第9話 闇堕ち竜の謎と暗躍する者たち説
なんとか無事に天寿草を手に入れることが出来た。それにゴートも退治出来た。今はサイババさんとアイリーンさんが待つ武具屋にいる頃だ。先にいえば天寿草は何束にすればいいのかが分からなかった。仕方ないので……というか。一束が精一杯だった。
オルディンさんは戻ってくるなり凄く深刻そうな表情をしていた。なんだろうと思っても答えなんて出なかった。もしかしたら……と思う節がない訳じゃない。だけどそれがなにを意味するかなんて今の僕には理解が出来なかった。一体……なんだろう。
僕が思うにオルディンさんは闇堕ち竜の謎について考えていたんじゃないのかな。だけど今の僕では解読は不可能だ。そもそも僕は昨日から稼業を始めたばかりだ。それが……こんなことになるなんてだれも思いはしないよね。はぁ~。巻き込まれたくない。
「のう。サイババや。これはもしもじゃぞ? もしも……意図的に発生した闇堕ち竜がいたらどう思う?」
オルディンさんが顎ひげに手をやりながら言っていた。その仕草はまるで毛並みを確かめるようだった。それにしてもオルディンさんは僕の予想どうりな考えをしていたっぽい。いや。していたのだろう。うーん。闇堕ち竜か。あれは禍々しかったな~。
なんていうんだろうな。この世の終わりみたいな風貌だったな。それを防げるんだからオルディンさんは本物だ。はぁ。浪漫を感じる。もっともっと……僕も強くならなきゃな。今日から僕以外の全てがライバルだ。ああ。早く一人前になりたいな。
あーでも能力が先に上がって思考回路がないなんてことにならないようにしないとな。ドジや失敗だけは避けたいな。ふぅ~。なんだか今日は疲れたや。もうアイリーンさんと仲良く帰って晩御飯でも一緒に食べたいな。あー外食もいいかもだな~。
「なんだい? 急に? 闇堕ち竜って言ったら……百年に一度の厄災の日じゃないかい。それがどうかしたのかい」
へ? 百年に一度の厄災の日? そんな年月で起きるんだ。うん? ということは……。あ! オルディンさんの意図的ってもしかして人間の手によって起きたとでも言うつもりなのかな。もしそうならこれは一大事だぞ。暗躍する者たちがいるってことだ。
それにしても暗躍してなんになるんだろう? それに……よくは分からないけど……闇堕ちさせる方法が分かんないや。きっとなにかしらの理由でなるんだろうけど……。うーん。考えれば考える程に分かんないや。ただ言えるのは僕では防げないってことだ。
この世界にオルディンさんみたいな人が何人いるかだなんて考えたこともないや。きっと僕じゃあ早計だろうな。だからなるべく巻き込まれないようにしないとな。そうじゃないと今頃は竜の胃袋の中だ。あ。やば。急に身震いが起きたよ。情けないな。僕は。
「山でさっき遭遇してな。まだ厄災から半世紀も経っていないというのにだ。怪しいとは思わんか。サイババや」
半世紀にしても僕が生まれる前の話だな。もしオルディンさんやサイババさんの言っていることが本当ならだれかが意図的に仕立て上げた可能性がある。一体……だれなんだろう? ふぅ~。いずれ分かる日がくるんだろうな。それまでに僕は強くなろう。
そうだよね。それが一番だよね? 今の僕は残念だけど影だと思う。光を得るまでは表に出ちゃ駄目だと思う。もし仮に出れたとしても活躍なんて出来ないだろう。それに……出た後の処理が面倒だから僕は足手纏いになんかになりたくない。それがいいんだ。
今は着実にオルディンさんの下で鍛え上げよう。それがいい。うん。これはなんとしてでもこの立場を維持しないといけない。だれがなんと言おうと僕は僕だ。悪口を言われてもへっちゃらだ。だって……そうじゃないと活躍が出来そうにないから。頑張ろう。
