まさかの勇者リストラ
さすがにドキドキする。そして目をつむって思いっきり水晶に手を触れた。
「・・・」
返事がない。ただの丸い透明な石のようだ。
うっかり、俺は傍らにいた貴族っぽい人に質問してしまった。
「あの、何も反応がないのですが!?」
すると、貴族は訝しがり水晶を調べ始め、こう告げた。
「授与されるスキルが尽きたみたいですね・・・」
それを聞いたクラスメイト、王宮の面々は目が点。まぁ、俺もだが。
「「「・・・・・」」」
さすがにこの沈黙は俺がつらい。
「えっと、つまり、私はスキルが与えられないと、そういうことですか?」
「・・・そうなりますね」
王女様と話せた。少し幸せ。
「えっと、ということは、私は勇者じゃないと・・・?」
「そう・・・ですね。さすがに勇者として与えられるスキルがないことには・・・汎用的なスキルはスキルショップで買えたりしますが、あくまで汎用的なものですし・・・」
「・・・」
クラスメイトの俺を見る目がね・・・
さすがにこの時ばかりは和田という苗字を恨んだものだ。
「だせー・・・」
「まぁ、和田らしいといえば和田らしいんじゃない?」
「いてもいなくても大差ないからいいんじゃない?」
「考えようによっては、魔王が討伐されるまで王宮でのんびりできるな」
クラスメイトの心ないコメントが俺のガラスのハートを傷つける。
でも、スキルがなけりゃ魔王退治なんて無理だもんな。王宮でのんびりしてよう。
俺は王女様に向き直って「ことが終わるまで王宮で過ごさせていただきます」と言おうとしたが・・・先手を打たれた。
「さすがに勇者でない方を王宮にとどめておくことはできません・・・」
マジか。まいった。
「でも、勝手に召喚したのはそちらですよね?あなた方には私を養う義務があるのでは?」
「勿論、多少の支度金は出します。そのお金で自立していただけないでしょうか?」
「ちなみに、支度金とはおいくら程でしょうか?」
「そうですねぇ・・・財政も厳しいですし、銀貨10枚ですね。」
「銀貨10枚で一般的にどの程度生活できるのでしょうか?」
「庶民の暮らしは私にもよくわかりませんが・・・王都の平均的な月収が銀貨1枚と聞いてますので、まぁ、1年は過ごせると思いますよ?」
ちなみに、後で調べたところ、この国の通貨事情はこんな感じ。
白金貨1枚=金貨100枚
金貨1枚=銀貨100枚
銀貨1枚=銅貨100枚
食事1食=銅貨5枚
宿屋1泊=銅貨20枚
普段着1着=銀貨1枚
結論から言えば、嘘だった。
食べて寝るだけの生活をするにしても1日に銅貨35枚いる。1年だと金貨1枚に銀貨約30枚は必要だ。
で、交渉は続く。
「いや、それじゃあ独り立ちできないですよね?だいたい、その魔王だって1年で倒せる保証もないんでしょ?」
「本当に財政が厳しくて、それ以上のお金がないのです」
シルクっぽい豪華な服に高そうな貴金属を身に着けた王女様が何を言うのか・・・
しかし、なぜかクラスメイトは王女様の見方だ。
「おいおい、和田よぉ。ちょっとはお前も頑張ろうや?」
「役立たずのくせにお金までせしめようとか・・・サイテー」
「これが甘えってやつだな」
「王女様かわいそう・・・」
お前らの苗字が和田だったらお前がこうなっていたんだぞ?
と、思い、俺はクラスの連中をにらみつけた(さすがに)。
だが、もう何を言っても無駄なんだろうな。
ふぅっとため息をついた俺は、王女から銀貨10枚を受け取って城を出た。
よく考えたらせいせいしたわ。
あんな連中と四六時中ずっと一緒かと思うと辟易だし、勝手にこの世界に召喚してきた王宮の奴らにも腹が立っていたのだ。
こうして、この世界での一人気ままな冒険がスタートした。