第7話 竜狩りのオルディンと闇堕ち竜との遭遇
僕の目の前をオルディンさんが通っている。はぁ~。本当に向かうことになるなんてだれも思わないよな~。僕達は山の洞穴を避けつつも天寿草を探していた。うーん。薬草よりも時間が掛かりそうだな。これは。
昔から山の洞穴には竜が棲んでいるとされていた。だからこそに山の洞穴を避けてきた。さらにいえばオルディンさん曰く竜の視力は悪いらしく大きな音が鳴らなければ無事でいられるらしい。うーん。そうなのかな~。
でも歴戦のオルディンさんが言うんだからそうなんだろうな。そもそも大きな音なんて鳴る要素がないもんな。ということは意外に竜とは遭遇しないのかもね。なんだ~。凄く拍子抜けしたよ~。てっきり空を覆う程の竜がいると思っていたよ。
「ほっほっほう。天寿草はな。滅多に見つからん。欲する者の裏を掻くことじゃ。ほしければのう」
そうなんだ。そんなに価値があるのなら報酬もそれなりじゃないと駄目だよね。適正価格なのかな。サイババさんの報酬額って。でもここは人が困っている訳だから……あんまりお金に糸目はつけない方がよさそうだな。ここは。
にしても空を覆う程ではないけど少なからず飛んでいる。竜が。ふぅ~。何事もありませんように……と。もし竜と戦うことになったらどうしようなんて考えない方がいいな。だっていざって時に怖気づいて逃げれなかったら最悪だもんな。
はぁ~。欲する者の裏を掻くか。なんだか。オルディンさんは僕を試しているのかも知れないな。なぜかは分からないけど……なんだかそんな感じがした。って! 今は天寿草を探すことに集中しないと! じゃなきゃ日が暮れちゃうよ。
「うむ。探すことに集中するべきだな。日が暮れると竜が目覚め始めるからのう」
うわ。嫌なことを聴いた。ならここは早くしよう。うーんと……ない。……ない。……ないよね。これは多分だけど人が群がって取り過ぎた可能性があるな。これは。だとしたらなんていうことなんだ。ご利益にあやかろうと皆が。
とその時だった。僕が最後まで思おうとしたらどこからか大きな雄叫びが聞こえた。え? なんだ? なんだ? 一体……なんの雄叫びなんだ? これは? ふとオルディンさんの方を見ると険しい表情をしながら空を見ていた。
慌てて僕もオルディンさんと同じ空を見始めた。するとなにやら一匹の黒い邪気を身に纏った竜が口から黒い吐息を出しながら空高くに上昇していた。僕は背筋が凍る思いだった。そして謎の竜は僕の住む城下町に向かい始めた。
「い、いかん! あ奴は! 闇堕ちしておる! ここは」
へ? 僕が呆気に取られていると……オルディンさんは道具入れからなんかの角笛を出し吹き始めた。うん? これって……ま、まさか! 気が付いた時には既に遅く謎の竜は僕等の現在位置を把握したに違いない。く。戦うんだ。ここで。
僕はオルディンさんから謎の竜へと視線を変えた。すると謎の竜はいなかった。すぐに謎の竜を捜すと見つからなかった。その瞬間だ。オルディンさんの方から謎の咆哮が聞こえたのは。え? いつの間に? 僕は慌ててオルディンさんを見た。
すると……既にオルディンさんは背負っていた大剣を取り外して前に構えていた。は! ぼ、僕も応戦体勢に入った方がいいのかな。で、でも僕なんかじゃあ戦力になんてならないだろうしな。あ……身の保全の為に僕も両刃直剣を出しておこう。
「束縛魔法! バインドショック!」
僕が両刃直剣を出そうともたついているとオルディンさんはなにかを言っていた。残念ながら僕は両刃直剣を取り出すだけで時間を喰っていた。はは。何事も冷静が大事だけど相手が相手だけに僕は緊張している。く。はぁ。ようやく出せた。
「く。あ奴は……歴戦の竜とでも言うのか。魔眼によって魔法が打ち消されたわい」
慌ててオルディンさんの方を見るとなにやら苦戦しているようだった。なにか。なにか。僕に出来ることはないだろうか。ふぅ~。なさそうだ。残念だけど。歴戦の竜? オルディンさんが言うんだから間違いはなさそうだな。
「こうなれば……重力魔法! グラビティフォール!」
