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第8話 最弱な僕と双子のゴート

 休み時間が終わってからかなり時間が経った。僕とオルディンさんは山の中腹辺りまできていた。ふぅ~。あれからかなり歩いたぞ。後は……どれくらいになるんだろ? 首を傾げながら歩いているとオルディンさんが急に立ち止まった。


「うわぁ!?」


 思わず僕は声をあげた。だってオルディンさんの背中とぶつかりそうになったから。……にしても洞穴の数が増えたような気が。気のせいかな。ここにくる途中から薄々と感じていたことなんだけど。まさか。竜が相手じゃないよね!? 無理だよ? それは。


 僕が重圧に負けてほんちょっとだけ引き下がった。その時の表情は引き攣っていたと思う。にしても……オルディンさんは振り返ることなく遠い視線を辺りに送っていたと思う。うん? この感じからしてオルディンさんは獲物を見つけようとしている?


 うーん。ここからだとなにも見えないな。そもそもオルディンさんの身長が高いんだ。あ……いや。まてよ。僕の身長が低い可能性もある。はぁ~。こういう時に身長が低いって不便だな。それに……絶対に威厳の欠片もないもんな。僕はそう思ってしまう。


「お? いたぞ。あれは……どうやら双子のゴートらしい」


 うん? 双子のゴート? ゴートは分かるけどよく双子って分かるもんだな~。って! なんだって!? もしかして今の僕が未来で対峙する相手は双子のゴートなのか! 本当に適正なのかな~。なんだか。一気に不安になってきたよ~。大丈夫かな~。


 うーん。今の僕は最底辺のリディなんだ。分かりやすく言えばオールGのリディなんだ。く。リアスの稼業パーティになんかに負けたくない! だから僕は! だから……僕は! いずれ立派な稼業パーティを作るんだ! そして……リアス達を見返すんだ!


 僕の意気込みは十分だ。あとはいかに負の連鎖を断ち切るかだ。今もこうしてリアス達は楽しい稼業パーティを作っているんだ。僕が……僕が……どんだけ苦しい思いをしたか。成長して有名になって見返してやるんだ。だから! 僕の糧になれ! ゴート!


「そう。硬くなるでない。よいか。あそこにいる双子のゴートを退治出来たら達成じゃ」


 うへ? 退治? 討伐じゃなくて? なんだか。一気に拍子抜けしちゃったな。なんかの理由があるんだろうな。……仕方ない。ここは我慢して退治だけにしておこう。それにしてもいきなり二匹の相手か。しかもそれが双子だなんて……なんだか緊張する。


「まだ表情が硬いのう。やめるなら今の内だぞ? どうする?」


 嫌だ! ここでやめるなんて出来ないよぉう! だって……だって……全てはリアスへの仕返しなんだから。言ってやるんだ。出来損ないのリアスって。たとえ言えなかったとしても僕は心の底でそう思い続けるんだ。だから……ここは……。


「やまめせん! 行きます! 戦います!」


 そうだよ。そうじゃなきゃオルディンさんに示しがつかない。行かなくっちゃ。行けばなんとかなる! そうだ! もっと自分を鼓舞するんだ! 僕なら出来ると! リアスなんかに負けないぞ! 成長し続ける気持ちがあればこその未来だ。僕だけのだ。


「そうか。なら行くといい。ちなみにゴートは数が増えすぎて困っている。これより緊張事態とみなし退治をする。よいか」


 そうだったのか。なんだろう。猪といいゴートといい。なんだか。複雑だな。しかも緊急事態だなんて人間のエゴなんじゃあ。あーでもこうしないと僕が狩れないしな。あ……狩るというより今日は退治のみする……か。心して掛かろう。無駄な命は奪わない。


「はい! 理解しました!」


 覚悟を決めよう。いや。もう既に覚悟を決めた……だ。あとは……オルディンさんの許可を得るだけだ。そんな感じの僕をほったらかしにするようにオルディンさんは双子のゴートの様子が気になっていた。どうやら僕に行けの合図を送ってくれるらしい。


