覚えられる魔法
「どうも、また来ました」
と、俺は魔法屋の店員さんに声をかける。
もう10日も前に来たのだから、俺のことなんて忘れているかもしれないが・・・
「ああ、あの時の。で、お金は何とかなりました?」
用事があるといって店を出たはずだが・・・どうやら見抜かれていたようだ。
「あ、あははは・・・まぁ、ちょっとは、ですかね。」
俺は笑ってごまかすしかない。
というより、今日は魔法を買いに来たのではない。どんな魔法がいくらで売られているのか確認しに来たのだ。
所謂、市場調査ってやつだ。
まぁ、素直に言うしかない。
「今日は買いに来たんじゃなくて、どんな魔法がいくらで売られているのか確認しに来たんです。」
「ああ、なるほど。確かに魔法は高いですからね。」
そういって、店員さんは水晶を手元に持ってきた。
「では、確認しましょうか。今のあなたがどんな魔法が覚えられるかを。」
「水晶に手をかざせば何が覚えられるかわかるんです?」
「そういうことです。ささ、どうぞどうぞ。」
俺は促されるままに水晶に手をかざす。
「ふむふむ。」
そういうと、店員さんは紙に覚えられる魔法を書き留める。
この辺の流れはスキルショップと同じか。
「今あなたが覚えられる魔法と値段をリストアップしました。こちらです。」
俺な紙を眺める。
それによれば
・生活魔法:金貨5枚
薪に火をつける魔法や、コップ程度の真水を作れたり、扇風機程度の風を起こしたりすることができる魔法。
汎用性は高く、あると非常に便利。
だが、このために金貨5枚か・・・お金に余裕があればいいんだけど、今はその余裕はないな。
・土木魔法:金貨5枚
穴を作ったり、壁を作ったりすることができる魔法。
おお!これは欲しい。俺の口寄せスキルを使った戦術にもってこいじゃないか。
むむむ!もっとお金を稼がなければ・・・
しかし、たったこの二つだけか。なんかもうちょっとファンタジーっぽくドカンと強力な魔法があってもいい気がするが。
そういう体質?というかなんというか、素質がないのかな?
「どれも魅力的な魔法ですが・・・これだけですかね?」
「ええ、今覚えられるのはこれだけです。」
「今、というと、覚えられる魔法が増えることもあるんです?」
「そりゃ、ありますよ。手持ちの魔法を使い続けることで経験を積むと、同系統の高位の魔法を覚えられるようになりますし、別に魔法を使わずとも何らかの経験を積めば、そこから新たな魔法が覚えらえる可能性が出てきます。この辺はスキルと同じですね。」
おお、いいことを聞いた。
「ありがとうございます。いや、いい話が聞けました。またお金をためてきますね。」
「ああ、ちょっと待ってください。」
店を出ていこうとした俺を店員さんが慌てて呼び止めた。
「今、手持ちのお金はいくらあるんです?」
「えっと・・・お恥ずかしながら、銀貨15枚くらいです。」
「そのお金で二つ買えますよ?」
「え?いやいや、だって二つ合わせて金貨10枚ですよね?」
「それは魔術師ギルドに入っていない方の場合の値段です。」
「・・・なんですと?」
魔術師ギルド?それに入れば安く魔法が手に入るんか?
それも100分の1の値段にだと!?
何それ、怪しい宗教的な奴じゃなかったら入るにきまってるじゃん!
「ちなみに、その魔術師ギルドというものに入ると、何かデメリットでも?例えば、会費が高いとか、魔獣退治のノルマがあるとか・・・」
店員さんは目をきょとんとさせて、俺が何を気にしているのか分かったのか、大いに笑った。
「ははは、ないない。そういうデメリットはないですよ。ていうか、魔法を覚えようと思う人は大体魔術師ギルドに入っているものだと思いますけどね。いたってポピュラーな組織ですよ。」
「なら入ります!どうすれば入れるんです?」
すると店員さんは引き出しから紙を取り出した。
「こちらが申請用紙なので、こちらにサインを頂ければそれで結構です。」
俺は迷わずサインした。
「では、魔法を覚えましょうか。水晶に手をかざしてもらえますか?」
こうして、俺は銀貨10枚で生活魔法と土木魔法の二つを手に入れた。
覚えた魔法はさっそく試さなければ!ということで、冒険者ギルドでグリーンスライムの狩猟を受注して生息地にやってきた。
「相変わらず、うようよいるな。こいつら、どうやって増えるんだろ?」
なんて、疑問はまぁ、おいといて、早速土木魔法を使ってみた。
この世界の魔法は特に詠唱を必要としない。頭の中でイメージを練ってムンッと気合を入れるような感じ。
そして、俺の目の前に縦横高さ2メートルの穴が出現した。
今までこれより雑な穴を掘るのにどれくらい時間を要したことか・・・
もっと早く魔法屋に行くべきだったと後悔した。
しかし、結構魔力が持っていかれている感じがする。
口寄せより魔力消費量は多そうだ。
「こりゃ、注意して使わないとな。」
というわけで、ひたすら穴にグリーンスライムを口寄せする。
あっという間に穴にはグリーンスライムが10匹入った。
そして、いつもの通り油をグリーンスライムにかけ、いつもだったら松明を投げ入れるところを今日は生活魔法で着火だ。
ゴォォォォォォ
いつもの通り、グリーンスライムは炎で焼かれて息絶えた。
「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ」
最近やってなかったガッツポーズ。
生活魔法に土木魔法、これはいいものを手に入れたものだ。