「怪しいね。間違いなく。オルディン。もしかしてあんた……このアルガディアン王国内に裏切り者がいるとでも言うのかい」
このアルガディアン王国に裏切り者が? うーん。もしくはスパイがいるのかも。だけど……本当にメリットが僕には分からない。そんなことをすればアルガディアン王国がとんでもないことになる。一国が滅びることだってありそうだ。話の規模が大きいな。
これは今すぐにでも王国に報告した方がいいような気がしてきた。あ……だけど今の僕は名誉も威厳もないただの若造だ。昨日から稼業を始めましたなんて言えない。うーん。どうすればいいんだろう。ここはオルディンさんが一番の頼みの綱だな。絶対に。
そもそもオルディンさんは一体……何者なんだろうか。本当にただの竜狩りのオルディンさんなんだろうか。あんまり疑うのはよくないけどあの強さなら英雄級はありそうだな。本当のところはどうなんだろう? まずは訊きたいところだけど今は無理そうだ。
「ワシはな。サイババよ。いると思っておる。ここ最近になってギルドリウス帝国から変な噂が流れておる」
なに? ギルドリウス帝国って? それにオルディンさんが聴いた変な噂ってなに? 凄く気になるな。でもこの流れからしてサイババさんが訊きそうだな。うーん。なんだろうな。変な噂が訊けるところといえば……裏ギルドだ。もしかしたらそこで訊いた。
の可能性はありそうだな~。うーん。裏ギルドかぁ。うはぁ~。無駄に浪漫を感じちゃうや~。はは。なんだか。自分にどん引きしたや。と、とにかくだ。勝手な憶測で考えたら裏ギルドを活用しているみたいだ。うん。僕も活用してみたいな。一回でもいい。
だってなんだかかっこいいし本当に浪漫を感じたんだ。表では手に入らないような情報も裏ギルドなら用意されているとかね。とはいえ本当のところは知らないからなんとも言えないし今の僕では一番の足手纏いになるだろう。それだけは避けたい。絶対に。
「あんた! まさか! また!」
うん? サイババさんが急に慌てて怒り始めた? いや。怒ったというよりは驚いたに近い。これは。それにしてもどうして急にそんなことを言い始めたんだろう? なんだかな~。これは憶測だけどオルディンさんが裏ギルドと内通していると思ったのかも。
もしサイババさんもそう感付いたのならオルディンさんを気遣ったことになる。でも表には出せないから急に口を閉じた可能性があるな。うーん。二人ともなんだか怪しいな~。それにしてもアイリーンさんはさっきからポカーンとしている。僕もなりそうだ。
いきなりこのアルガディアン王国に裏切り者がいますなんて言われたらだれだってそうなるよね? 僕だってにわかに信じれてない。今は考えに耽っている時間があるけど……次から次へと闇堕ち竜がくるとそうも出来ない。く。一刻も早く強くなりたいよ。
「ああ。ワシはまだ縁をもっとる。ワシにとってあそここそが聖域じゃからのう」
うへぇ? オルディンさんはなにを言っているんだ? もし裏ギルドが聖域なら凄い譬えだな。引き合いに出すなんて並大抵の人じゃあ出来ないよ。と言うか。裏っていかにも悪って感じだけどそうでもないのかな。あ……アイリーンさんは全然悪じゃないや。
それを考えたら必ずしも裏が悪とは限らなくて表こそが悪だったりもするのかな。もしそうならなんて嫌な時代なんだ。でも……コインのように表裏一体なんだろうな。はぁ~。どっちが表に出るかで命運が分かれるだなんて嫌だな。僕はもっと気楽がいいや。
無責任かも知れないけど無理はしたくない。だってアイリーンさんからそう言われたから。もちろん。アイリーンさんが全てじゃないけどね。はぁ。この片思い……どうしてくれるんだろう。そう思っても解決はしない。だから僕は現実を見て強くなりたい。
