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焼きたて食パンと宿敵

 今日はハイテンション。ルンルン気分ってやつ?

 っていうのも、高級ラーメンの動画が世界各国で見てもらえたのが分かったから。すっげー嬉しい。コメントとか見てると、色んな国の言葉が並んでる。いいねー。世界中、とまではいかないかもしれないけど、ちょっと有名になった気分。みんな、ラーメン好きなんだなー。特にアメリカの反応が良かった。壱斑グループのラーメンの知名度、結構高いっぽい。羨ましいっていうのと、マオマオの食べっぷりが気持ち良いって感じの反応が多かったかな。

 登録者数もガンガン伸びてきて、動画増やして飽きられないようにしないとなーって、気が引き締まる。けど、ニヤニヤする。

 夏休みに突入したから、いつもより時間があるし、動画いっぱい上げたいな。普段は講義に出ないといけないから、睡眠時間削るしかないけど、最近は…まあ、寝れてるし。…多分。日本の大学って出席してないと単位くれなかったりするから、ちょっと面倒だよね。ま、その分、全体的に気楽だけど。

 パソコン見すぎて、体固まったかも。ちょっと伸びー。

「うぇ、もうこんな時間?」

深夜2時くらいかと思ったら、朝の6時。確かに窓の外が、とっても明るい気がする。夏休みって、昼夜逆転しちゃうよね。きっと、オレだけじゃないはず。マオマオは割と規則正しい生活してる派だったけど。今だって、外へ勤めてる訳じゃないから、乱れてもいいもんだけど、ちゃんと朝起きて、夜寝てる。オレとは大違いなんだよなぁ。強靭な喉と腹は規則正しい生活から、なのかな。いや、そこまで考えてないのかな。マオマオって、何考えてるかイマイチ分かんなかったりするんだよなぁ。最近、食へのこだわりを感じ始めてるとこではあるけど。怒は感じやすいけど、それ以外はよく分かんないし。

 今度の動画はマオマオを驚かせるものとかにしたいな。ドッキリとか。普段、驚いたりとか、怖がったりとかしないし、反応薄いから。普段とは違うマオマオを見てみたい。苦手なものとかないのかな。パクチー嫌いだけど、嫌な顔する程度だしなー。弱点的なもの、ちょっと調査したい。

 結構長く一緒に居るはずなのに、意外に知らないんだよなぁ。何かないかな。虫とか?んー。直接聞いてみよっかな。

 ガチャ

「え?」

マオマオが部屋から出てきた。早起きすぎない?

「お、おはよー。どしたの?早くない?」

「お前も早くね?」

「いやー、オレはずっと起きてたって言うか?寝てないって言うか?」

「馬鹿じゃね?」

マオマオが鼻で笑った。

「マオマオは何で早いの?」

「近くに出来たパン屋の、朝一焼きたて食パンを買いに行く」

マオマオ、食に対して貪欲になった気がする。お金に余裕が出たからかな。でも、太んないよなー。あんなに食べるのに。

「それって、オレも食べれる?ずっと起きてたから、お腹空いた」

「あ?」

「お金払うしー、オレも食べたいー」

「ちっ、しゃあねぇな」

マオマオは怖い顔だけど、まあまあ優しい。

「どれくらい買えるか分かんねぇから、あんま期待すんな」

マオマオはそう言うと、さっさと身支度を終えて出て行った。


* **


 マオマオが帰ってきて、まず驚いたのは、買ってきたパンが食パンオンリーだったこと。しかも3斤。抱えて帰ってきた。そんで、不思議なのが、すっごく不機嫌そうなこと。どうしたんだろ。

「お帰り〜、めっちゃ大量じゃん。いい匂いするー」

「…おぉ」

テンション低!何があったの。

「どうしたの?テンション低くない?」

「いや…何でも」

「食パンしかなくてショック受けてるの?」

「ちげぇよ、そもそも買いに行った店、食パン専門店だからな?」

そうなんだ。それでも3斤って。

「じゃあ、どうしたのさ」

「…鳩に遭ったんだよ」

え?

「ハト?ハトって…鳥の鳩?」

「そうだよ、あいつらまじうぜぇわ。パン持ってるからか、めちゃめちゃ寄って来やがって。これ、食う気失せた」

マオマオは持ってた食パンを全部オレに渡してきた。

「え?これ、食べないの?せっかく焼きたてなのに?」

「要らねぇ。お前が食い切れねぇなら誰かにやれよ」

えー。こんな朝一連絡しても誰も応えてくれないよー。しかも大量すぎる。とりあえず、冷凍しとこっかな。

「お前、これ、冷凍庫に入れんなよ」

「えー、何で?」

「入れたら、殺す」

ちょ、マオマオ目が本気だから止めて、怖い。

「ワカリマシタ」

「俺、もう1回寝るわ」

マオマオはそのまま部屋に行った。

 食パン、意外に重たいんだけど。とりあえず、テーブルへ。せっかくだし、食べよっかな。

 食パンを千切っては食べ、千切っては食べ、ぼーっとした。焼きたてだから、美味しい。でも、すぐお腹膨れた。自分で言うのも何だけど、ネズミの齧り跡みたいだ。マオマオ、これ1日で食べるつもりだったのかな。テンションだだ下がりだったけど、そんなに鳩苦手なのかな。ってか嫌いなのかな?