「行け! 今だ!」


 オルディンさんが言い終わった後に僕は双子のゴート目掛けて突っ込んだ。僕は走りながら両刃直剣の柄を掴み鞘から引き抜いた。どうしていきなり引き抜いたのかといえば先手必勝だと思ったからだ。しかし今の僕は最底辺の動きしか見せれない。く。


 どうやらゴートは竜と同じで視力が悪いみたいだ。これだけ近付いても気付いていない。しかしさすがに一撃を与えられる距離になるとこちらに目線をやり始めた。だけど僕はもう一匹の背後を狙っていた。これも策略の内だ。最弱な僕でも勝てる。


 僕は目の前の地面を気にすることなく走り続けた。それが災いした。なんと石場が悪かったのか。僕は躓いてしまった。く。痛い。だ、だけどここは。僕は懸命に立ち上がろうとした。く。失敗したけどまだやれる! そうだ! 成し遂げなくっちゃ!


 いきなり転んだ僕は急に立ち上がり両刃直剣を前に構えた。その瞬間に僕は嫌な光景を眼にした。なんと双子のゴートが今にも連携技を放ちそうなくらいに共に行動していた。しかも転んだ拍子に狙っていたゴートにまで気付かれたようだ。あーどうしよう。


 いまさらになって逃げるなんてことは出来ない。ここで逃げたら恥晒しになる。だけどオルディンさんのことだ。黙っていてくれるかも知れない。もし……じゃない! 僕は今……なにを考えていたんだ! 負けることは考えるな! 勝つことだけを考えろ!


 僕は負けじと走り出した。この時は自然と両刃直剣の構えを解いていた。一方の双子のゴートはじっと耐えていた。だけど途中から身の危険を感じたのか。双子のゴートはなにやら声を荒げ始めた。その次の瞬間に乱雑に落雷がおき始めた。なんだ? これは?


 ま、まさか。双子のゴートの仕業なのか。それにしてもやばい。さっきまで乱雑だったのにどんどん精度が増している。く。なら……突っ走るまでだぁあ! 音が鳴る。そして落ちてくる。うん。精度が怖いけど循環は一緒だ。これさえ分かれば怖くない。


 ただ難点なのは止まれないということだ。きっとこの感じからして逆手を取っても双子のゴートには耐性があるに違いない。だけどこれでは埒が明かない。だからここは負けずに切りに行くべきだ。負けない。その心があればこその勝利だ。行くぞ。


 次々と落ちてくる雷を間一髪で避ける。凄い轟音だけど気にしなかった。本当は怖い。だけどそんなことを言っている場合じゃない。とここで僕が跳べば切り付けれる距離まで近付くと左側のゴートが突っ込んできた。一方の右側のゴートは逃げていった。


 仕方がないので突っ込んできたゴートを先に退治することにした。目の前のゴートは体当たりをする気が満々だ。く。今の僕に立派な剣技はない。使えそうな剣技といえば居合い切りに似た銅抜きくらいだ。ああ。僕の力はGなんだ。出来るのか。こんな僕が。


 やってみせる! 今度こそ! あの時は魔力剣だったけど今の僕なら出来るじゃないか! 違う意味の不便さがあるかも知れないけれどやるんだ! 思い立った瞬間に僕はゴートに対して銅抜きをした。ぐ。なんて剛毛なんだ。切り付けれない。手首が痛い。


 く。それでもちょっとは切れたようだ。だけどこれだと日が暮れる。いくらなんでもこんな勝ち方じゃ駄目だ。自分が納得しない。ああ。これが本当に適正な魔物なのか。なんかの間違いじゃないのか。これは。く。逃げるは男の恥だ。だからってここを。


