独房からの脱出を考える
独房に捕らわれた俺だが、幸運だったといわざるを得ない。
何がといえば、俺には「土木魔法」があるので、岩や石、鉱物でできた壁や床なら穴をあけられる。そしてここは石を積んで壁や床が作られていた。
そして、もう一つ。
通常、スキルや魔法を持った人間を独房に入れるなら、スキルや魔法を使えないように何らかの手を打つものかと思っていたが・・・何もされていない。
先ほど「土木魔法」が使えるか確認したらばっちり使えた・・・
何でこうも対応がザルなのだろうか。逃げてくださいと言っているようなものだ。ああ、俺はこの王国内では無能扱いだったな。「口寄せ」のスキルが使えるところは知っていたようだが、「土木魔法」が使えることは知らないようだ。
なんだろ?俺の情報について、王国に伝わるものと伝わらないものがある?まぁ、そんなものは今考えてても仕方ない。
確か、俺が王女に会ったのは14時くらいだったはず。そこから1時間もたたないうちに独房に入れられたから、今はおそらく15時くらいか。
ただ、逃げるといっても町を覆う城壁を突破できるとは考えていなかった。
「城壁にはは四六時中見張りがいるし、土木魔法で穴をあけるにしても時間がかかる。」
流石の土木魔法でも、石でできた分厚い城壁に人が一人通れる穴を作るには相応の時間が必要だ。さすがにその時間を兵士に気づかれずに稼げるとは思えなかった。
「ならば、例えば下水道とか?ううっ・・・あんまり行きたくはないけど・・・」
この独房は城の地下に作られていた。だから、近いところに下水道に出られるルートがあると思うのだが、いかんせん方向が分からない。
と、考えたら俺の目の前にそのヒントとなるものがあった。
「あっ・・・トイレか・・・」
どっちだろう?汲み上げ式なのか、そのまま下水道に伸びているのか?汲み上げ式なら単に出口のない穴があるだけだ。だが、確かめないことには何ともならない。
というわけで、俺は隠し持っていたあるものに相談した。
"なぁ、スラ吉?この穴から下水道に伸びているか確認できるか?"
そう、城に来る前に何かに使えるかも?と思った俺は、グリーンスライムの配下の中でも最もサイズの小さなスラ吉を懐にしまってきたのだ。武器の類は城に入る前に兵士にチェックされたが、服の中、それも胴回りに忍ばせて置いたスラ吉には気づかれずに済んだ。
もっとも、懐に忍ばせる際にひんやりと気持ち悪い気分を味わったのは言うまでもない。
(あ、はい。確認できると思います。)
といってスラ吉はトイレの中に入っていった。ちなみに、そのトイレは日本のように流せるトイレじゃあない。所謂ぼっとん便所といわれるものだ。だからスラ吉が入っていけるわけだが、一方で独房に当然汚物の匂いが充満するわけで・・・その匂いは推して知るべし、である。
しばらくすると、スラ吉が戻ってきた。
(下水道につながってますね。下水道に至るまで、大した危険もありません。せいぜいネズミがいる程度です)
"よくやった!ということは、あとはこのトイレの穴を俺が通れる程度に拡張すれば何とかなるか。"
(そうなります)
"よし、じゃあ、時間になるまで待機だ"
(あいあいさー)
ちなみに、俺の腕には日本から持ってきた時計が巻かれているし、この世界の時間にセットアップしたから時間はばっちりわかる。
俺は時間になるまで一休みすることにした。
すると、壁から声が聞こえてきた。
「あのぉ~・・・お隣さん・・・ですかぁ?」
何とも気の抜けた女性の声。それにしても、独房のお隣さんとは、こりゃいかに・・・