魔王と即席麺
カメラの前に若者2人。
「オードーメテンプのマオマオと…」
「いっちーでーす。今日も企画やっていきたいと思いまっす」
簡単に自己紹介を済ませると、いっちーと名乗る青年が即席袋麺を段ボールから出してきた。
「今日はですね、これ。このスペメガデラー麺。カップタイプのデラー麺って、普通のカップ麺の2倍くらい量あると思うですけど、これの新しいタイプ。カップ麺に出来ないくらい大きいから、袋麺になったよ。もうね、これマオマオに食べてもらうために出来た商品なのかなってやつ。何がって、量、デラー麺の3倍になってるから」
「俺のためって意味分かんねえよ」
「あれだよ、記録に挑戦するための商品」
「どんなだよ。まあ、デラー麺好きだけど」
「これ、辛いじゃない?だから、早食いかなー。量エグいから大食いでもあるけど」
いっちーはカメラに向けて、改めて、大きい即席麺の袋全体を見せる。
「他のユーチューバーさんもやってるみたいですが、どうも記録が11分7秒?とかで、ウチのマオマオなら、10分切るんじゃないかなー、と期待です。世界記録目指してほしいよね」
「まあ、行けんじゃねぇのって気はする。麺なら飲み物だしな」
「さすが!さすがマオマオ!でも言っとくけど、麺は食べ物だよ?」
「あ?」
「…じゃ、とりあえず作りますか」
いっちーは、話題の即席麺を大鍋に作り出す。
鍋に水を入れる若者、いっちーこと、壱斑尋、20歳。職業ユーチューバー。
それを傍観するマオマオこと、前野眞緒、23歳。職業ユーチューバー。
二人は特に変わったところのない、ただの人気ユーチューバーである。
前野眞緒−マオマオの前世が魔王である事以外は。
★★★
俺の名前は、前野眞緒。23歳。実年齢は669歳。奇しくも、前世での成人年齢と今世の成人年齢が一致したのには驚いた。身長182センチ。体重80キロ。誕生日は6月6日。血液型はA型。好きな食べ物はラーメンと寿司。日本で生み出された最高の食べ物だと思う。嫌いな食べ物はパクチー。あれは、この俺でも食えなかった。ポーションみてぇな味がする草って、食べ物として相当やばいだろ。命の危機がないと食えない。パクチーが好きなやつを見ると、ポーションハイになってた部下を思い出す。
大学を卒業後、縁あってユーチューバーをしてる。相方は大学の後輩で、壱斑尋。ジンと呼んでいたが、撮影中には「いっちー」と呼ぶように、と何度も注意されて、名前を呼ばなくなった。
ユーチューバーとしての活動は短いが、登録者数は日々伸びているようで、先日50万を超えたと、ジンが喜んでいた。有り難い事だ。
俺たちの企画で多いものは、早食い・大食い関連で、食べる物はジンが決めて、俺が食べる。
俺の早食い・大食いの才能に気付いたのは、ジンだった。
大学時代、カップタイプのデラー麺を3分で飲み終わったのを食堂で見て、感動したと言っていた。俺にとっては、日常だったし、最初は変質者かと思ったが、今では良い相棒だ。動画の企画、準備、編集は全てジンが行っている。俺は撮影日に企画の食事をするだけ。俺にとっては、早食いも大食いも苦ではないし、食の好みもジャンクフードから和食まで幅広い。正に天職と言える。
今日は撮影日で、増量即席麺をどれくらいの時間で飲み切れるかを測る企画らしい。ネタとしては、ありがちだが鉄板だ。
また、デラー麺を選んでくる辺りはジンらしい。俺たちの出会いについても、以前の動画で説明しているし、登録者にも馴染みがあるだろう。
デラー麺を飲むと、以前、人間たちから魔力を丸飲みしていた時代を思い出す。その経験もあって、早食い・大食いが得意なのだと最近気付いたくらいだ。大分、今世に馴染んだと思うが、まだ23年程しか経っておらず、前世は昨日のように思い出せる。
さて。そろそろ仕事だ。
いつも通り、飲むか。
ごっ
やっぱり、美味い。
☆☆☆
オレの名前は、壱斑尋。20歳。現役大学生。身長169センチ。体重56キロ。誕生日は1月8日。血液型はB型。好きな食べ物はフライドポテト。ポテチも好き。嫌いな食べ物は魚全般と野菜全般。食べるの、そんなに好きじゃないんだよね。
大学2年の時に、運命の出会いがあってユーチューバーしてる。相方は大学の先輩で、前野眞緒。さん。可愛い名前だから、見た目とのギャップですぐ覚えた。見た目、熊だから、あの人。黒い服しか着ないとことかも熊感。それに、首太いし、プロレスラーみたいって言うか。
前までは、前野先輩って呼んでたけど、動画内で「マオマオ」って呼ぶようになって、そのまま日常でもマオマオ呼び。初めはちょっと嫌がってたけど、最近は普通に受け入れてくれてる。器の大きい先輩。
ユーチューバーとしての活動は約3年。マオマオと組む前に一人でやってたのが2年くらいで、登録者数が急激に伸び出したのは、ここ半年。オレの感覚だと、あっという間に50万突破した感じ。これも、マオマオのおかげ。
俺たちの企画で多いものは、早食い・大食い関連で、食べる物はオレが決めて、マオマオが食べる。
マオマオと初めて会ったのは大学の食堂だった。
マオマオがカップタイプのデラー麺を3分で食べ終わったのを見て、何とも言えない気持ち良さがあった。俺にとって衝撃で、一緒にユーチューバーやりたいと思った。早食いとか大食いとか見るの好きなんだよね。自分を撮った動画を自分で編集してもつまんないなーって思い出しだ頃だった。
勇気出して話しかけて良かった。初めは殺されるかと思ったもんなー。顔怖いからさー。最初は変質者と思われたみたいだけど、今ではベストパートナーだと思う。
動画の企画、準備、編集はオレ。オレ自身は面白味もないし、インパクトもない。けど、マオマオとの動画を面白く出来るのはオレだけだと思う。オレにとっては、動画作ってます!って感じがして、楽しくて、正に天職って感じ。
今日は撮影日で、増量即席麺をどれくらいの時間で食べ切れるかを測る企画。ネタとしては、ありがちだけど、ド鉄板。これもマオマオだから面白い動画になるんだけどさ。何より、オレが見たい。CGだろって叩かれる事もあるけど、やましい事なんてない、修正なしの本番動画だから、胸を張っていられるしね。
デラー麺は運命の出会いを象徴する食べ物だから、特に撮影が楽しい。
デラー麺を見ると、これのおかげでユーチューバーとして活動出来るようになったんだなって思える。マオマオと組んでからまだ1年くらいしか経ってないし、昨日の事みたいに思い出せる。
さて、仕事仕事っ。
いつも通り、タイム測定。
ごっ
やっぱり、面白ぇ…!ありえないって、その食い方っ!