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ヒーロー×ブレイブ~世界を救った英雄は静かに暮らしたい~  作者: 橋藤 竜悟
第一章:帝国編 第一部一節 帝国の勇者
11/48

10 死

 後ろから聞き覚えのある声、嫌な予感が的中する。

 ユカリか……!


 振り返るとともに切りかかられる。

 何とか剣で受けきり、そのままはじき返すことでユカリとの距離をとる。


「何でこんなことをするんですか!」


 ユカリが激昂している。この状況のことを言っているのだろうか、それならばそのことがわからない時点でコイツはここに立っている資格はない。

 ……だから子供は嫌いだ。


「お前こそ何を言ってる?これが戦争だろ?」


 周囲を確認すると聖都のシスターと、一人の帝国騎士がいる。

 ユカリと戦うなら複数戦は避けたい、正直一対一の状況でも勝つとなると難しい相手だ。


「彼らは優しい人たちでした!みんな待ってる家族のために戦っていたんですよ!?」


「それはこちらも同じだよ。だから言ってるだろ?これは戦争なんだよ。理想論や平和ごっこしたいだけのガキは迷惑だから帰ってくれ」


「だからって……貴方なら簡単に制圧できるはずじゃないですか。殺す必要だってなかったはずです!」


 拳を握りしめながらユカリが叫ぶ。


「相手はこちらを殺しに来ているのに、俺はあいつらを助けろとでもいうのか?まあ、俺なら頑張ればできるかもしれない。すべて殺さずに無力化するくらいはな。しかし、それは生きているだけだ」


 俺だって理想が通るならそれを選択している。しかし現実はそういかない。


「この人数を俺が死なないように無力化するとなると足や手をつぶさないとならない。ショック死しない限り全員生き残るが、それは生きているだけでそれ以上じゃない。いや、そいつにとっては死ぬ以上に辛いことになるかもしれん。俺はそんな意味のないことはできないし、その命を救うことにより他の味方を危険にさらしたくない」


 その言葉にユカリは目を見開く。だが、何かを振り払うように頭を振った。


「でも生きていれば、できることもわかり合えることもあります……!」


「こちらの兵を砕いて回ったお前がそれを言うのか?これこそ意味のない、平行線だな」


 とりあえずのところ、なんとか会話で時間を延ばしているが状況はよくならない。

 このまま戦闘に突入して勝てるかどうかが未知数すぎる。

 フィードがそろそろ合流するはずなのだが……いったい何をしているんだ?