今度ははっきりと聞こえたぞ。オルディンさんは魔法を唱えたようだ。慌てて謎の竜の方に視線をやるとなにやら謎の竜の上に魔法陣が出来上がり黒い線が縦に襲い始めた。うへ? なんだか凄い魔法っぽいぞ。これは。
謎の竜は悲鳴をあげながら地面に落ちていく。なんだろう? 一体……オルディンさんはなんの魔法を唱えたんだろう? 浪漫を感じている場合じゃないけど感じちゃうな。あは~。最低だろうけどここは見守ることしか出来ないや。
とここでオルディンさんが走り始めた。狙いは当然……謎の竜だろうな。あの両刃大剣で残虐だけど謎の竜の首を切断するんだろうな。考えただけでも怖いや。でも……あの感じな竜を放置するなんてどう考えても出来ないよね。
気付けば謎の竜は着地していた。どうやらオルディンさんの魔法が効いているみたいだ。この感じからしてオルディンさんが謎の竜に掛けた魔法は相手を鈍足にするのかも知れないな。もしそうならなんて有利に進められる魔法なんだ。
オルディンさんと謎の竜が対峙している。僕が入れる隙間がないくらいの戦いっぷりになりそうだ。とここで謎の竜が口から炎を吐いてきた。すかさずオルディンさんは両刃大剣で防御した。両刃大剣の刃が上下に向いていた。
謎の竜の炎は執拗に続いた。今のオルディンさんはただひたすらに耐え続けていた。そしてようやく謎の竜は炎を吐くのをやめた。と次の瞬間だ。オルディンさんは両刃大剣を背中に戻し走り始めた。その姿は老人とは思えなかった。
「雷魔法! サンダーボルト!」
オルディンさんが雷魔法を唱えた。これなら僕でも分かる。落雷を起こす魔法だ。鈍足な内に止めを刺そうという魂胆だな。うはぁ~。これが……歴戦の戦いなのか~。凄く参考になるな。あーでも今の僕に魔法は使えない。はは。
って! 笑ってる場合じゃない! ……つぅっ!? なんだ? ……あ? 一瞬の光に遮られたけどどうやら竜の動きからして落雷が起きたらしい。竜は声をあげることなくその場に沈み込んだ。頭を地面に垂らしている。これは?
僕は一瞬だけどオルディンさんが勝ったように思えた。なぜなら竜は気を失ったかのようにピクリとも動かなくなった。もしかしたら意識が混濁しているだけかも知れない。それでも今の竜はオルディンさんと再戦出来るとは思えない。
「命は取らん。浄化魔法! ソウルパージ!」
凄いな。一方的な戦いだった。魔法だけでここまで追い詰めるなんて凄すぎる。一方の竜は完全に沈み返っていたがオルディンさんがソウルパージと唱えた瞬間に暴れようとした。だけど竜の上に未だに魔法陣があり黒い線で抑圧されていた。
多分……そのせいで竜は思った以上に暴れることが出来なかったのだと思う。それでも竜は懸命に暴れていた。ここまで竜を追い詰めるなんて浪漫を感じる。ああ。なんて人なんだ。僕も……ああなりたい! 僕の当面の目標が出来た。
にしてもさっきから蒼白い炎によって浄化されている竜の黒い邪気が消えつつあった。さらに口から黒い吐息が出ていたが既に消えていた。こうして闇堕ちした竜はどんどん浄化されていきやがて普通の竜に戻っていた。
「さて後は……睡眠魔法! スイープミスト!」
これもなんの魔法かが分かった。これはきっとそのまんまで相手を睡眠状態に誘う魔法だ。竜の上の魔法陣から黒い線だけではなくなんと白い粉のようなのが降り始めた。僕は降り注ぐ白い粉を見てなんて美しいんだと心の底から思った。
ああ。これまた浪漫を感じるよ。でもそれだけで僕はなんの役にも立たなかった。これじゃあ思いを寄せただけの人にしかならないような気がする。はぁ~。僕だって指を銜えているだけの人生なんて嫌だ。だから……だから頑張ろう。
にしても完全に竜は沈黙したようだ。といっても僕の感でしかないけど。オルディンさんは相変わらず竜の前にいた。この感じからしてまだ安堵は出来ていないみたいだった。一方の僕はというともうすっかり安堵していた。
「そろそろ……大丈夫だろう。解除魔法! マジックイレイズ!」
うん? どうやら睡眠と気絶以外の魔法を解除するようだ。じゃないとまた戦いが始まりかねない。そうなったらまた僕が見守るだけになってしまう。そんな笑い話があって堪るもんか。いくら相手が竜でも怖気づいたら駄目だろう。なぁ? 僕。
