英雄様はその隙に取り付いてください!――風よ、我敵を切り裂け!」


 ジンが風魔法を詠唱すると、刃になった一陣の風がゴーレムの片足をえぐった。

 その衝撃でゴーレムは少しバランスを崩し、振り回していた片手を一度戻す。


「助かる!」


 その隙にゴーレムの懐に飛び込むと、それを狙ったようにゴーレムが足を上げる。どうやらこちらを踏み潰すつもりのようだ。


「風で崩す分には決まるな、ならこれでどうだ。――嵐よ、我敵をその身で散らせ!」


 魔法を詠唱すると、迫る巨大な瓦礫の足が巻き上がる風の刃により粉砕される。

 押し付ける足がなくなったゴーレムは、バランスを崩し風の勢いのまま後ろに倒れ伏した。


「よし、ゴーレムは再生が遅い!今のうちに胴体を削って核を破壊するぞ!」


 ジンもここぞとばかりに駆け寄ってくる。

 勢いよく倒れたゴーレムの上に飛び乗ると、体の中心部分に魔法を打ち込むため詠唱する。


「――嵐よ、我敵をその身でッ、なんだと!?」


 二人で乗り込み、胴体で魔法を詠唱している途中でゴーレムが起き上がり始める。

 あまりにも再生が早すぎる。これではまるで――


「グッ!!?」


 ゴーレムが立ち上がり、呪文詠唱の途中でバランスを崩した瞬間、ゴーレムの腕につかまれてしまった。

 このままではまずい。ゴーレムは確実に俺を圧死させるべく握りつぶしてくる。

 この状態では風魔法で破壊しようにも自分も無事ではすまない。


 こんなところで死んでいては英雄が笑い話になってしまう。それだけはなんとしてでも避けなければならない……!

