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ヒーロー×ブレイブ~世界を救った英雄は静かに暮らしたい~  作者: 橋藤 竜悟
第一章:帝国編 第一部一節 帝国の勇者
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09 それぞれの戦い(複数視点)

「くそー……申し訳ない、逃がしてしまいました」


 ジンは申し訳なさそうにしながら崩れた自警団をまとめるために戻ってきた。


「ん……ジンはがんばった……あいてがわるかっただけ……」


 森のほうから戦場に合流したマオが珍しくジンを気遣っている。

 まったく気にしていない様子で同僚を励ますマオだが、服には大量の葉や蜘蛛の巣が付いており何故かボロボロだ。


「ははは、マオ、今凄い格好になってますよ」


「よるにきのぼりすればこうなる……おふろにはいりたい……」


 マオは森の中の高い木の上から戦況を俯瞰し、要所で支援を行っていた。

 無論距離が離れるほど魔法の精度は落ちるため、繊細な操作は不可能になる上に、当然だが射程限界もある。

 マオのいた位置から前線に上級魔法を発動するなど本来では不可能なはずだが、魔装具の補助により攻撃力を含めた全てを解決していた。

 これが小国リベリアが大国と渡り合えるに至った魔装具の強さである。


「みずおくれて……ごめんね……?」


 細かい魔法の操作は知覚のギリギリの範囲不可能だったためうまくできなかった。そのため、上級魔法が仲間に当たってしまうかもしれないリスクを、よく観察することにより避けようとして時間がかかってしまったのだ。よく考えればジンが水に押しつぶされていた可能性もあったため、実は結構危ない橋だった。


「いえいえ自分には風魔法がありますから!実は帝国軍があんな小さいエル――女の子の魔術師を使っているとは思わなくて驚いてしまいまして……」


 ジンはばつが悪そうにマオに笑いかけてくる。


「むしろ相手がマオの魔法に驚いてくれたおかげで撃たれずに済みました。助かりましたよ」


 少女の魔法はギリギリのところでマオの魔法に阻まれていた。あれが命中していたらこの戦闘の決め手になっていただろう。


「それにしてもあの娘たちはなんだったんですかね?片方は帝国騎士で間違いなかったですが、二人とも若すぎる上に後から遅れてやってきて……魔術師の娘なんて帝国軍の階級証や鎧すらつけてませんでしたよ?」


「マオにもわからない……とりあえずのこったてきをかたづけないと……」


 残った帝国兵も自警団も突然巻き起こった大魔法のぶつけ合いに驚き呆然としている。生き残った帝国兵にいたっては、巻き込まれることを恐れて門の内側まで引いてしまっていた。


「な、何が起こったんだ……!?」


 そこにやってきた騎士が一人、彼は戦場の様子を見て愕然としている。


「まだ騎士が残っていましたか……!」


 ジンが戦闘体勢をとる、マオも無言のまま下がり始めた。


「我が隊が負けたというのか……!?この農民風情に!?そんな馬鹿な……!!」


 騎士は怒りに震えながらも周囲の状況を飲み込み、声を張り上げた。


「残った隊は近場の兵を救出して砦へ退却!トントを放棄する!!急げ!」


「ッ!自警団の方達はいったん引いて下さい!相手に戦う意志はありません!マオ、すまないけどバックアップを頼みます!自分はあの騎士を何とかして捕虜にする……!」


 ジンはとっさに自警団を下がらせ、戦闘体勢を崩さぬまま正面門に走る。


「ここはオレが通さぬ!我が隊は我が誇り、オレが来たからには何人たりとも通しはせんわ!!」


「自分もあなたに用があってきたので構いません!あなたが降伏するのであれば、あなたの隊も含めて丁重に扱いましょう」


「ハ!そんな戯言を信じるものか!オレは捕虜のような憂き目に会うなら死を選ぶわ!言葉はいらん、正々堂々かかって来い!!」


 ジンは撤退意思があるならば説得しようと試みたが失敗に終わる。

 相手はそうとうな頑固者らしい。


「ならばしかたありません。マオ、バックアップは大丈夫ですので、自警団の方達をお願いします。自分の闘いには手を出さないでください!周囲に敵がいなくなればトントへ英雄様を探しに行って下さい、お願いします!」


