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ヒーロー×ブレイブ~世界を救った英雄は静かに暮らしたい~  作者: 橋藤 竜悟
第一章:帝国編 第一部一節 帝国の勇者
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01 続きの始まり

準備ができたのでこちらも投降を開始します!

ヒーロー×ブレイブ~前世で病弱コミュ障だった僕が、異世界で英雄と共に世界を救うまで~

で登場している英雄視点での話です。

 世界は残酷で容赦がない。

 都合のいい救いや、夢見るようなわかりやすい幸せなどはどこにもなく。

 見渡してみれば、差別、飢餓、病、暴力や災害、わかり易くこの世界は死で溢れている。

 だから故郷が滅びようと、肉親がすべて殺されようと、この世界ではよくあることだ。

 同情も誘えなければ、手すら差し伸べられない。そんなありふれた現実。


 だからこそ俺は、その現実に立ち向かうしかなかった。このまますべてを受け入れて、あの“死”をなかったことになんてできなかった。

 必死に生きて、戦っているうちにいつの間にか「英雄」と呼ばれ、隣を歩く仲間ができた。

 こんな俺でも、終わりかけた運命でも守れるものはある、誰も手を差し伸べないなら自分こそがそうなるべきだと考えた。


 そして俺の世界は平穏を手に入れることができた。

 かつての仲間たちもそれぞれの道を歩み、分かれていった。

 俺も故郷を建て直し、ようやく家族の墓も作ることができた。このままこの国、リベリア王国を守りながら静かに過ごすことを誓う。

 空は青く澄みわたり、さえぎるように焦げ付いたあの黒煙はどこにも見当たらなくなっている。

 取りこぼしたものと、繋ぎ止めれたもの、世界は残酷で容赦はないが、寛容にもできていた。




 その空が、燃えるように赤く染まっている。

 ここはリベリア王国内、首都近郊の丘近くにある駐屯地。


 俺の目前には多くの兵たちが倒れ伏している。

 しばらくの間、目の前の光景を理解する事が出来なかった。


 倒れた兵士が呻き声を上げている、どうやらほとんどの者が生きているようだ。

 少なくとも自分が確認できる範囲では、だが……。


「おい、返事はできるか?何があった?」


 近くに倒れている兵士の上体を起こし、話しかけた。


「ぐっあなたは、カイン様ッ……!」


「この状況はどうしたっていうんだ?」


「わかりません、見たことのない魔法で、一瞬のうちに移動して……」


 見たことがないとはどういうことだ?ただ魔法で攻撃されたことはわかった。


「相手の規模は?」


「……一人です」


「なんだと?」


 そんな馬鹿な、魔人族でも現れたとでも言うのか?


「ヒッ!あ、あいつですッ!」


「あいつ?」


 兵士は震える指先で丘を指さした。

 その先を追うと丘の上に一人の子供が立っていた。

 こんなところに……?彼が指差してるのはホントにあの子供なのか?