 火魔法は効かない、破壊した足がすぐさま再生される、だが形状はゴーレムそのもの。

 この時点で考えられることで可能性が高いのは一つ。だがそれは絶対にありえないことだ。今まで見たこともなければ、過去の文献などでも聞いたことがない。

 だが、このまま殺されるくらいなら試してみるしかない。


「くそっ、頼むからそうであってくれ……!――水よ!」


 魔力を込め、水の魔法で自分の周りに水流を作る。そのままゴーレムの手を水流で削ると、いとも簡単に手は崩れカインは空中に放り出された。

 よし、予想どおりだ。だがどうして()()()がこんな山奥に出てくるかがわからない。


「英雄様!大丈夫ですか!?」


 ジンがすかさず駆け寄ってくる。それに対して手で応じた後、歪んでしまった鎧をはずす。


「ああ、心配かけてすまん」


「それはいいのですが、どうやってあの状態から腕を崩したんですか?」


 ゴーレムはその崩れた手を再生できていないようだ。


「それだが、アイツはゴーレムだがゴーレムじゃない」


「え、どいうことですか?」


「アイツは東のスタージア砂漠で出てくる『サンドゴーレム』だ」


 通常のゴーレムが根で岩や土を操り形を成すように、サンドゴーレムもまた同じように自身の蔦を伸ばし砂の塊を操る。

 だが砂は土や岩と違ってまとまりがない。そのため、サンドゴーレムはまず地中で粘液を分泌し、周囲の砂を固めることから始める。

 それを繰り返し一定の大きさを超えたところで地中から顔を出し攻撃してくるといった魔物だ。


 この2つの魔物を対処するうえで最大の違いは、ゴーレムは火に弱いが、サンドゴーレムは粘液で守られているため火が殆ど効かない点だ。

 物理的に破壊しても、粘液を使いすぐ再生してしまうので魔法を使えない者にとっては天敵ともなりえる。

 だが、粘液で砂を固着させているため水に弱く、粘液が洗い流され形を保てなくなる性質がある。

 生息域は砂漠や砂浜など材料である砂が大量に確保できる場所にしかいない。なのでこんな山奥には間違っても出現しない魔物なのである。


「なんでそんな魔物がこんなところに!?」


「それは俺も教えてほしいよ!」


 鎧を脱ぎ捨てたおかげで身軽になった。これで万が一にもまた下手を打つことはないだろう。ゴーレムに鎧なんて意味を成さないしな。


「しかし、このサイズだと今の俺の魔力じゃかなりきついぞ」


 カインはここまで連戦を重ねてきて、魔力も消耗してしまっている。

 下手に使いすぎると魔力枯渇に陥り、意識を失い死に至る。


「自分も水魔法は使えませんし……、マオさえ起きてくれれば何とかなるかもしれませんが」


 ジンが横目で遠くで横たわっているマオを確認している。


「それしかないか。ジン、俺が魔物をひきつけている間に何とかマオを起こしてくれ」


「ええ?でも自分は光魔法なども使えませんよ?」


 俺が光魔法を使えるからマオを起こしやすいだろうが、水魔法の使えないジンにあのサイズのゴーレムを任せることはできない。

 マオには悪いが、無理やり起きてもらうしかない。


「何でもいいから叩き起こすんだよ!頼んだぞ!」


 サンドゴーレムがこちらへゆっくりと動き始めた。まだ崩れた手は再生していないがそれで止まるほど簡単な作りではない。

 それを確認し、カインはすぐさまサンドゴーレムに駆け寄った。突然無茶な要求をされたジンは後ろでおろおろしているようだが、かまってはいられない。

 俺が使える魔法は中級だとあと2、3回ほど、下級ならまだ余裕があるが、そう連発はしていられない。


「――海嘯よ、我敵を覆い流せ!」


 カインが魔法を詠唱すると、空から強い勢いで水流が出現し、サンドゴーレムの足を削り崩す。

 サンドゴーレムはよろけながらも、カインに向け腕を振り上げ倒れながら押しつぶすべくなだれ込んで来た。


「――風よ」


 すかさず風魔法を使い、上空へ逃げる。そのまま真下に見えるサンドゴーレムの胴体に向け水魔法を詠唱する。


「これで最後か……!――海嘯よ、我敵を覆い流せ!」


 先ほどと同じ水流が宙に現れると、そのままサンドゴーレムへ向け殺到する。だが、その魔法は胴体を貫くことはなく、先程削った腕を回しすんでのところで防がれてしまった。代わりに、防御した腕が完全に崩れ落ちる。


「くそっ、覚えられたか!」


 そのままサンドゴーレムの背後へ着地する。魔力の低下からくる眩暈をこらえ、何とか直地を踏みとどまった。

 これ以上魔力を消費しすぎるとまずい。俺の意識が持たない……!


「数年前はもう少しがんばれたんだがな……」


 一人ぼやくがそれを言って何とかなるわけではなく、あがる息を整えながら魔物を見据える。

 サンドゴーレムは片足と片腕が崩れなくなっているが、それでも起き上がろうと体を持ち上げていた。

 どうやら残った腕を足の代わりにしながら、こちらを踏み潰そうと身をよじってきていた。


 あとは下級魔法で翻弄するのみ、他に選択肢はない。


「英雄様!!」


 そのとき、ジンの声が聞こえた。

 見ると、マオが半身を起こし、身に付けている魔装具が明るく励起しているのが見えた。


「ゴーレムを寝かせてください!」


 ジンがそう叫びながらこちらへ走り込んでくる。

 なるほど、マオの調子と状況を考えるとそれしかないか。


「頼むぞジン、マオ!――海嘯よ、我敵を覆い流せ!」


 3度目、カインが唱えた魔法はサンドゴーレムの残った足を貫く。

 目の前がかすむ、足に力が入らなくなる。

 周囲が暗くなる、どうやらゴーレムが倒れてきているようだ。だが、魔力が限界でとっさに動くことができなかった。


「――風よ、我を運ぶ道となれ!」

「――玄武よ、その身で地を覆い、邪を貫く槍となれ!!」


 詠唱が聞こえた瞬間、俺は横から突き飛ばされる。

 そのとき、目の前で魔力から生じた水が地面でうねると、倒れ伏そうとするサンドゴーレムの中心を貫くように氷の塔が形成された。

 さながら渦を巻く槍のようなソレは、ちょうどゴーレムの核を貫き、粉砕する。


 風魔法で俺をとばしてくれたジンが、こちらに駆け寄り笑う。


「何とか間に合いました!それと、あとでマオに怒られるかもしれませんが、そのときは一緒にお願いします」


「……お前、何やったんだよ」


 ジンが起き上がるのに手を貸してくれる。


「それと、助けてくれてありがとう。まじめに危なかったよ」


「いえいえ、これくらい英雄様の働きと比べたらなんでもないですよ」


 爽やかに笑うジンを見て、以前感じていた仲間としての不安がもうないことに気付く。

 あの時も、こんな感じだったか。


「なんだ?俺を口説こうとしてるのか?」


「え、そんなつもりは……!いや、でもそう思ってくれたのなら光栄ですが」


「止めろ、俺にその気はない」


「ええ?英雄様から振ったんですよ」


 そんな馬鹿みたいな冗談をいいつつ、ジンの肩を借りて地面にへばるマオの元へ歩く。

 戦いは予想もしない方向へ転がったが、何とか今回も命をつなげることができた。

突然の出現でした。

この世界にも魔物はいて、人に対してとても獰猛です。

生息域もしっかり決まっているのですが、今回はそこから外れた存在が出ました。

カインはいったい何に巻き込まれているのでしょうか……?

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