17 情報収集
広場に戻り、ジンが抑えてくれていた下っ端盗賊に話を聞くことにする。
下っ端は観念したように縛られ転がっていた。
「おい、生きてるか?」
声をかけるとジロリとこちらをねめつけてくる。
「元気そうで何よりだ、お前以外のやつはこのとおり理由があって皆喋れないから、お前に俺たちの協力を求めたいんだが……その気があるか?」
「そんなこと聞くまでもないに決まってるだろうが、お前馬鹿か?」
どうやら悪態をつく程度には元気もあるらしい。上出来だ。
「OK、なら話が早い。お前が協力してくれないならこちらもこちらのやり方で聞き出させてもらう。まずはこれは何だ?」
ジンに下っ端の目の前に袈裟切りにした盗賊の死体を投げ捨ててもらう、下っ端が息を呑む音が聞こえた。
「まあ見てわかるよな、この山の肥料だ。じゃあこれは?」
リーダー風の盗賊が持っていた短剣型の魔装具を目の前に突き立てる。
下っ端はヒッと小さく声を漏らす。
「お前を見捨てて逃げたやつが持ってたんだがわかるか?そいつから聞こうにも、もう喋れないんだ。代わりに答えてくれるか?」
嘘ではない。気を失っているだけではあるが、そいつが起きるのをこちらが待っている余裕もないしな。
「わ、わかった、話す!話すから殺さないでくれ!」
「そうか、ありがとう。協力する気になってくれて感謝するよ。それじゃはじめに、お前たちの人数は?」
作り笑顔で話を進める。さっさとしないとまた面倒なのが増えそうだ。
「か、頭がいい話しがあるってこの辺の盗賊をまとめたんだ!おれはまだ何もしてない、もともとコソ泥だったんだ!人も殺しちゃ」
「……だまって、しつもんにこたえて」
マオが話に割って入り、盗賊を上から見下ろすように睨み付けている。
「ヒッ、31人だ!おれたちも含めて、全部で31人だ!!」
どうやら村人が見た奴等で全員らしい。全員で村に乗り込んで蹂躙する。わかりやすく屈服させるには効果的だが、そこに留まるならあまり賢いとはいえない。
「そうか、じゃあコレと同じものをいくつ持ってる?」
地面に刺した魔装具を示しながら言う。
「わからねえ、嘘じゃねえ!ホントにわからないんだ!おれが見たのはゲイラが持ってたその一本と頭が持ってるサーベルの一本だけだ!」
あのリーダー風の男はゲイラって名前か。
「他の心当たりは?」
「……たぶん副団長は一つずつ持ってると思う、ゲイラの馬鹿が持ってたんだ!きっとそうさ!」
どうやらコレの持ち主のゲイラさんは部下からの信用がまるでなかったらしい。まぁあんなことしちゃう下衆だもんなぁ。
わかってはいたがあいつが頭ではないんだな。それだったら話が早かったんだが、そう上手くはいかない。
「なるほど、ではその副団長とやらは全部で何人いるんだ?」
「ゲイラ含めて3人だ、全員別のごろつき集団のリーダーだったやつらだ……」
ということは、最低でも残り3つの魔装具があることを視野に入れなければならなくなる。
先ほどのものはお粗末な出来だったが、全てが全て同じだとするのはあまりに楽天的だろう。
普通に考えてリーダーの持っているものは一番いいものだろうが、他のものがあの底辺レベルの魔装具だとは考えにくい。
魔装具はそれ一つで兵の戦術価値を大きく引き上げる装備だ。大きく見ておいて損はない。
「では最後に、お前たちのアジトはどこだ?」
「ホ、ホントに助けてくれるんですよね……?」
「それはお前の誠意次第だ」
地面に刺した魔装具を引き抜き、その腹で軽く顔を叩いてやる。
「上です!このまま山道を登っていった先にある洞窟がアジトです!」
「ありがとう、君の協力のおかげで俺たちも助かったよ」
脅しただけであきれるほど簡単に下っ端は情報を話してくれた。
まだ怪我すらさせていないのに簡単にしゃべりすぎて、罠を疑いたくなる気持ちもある。それほど忠誠も仲間意識もないということだろうが。
ジンとマオに目配せをすると二人ともなんともいえないと言った表情やしぐさで返してきた。
「あの……そろそろお暇させてほしいんでこの縄を解いてくれませんかね……?」
下っ端が恐る恐る聞いてくる。
「あー、そのことだが君ははじめに協力してくれなかった。だからあんまり信用できないんだ」
「そんな!助けてくれるって言ったじゃないか!」
「残念ながら一言もそんなことは言ってない。だがさすがにこちらとしても協力してくれた人間を殺すことは忍びない。だから――」
「――水よ、其を凍らせよ」
マオが魔法を発動させると盗賊の指に霜が浮かび始めた。
指だけとはいえ完全に凍らせるとなると結構な魔力を使うはずなんだが……。
「……いまからじんもんする」
あ、凍らせるところは脅しでも何でもないんすね……。