「あ」

 次の企画、鳩たくさんいる所にマオマオを連れて行こう。どんな反応するかな。ドッキリ企画にいけそうな気がしてきた。

 …オレ、殺されないかな。大丈夫だよね、きっと。


★★★


 最悪だ。ここ最近で1番の最低な気分。まじうぜぇ。俺が今世でも魔王なら、最初に絶滅させるのに。折角、並んで買った焼きたて食パンが台無しだ。

 あの鳩ども。

 最近発現した魔眼も、鳩だけには効かない。忌々しい。前世からの呪いなのか?俺は鳩に何もしていない。それどころか、むしろ俺が被害者だというのに。魔王で在った事が重罪とでも言うのか?人間と変わらない程度の罪ならあったかもしれないが、人間以上の罪があったとは思えない。

 前世で俺は『稀代の魔王』と呼ばれ、人界侵略をほぼしなかった。その代わり、災害扱いの魔物や、魔族に害を成した魔物などは直ちに殺した。人界侵略をしない腑抜け、と言われないよう、力を示すのに丁度良かったのもあるが、基本的に理由が無ければ命を奪わなかった。過ちで皇国1つが潰れたが…。それは置いておくとして。俺が侵略をしない『稀代の魔王』で在れたのは、単に魔界で最も強かったからだ。俺に歯向かえば、蝋燭の火を消すのと変わらない労力で殺される。俺は魔界において絶対強者だった。俺が魔王で居る間は、比較的、魔界も人界も平和なはずだった。

 俺が人間や人間に近い種族を殺すようになったのは、それらが魔界侵略を始めたからだ。皇国を潰す前から侵略は始まり、長きに渡った。耐えかねた部下が俺の言葉を拡大解釈してしまったとしても、それは責められないと思う程度に人間どもは残忍だった。無知が故に恐怖し、魔族たちを支配する事で恐怖を治めようとした。確かに魔族は人間と構造や常識が異なる。だが、残虐性があるかと言えば、人間とそう変わらない。平和主義者もいれば、帝国主義者もいる。強者に対する恐怖とするならば、殺されていった魔族たちも同様の感情があると何故考え及ばなかったのか。未だに理解は出来ない。

 俺が死んでから、あの世界が平和になったかは、もう知る由がないが。

 魔界最強の魔王が何故死んだのかというと、ありがちだが勇者に殺された。それもあっけない幕引きだ。人界にて勇者たちに遭遇し、一戦を交える事となったが、ある時、鳩の野郎が俺目がけ糞を落とした。それに気を取られた瞬間に、勇者に殺された。

 殺されたものの、勇者に恨みはない。望んで勇者になったとしても、そうでないのだとしても、何かを殺す役目を背負わされた彼を責める事は出来ない。そして、彼もまた、魔界と人界の戦争の被害者なのだろうと思う。

 忌々しいのは、その鳩だ。汚らわしい糞を俺に落としやがった挙句、俺を死に至らしめた。死因、鳩。恨むなと言う方が無理だ。前世から続く恨み、相当のものと自覚している。

 前世と同じ姿をした鳩どもが、今世では『平和の象徴』とされ、この世界中で野放しにされていると知った時には発狂しかけた。最近では、遭わないようになり、自治体も害鳥駆除に尽力しているのだと思っていたのだが、今日の焼きたて食パンは、残党どもを引き寄せる結果となった。

 魔眼をどれだけ発動させても、一瞥もせず。人に慣れ、舐め腐った態度を取る鳩どもに触れないよう、振り払いながら、人の少ない公園を突っ切った。とにかく気分は最悪だ。焼きたて食パンを頬張る気持ちでは無くなった。しかし、買ってしまったものは仕方がない、欲しいと言っていた事だ、ジンに全部くれてやった。

「お前、これ、冷凍庫に入れんなよ」

思い出すだろうが。

「えー、何で?」

「入れたら、殺す」

念を押す。危うく魔眼を発動させそうになった。

「ワカリマシタ」

「俺、もう1回寝るわ」

 俺は、ふて寝を決め込んだ。ラジオ体操よろしく早起きをしたっていうのに最悪の朝だ。早起きは三文の得?俺の三文は何処へ消えた。食欲まで失せているぞ。

 自室に戻ると、置きっぱなしにしていたスマホが通知点滅していた。見てみると、昨日の夜に通知があったらしい。早起きのために早めに就寝したから、気付かなかったようだ。

 兄貴からだった。お盆には帰って来るのか、と。

 勿論帰る。母親の料理は久しく食べていないし、美姫にも会えるチャンスだろう。また、お土産を買わなくては。

 手短に、兄貴へ連絡した。すぐに既読になり、メッセージと共に絵文字が並んだ返信が来た。喜んでいるようで、何だか少し可笑しかった。

「ふっ」

 最悪の気分が少し上向いた。

 今回は俺の力量が足りなかったのだと謙虚に受け取り、次へ活かそう。そうだ、魔眼を磨く事としよう。元魔王、器を大きく持たねば。

 寝よう。願わくば、夢で遇う事がないように。

 あ、ちょっと待て。美姫へのお土産どれにするかリストアップくらいはしとくかな。食べ物と玩具と洋服。絵本もいいかもしれない。それとも、DVDか。これは眠れないな。家へのお土産も決めてしまわないといけない。

 スマホで膨大な情報量を目の当たりにして、腹が減ってきた。とりあえず何か食べてから考える事にしょう。頭も働かない。

 コンビニにでも行くか。焼きたてではないが、食パンくらいはあるだろ。



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