「やはりあなたは危険です!だからここで倒します!」


「そうかい、そっちも同じ気持ちで嬉しいよ」


 二人で睨み合う、武器を握る手に力が入る。

 早く来てくれフィード……。


「ラーファとホルトンさんは下がっててください!この人は僕が倒します!」


 ラーファと呼ばれたシスターと帝国兵を下がらせるユカリ、こちらとしてはありがたい。

 ラーファ、聖都、シスター……。どこかで聞き覚えがあるのだが、覚えていない。

 そしてそれを考えている余裕もないようだ。


「何を言うんですか!勇者様だけに任せるわけにはいきません!」


「そうです、あの方は曲がりなりにも英雄なのですよ!無茶はお止めください!」


 帝国兵とラーファがユカリに食下がる。


「僕はもう誰も傷ついて欲しくないんだ。だからお願い、ホルトンさんは僕の代わりにラーファを守ってて欲しい」


「……はぁ、わかりました。後方は私に任せて勇者様は全力で戦ってください」


「――天よ、この者に勝利を与え給わん。縁様、絶対に生きて帰ってきてくださいね……」


 あれもある意味青春なのか……?俺にもあんな時期はあったのか少し眩しく感じる、そして物理的にも眩しい。

 光の上級魔法での強化か、ただでさえよくわからん能力と身体性能しているというのに余計きついな。


「では、いきます!」


「いつでもどうぞ」


 おそらくあの能力には穴がある。そこを突けばこちらにも十分勝機はあるはずだ。


「――火よ、壁として姿をなせ!」


 剣を地面に突き立て、魔力を込める。

 するとユカリの目の前に炎の壁が立ちふさがった。


「無駄ですよ!」


 ユカリが炎に触れる瞬間、魔法が跡形もなく消える。

 その勢いのまま剣を振りかぶってきた。


「消してくるのはわかってるよ。――雷よ!」


「なッ!?」


 俺の手から出された雷魔法によりユカリが吹き飛ぶ。

 ほとんど魔力も込められていない弱いものだが、衝撃だけはあるので立て直すことができた。


「やっぱりな。お前のソレ、連続して使えないんだろ?」


 ユカリは炎は消せたが雷は消さなかったうえ、あたって吹き飛んだ後も戻らなかった。

 ということは連続で使えなかったか、あえて使わなかったことになる。


「くッ、だからどうしたというんです!」


「なんとか勝機はあるってことだよ!――風よ!」


 この反応なら前者だ、勝機は見えた。

 こちらから近づきつつ、弱い風魔法を3つに分けユカリに投げる。


 ユカリは律儀にそれを消してくる。


「お前、能力に頼りすぎじゃないのか?」


「ぐぅ!」


 俺は既に目の前だ、そのまま剣を振りぬくがユカリもすかさず剣で受け止める。


「素直すぎるぞ!――火よ!」


「ッ!?」


 目の前で炎が爆発する、ユカリは後ろへ飛びそれをかわしたが、その目前には既にカインの剣先が迫っていた。

 ユカリはすんでのところで剣を能力で戻したが――


「ありがとよ!」


 剣はユカリにより戻され、再びカインの手に戻っていた。

 ユカリが戻したのはカインのくりだした突きではなく、投擲された剣そのものだったのだ。


「そんなッ」


 カインは確実な手ごたえを感じていた、このまま振り切ればユカリを殺すことができる。

 しかし本当にそれでいいのか?敵とはいえ相手は平和が好きなただの子供だ。――その時、懐かしい笑顔が脳裏をよぎった。

 一瞬の逡巡が生まれる。


 くそっ、だがこれもリベリアの為だ。恨むなよ!


「危ないッ!」


 帝国兵の声が聞こえる。彼は一瞬の隙をついてユカリとの間に割って入ってきた。

 カインはそのまま剣を止めず振り抜く、嫌な手応えがあった。


「グゥ……!」


「え?」


 ユカリが驚愕する。ユカリをかばい、ラーファを守っていたはずの帝国兵が立ちふさがる。


「さ、させん!勇者様は我らの――」


「ちっ、邪魔だ!」


 最後の一撃をユカリにはずしてしまった。このまま時間を空けるのはまずい。

 即座に帝国兵を蹴り飛ばし、そのままユカリに切りかかるが、ユカリはそれを剣で受け止め、鍔迫り合いとなる。

 見た目からは想像できない膂力にこちらが押し返されかけている。


「ホルトンさん!どいてください、早くしないと、ホルトンさんが!」


 ユカリがこちらに叫んでくる。その表情は必死で、涙さえ浮かびそうだった。


「お前の能力の予想はついている、悪いがやらせるわけにはいかん。諦めろ」


 恐らくユカリはあの状態でもたちまち回復せしめるであろうことは容易に想像できた。

 だからこそ、焦りと混乱を引き出せた今だからこそこの戦いに勝つにはやりきらねばならない。


 ――だが、本当にそうなのか?あの頃、俺の守ろうとしていたものは何だったんだ?


 小さな疑問が立ち上る。その疑問は病のように広がり、俺の頭の中を蝕んだ。


「――リバージョン!」


 ユカリがとっさにあの技を使う。その瞬間、俺の視界は一瞬で数メートル離れ、ユカリに見つかった位置に戻された。

 ユカリは即座にホルトンと呼ばれた帝国兵に近づこうとしている。

 だが、この程度離されたくらいで隙ができると思われるのは心外だ。


 ――本当にそれでいいのか?


 また声がする。その言葉を振り払うように叫んだ。


「舐めるなよ!」


「ッ!?」


 ユカリの表情がまたもや驚愕に染まる。

 その表情から見るに、ユカリはもっと遠くへ俺をとばそうとしていたのだろう。


「どうやら移動させられる範囲にも制限があるようだが、この程度の距離なら問題はない!」


「せ、制限?」


 だが、そうはならなった。反応から、彼は自分の力をまだ十分に把握していないのか。


「ッ――どいて、どいてください!!!」


 必死に叫ぶユカリが何かを見るように視線を動かした。

 その視線の先、倒れこむ帝国兵に駆け寄るラーファの姿があった。


「縁様!こちらはわたくしにお任せください!」


 光魔法での延命か!