 ……確かめるしかないか。


「わかった、あとは俺に任せろ」


 兵士を静かに寝かせ、丘の上にいる子供と相対した。


 ここには1小隊が駐屯していたはずだ。その規模の兵力を子供がたった一人で制圧した?そんな馬鹿な……。

 こんな場所にこのタイミングで子供が一人でいるわけがないという思考が張り付く。

 太陽が彼の背に差し掛かり表情を伺うことはできない、そしてこちらを遠巻きに眺めている彼から、殺気や闘志は感じない。

 自然と、俺は声を漏らした。


「お前は一体……?」


 奇しくもここで2つの世界が出会う。その一つが魔王を撃ち滅ぼし、世界に平和をもたらした英雄「カイン・リジル」である。

 どのようにしてこの後にも先にも類の無い運命が決定付けられたのか。

 それは数刻前に遡る。




 ****




 16年前、魔王が少数民族である魔人族を率い世界を蹂躙した。

 少なくない国が滅び、残された人々は力を集めその侵攻に抗った。

 そして数年に跨ぐ長い戦いの後、カイン達“英雄”と呼ばれる者達が魔王を打ち滅ぼすことに成功する。

 魔人族の多くは社会から追われたが、その受け皿となった国々もまた存在し、世界は何とか平穏を取り戻し始めていた。


 しかし、大陸最大の国家であるジグレイ帝国がこの機とばかりに国土を広げようと侵略を開始。

 周辺諸国は復興にあわせて帝国の侵略を食い止めなければならなくなり、続けざまに極度の緊張状態へと陥った。

 時期にして春が過ぎ、夏に差し掛かる風前月のことだった。


「報告します!」


 伝令が息を切らせた様子で勢いよくリベリア共和国首都王城にある大議事堂に飛び込んできた。


「何だ!今は会議中だぞ!」


 議長が声を荒げるも伝令はそれに怯まず続ける。


「申し訳ございません!火急の用なのでこのまま失礼します!ジグレイ帝国が我が国の領内へ侵入、聖都との国境であるマイト砦へ攻撃を行った模様です!」


「ついにこちらにまで噛み付いてきたか……!被害状況はどうなっている!それに聖都はなんと」


「現在防衛部隊で防衛しているも敗色濃厚、聖都は音沙汰がなく……」


「馬鹿な、帝国との間には聖都があるはず、寝返ったとでも言うのか……」


 リベリアとジグレイの間にある聖都シーディア、女神信仰を中核とする世界最大の宗教国家である。

 この国は中立を保っており、聖都が保有する神聖騎士団は魔王軍討伐の際にも大きな功績を残しているほど、世界でも有数の戦力を誇っている強国だ。

 その聖都を抜けて帝国が進入してくるなど到底考えられないことだった。


「中立国である聖都が帝国の侵入を許すはずはない!敵はどこから来たというのだ!」


「そ、それがっ、聖都方面から直進してきているとの報告が……」


「そんな馬鹿なことが……!それで、敵はどうなっている!?」


「砦で我軍が奮闘しているので未だ突破されてはいません、ですがいつまでもつか……。一部少数の兵が砦を突破し領内へ侵入したと遠見から報告もあがっております。それと、これを聞いた第一王子様の近衛隊が先駆けて砦へ向かわれてしまい……」


 静かだった議事堂内は降って湧いた帝国の侵攻に混乱している。

 それほど聖都という壁は厚く、信頼していたという証でもあるが……。

 聖都が秘密裏に条約を結んでいたと考えるのが妥当であろう。だが、それをするメリットが誰にも考え付かなかった。


 この状態で話し合いすらでないのは状況が悪くなる一方だ。


「カイン様、どういたしますか?」


 カインの秘書でありダークエルフ族であるフィードが耳打ちをしてきた。

 彼女とは英雄になってからの付き合いで、ある事件を境に何かと面倒を見ている。


「そうだな……伝令兵、国境警備部隊はどうした?」


「英雄殿、それが……聖都方面の部隊とは連絡がついておりません」


 警備部隊は連絡が取れない?そんなことがこの状況でありえるのか?


「将軍殿。現状、すぐに動かせる兵はどれだけいますか?」


 会議に集まっていた将軍へたずねる。


「近くの駐屯地からなら動かせるが、それ以外だと……」


「わかりました、では近場の兵を砦近辺へ派遣してください。少しでも領内への侵略を防ぎましょう。あと、ここから砦への主要街道確保に俺も出ます」


「そうだな、わかった。よろしく頼むぞカイン殿。近衛兵隊の一部を王城周辺地域の捜索に回し、辺境駐屯部隊に伝令、聖都国境周辺の警戒と敵兵捜索を行え」


「そんな!カイン様が出るほどの事では!」


 フィードが慌てた様子で口をはさんできた。


「聖都から連絡が無いことが気になる。それにいくら帝国とはいえ少数部隊で国境の砦を抜けられるとは思えん、なにかあるはずだ」


「でも……」


「それにこちらもすぐに動ける人員が少ない、なら早く到着して対応できる奴が出たほうがいい」


 納得していない様子でもごもご言っているフィードを諭し、伝令兵に向き直った。


「悪いが君は司令部へ向かってくれ、近衛隊なら通信紋を持っているだろ、それを手配するよう申請してきてくれ。俺が呼び掛けて城へ戻させる。議長には装備と部隊の再編、現状確認を優先で会議の進行をお願いします。フィーは聖都側周辺集落の避難誘導と、俺の馬の準備を頼む」


