フラグ
コンビニスイーツは確かに美味かった。特に和栗餡のどら焼き。高級老舗店のものと比べても、遜色なかった。っつーか、正直分からなかった。和栗の風味もあって、どれも美味かったんだから、仕方ねぇと俺は思う。老舗店の職人が監修してるとは言え、コンビニスイーツ。侮れんな。
コンビニスイーツを当てられなかった俺には、何か罰ゲームがあるらしい。勝手に決めたくせに、罰を受けるのも癪だが、平和ボケした日本人が考える罰だ。高が知れているだろう。
そう思うのも、前世、魔界で1番ポピュラーな罰は、死を経験する、だったからだ。決まった時間内に蘇生術を施せば生き返る。死んだ本人のレベルよって、その時間が増減する。幼子であれば1秒以内、屈強な魔族戦士であれば約3分以内、と言った具合だ。俺は、24時間以内であれば可能だった。今、思えば、随分と死が身近だった。死に対する恐怖耐性を身に付けるのも、魔族の教養に近かった。今世で言うブラックだろうか。いや、人界でも同じような事があったのだから、あの世界自体がブラックか。
俺は自分自身に自動蘇生術を常時掛けていたから、死んだ瞬間に、ほぼ蘇生可能な状態だった。こちらの世界で言う、チートってやつだな。自動蘇生術が発動する事はなかったが。勇者の聖剣術で殺されたから、魔族術は打ち消され、そのまま死んだしな。一瞬だった。恐怖も糞もなかった。魂ごと消し去る術かと思っていたが、そうでもなかったようだ。こうして転生したのも、聖剣術が付与した何かなんだろうか。だとするなら、慈悲深い事だ。他の者たちも同じように転生しているのも何かの付与効果なのか。理論はよく分かっていない。
まぁ、今世、充実した生活を送っている訳で、不満などはない。むしろ、重責や柵がない分、自由で気楽な生活に満足しているくらいだ。前世の記憶も邪魔にはなっていないしな。赤ん坊の頃は体の自由が利かなかったから、不便だったが、その程度だ。あとは今世の常識を理解するまでに時間が掛かったくらいか。20年以上生きている。もう、その辺は馴染んでいるはずだ。
しかし、ジンと居ると、俺が学んできた常識が誤っているのだろうか、と逡巡する時がある。常識とは、大多数による共通認識であるから、殺された少数による共通認識を否定する事はならないと思うが、現代日本で生きていくには、それに準ずるのが最も合理的だ。
だが、ジンはそうしない。その点も、気に入っている所なのかもしれない。前世、ヤモリだったけどな。今世は俺の支配下に居る一般人ってところか。
俺の支配下にあると見なされ、個人の能力にブーストが掛かっていたようだが、今回の動画はそこまで伸びなかったようだ。ジンも張り切っていた分、少々凹んでいた。まあ、提供のものがある時には、自分たちの領分から離れる事が多い。つまり、ジンらしい企画にならなかったと思われる。逆に言えば、『オードーメテンプ』らしい企画を視聴者は望んでいる事の顕れだろう。次の企画には、また並々ならぬ気合が入っているようだから、おそらく心配はない。俺のスキルを受けているようだしな。
ただ、珍しく、次の企画について詳細を俺に伝えてこない。何かを企んでいるようだが、隠そうとする気持ちが強いのか、読心できない。
しかし、俺も元魔王。戯れに付き合ってやる程度の器はあると自負している。明日には、企画実行出来ると息巻いていた。また、美味いものでも食って、英気を養おう。
そうだ、和栗どら焼きでも買いに行くか。あれは中々のヒットだ。今日も、秋らしい、爽やかな天気だ。散歩がてら、コンビニに行こう。
***
外に出ると、風が心地よかった。コンビニで買い物を済ませたところで、ジンから電話が掛かってきた。
『あ、マオマオー?次の撮影に、ゴリラリザイとパクチーコーラが欲しいから、とりま2リットルずつ買ってきてくんない?』
「あ?何だ、その気持ち悪ぃ組み合わせ」
しかも、最寄りの店でもコンビニから15分くらい掛かるじゃねぇか。
『罰ゲームだからねー』
「ちっ、分かったよ」
嬉しそうな声がムカつくが、付き合ってやると決めたのだから、仕方がない。
『そんじゃ、よろしくねー』
☆ ☆☆
提供ものの難しさが分かった気がする。今回は数字が伸び悩んだ。最近、トントン拍子だったし、ちょっと調子に乗っちゃったかなー。マオマオが、スイートポテトをポンポン飲み込んでいくのは気持ちいい画だったけど。ひょい、パク、ごくん、がエンドレスで続くから、またCG疑惑掛けれてるのがテンプレになりつつあって、逆に面白いって言うか。
マオマオ自身はどら焼きが気に入ってるみたいで、通常発売されてから、ほぼ毎日食べてる。当てられなかったくせにね。
企業側としては、そこまで広告費を掛けずに、ある程度の効果を認めたみたいだったから、満足してくれたみたいだったから、ユーチューバーとしては微妙だったけど、広告塔としては、とりあえずは仕事出来たかな。ま、終わったもんはしょうがない。次の罰ゲーム企画、頑張らないと。
鳩の準備は出来た。病気とか持ってない、レンタル鳩。一応、平和の象徴っぽい白い鳩にしたけど…マオマオ、鳩なら全部嫌いなのかな。そうだとありがたいんだけどなー。白い鳩って、遠目に見たら可愛いような気もするし…。近付くと、結構鋭い目してるけどね。
とりあえず、リビングを鳩だらけにする。マオマオの寝室にも、バス、トイレにも何羽か用意して、逃げ場を無くす。部屋中にカメラ設置しておけば、色んなマオマオが撮れるはず。これ、ただオレが面白いだけかな。いや、きっと、視聴者さんたちも、それを望んでいるはず。と信じたい。ま、1番楽しみにしてるのは、オレなんだけどさ。
あとは、自然にマオマオを一旦、外に出して、戻ってきたところから企画スタートって感じかなー。まあ、よくコンビニに行くし、何なら、オートロック操作して、準備出来るまで追い出しとけば済むし。
あ、マオマオ出掛けるっぽい。ちょうどいいや。もう実行しよ。マオマオには明日には出来るよーって話したけど、善は急げって言うし?まずは、鳩の準備。壱斑グループてか、お金の力を発揮してやろうじゃないの。
すぐ呼び寄せて、鳩だらけにしまーす。
マオマオには、不自然じゃない程度に外に居てもらお。電話電話。
「あ、マオマオー?次の撮影に、ゴリラリザイとパクチーコーラが欲しいから、とりま2リットルずつ買ってきてくんない?」
これ、コンビニにはないから、1番近い店でも時間掛かるんじゃないかな。
『あ?何だ、その気持ち悪ぃ組み合わせ』
「罰ゲームだからねー」
『ちっ、分かったよ』
マオマオの素直なところは素敵だと思うよ。
「そんじゃ、よろしくねー」
通話、オフ。
さて、急いで準備しますかー。




