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その頃王宮では

勇者召喚を手動してきたのはロマンス王国の王女であるアリア王女だった。

そう、勇者の前に現れたあの王女様だ。


彼女の年齢は16歳。


日本の16歳の女の子であれば、高校に通い、部活に勉強にお友達に、と青春を謳歌していることだろうが、彼女は違う。

一日の多くを王宮で過ごし、物心ついた時から強い権力を持ち、周りの貴族も彼女を持ち上げる。


いつしか、彼女は権力の虜になっていた。


ロマンス王国の国王には子供が彼女しかいなかった。したがって、彼女の身内に彼女の地位を脅かすものはいない。

そのため、彼女の目は外を向いた。そう、魔王率いる魔族の国はもちろんのこと、ロマンス王国以外の人族の国々に対しても、だ。


幸い、ロマンス王国には勇者召喚を行うための魔法が存在した。


「異世界から勇者を召喚して、その武威でロマンス王国の力を一層強固なものにしたいものですわ」


いつしか彼女はそのように考え、実行に移す。

そもそも、ロマンス王国の成り立ちも勇者召喚によって300年前に召喚された異世界人が立ち上げた国だった。


「でも、召喚された勇者に歯向かわれでもしたら、それも困りますわね・・・」


彼女にとって勇者とは都合のいい駒である必要があった。ただ、自分の敵対者と戦ってくれるだけでよく、それ以外は大人しくしておいてほしかった。


とはいえ、今の勇者たちはまだヒヨッコ。優秀なスキルがあるとはいえ、ろくに剣をふるったこともなければ敵を殺したこともない不完全な兵士。今は訓練を重ね、一人前の戦士になってもらわなければ困る。



アリア王女の部屋に一人の士官が入る。

彼女は召喚勇者たちの指導係だ。


「アリア王女様、定期報告にまいりました。」

「はい。聞きます。訓練の状況はいかがでしょうか?」

「この20日間で各属性の魔法の習得および、肉体強化のスキル習得を行いました。勇者の中には全属性を扱えるものもおりました。また、肉体強化スキルは勇者全員が習得できました。現在は西の森でゴブリンやオークといった亜人の討伐をさせています。」


報告を聞いてアリア王女はご満悦のようだ。

訓練の進捗状況は良好だ。


魔法とスキルを重視したこの世界の戦闘において、勿論、勇者が身に着ける強力なスキルも重要だが、汎用性の高い各属性の魔法を使用できることは重要なことだった。


また、それ以上に肉体強化のスキル習得は尚重要であった。近接戦闘においては必須スキルといっても過言ではないし、そうでなかったとしても戦闘による負傷率や死亡率を下げてくれる優秀なスキルだ。


「この調子で訓練が進められれば、近いうちに『大森林』への進行に彼らを加えることもできそうですね。ありがとうございます。」


ロマンス王国と魔族の領土(魔国領と呼ばれる)の間に広がる広大な森林地帯、それが「大森林」である。

魔国領に至るには大森林を通過しなければならない。だが、それ以上にアリア王女には目論見があった。


大森林の占領および開拓


大森林はロマンス王国の5倍以上の広さを誇り、そこには種類豊富な亜人と魔獣の宝庫であった。


亜人とは、獣人にエルフ、ドワーフ、それにゴブリンやオーク、オーガといった種族であり、彼女からすれば、獣人やエルフ、ドワーフなどは奴隷にして働かせるなり売り払うなりすればよいと考えていたし、ゴブリンやオーク、オーガなどは見るのもおぞましく、死滅させなければならないと考えていた。


そして、大森林の珍しい魔獣たち。それらは狩猟しつくして素材を高く売ればいい。


そうやって大森林で得られた利益をもってロマンス王国の国力を増大させ、魔国領はおろか周辺の人族の国々も手に入れたいと考えているのが彼女だ。




勇者の指導員は報告を続けた。

「これは、アリア様のお耳に入れるのもどうかと思いましたが、気になりましたので報告します。」

「はい、なんでしょう?」

「勇者を除名された「和田洋平」に関する報告です。」


和田洋平、という名前を聞いて、アリア王女は一瞬目をきょとんとさせた。

だが、しばらくして彼の顔を思い出した。勇者に与えられるはずのスキルが与えられなかった青年のことを。


「ああ、彼ですか。彼がどうかしましたか?」


アリア王女は彼に興味はなかった。自分のために戦えない存在など用はないのだ。


「はい。魔法屋とスキルショップから定例のスキル獲得実績報告があり、その中に彼の名前がありました。こちらが彼が習得した魔法とスキルになります。」


そういって、一枚の報告書をアリア王女に差し出す。


「何々?口寄せに雑食、それに魔獣の気持ち?? それに魔法も生活魔法に土木魔法・・・ここまでスキル・魔法に恵まれないと哀れにも思えてくるわね。」


勇者を武力としてしか見ない彼女にとって、洋平が身に着けたスキルや魔法はどれも低能なものばかりに見えた。


「ただ、気になる情報がほかにもありまして・・・和田洋平はそれらスキルを用いて既にグリーンスライムを300匹狩猟したようです。」


その情報を聞いてアリア王女は興味を持った。雑魚とはいえ、グリーンスライムを300匹狩猟した?

一体どうやって?


「彼がどうやってそれほどの狩猟数を稼げたのか知っていますか?」

「いえ、詳細はよくわかりません。」

「ふむ・・・これは一度彼と会ったほうがよさそうですね。王宮に彼を呼べるかしら?」

「はい。そのように手配します。」


もし、彼の狩猟方法が大森林への進行に使えそうだったら彼を勇者として迎え入れればいい。

どこまでも上目線の考えだが、アリア王女は洋平に会うことを決めたのであった。


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