うん。竜が眠っているか。それとも気絶しているかは分からないけどピクリともしない。これはオルディンさんの圧勝だな。オルディンさんもさすがにもう大丈夫と思ったのだろう。僕の元に近付いてきてくれた。なんだか僕は安堵した。
だって……伊達じゃなかったから。本物の戦いを見せられた気分だ。しかもあの伝説の竜を倒すことなくひれ伏せさせるなんて凄いの一言だった。ああ。なんて強い人に会ったんだ。僕は……僕は猛烈に浪漫を感じている。ああ。会えてよかった。
「ほっほっ。なんじゃ? その表情は?」
え? あー! そういえば表情に出さないって誓ったのにぃ! 僕とあろう者が表情に出てしまうなんて。うわー! ショックだぁ! く。一体……どうしたら表情に出ないように出来るんだ。これじゃあ皆から馬鹿にされちゃうよ~。
「うむ? ……とにかくだ。ここは危険だ。天寿草探しは別の場所で行おう」
それに……僕が弱すぎて戦力にならないなんて嫌だ! だからここはオルディンさんに訊いて見よう。どうやったら強くなれるのかを。それを訊けばきっとオルディンさんのことだ。僕に適正な魔物を紹介してくれるかも知れない。だからここは。
「あの! オルディンさん!」
思い切って話し掛けてみた。ここでしか言えないと思ったから。もしここ以外でも出会えるのなら他でもいいけど今の僕とオルディンさんは初対面に近い。だからこの依頼が終わると離れ離れになってしまう。それだけは避けたいんだ。
「うむ? なんじゃ? 一体?」
オルディンさんは困惑していた。それもそうだろうな。だって……まだ会ったばかりの人間から話し掛けられたのだから。だけど僕は……それくらいに強くなりたいんだ! いきなりじゃなくてもいい! じっくりと行かざる負えないところもいく! だから!
「僕! 強くなりたいんです! 天寿草を取りにいった後に適正な魔物を紹介してくれませんか!」
どんな敵でもだと笑われるだろうな。でも適正な魔物なら一匹くらいいるだろう。僕はそいつと戦ってちょっとずつ強くなりたい! 浪漫覚醒なんて関係ない! じっくりとゆっくりとでいいから僕は頑張りたい! 絶対に突破してみせる!
「うん? 適正な魔物というと? 紹介してなんになる?」
オルディンさんが僕の話に興味を持ってくれた。ああ。そうか。肝心なところが抜けていた。僕は戦いたいんだ。なんとしてでも。その為には歴戦の猛者であるオルディンさんの力がいるんだ。だから……だからこそに協力してほしい。
「戦うんです! 僕は……強くなりたい! ちょっとでも!」
もし駄目なら……じゃない! ここで引き下がったら男じゃない! 僕だって……僕にだって出来る筈なんだ! 負けない! 負けたくない! ここまでの情熱を持ったのは初めてだ。ここまできたら後戻りはしない! 絶対に!
「ほう。見上げた根性だな。……ならばよかろう。ワシが教えてやろう。だから今は天寿草を探そうじゃないか」
やった! これで……これでいいんだ! 後は天寿草を探すだけだ! やった! やったぞ! これで僕はちょっとすつでも強くなるんだ! 帰りがちょっと遅くなりそうだけど強くなることも大事なんだ! だから僕は奮起した。とその前に。
「あ! 有難う御座います! はい! 天寿草を探します!」
こうして僕とオルディンさんは約束をし場所を変えて天寿草を探した。天寿草が手に入るまでになんと六時間も要した。だから一回の休みを挟んだ。そこでオルディンさんは昼食を取ろうとしていた。今思えば僕は朝も昼も食べていなかった。
じゅるり。そう僕が恨めしそうに眺めているとオルディンさんがなんと僕に昼食を分けてくれた。僕はオルディンさんから昼食をいただくと群がるように食べ始めた。昼食はとても美味しかった。ふぅ~。後は少し休憩して戦うだけだった。
僕は負けない。休み時間に聴いた話だとこの山に竜以外にも魔物がいるらしくそいつこそが僕が戦う相手らしかった。一体……どんな奴なんだろう。そう。僕は思いながらも休み時間を利用して両刃直剣の柄を握り素振りでもしていたのだった。