表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/27

成功体験を繰り返す

「・・・にわかには信じられませんね」

「・・・と、言われましてもね・・・・」


俺は冒険者ギルドの受付のお姉さんに尋問を受けていた。


お姉さんの話によると、グリーンスライムは確かに強いモンスターではないが、武器ではなかなか倒せない厄介なモンスターである。1匹や2匹であればまだしも、10匹も倒してくる下位冒険者などなかなかいない、とのこと。


俺としては狩猟成果を認めてもらわないことにはお金が得られないので、口寄せスキルのことも含め倒し方を説明した。


「口寄せ、ですか。それはまた珍しいスキルをお持ちなんですね。」

「そうなんです?スキルショップで安く売られていましたが・・・」

「売られてるからと言って習得できるわけではないんですよ。」


ああ、確かにスキルショップの店員さんもそのようなこと言ってたな。


「それに・・・口寄せのスキルで魔獣を死地に呼び込むなどというスキルの使い方は初めて聞きました。」

「うーん、それについてはむしろ私のほうが不思議ですね。逆になんでそういう使い方をしないんです?効率的だと思うんですけどね。」

「なんでと言われると困りますが、えてして冒険者というのは日ごろの鍛錬の成果を魔獣の狩猟で試そうと考える方が多いものですから・・・効率性というのは二の次と考えているのではないでしょか。」

「まぁ、目的の違いですかね。私からすると、生活のために狩猟してるので。」


受付のお姉さんはため息をついた。倒し方についても納得だ。グリーンスライムは火に弱い。火魔法を使わずとも、大量の油を用いて燃やされればひとたまりもないだろう。これは認めざるを得ない。


「承知しました。ではこちらが報酬となります。」


差し出されたのは銀貨1枚と銅貨50枚。冒険者ギルドとしては決して大きな報酬ではない。

だが、たった1日で稼ぐ金額としては、下位冒険者からすれば破格の報酬だ。

なんせ、銅貨40枚もあれば1日の生活費としては十分だから。


「そういえば、お姉さんのお名前教えてもらえますか?」

「ごめんなさい。ナンパはお断りなんです・・・」

「いえ・・・今後もお世話になると思うので、名前くらいは知っておこうと思っただけなんですけど・・・」


お姉さんは赤面する。めっちゃ可愛い・・・ナンパなんていうコミュニケーションの高等技術は持ち合わせていないが、それができるのならぜひそうしたい。


「そうでしたか。エミールと申します。今後ともよろしくお願いしますね。」

「エミールさんですね!こちらこそよろしくお願いします!」



冒険者ギルドを後にした俺は宿屋を探す。

そして何件か回って見つけたのが、1泊銅貨15枚の「宿屋 日暮」。なんか、その日暮らしをする人のためにあるような宿屋だ。風呂はないが、お湯とタオルは貸してくれるので、最低限の清潔さは保てる。なんといっても安い。


「10泊分お願いします。」

「はいよ。貴重品は自己管理だ。ドアにカギはあるといっても、そんな頑丈なものじゃないからね。」


なるほど、確かに俺の世界のホテルとは強度が比較にもならない木の扉だ。タックルすれば俺でも突き破れそう。


「分りました。ではお願いしますね。」


部屋にはいり、俺はベッドに倒れこんだ。

いや、本当にいろいろあった1日だった。


異世界召喚されたあと、まさかの追放。そのあとスキルを購入して魔獣を討伐し、宿を借りて今ここにいる。怒涛の1日だった。


「さて、これからどうしようか。当面は生活費を稼がないとな・・・てか、あのお姫様、嘘ばっかりじゃないか!銀貨1枚あれば1か月は生活できるとか、どう逆立ちしても無理!」


今手元にある金額はというと銀貨4枚に銅貨70枚。俺の全財産だ。

なんだかんだ言って、スライムを倒すために松明と油を買わないといけないので、それだけで銅貨20枚は飛んでいく。

それに対して報酬は銀貨1枚に銅貨50枚だったので、銀貨1枚と銅貨30枚のプラスなわけだ。


そこからさらに、宿屋代と食事代の合計銅貨30枚が消費されていくので、銀貨1枚のプラスになるはず。


とはいえ、服も買わないといけないし、装備や持ち物もそろえていかないといけない。

銀貨1枚のプラスでは心もとない。


「はぁ〜」


思わずため息が出てしまう。


「とはいえ、まずは今日の狩猟は成功だ。これをしばらくは続けていくしかないかな・・・・」


そして、俺は眠りについた。



翌日以降も初日の繰り返しだ。


松明と油を買って穴にグリーンスライムを口寄せし、燃やす。ひたすら燃やす。

ただ、いくつかわかったことがある。


まず、口寄せについて


1回の口寄せで消費する魔力は5ポイントだった。したがって20回は使える計算だ。

もっとも、スキルショップの店員に聞いた限り魔力の数値がゼロになると気絶するらしい。

グリーンスライムがうようよいるようなところで気絶なんてしたら死ぬだけなので、それだけは避けないといけない。


このことが分ってからは、穴に口寄せするスライムの数を10匹程度から15匹程度まで引き上げた。

それによって多少は効率よく稼げるようになった。



次に、魔力について


魔物を倒すことで、魔物が持つ魔力をわずかながらゲットすることができる。

10日目にスキルショップで魔力を測ってもらったら、100だった魔力ポイントが110になっていた。


「まだまだですねぇ・・・」


と、店員さんから憐れむような眼で見られたのは言うまでもない。


なんでも、魔力ポイント100というのは駆け出しの冒険者の中では少し多いくらいの数値。

一人前の冒険者となると、魔力量は500前後とのことらしい。


別に一人前の冒険者を目指しているわけではないが、自分の非力さが情けない。



そして、最後に雑食スキルについて


このスキルを買ったのは、食事代さえ払えない状況になったらその辺の草や町で出される残飯をあさって生きるしかないということを想定して、なかば最悪の事態を見据えて買ったものだ。

