第4話 初めての報酬と宛先不明の祝い金
よぉおし。薬草を三束持ってきたぞ。うわ~。にしても青臭いな。道具入れが青臭くなるよ~。まぁそれが薬草だもんな。仕方ないか。後は受付嬢に持って行くだけだよ。と言う訳で受付嬢に会いに行こう。
受付嬢に会いに行くとかなり忙しそうだった。はは。一昔前だったら本当に話しかけるのも怖かったけど今の僕はもうスキルなしのリディなんかじゃないんだ。これからはもっと堂々と生きてやるんだ。絶対に。
ぼ、僕は変わるんだ。その為にもこの道具入れの中の薬草を全て取り出さなくっちゃ。はは。青臭さは冒険者の証さ。……よし。カウンターの上に薬草が三束っと。後は受付嬢を呼ぶだけだ。さっさと呼ぼう。
「あの~。依頼の薬草を持ってきました~」
は!? これはなにかの間違いだ! この僕が……この僕がへぼい声を出したなんて……なんかの間違いだよぉおお。うん。最悪。気付いて貰えてないね。……あ! 今ね。受付嬢と眼があったよ。絶対に。
うん? あれだけ忙しそうな受付嬢がこちらにきてくれた。うんうん。きてくれて嬉しいよ。さっきの発言じゃないね。これは。きっと僕の莫大な存在感がそうさせたんだ。って嘘だよ。きっと優しい人なんだろうな。
「青臭くて堪りませんのできました。ところでなにか用でしょうか」
うへ? きてくれた理由はそれか。確かにこれは青臭いもんな。お陰で道具入れが青臭いよ。青春のほろ苦さがここにあるよ。うん。って! それよりも! フフ。フフフフフ。フフフフフフフフ。フッフッフゥ。
「あ、あの! 頼まれた薬草を三束、持ってきました!」
フフ。これで後は報酬を貰うだけだな。フフ。フフフフフ。プフゥー。笑いが止まらないや。きっと今の僕の表情はニヤけているに違いない。だって……だって……ようやく初めての報酬が貰えそうなんだもん。
「そうですね。確かに薬草が三束、ありますね。では……依頼書の方を確認させて下さい」
へ? なにそれ? 依頼書? うーん。そんなの貰ったっけな~。ぐぬぬぬぬぬぬぬぬ。プハァー。駄目だ。思い返せない。えーと……道具入れになにかあったっけな~。あ! あった~! きっとこれに違いない! さっさと出そう! そして言おう!
「もしかして……これですか」
僕は青臭さが染み付いたとある紙を取り出した。と言っても特殊な素材で出来ているのか。とある紙は青臭いだけで濡れてはいなかった。僕はとある紙を堂々とカウンターの上に置いた。きっと受付嬢はどん引きしたことだろう。
「……はい。それですね。では……確認の作業に入りますのでお待ち下さい」
なんだかな~。受付嬢に嫌がらせでもしたのかと言われかねないや。これは。うーん。それでも僕は懸命に違いますと訴えるしかない。はぁ~。それにしても今日はよくよく考えたら朝御飯抜きだったよ。これはきつい。だから帰ろう。報酬を貰ったら。
お? 受付嬢が神妙そうな顔立ちで戻ってきたよ。はは。それもそうか。だって青臭いんだもん。うーん。受付嬢には悪いことをしちゃったな~。ここは素直に謝っておこうかな。色んな意味も含めてさ。あーでもなんで謝ってんのな空気は嫌だな。
「確認の作業が完了しました。確かに依頼書のようです。では……」
きた。きた。きたー! 待ってました! この時を! こ、これが初めての報酬? じゅるり。今の僕は喉から手が出るほどに報酬がほしい。じゃないとのたれ死んじゃう。うう。考えただけでも身震いが起きるな~。もう。
「報酬は銅三枚ですね。どうぞ。お受け取り下さい。リディ様」
うほぉー。様呼ばわりもされちゃったよ~。う、嬉しいな~。こんな日がくるなんて……本当にアイリーンさんは僕にとっての女神様だぁー! 本当に受け取ってもいいんだろうか。怖い人は? 高額請求は? ないよね!?
「あのう。お受け取り下さい。リディ様」
あ……眩しい。銅なのに輝いて見える。あはははは。冗談はこれくらいにしてさっさと受け取ろう。嬉しいな。初めての報酬だ。グフフ。これをアイリーンさんに見せれば……。ああ。色んな妄想が膨らむな~。
「それとリディ様? 宛先不明の手紙を預かっています。今、お受け取りになられますか」
うへ? なにそれ? なんで宛先不明なの? ここは訊くべきだよな~。よし! 訊いてみよう!
「宛先不明って……だれからですか」
うーん。駄目だ。どう考えても僕宛に書く人なんてここ最近はいないよな~。
「それは……残念ですがお伝え出来ません」
ああ。そうなんだ。個人情報だからかな。まぁいいや。受け取ってみよう。だからここは銅三枚を道具入れの中へ……と。
「あー分かりました。それじゃあ受け取りますね。その手紙」
一体……だれなんだろうか。
「そうして頂けると有り難いです。では……お受け取り下さい。リディ様」
手に取ってみると普通の手紙だ。なんの細工もされていない。つまりこれは本物だ。さっさとここで開けてみようかな。どれどれ。僕はビリビリっと破いた。そして中には手紙が一通だけ。手に取って出してみた。すると手紙の中に銅が一枚だけ入っていた。
「なんだ?」
思わず口に出してしまう程に不可解だった。だって仕送りにしてはやや少ないしそもそも僕にはそんな関係を持った人はまずいない。仕方がないので僕は手紙を読んでみることにした。一体……なにが書かれているのだろうか。ここはさっさと読もう。えーと。
『よう。お前が帰ってきた頃にはいつになるかはわからねぇ。だけどな。あの時の共闘は楽しかったぜ。んーとな。なんて書いていいかはわかんねぇがとりあえずこれはお前への冒険者祝いだ。受け取れ。な。生意気な餓鬼へ』と書かれていた。これって!?
そうだ! これって! もしかして! ああ。なんてことだ。なんて……なんて……青臭いんだ。ああ。あああああ。これはきっと……バルドさんだ。こんなの! こんなのされたら! 泣いちゃうじゃないか! あああ。ああ。なんて青臭いんだ。今日は。
「り、リディ様? ど、どうかしましたか」
だってぇ……だってぇ。うわーん。こんなに優しい人だなんて知らなかったよぉう。ああ。うわあああああ。人って……人って見た目じゃないんだぁああ。うう。あああ。この時、僕は誓った。これからも人に優しく生きようって。そう。教えられたんだ。