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第6話 武具屋の頑固な店主と病弱な孫を救え

 僕とアイリーンさんは何事もなく武具屋に辿り着いた。うーん。随分と寂れた武具屋だな。もっと派手なのを想像してたけど。でも折角のアイリーンさんのご好意なんだ。ここは甘えよう。


「ここだよ。ここ。ここがその引換券が使える武具屋だよ」


 うん。間違いではなさそうだ。見た感じはお化けが出てきそうな雰囲気だ。うーん。まだ昼前なのにな~。人の気配もなければお客様の気配もない。なんだかな~。やばい店主が出なければいいけど。


「ううん? リディ君? どうかしたの? ささ。中に入るよ~」


 うげげ。もうここまできたら後戻りは出来なさそうだな~。仕方ないしここは中に入ろう。潔くね。こうして僕とアイリーンさんは武具屋の中に入り込んだ。この時の僕は実に引き攣っていたと思う。


 中に入ると意外にも整理整頓が行き届いており尚且つ物が散乱していなかった。ほ。これなら普通の店と一緒だな。後は……怖い店主が出ないことを祈るだけだな。うん。出ないでよ~。絶対に。


 アイリーンさんはどんどん先導して僕を置いていこうとする。やめてよ。こんな場所で一人になりたくないよ。気付けば僕とアイリーンさんは店の奥にあるカウンターにまできていた。


「あれ~。可笑しいな~。留守だったのかな~」


 え? ここまできて留守? でもさ。普通に考えて留守なら鍵を掛けるよね? 確実に。それなのに鍵が掛かっていないと言うことは。


「いらっしゃい!」


 うほほぉう!? 急に僕の後ろから声がした。思わず僕の背筋が凍り付いた。僕は思わず変なポーズを取ってしまった。は、恥ずかしい。


「あー! いた! いた! サイババだ~!」


 なんだ? なんだ? 急にアイリーンさんがサイババって言い始めた。もしかしてここの店の人の名前かな。だとしたらもっと普通の登場の仕方があるでしょ!? 普通はさ。


「おや? その声は……アイリーンちゃんかい。久しぶりだね~」


 どうやらアイリーンさんとサイババさんは知り合いのようだ。サイババさんは見た感じ……身長が低すぎる老婆のようだ。ってそのまんまじゃないか。僕の言っていることは。


「久しぶり~」


 うーん。アイリーンさんだけが頼みの綱なんだけどな~。じゃないと僕はどうしたらいいのやらになっちゃうよぉう。おーい。気付いてくれよ~。アイリーンさーん。


「それで? そこの男の子はだれなんだい? さっきから視線が怖いが」


 え? 今の僕ってそんなに怖いの? うーん。確かに気付いてほしい一心だったからそうかもね。って……ここは自分で自己紹介した方がよさそうだな~。うん。しよう。


「あー! この子はね! なんとシークレットスキルの持ち主なんだよ! 名前はね! リディ君って言うの!」


 しようと思ったらアイリーンさんに全て言われた。はは。そこまで言うんだ。初対面の人に対して。なんだろうな。僕の保護情報はないのかな。アイリーンさんには。


「なんだって!? それは凄いじゃないか! あっはっはぁ! それじゃあ遂にあの券を使う時がきたんだね? アイリーン?」


 なんだろう? 凄く嫌な予感がしてきたぞ。もしかして僕って劇場型のなんとかに引っ掛かってない? 気のせいかな~。うーん。でも今になって思えば出来すぎているような気も。

 

「うん! サイババ!」


 あーでも今更に引き返す! なんて言えないしな~。はぁ~。ここは我慢してなんとか凌ごう。それに……アイリーンさんへの恩返しが終わるまでは僕の人生は終われない。


「んじゃあ早速……見せて貰おうかしらねぇ? 引換券を」


 そう言いながらサイババさんはカウンターの方に歩いて行った。見た感じはサイババさんよりもカウンターの方が背が高いのでサイババさんは椅子に座り始めた。


「それならリディ君が持ってるよ。ね? リディ君?」


 え? そうだけど。えーと引換券は……と。道具入れの中だ。確か。あは~。青臭くなっていないといいけどな~。えーとどれどれ……と。あ! あった! あった! これだ!


「うん! それだね! んじゃあリディ君! サイババに渡しなよ!」


 僕は無言でカウンターの前まで行きサイババさんに引換券を手渡した。これがあれば武具が手に入るんだ。楽しみと言えば楽しみだな。だけど……後で高額請求や怖い人なんてないよね!?