尋問する流れではあったがそんな勢いよく割り込んでこなくても……いったい何がマオを駆り立てているんだ。
「い、いったいなにを……?」
いきなり指を凍らされた盗賊は恐怖と困惑を混ぜたような表情でマオを見る。
「……おまえがあやしいことをすれば……こうなる」
そう言ってマオは懐から魔装具調整用の小槌を取り出し、凍らせた盗賊の指に叩きつけた。
「……わかった?」
マオが可愛らしく首をかしげながら盗賊に問いかける。
「な、なんで……!?」
盗賊は声を震わせながら砕け散った自分の指を見る。
それは全く痛くない。
それが盗賊にとってはあまりにも不気味で、ともすればもっと大変な事が自分の身に起きているのではないかと想像を働かせてしまうのも無理がない話だった。
混乱の最中にある盗賊を見て、マオは満足そうに微笑む。
「……いたくないからいっぱいたえられるよね?」
盗賊はまるで化け物にでもあったかのように怯えた顔をしていた。
「命は絶対にとるなよ、あとギリギリ生活できる程度にな」
さっきから怖いマオさんに注意だけしておく。あまり暴走されてもこちらの指揮能力にかかわる。主に俺の。
「……わかってる」
俺はそのままマオにまかせ、ジンと二人で遺体の処理と気絶した盗賊を無力化する作業を行う。
「ジン、さっき言ってたのはこういうことか?」
「ええ、そのとおりです。実際にああなってしまったらほとんど誰の言うことも聞きませんから、寮ではいつもロザリー先生にとめてもらっていましたよ」
「さすがに誰かが何とかしようとしなかったのか……?」
「マオは魔法適正が自分たちの代ではトップクラスだったので、そんなことができる人間がいなかったんですよ。それに、自分はマオが英雄様のいうことを素直に聞くほうに驚いていますけどね」
そこまでなのか……何故マオが俺の言うことは聞いてくれるのかわからないが、行動に支障はないので追求するのはやめておく。ナニカコワイ。
マオの尋問は普通に拷問の域だったが、相手が気絶するくらいで止めてくれた。
どうやら下っ端が言っていたことに間違いはないらしい。
「ひかりまほうがつかえたらよかった……」
「やめてやれ。とりあえず聞きたいことは聞けたし、時間も限られている。迅速に行動しよう」
こちらもそこまで時間がかけられないので最低限ではあるが、ほとんど何もわからない現状から大きく状況が進んだといえるだろう。
「盗賊団は村で5人、この広場で6人、その後合流してきた5人で全部で16人減らしていますね。恐らく残りはアジトに集結してるのではないでしょうか」
ジンが手早く報告してくれる。もしかしたらジンは副官にこそ向いているのかもしれない。
エルフとのギャップが強いほどの筋肉頼りな面もあるが、そこからも兵卒としての優秀さと、フォローなどから補佐としての優秀さが両方伺える。
さすが遊撃隊選抜に残っただけはある。
「ちょうど半数か。残りがここに駆けつけてこない以上、もう何があったのかバレていると思ったほうがいいな」
「そうですね、相手が盗賊とはいえここからは少し慎重に行ったほうがいいかもしれません。マオも気をつけてくださいね」
「……いつもきをつけてる」
「派手な魔法は禁止ですからね」
マオはそっぽを向いている、いったい何に気をつけているというのか……。
「マオ、お願いだから頼むぞ」
「……わかった」
俺の言うことに渋々うなずくマオ。
先ほどジンが俺の言うことは聞くといっていたがどうやら本当らしい。なんでだ……。
「わかってくれたならこのまま山頂を目指して進むぞ。道中奇襲に注意しながら洞窟を目指す」
「わかりました。まかせてください!」
「りょうかい……」
どことなく不安は残るが、今それを話し合っている時間はあまりない。
相手は盗賊団という根無し草の集まりだ。あまり時間をかけて別の村に逃げられるリスクを考えるとできればこの一日でけりをつけてしまいたかった。
協調性や、個人の主義はこういった簡単な実戦でこそすり合わせて行きたいが、そう簡単なことでもないようだ。
だから隊長やリーダーなどといった上に立ってまとめる仕事はやりたくないのだ。冒険者時代、英雄になる前に俺は嫌というほど痛感したことの一つでもある。
そのまま山頂を目指して山を登っていくうちに2度ほど襲撃を受けたが、魔装具を持った盗賊は現れず難なく返り討ちにできた。
この時点で8人追加で減り、盗賊団は残り7人となった時点で山頂付近の洞窟にたどり着く。
時刻は夕暮れに差し掛かっており、この長い一日の終わりがゆっくりと迫っていた。
こんな尋問、耐えられないね!
まとまりのない集団で簡単に話は進みます。