 このまま悪い方向へ進むと、帝国兵が復活して戦いが元の木阿弥になる。

 それだけは阻止しなければならない。


「させるか!――海嘯よ!」


 光魔法を使われる前に、ラーファへ向けて魔法を放つ。

 剣に魔力を込め増幅させ、氷の杭を形成する。


「光よ、其の衣で我が身を――あっ」


 見た目は小さいが、かわりに速度を上げた水魔法がその小さな体を貫いた。

 ラーファはその場で重なるように倒れ、その白い服に赤いしみが広がる。


 ――その光景があの時と重なる。焼け付く視界、鎧の男、力なく垂れ下がった腕からこぼれる赤い……。


 違う、ここは村じゃない。あれはもう10年以上昔のことだ。

 俺はアイツと同じじゃない……!


「あ、あぁ、あぁあ」


 ユカリのうめき声が聞こえる。

 これもあの時の自分に重なった。


 違う、そうじゃない。俺は何者であるかなんて関係ない、コレは俺の選択だ。

 ならば、助かる道を作ればいい――


「さぁ、どうする。このままなら2人共死ぬぞ。だから観念して降伏を――ぐっ!?」


 その言葉を言い切る前にユカリに力がこもる。

 まだこんな余力を残していたのか……!このままじゃそのうち押し切られてしまう。

 ならば迷っている暇はない。過去の自分に殺されるくらいなら、俺は泥を啜ってでも生きることを選ぶ。


「仕方がない、か。――天よ、我が身に宿りて敵を討て」


 俺は自身に強化魔法をかける。

 これでユカリと少しは並べるだろう。彼がこうなって、冷静な判断ができなくなっている以上、望めるモノはない。


「お前を半端に傷つけたところで意味がないのはわかってる」


「うっ!?ぐぅうう!!!」


 足につけていたスパイク型の魔装具も起動させ、力を籠める。

 それで何とかユカリに押し勝つことができた。この子供のバケモノのような力に畏怖さえ覚える。


「だから、一撃で決めさせてもらう。許せとは言わんが……別の形で会いたかったな」


 回復はさせない。おそらく首を落とせば殺すことができる。冷え切った頭がそう判断する。

 きっと、こんなところで出会わなければ、俺はコイツを気に入っていた。


 この時、一つ破裂音が響く。


「――ん?これは……!」


 その瞬間、まとっていた光魔法や魔装具の魔力が霧し、力が抜けてしまう。


「ぐっ、は、ははは!馬鹿な英雄め、止めを刺さんからこうなる!」


 死にかけの帝国兵が叫ぶ。意識があったのか、しかもこの効果は――


「まさか、“対魔法粉塵”か!?万年鉱石不足の帝国が何故こんなものを!」


「はぁ、はは、私達が誰と同盟を組んだと思ってるんだ。あの聖都が、勇者を守るためにマグナイト鉱石程度を惜しむわけがないだろう?」


 対魔法粉塵――マグナイトクリスタルを細かく砕いたものを小瓶に詰め、それを空中で爆発させ散布する魔道具だ。

 これを撒くと、その周囲にある魔力をマグナイトが吸い上げ、魔法を無力化してしまう。

 マグナイトの魔力を吸収する効果を利用した対魔法用の魔道具であり、使い捨てでかつマグナイトをを使用しているため、とても高価な道具でもある。


 それをこんなところで使われるとは思ってもみなかった。くそ、この粉塵が落ち着くまで時間を稼がなければならない。


「――あぁ、もう、これで大丈夫。私は守れた――今度こそ、今度こそ、守れたんだ。アングレ、兄さんは騎士に、なれたぞ……」


 帝国兵はうわ言のように何かを呟き、事切れた。


「完全に予想外だが、魔力を使えなくなるのはお前も同じだ。内燃魔法と強化魔法が無ければお前だって――おい待て、冗談だろッ!?」


 押さえつけていた剣を、体ごと弾き飛ばされる。

 なんだ?あの体のどこにそんな力があるというんだ……!?