この想定は正しく、少なくとも雑草を食べても腹は満たせることが分かった。しかも、毒草を食べても大丈夫。


ただ、さすがに雑草を食べてもウマいわけではないので、検証で何度か試した後は使っていない。


おそらく、グリーンスライムも食べれると思うんだが、燃やしちゃうので食べれない。

それに、さすがに町の汚水を食べてるグリーンスライムを食べるのは気が引ける。

というわけで、グリーンスライムへの検証はできていない。いや、グリーンスライムなんて食べなきゃいいけない状況というのは、本当に最終手段だ。


以上が10日にしてわかったことだ。


そして、グリーンスライムの狩猟数はなんと130匹になっていた。

所持金も銀貨15枚ほどになっていた。


グリーンスライムばかり狩猟しているもんだから、エミールさんからよくからかわれる。


「洋平さんは本当にグリーンスライム好きですね」

「いや、別にフェチとかじゃないですからね?」

「それは引きますね。」

「いや・・・だからですね?」


エミールさんはころころと笑う。


「あはは、わかってますよ。でも、これはすごいことです。グリーンスライムの狩猟数なら、おそらく王都1位ですよ。」

「・・・あまりうれしくないですね・・・」

「じゃあ、たまには違う魔獣でもチャレンジしてみます?」

「いや、まだいいです。やっと軌道に乗ってきたところなので、もうちょっとグリーンスライムで稼がせてもらいます。」

「そうですか。期待してますね。」


エミールさんの笑顔がまぶしい。こうやって何人の冒険者が彼女に惚れたのか。


エミールさんとの会話を終えて冒険者ギルドを出ようとすると、ほかの冒険者とすれ違う。


「お!スライムハンターの洋平じゃねぇか!」

「おお!こいつがあの・・・」


このように呼びかけられることも増えた。ことグリーンスライムの狩猟に関してはちょっとした町の有名人になっていた。

決して侮蔑の混じったものではない、好意からくるものだ。


ちょっとうれしい。


「やっ、やめてくださいよ。なんか格好悪いじゃないですか!」

「がはは、いやいや、俺たちゃお前のこと買ってるんだぜ?グリーンスライムなんて普通狩猟しようと思わんからな。汚いし、面倒だし、報酬悪いし」

「いや、それほめてないですよね!?」


そう、それがグリーンスライムの狩猟に対する一般的な評価。

だからこそ、俺なんて底辺の冒険者が付け入る余地があったのだが。


確かに他の魔獣を倒してみたいという気もないわけじゃないけど、俺のスキルを考えたときにグリーンスライムが一番いいんだよな。


今のところ、魔獣を見つけて穴に落とすという戦略しかないが、確かにほかのモンスターでもそれは通用するだろう。

だが、問題はそのあとだ。例えばワイルドボアを穴に落として、まぁ、槍か何かで刺殺したとしよう。そのあと、穴からワイルドボアを取り出すことがまずできない。なんせ、奴らの重量ときたら200キロはある。そんな重量を持ち上げられるだけの筋力ないからな。仮に取り出せたとして、そのあと町に運ぶ方法がない。


勿論、狩猟の証になる牙だけ持って帰るという手もあるが・・・それはちょっと魔獣とは言え生き物に対する冒涜というかなんというか。だって、巨大な猪だよ?猪を狩猟したら普通牙も皮も肉も洩れなく頂くでしょ。それが狩猟した生き物に対する感謝の念というかなんというか。猟師じゃない自分が偉そうに言えることじゃないけどね。


仲間がいるなら素材を全部持ち帰れるんだろうが、俺にはそんな仲間はいない。


「仲間かぁ・・・」


仲間というか、クラスメイトならこの世界にいるが、奴らが手伝ってくれるはずがない。彼らの頭の中では、俺はすでにいない存在だ。


じゃあ、この世界の冒険者とお友達になって、パーティーでも組むか?というと、気が引けた。

何故かといえば、俺が相手を信用できない。十中八九俺より相手のほうが強いわけで、裏切られて殺されたりなんてするかもしれない。


「裏切られるのもテンプレだよな。となると、テンプレ的には奴隷を買うんだけど・・・まだいいかな。それより、今は金稼がないと!」


なんで俺が金を稼ごうと思っているかといえば、勿論生活の余剰資金を得ようと思っているところもあるが、使えるスキル・魔法を増やしたいと思っているからだ。特に魔法は最低金貨1枚からという。


「あ・・・そういえば、どんな魔法が買えるのか見たことないな。ちょっと魔法屋に行ってみるか。」


以前魔法屋に行ったときは、一番安い魔法でも金貨1枚は必要と言われた結果、それがどんなものか見ることなく店を出てしまった。どんな魔法が買えるのか見てみたい。


そう思い、俺は魔法屋に足を運んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