「切るだけが脳とは限らんぞ! もっと弱点を見つけるんじゃ!」


 オルディンさんの助言だ。そうか。今の僕は切るだけに拘っていたのか。ならここは……どうすればいいんだ? さすがに訊き返すのは駄目だろうな。ふぅ~。僕はそう思いつつも挟み撃ちに合わないように走り続けていた。そしてようやく折り返し地点だ。


 どうやら逃げたゴートはまだ戻ってきていないっぽいな。ならここは好都合だ。さっさと退治しないと。振り返って走り続けていると目の前にゴートが立っていた。その姿は凛々しく今にも後光が差してきそうだった。悪いけどここは退治するんだ。絶対に。


 未だに治まることを知らない落雷が続いている。直撃しないように走り続けた。そして……また……跳べば一撃を与えれそうな距離になった時に僕は一瞬だけ見えたんだ。ゴートの弱点を。本当かどうかは分からないけどそこに打ってみよう。最後の賭けだ。


 またしても目の前のゴートが突っ込んできた。フフ。相変わらすな動きだな。動きが単調すぎるよ。君は。僕はそう思いすれ違い様に今度はゴートの脚の間接部分を狙ってみた。すると……ゴートが悲鳴をあげた。よし! 効いてる! このまま押し切ろう!


 と思いきや悲鳴をあげたゴートは余りの痛さにどこかに逃げていってしまった。するとその先に逃げた筈のゴートが戻ってきていた。なんだろう。二匹は仲良く逃げ始めた。はぁ。ふぅ~。これって……勝ったのかな。なんだか。分からないけど。どうだろう。


「うむ。見事に退治したな。しかし油断はするなよ。あれはまだ可愛い方じゃ」


 オルディンさんから達成条件を満たしたと言われた。はぁ。ふぅ~。よかった~。こんなにも息を止めていたなんて。はぁ。はぁ。ふぅ~。初めてだ。こんなにもドキドキしたのって。だけど……これから先はもっとドキドキすることに遭遇するんだろうな。


「素晴らしいくらいに見所がある奴じゃ。どうだ? ワシともっと修行をせんか」


 え? 読心術? それって……僕を。


「僕を……弟子にしてくれるってことですか」


 そんな幸せがあるんだろうか。これほどまでに強いお方と修行が出来るなんて。あ……でも稼業しながら修行なんて出来るのかな。


「ほっほっほう。その表情は……両立出来るかが心配なんじゃな。ほっほう。安心せい。お前さんの足りない知識を足すだけじゃわい」


 足りない情報を足すだけ? なんだろう? 凄く気になる。ここは訊くべきだろうな。


「どういうことですか。それは」


 足りない知識を足すということはまだまだ当然だろうけど僕の知らないことが一杯あるってことだ。一体……なにが僕を待っているのだろうか。


「なぁあに。ワシはただお前さんの後ろを付いて回り。そこで適正な魔物について教えるだけじゃ。な? 簡単じゃろう?」


 なるほど。それなら僕でも両立が出来そうだ。……え? ということは……オルディンさんが僕の仲間になったってことなの? これって。


「ところでお主の名前は?」


 あ……そういえば伝えていなかったよ。ここは早く伝えなきゃ。


「僕の名前はリディです」


 なんだろう。初めての稼業仲間だ。それがまさかオルディンさんになるとはな。夢にも思わなかった。


「ほっほう。そうか。リディか。今日から宜しく頼むぞ。リディ」


 オルディンさんが最初に言った。そ、そんなぁ~。そこは僕が先に言う場面ですよぉ~。あ……でもここは。


「はい! こちらこそ! 宜しくお願いします! オルディンさん!」


 こうして僕の稼業パーティにオルディンさんが加入することになった。在籍理由は僕の成長を見届けたいからだそうだ。うはぁ~。なんだか凄い人に眼を付けられたよ~。これから僕の稼業パーティはどうなっていくのだろうか。

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