 そのままユカリはラーファに駆け寄り、手を当てる。すると、瞬時に彼女の体が修復した。

 やはり、あの力は死にかけた人間すら元に戻すのか。この目で見るとその馬鹿げた力がどれだけ異常なものかよくわかる。

 ユカリは死の運命すらねじ伏せることができてしまう。


 それにあのバカげた力。この能力と合わせて考えると、ユカリは本当に――


「魔力も使わず、この力。まさか、本当に勇者だとでもいうのか?勇者が何故、帝国に――」


「最初から、間違ってたんだ」


 言葉を遮るようにユカリが言う。


「何が怪我をさせないようにだ、殺さないようにだ。それがホルトンさんを、僕がそうだからホルトンさんが……もう、お前を人間だとは思わない。人間じゃないんだから――もう、関係ない」」


 そういうと、ユカリが姿勢を低くし、こちらをを見据える。

 そして、その足が地面を蹴った瞬間――目の前にユカリが迫っていた。


「なんだとッ!?」


 咄嗟に反撃の為、剣を振るう。さすがにあの能力で戻されるだろうから、即座に飛びのけるよう姿勢を変えた。

 だが、そうはならなかった。


「ぐぅっ!」


 ユカリは咄嗟に突き出された俺の剣を肩に受け、突き刺されながらもこちらへ前進してきた。


「なっ、正気か!?」


 ユカリの能力ならこんな傷はなおせるだろう。だが、そうわかっていても躊躇なくそうできるかと言われれば難しい。

 あたりまえだが、自分の命の危機となれば反射でよけてしまうのが当たり前だ。それで命を救われたことは何度かある。

 だがユカリは、それを無視して致命傷になるかもしれない攻撃を体に受けることを選んだ。


 その圧倒的な精神力に怯んでしまう。


「あぁあああああ!!!」


 ユカリは叫びながら、こちらの腕をつかみ、握りつぶしてきた。


「くそォオ!!」


 このままでは動けなくなる。そうなる前にコイツの動きを止めなければ……!

 突き刺さったままの剣を何とか回転させ、ねじ込む形で肩の腱を破壊する。

 これでとりあえず動きは止まるはずだ。


 思った通り、人体のつくりは同じらしい。ユカリが動きを止めたすきをついて、即座に離れることができた。

 しかし、その傷も即座に回復して、間髪入れずにこちらへとびかかってきた。


「負けるかよ!」


 それを横なぎで迎え撃つが、体をずらされてあたらない。すぐに持ち替え、返す刀で袈裟切りにするも人間ではできないような動きで横に飛び、それもよけられてしまった。


「なんッ!?」


「はぁああああ!!!」


 叫びながらユカリが斜めに鉄塊のような剣を振り下ろしてくる。

 俺はすぐに動くことができず、剣で受け止めてしまった。

 その衝撃を殺し切ることができずに後ろへ大きくよろける。


「しまっ――うぉお!?」


「くらぇええええ!!」


 ユカリは無茶な体勢からまた剣を振り上げると、こちらへ叩きつけてくる。

 くそ、この姿勢では飛んでもよけきれない――、なら!

 その攻撃の一瞬を見据えて、ユカリが振るう剣の腹にこちらの剣の柄を打ち付け、何とか逸らすことに成功した。


「くそッ、でたらめだ」


 そう呟くしかできない。だが、それで終わりではなかった。


「――リバージョン!」


 叫びながらユカリは上げていた反対の手に、戻した剣を握る。

 気づいたときには遅かった、俺は先ほど柄を打ち付けた勢いで、すぐに対応できない。

 このタイミングではもう呪文も間に合わない。


 ただここで倒れることを悟る。

 ユカリの力では、たとえ片手であろうと即死だろう。


「お前さえいなければ!!!」


 ユカリが叫びながら剣を振り下ろす。

 魔王を倒し、救世の英雄ともてはやされていた俺が、こんな片田舎で子供に殺されるなんて誰が信じるだろうか。


 世界が止まっているようにゆっくり動く、だからといって俺も動けるわけではない

 ただこの瞬間に、俺は恐怖ではなくどこか懐かしさを感じていた。

 相手がのこ少年でよかったのかもしれない、この優しさと正しさしか持ち合わせていない危なっかしい少年で。

 惜しむらくは彼を守り、助けてやりたくもあったが、それは俺の仕事ではなかったし、それを運命が許しはしなかったようだ。


「これで、終わりだぁ!!!」


 ユカリの叫び声と共に剣が目の前に迫り、叩きつけられた。

縁君は現実に翻弄されていますが、カインは過去に迷っていました。

その結果がこれでも、あまり悔いはないようですが……?

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