 マオはうなずく、自警団をまとめ、正面門から東門のほうへ迂回していくようだ。


「お待たせしました。自分はリベリア軍特殊遊撃隊ジン・フォガード!この戦い、我がルフスの土に誓い、清廉に!」


「なんだ、話がわかるじゃないか。オレは帝国軍第7調査小隊隊長、帝国騎士団下四位キース・パウラ・ダグアストン!いざ参る!」


 二人は名乗るや否や一直線にぶつかり合う。


 正面門での戦いはリベリア側の勝利となり、帝国軍の撤退となるが戦いはいまだ続いていた。




 ****




「この辺でどうです?」


 トントの西側はずれ、人の気配がなくなる場所まで来た。

 そこでフィードは振り返り問いかける。

 そこには誰もいない、しかし次の瞬間、正面に獣人が現れた。

 獲物は……双剣のようだ。


「……貴様、元“影”か?」


「人に聞く前に自己紹介するのが大人じゃないですかね?」


「影が名乗ると?」


「――闇よ。いえいえ、思ったことを言ったまでですッ!――風よ、刃を為せ!」


 最初から全力でいく!相手もおそらく同じ畑の人間だ。

 さっきは初撃が来るまで相手に気がつけなかった、下手に手を抜いたらこちらがやられる。


 まずダガーを4本闇魔法で暗闇に隠しつつ投擲、そのすぐ後に魔術兵装である籠手から風の斬撃を追う様に飛ばす。

 そのまま闇魔法で自身を隠匿させ町側に回り込み距離をとる。


 獣人はほとんど動かず、ただ短刀のような双剣を青く光らせた。

 そのまま双剣から青い炎が立ち上り、飛ばしたダガーを風魔法ごと振り払った。

 ……どうやら相手も魔装具を仕込んでいるらしい。


 状況はあまりよくない。

 カイン様の場所に向かわせるわけには行きませんし、踏ん張りますか!


 魔装具として作られた2本のダガーにそれぞれ風と闇の魔力を込めつつ投擲する。

 ダガーは瞬間的に風の力で加速する、と同時にもう一方が闇に溶け消えた。


 獣人は迫ったダガーに体を小さく動かすだけで避けると、双剣で見えなくなったダガーを打ち逸らす。

 やはりこの程度では届かない、それはわかっていた。


「そう逃げてくれると信じてましたよ!」


 その瞬間、フィードはダガーにくくられていたマグナイトクリスタルの織り込まれたワイヤーに風の魔力を込め、ダガーの軌道を大きく曲げ獣人をワイヤーで絡めとった。


「ほう……」


「油断して適当にいなしたことが敗因ですね、このワイヤーは魔法で強度を上げているので、あなたの魔術では焼ききれませんよ。聞きたいこともあるので少し眠っていてもらいます」


 ワイヤーに闇魔法を流し込み、相手の意識を刈り取りにかかる。これで終わるはずであった。


「それで、いつ眠ればいいんだ?」


 だが獣人はびくともしていない、まるで魔力など感じていないような感覚だった。


「そんな……!」


「闇での隠匿と風での推力変換、よく考えられているが欠点も多いな」


 何かがおかしい……!

 フィードは気づいた刹那ワイヤーを装備から切り離す。


 ワイヤーは切り離され地面に落ちるとともに炎上をはじめた。


「気づいたか。まぁこのように魔装具は魔法を通しすぎるんでね、使う分には注意しなければ」


「それはそれは、ご教授ありがとうございます……!」


 数瞬遅かったら危なかった。

 どうやら相手はこのことがわかっていて、こちらよりも強い魔力を流すことで攻撃をそのまま利用してきた。

 今ある装備で使える魔装具はもう腕と脚しかない、身軽さのために装備を最小限にしているおかげで現状ほとんど打つ手がなかった。

 次の一手で決めなければまずい、ただそれだけはひしひしと感じられた。


 隠匿魔法を解いて顔を出す。


「もうかくれんぼは終わりか?」


「えぇ、もう帰らないといけない時間なので、あなたとは遊べなくなりました。――青龍よ!我が叫びに答えよ!汝の敵を破壊する牙となれッ!」


 使えるすべての魔力を脚と腕に込める、そのまま風魔法として練り上げ脚の魔術兵装を起動する。

 駆け寄るその瞬間、フィードの1歩は近距離では視認できない速度と距離を生み出す。

 踏み込み、腕の兵装を開放。風が視認できるほどの鋭い塊となって相手を襲う。


 そのまま2歩、3歩、4歩。相手を囲むように動きながら魔法を行使し続ける。

 さながら一筋の竜巻のような攻撃に周囲の地面はえぐれ草が飛ぶ。


「――朱雀よ、我が敵を照らせ、其を灰燼と帰せ」


 かすかに呪文が聞こえた。とたんに竜巻の中に火柱が立ち、そのまま風をかき消すと、その勢いにフィードは体勢を崩す。


 自分が魔術兵装に通したものは上級魔法と限界に近い魔力だ。

 それが同格とはいえ一方的に消されるなんて……!


