グリーンスライムの狩猟
「あれがグリーンスライムか」
ちょっと見てて気持ち悪い。緑色のぷるるんとした物体がうごうごと動いている。
まだ透明ならよかったのだが、見事なまでのグリーンだ。
「なんか・・・臭そう・・・」
そう、何故王都の東のルイス川にグリーンスライムが繁殖しているかといえば、王都から垂れ流される汚水を餌にしているからだ。したがって、グリーンスライムがいようといまいと、俺が立っているルイス川の川辺は臭い。
「もしかしたら、こいつらは環境を保全してくれているのではないだろうか・・・」
となると、俺がやっていることはむしろ環境破壊!?
いやいや、俺が生きるためだ。あいつ1匹で今日の食費、3匹で宿屋!
それに、聞いた話だとグリーンスライムは人も襲う。襲われると体を溶かされてお陀仏なのだそうだ。
「油断はできないな。なんといっても俺はただの人間。」
俺はさっそく準備に取り掛かる。
え?殴り込みにいかないのかって?
冗談はよしてください。俺はただの人間ですよ?それに・・・だ、効率性ってもんがある。
1匹1匹まともに相手してたら日が暮れる。そもそも、まともにやり合って俺が勝てる保証がない。
そのために取得した口寄せスキルだ。
この口寄せスキルは目視できる範囲の動物を自分の傍に召喚することができる。
つまり、いちいち魔獣のところまでこちらから近づいていかなくてもいいということ。
もっと言えば、あらかじめキルゾーンを設けておき、そこに口寄せすれば効率よい狩猟ができるはずだ。
そう考えると結構便利なスキルなのだが、なぜこれがスキルショップで売れ残ったかというと理由がある。
第一に、覚えられる人がいなかった。俺は運がいい。
第二に、テイムや召喚魔法といった魔獣を戦力化するスキルや魔法がとりだたされて日の目を浴びなかった。口寄せしても、自分に襲い掛かってきたら厄介だもんな。
これは後日スキルショップの店員さんに聞いた話だけどな。
第一の理由はまぁ、どうしようもないけど、第二の理由はもったいないの一言だ。
「きっとこの世界の住民は脳筋か俺TUEEEEEが好きなんだな。うん、そうに違いない。」
なら、俺はその考えと逆の考えに立てばいい。目的はグリーンスライムの狩猟なんだ。
享楽で魔獣を倒しているんじゃあない。
というわけで、俺の戦略はこうだ。
まず、グリーンスライムを見つける。
次に、穴を掘る。グリーンスライムがよじ登ってこれないようなやつをだ。
次に、グリーンスライムを穴に口寄せする
最後に、手に持った松明と油を穴に投入
燃えカスから魔核と魔石を回収しておしまいだ。
既に、町で松明と油、スコップは調達済みだ。問題は調達した松明と油で奴らを殺せるだけの火力があるかどうか・・・その点は賭けになる。
そして、今スコップで必死に穴を掘っている。
1時間頑張った結果、2メータ近くの深さの穴ができた。
「さぁ、うまくいってくれよ?『口寄せ』」
すると、対象のグリーンスライムが堀った穴に口寄せされる。
俺はそれを確認すると、次々にグリーンスライムを口寄せしていった。
次々とグリーンスライムが穴に入っていく。その数ざっと10匹。
なお、1回の口寄せで呼び出せる魔物の数は1体らしい。なので10回口寄せを行った。
「よし!じゃあ、次は火だ!」
俺は袋から油を取り出し、穴に油をぶちまけた。2リットルはある油だ。
そしてすぐさま松明を穴に入れた。
ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ
穴からすさまじい火の手が上がる。
声を出す魔獣だったら断末魔の鳴き声でも出すのだろうが、スライムはそうではないらしい。
ただのたうちまわるようにもがき、そしてやがて火に焼かれて死に絶えた。
グリーンスライムが鳴かないモンスターでよかった。もとい、哺乳類的なモンスターじゃなくてよかった。魔獣といえど、生き物を火で焼き殺しているんだ。何も感じないはずがない。
今日この時まで生き物を殺すなんて経験とは無縁だった俺が、まさか割と平然と生き物を殺しているなんて、想像つかないな。
俺は穴の中の様子を見た。中には魔核と思われる石があるだけで、グリーンスライムの姿はない。
完全に燃え尽きてくれたようだ。
「よっしゃぁ!作戦成功!」
俺はガッツポーズした。
生まれて初めての狩猟。それも、自分が生きるための狩猟だ。生き物を殺すという点については考えることがないわけでもないが、うれしくないはずがない。
俺は魔核を回収して、意気揚々と町に帰った。