「あ、あぁわかった。英雄殿の方も無理をなさるな。この状況は理解に苦しむ」


 議長は平静を取り戻しつつ頷き、各方面に指示を飛ばし始めた。


「わかりましたが、カイン様もお気をつけて……」


「俺も装備を整えたらすぐに出る」


 カインはそう伝え、早足に議事堂を出る。

 外には待ち構えていたように幼馴染の『ジェイド・ルード』が立っていた。

 彼はリベリアで小隊を任されている指揮官で、俺の幼少期からの悪友でもある。


「よう英雄殿。そんなに急いで何があったんだ?」


「帝国がついにこちらまで来た。その尖兵がすでに入り込んでいるらしくてな、すぐ動ける俺が様子を見に行くところだ」


「やっこさんついにきたのか!これは大変なことになってきたな……。俺のほうも招集かけとくよ」


 彼の気さくさと、状況判断には今までも何度か助けられてきた。今回はできればそうならないことを祈るしかない。


「よろしく頼む、もし俺が間に合わなかったらお前を頼ることになるからな。できるだけ早く整えて城下で待機しておいてくれ」


 ジェイドの背中へ声をかけると、彼はそのまま片手を挙げて答える。


「了解ですよ。万が一は俺に任せてくれや」


「頼りにしてるぞ!」


 会話もそこそこに別れ、準備を整えてから先行部隊を確認するため司令部へ通信紋をもらいに行く。

 通信紋とは、対応した紋を持っているもの同士で離れたところでも会話ができるという魔術だ。

 ただこれは使い捨てでもあるので、緊急時にしか使えないものでもある。


「失礼する、カイン・リジルだ。話はあったと思うが、第一王子の近衛で先ほど出発した隊の通信紋をもらいに来たんだが……」


 司令部に入ると、そこはまさしく戦場のように怒号と行きかう職員でごった返していた。


「あ、カイン様ですね!話は聞いています、こっちです!」


 俺に気付いたのか、奥のほうで獣人の職員が跳ねながら手を振っている。

 人込みをかき分け、何とかその場所にたどり着くと、真新しい通信紋が準備されていた。


「すみません、何分突然なことだらけでこちらも混乱していて、上から下からいろんな声が届きますしてんやわんやで」


「いきなり戦争が始まったみたいなものだからな、仕方ないさ。それで、これがその近衛隊の?」


 俺が通信紋を指さすと、獣人の職員は大きくうなずいた。


「そうです、魔道研が準備して何故か離宮へ持って行ってるところで代わりに届けるとか言ってもらってきました」


「えっ、そんなことしていいのか?離宮ってどう考えてもまずいだろ」


 離宮はリベリア王族が生活に使っている区域だ。そこのものを横流しするのは処罰どころではない。


「大丈夫です。今はこの状況ですし、それに王族といえど司令部を飛び越えた部隊運用と無断で通信紋の申請は立派な越権行為ですから。文句は言わせません。何より私が“英雄”カイン様のお役に立ちたいですから!」


「お、おう、ありがとうな」


「いえいえ、これくらい朝飯前です!また何かあったら気軽に頼んでください、司令部一同誠心誠意対応しますから!」


 城内にはそこそこ「英雄カイン」のファンはいるが、ここまで熱烈なのは久しぶりだ。お願いだから自愛してほしい。

 通信紋をもらい、司令部を出て厩舎に向かう。

 準備をしながら、さっそく通信紋を起動し、呼びかけた。


「おい、聞こえるか?今どこにいる。こちら、カイン・リジル。聞こえるなら何か応答を」


 しかし、向こうからの反応はない。砦にはまだたどり着かないはずだ。すでに入り込んだという帝国兵と交戦しているのか?


「おい、誰かいないのか?応答してくれ!」


『――あ、あの、えっと』


 すると、遅れて遠慮がちに声が聞こえてきた。

 かなり若い声だ、普通通信紋はその隊の責任者、隊長が所持する。それをこんなに若い兵が使っているのなら、やはり何かがあったとみるべきだろう。


「ん?生きてるやつがいたか!どこにいる?周りには何が見える?お前たちは知らないだろうが、砦は既に落とされてる!動けないようなら俺が行くが……おい、大丈夫か?」


 こちらが話している間も、向こうからは反応はない。なんだ、息をひそめて隠れているのか?


『――は、はい!大丈夫です』


 やはり遅れて、若い兵士は答えた。しかし、様子がおかしい。何か逡巡するような、考えるような間があるような気がする。


『――今、砦に向かう道の途中にいるんですけど……何処に向かえばいいんですか?』


 彼から続けざまに反応があった。俺の考えすぎか?


「なるほど、道にいるなら話は早い。動けるようなら砦に向かわず駐屯地まで来い。交差点に設営してるから、道に沿うだけで辿り着くはずだ」


『――英雄さんもそこにいるんですか?』


 俺も今から向かうところだ、馬を飛ばせばおそらく先に到着するだろう。


「あぁ、だから安心して――」


 なんだ?今の会話、何か違和感が……。


「待て、英雄“さん”だと……くそっ!」


 瞬時に通信紋をかき消す。まずい、あれは近衛兵ではない、敵だ。

 リベリア軍で、俺に『英雄さん』と呼ぶ者はいない。くそっ、確認を怠った俺のミスだ……!


 このままでは駐屯地もまずい、今からとばして間に合ってくれればいいが。

 すぐさま馬にまたがり、最速で走らせ駐屯地へ向かう。

 そう、あの悪夢のような戦場に――。

一部説明のない単語や名称がありますが、わかりにくいようならば別途補足、説明をしていきます。

気軽にコメントください。


この作品は30話あたりまで毎日更新予定です。

以降は勇者側と同じく週一更新を予定しておりますのでよろしくお願いします。


もう1本と合わせて、どうぞお楽しみください!

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