「なんだ、これで終わりか」


「くっ、おおおおぉぉ!!」


 この人は絶対にカイン様から離さなければならない!

 なんとしてでも!


 残りカスになった魔力で脚の兵装を起動、残ったダガーを構え相手の頭部めがけて一瞬で突撃する。

 そして、周囲に破裂音が響く。


 手にしたダガーはいつの間にか取り落とし、フィードは地面に滑り込むように倒れていた。

 お腹が熱い、見ると直径一センチほどの鉄の棒が突き刺さっている。


 口の中に血の味が広がる。体は魔力を使い果たし、重く、動きそうにない。


「所詮元影とはいえ、落伍した軟弱者か。あの方の邪魔をするとこうなる、向こうでよく反省するんだな」


 穴の開いた筒のような魔装具を頭に押し付けられる、腹に刺さっている鉄の棒もこれで打ち出したのだろう。


 こんなところで終わってしまうのか、とぼんやり考える。

 ただ悲しみや怒りよりも、カイン様をこの怪物から守れなかった悔しさだけが残る。


 また、破裂音が響いた。




 ****




「こんなもんかな?」


 東門ではカインが格子門を切り崩す、あんまり町は破壊したくないがこれくらいは許してほしい。

 フィードはさっさと乗り越えて行ってしまったが、俺はそこまで身軽ではない。腰にくるしな。


「いたぞ!既に門を越えられている!」


 お、帝国兵の方々がご到着なされた、拠点よろしく槍兵と弓兵が多くてめんどくさい。

 ここまで早い対応となると警戒されていたか。そんなに上手くはいかないな。


「俺はカイン・リジル!救世の英雄と知って立ち向かうものは前に出ろ!!」


 自分で言うのはいささか恥ずかしいが、認知度だけはかなり高いこの名前を出すと、大体動揺が誘える。


「え、英雄だと……?」


「本当にあの英雄か?」


「しかし、嘘だとしても一人で乗り込んでくるとなると、かなりの使い手かよほどの馬鹿だぞ」


 なにか聞き捨てならない言葉も聞こえたが、効果はまあまあかな?

 とりあえず無意味だろうが聞くだけは聞いてみるか。


「でだ、誰も来ないようなら潔く投降してここを通してほしいんだが?」


「そういうわけにいくか!ここは我々帝国第7調査小隊が占領している町だ!貴様が出て行け!」


 ごもっともである。


「その帝国さんから取り返しに来たわけだから俺もここは譲れない。では交渉決裂ということで」


 言うが早いか、正面で構えている兵士に切りかかる。

 兵士は構えていたため防御は取れていたもののこちらの勢いに押されて後ろに飛んだ。


 他の兵士達は驚いたようにこちらを見ている。


「か、囲め!囲んで叩けば勝てるはずだ!」


「させるかよッ」


 近場の兵士から切り倒していく、情報を引き出すために1人くらいは残しておきたいがさすがに数が多い。

 俺も囲まれればピンチに変わりないので切り崩すように広がっている兵士から叩いていく。


 相手の人数は徐々に減っていく、あと10人くらいか。


「このままではだめだ!亀甲隊形、陣形を組みなおせ!」


 10人でその陣形は正直あまり怖くはないが、少しは手が出しにくくなったのも事実だ。

 相手は正面に盾を構えながらじりじりと前進してくる。


「ならこれでどうだ?――朱雀よ我が敵を滅ぼせ!灼熱の中に消えろ!」


 相手の正面に丸い火の玉が浮かぶ。


「な、防御体制!かがんで持ちこたえろ!」


 それが収縮し、爆発を起こす!


「ぐっ……!あれ?」


 破裂音はしたものの上級魔法とは思えないほど衝撃がない。


「というのは冗談だ、すまんな」


 カインは防御体制をとる隊形の後ろに回りこんでいた、水の魔力を剣に込める。


「――水よ、我が敵を檻に閉じよ」


 剣を相手足元の地面につきたて、水平に振りぬくと兵達の足は凍りつき身動きが取れなくなった


「で、まだやるなら容赦はしないが?」


「ぐっ……!降参だ……」


 兵士達は全員、武器を落とした。


「そうか、では少し寝ててもらうぞ」


 一人一人闇魔法をかけ、強制的に意識を奪う。10人ともなると疲れるな……。

 すると、突然後ろから声をかけられた。


「な、なんで……何でこんなことをするんですか!」

ここでも各キャラに視点が飛ぶので、読みにくかったらすみません。

カインは強いです。でも勇者の方がもーっと強いです。

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