「どう? サイババ?」


 能天気にもアイリーンさんはそう言った。心配性な僕を他所にアイリーンさんは僕の横にきていた。ふぅ~。なんだろうな。この嫌な予感がするのは。気のせいかな。


「ううん? うん。あちゃー!」


 うん? どうしたんだろう? 急にサイババさんがおでこに手を当てた。最初は眼を凝らしていたけど。なんだろう。なんかの不備でもあったのかな。うーん。わかんないや。


「え? どうしたの? サイババ?」


 僕も今のアイリーンさんと同じ気持ちだ。きっと引換券になんらかの不備があったに違いない。じゃなきゃこんなにも残念がる様子なんて見られない。はぁ~。何事なんだろう。


「実に言い辛いんだけどね。アイリーンちゃん。この引換券ね。使用期限が過ぎてるんだわ」


 うへ? なんだ~。そう言うことか~。って! それって僕の武具が揃わないと言っているも一緒じゃないか! うう。僕はやはり不幸のどん底にいるんだな。はぁ。女神運もここまでかな。


「えー! どうにかならないの? サイババ?」


 アイリーンさんの悲痛な声だ。さすがにここまできて何事もなく帰るなんて出来ないよね。はは。にしてもまさかの期限切れですか。僕の運はもう使い果たしたようなもんだな。きっと。


「無理だね~。こっちも商売だからね~。それにね。最近は取り締まりがきびしくてね。採算が合わないとなにをされるか分かったもんじゃないだよ。ごめんね~」


 ここまで言われたら引き下がるしかないだろうな。はぁ~。なんとも言えない空気だな。これは。だけどもしここで奇跡が起きたのなら僕の気持ちは最高潮になるだろうな。多分だけど。


「あ! そうだ! 丁度いいところにあんたらきたね!」


 サイババさんは急になにかを思い出したようだ。手を手で叩くと言い始めた。最後まで聴くとどうやら僕達はいい時にきたらしかった。一体……どんないい時にきたのだろうか。


「え? なんなの? サイババ?」


 アイリーンさんのすがりたくなる気持ちが分からなくもない。もしかしたら奇跡を引き起こせるかも知れないから。もしも無茶でない限りは引き受けてもいいのかも知れないな。


「実はね。うちの孫がね。病気に掛かってしまってね。緊急なことに天寿草が必要なんだ。もしよかったら取ってきてくれないか。褒美はそうだね~。銀一枚に銅三枚でどうだい?」


 サイババさんの話を最後まで聴くとこうだ。サイババさんの孫が病気になり治す為に天寿草がいるのだとか。うーん。僕はそこまで物知りじゃないからな~。なんとも言えないや。


「うーん。天寿草って言ったら山に生えている。つまり……竜が出るのよね~。今のリディ君じゃあ無理かも知れない」


 どうやら……って竜が出るの!? ええ!? そんなところは僕は行けないよ~。身の保全はどこにいったの? えー。この流れは行かないと駄目みたいだよね!? 一人では無理だよ~。


「ならばワシが協力しよう」


 うへ? だ、だれだ? 急に後ろから聞こえてきたぞ。僕とアイリーンさんは慌てて振り向いた。そこに立っていたのは歴戦の猛者とも言える程の雰囲気を持っている老人だ。いかにも強そうだ。


「おや? あんたは確か……竜狩りのオルディンじゃないか。これまたどうしてここに?」


 うへぇ~。あの老人ってそう呼ばれてるんだ~。なんてかっこいいんだろうな~。しかも名乗り出てくれたし僕の師匠になりそうな人だな~。うん。今日からでも弟子志願でもしてみようかな~。


「なぁあに。昔の稼業パーティに逢いにきただけじゃよ。のう。サイババや」


 竜狩りのオルディンさんだと長いし違和感があるからここはオルディンさんと呼ぼう。オルディンさんはハキハキと喋れるようで声が通っていた。一方のサイババさんも同じ感じだ。見習わないとな。


「なんだい? そう言うことかい。昔が懐かしいねぇ~」


 はは。サイババさんが思い出に耽り始めてるよ。これじゃあ話しが進まない。と言うか。今の僕って村人並みの貧弱な装備なんだよね? それで竜のいるところはきついような。はぁ~。どうなるの? 僕の運命はぁ~。


「ってサイババ! 耽ってる場合じゃないよ!」


 はぁ~。竜ってあの伝説の生き物だよね? そんなのと対峙することになったら命がいくつあっても足りないよぉう。はぁ~。さっきから溜め息の連続で巧く立ち回れるかどうかさえ怪しいもんな。


「おお!? そうだったねぇ! ……ふぅ~。しょうがないねぇ。今日は特別に鉄までの武具なら銅四枚で貸してあげるよ。どうだい? 悪い話じゃないだろう? しかも……天寿草の報酬もきっちり払うからね」


 うほ!? って……鉄ランクまでなのかぁ~。はぁ~。どうか。竜と遭遇しませんように……と。これくらい念じればいいのかな。分かんないけど竜と戦うなんて今の僕には絶対に無理だ。死を覚悟してしまう。


「あ~! さすがはサイババ! 頭がいい! んじゃあ借りるわね? 武具を」


 へ? 身の保全はどうしたんですか~。アイリーンさーん。なんだか。僕が行く前提になっていませんかぁ~。で、でもなんだか。断り難いしな。……仕方がないのかも知れない。もしくはオルディンさんを信じるしかない。


「あ! 今の私は無一文だった! どうしよう?」


 あちゃ~。そうですよね。だって使えると思って使った引換券が使えないんですもんね。はぁ~。どうしようかな。今の僕ならギリギリだけど払えるんだよな~。仕方ないな。ここは男だしもう行くしかないよね!?


「ふむ。ならばワシが」


 うげ。先を越されてなるもんか! だからここは。


「あ! いえ! ここは! 僕が! 払います! ちょうどありますから……ここに」


 はぁ~。まさか働いた分をここで使うとはな。あとバルドさんに感謝だな。祝い金をくれなかったら足りないもんな。なんだろうな~。凄く世知辛いな。だ、だけど……これも人の為にだ。善意を尽くそう。


「おお。そうか。そうか。ならさっさと頼む。若造よ」


 うん。これは必要投資だ。けっして無駄遣いじゃない。僕はそう思いつつも道具入れから四枚の銅を取り出した。なけなしのお金だぁ! ここで使わなくてどこで使うんだ! 僕は男だろう!? 行くしかないじゃないか!


「うん。確かに銅四枚をいただいたよ。それじゃあ鉄ランクの武具を紹介するからこっちにおいでよ。リディ君」


 ふぅ~。支払いは無事に終わったや。あとは……サイババさんの後を付いていくだけだ。って意外に速いんだな。サイババさんって。というか。身長が低いから見失いそうだよ。あーもうまどろっこしいや。


「ならばワシは外で待っておこう。なぁあに全てワシに任せておきなさい」


 オルディンさんは外で待っていてくださるらしかった。とそれよりもさっさとサイババさんを追わないとな。……うん? サイババさんが立ち止まった。ということはここが鉄ランクなんだな。きっと。


「さぁ。さぁ。ここが鉄ランクの武具があるところだよ。どれにするかを決めたら話しかけてきてくれよ」


 サイババさんって最初は不気味な人のように見えていたけど今になって思えばいい人だな。……グフ。グフフフフフ。にしてもようやく僕にも武具が手に入る時がきたんだ。ああ。どれにしようかな。迷うな~。


「リディ君! 君に必要なのはきっとこれだよ」


 うへ? え? それって……。どう見ても皮生地じゃないか。なんの皮かは知らないけれど。うーん。見た目がかっこいいのがいいな~。アイリーンさんのは素早さ重視のような気がしてきたな。実際はどうなんだろう。


「あ~! その表情は! 私のことを馬鹿にしたな~?」


 うげげ。僕って顔に出やすいんだな。うーん。これからは気をつけよう。はぁ~。にしても鉄ランクって言っても色々な品があるんだな~。うーんと……。駄目だな。見た目を取るとどうも逆に違和感を覚えちゃうや。


「全く……君って奴はぁ! 本当に薄情だな」


 あ……このままだとアイリーンさんに嫌われる!? 嫌だ! それは! だからここは改心して……と。なるべくここは優しく言って……と。そんでもって嫌われるを回避するんだ。今の僕なら出来る! いや。やってみせる!


「分かりました! アイリーンさんのでお願いします!」


 うん。どっちにしても派手なのは僕には合いそうにない。だから丁度よかったんだと思う。にしても地味の中にも光る物がありそうな防具だな。機能性とかが売りなんだろうな。僕は意外と直感派だからよく見ずに買っちゃう。


「うん。それじゃあサイババに頼んでくるね? リディ君」


 アイリーンさんは僕の返事を待たずにサイババさんのところに行ってしまった。まぁいいや。男に二言はない。うん。ここは覚悟を決めよう。あーそうだ。アイリーンさんがサイババさんに見せに行っている間に武器を見よう。


 えーと。武器は……と。これはこれで浪漫がありそうな武器があるな。うん。凄く浪漫を感じる。あは。でも僕には早いよね。絶対に。だからここは……無難に鞘付きの両刃直剣を選ぼうかな。うん。それがいいに決まってるよね。


 にしても……オルディンさんの武器は背中に装備する形の両刃大剣だったな。見た感じはいかにも竜狩りを職業にしている人みたいだった。僕もあれくらいにかっこよくなればアイリーンさんからも怒られずに褒められるかも~。グフ。グフフ。


「なに。にやけてるんだい? リディ君」


 うげ!? サイババさんだ。あーここはごまかすようにして鞘付きの両刃直剣を渡しておこう。うん。それがいい。よし! ここは潔く渡す場面だ! 僕はそう思いつつも鞘付きの両刃直剣をかっこよくビシッと渡そうとした。


「あの! 武器の件ですけど! これでお願いします!」


 そう言って鞘付きの両刃直剣を差し出した。見た感じは凄く単純な作りになっている。それでもこれがないとなにも始まらない。前の僕みたいに魔力剣だけで挑んだらこれまたアイリーンさんに怒られるかも知れなかった。


「はいよ。それじゃあ後は着替えるだけだね。はいよ。ほんでもって試着室はそこだよ」


 サイババさんがそう言うと両手に持っていて防具を僕に手渡した。その後に指で示された方を向くと物で遮られており扉は見えなかった。それでもきっとあっち方面にあるのだろうと思い僕は独りで向かった。後は着替えるだけだ。


 こうして僕は武器と防具を装備した。その後に試着室から出るとアイリーンさんがかっこいいと褒めてくれた。これは借りた品だけどこれで僕は今から竜がいる山へとオルディンさんと向かうんだ。果たして無事に達成出来るのだろうか。

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