「聖域か。確かにそうかもね。……あらやだねぇ~。場が白けてるよ~。そうだ! 天寿草はどうしたのさ? まさか。なかったって言うんじゃないだろうね?」
聖域はともかく本当に場が白けている。そもそも寝耳に水になるよ。これじゃあ。あ……すっかり忘れていた。確か……天寿草は僕の道具入れの中に。あ、あった。これだ。これ。ここはさっさと渡しに行こう。うん。そうした方がよさそうだな。確実に。
と言う訳で僕はサイババさんのところへ向かい手に持っていた天寿草を渡した。この時の僕は至って普通だった。別にやましいことなんてない。あるとしたらそれはアイリーンさんへの思いだけだ。ちなみにサイババさんは渡した時ににこやかになっていた。
それもそうだろうな。滅多に手に入らないことはもう十分に理解したから。しかもそこが竜の棲み処なら尚更に取りに行きにくいな。はぁ~。こうして見つけれたのが奇跡に近い。いや。ほとんど……。いや。この巡り会わせの全てが奇跡なんだ。絶対に。
「おお! これが噂の天寿草かい。にしてもよく分かったね? これが天寿草だって」
サイババさんですら現物を見たことがないらしい。実物は薬草と同じ緑色だけど形があからさまに違う。だけどそれでも行ったのが僕だけだったら分からないままだっただろう。そこに救世主の如く現れたのがオルディンさんだ。確実に見つけられた。お陰で。
最初に見た時はこんなにも地味でいいのかなと思ったけれどサイババさんのにこやかな笑顔の前では凄く報われた気分になった。僕が行く前は凄く緊張していたけれど今はそうでもない。戦いに慣れた訳じゃないけれど……少なからず魔物に対しては慣れた。
それにしても後は……報酬を貰うだけだな。えーと……報酬は銀貨が一枚と銅貨が三枚だったけな。ああ。早く貰いたい。そして早く帰りたい。人の為ならばと思いをかえ割に合っているのかは二の次だ。こうしてみると命懸けの依頼もあるんだな。大変だ。
「それじゃあ後は報酬を払うだけだねぇ。丁度……ここに入っていた。銀貨一枚と銅貨三枚をあげるよ」
サイババさんは沈黙の時に腰に付けているポーチに手をやりお金を取り出し始めた。報酬を取り出し終えると目の前にいる僕に渡し始めた。ああ。ようやくだ。ようやくお金が手に入った。うーん。今日はご馳走にしたい気分だな~。うへ。楽しみだな。グフ。
渡されたお金を静かに青臭い道具入れの中にしまいこんだ。は!? 周りから青臭いだなんて思われてないよね? もし思われてたらかなりショックだな。というか。最初の依頼は泥の味ってこういうことを言うのかな~。泥よりも草の味……臭いしかないや。
あーでもきっとまだご馳走は無理だな。だって……よくよく考えたら僕ってまだ借りている装備品ですよ? これを買い取るのにどれくらい掛かるんだろう? ……もし銀貨一枚ならかなりの痛手だ。ご馳走が遠のくな。でもまぁお釣りが出ると思うけどな。
「よかったね! リディ君? 初めての高額報酬だよ!」
アイリーンさんが近付いてきては喜びを分かち合ってくれた。うわーん。僕にとってアイリーンさんは女神様なんだ~。あの出会いがあってこその今の僕なんだ。絶対に負けずに冒険者稼業を続けます! 心の奥底からでも聞こえてくるような声量で言った。
はぁ~。アイリーンさんに出会えたこと事態が浪漫だ。だはぁ~。滅茶苦茶に浪漫を感じるよ~。この空気が永遠に続きますように……と。無理なのは分かっている。それでも願いたくなるくらいに幸せなんだ。はぁ~。幸せ過ぎて溜め息が出ちゃうんだ。
僕はむしろリアスの稼業パーティから外れてよかったと思っている。そして最後まで諦めないでここに辿り着いた僕を褒めたい。僕は誓ったんだ。絶対にリアスよりも有名になって見返してやるんだと。その為にはまずはギルドに向かわないと。酒場がある。
「おほん! とにかくだ! ここは早急に王国へ報告しにいくべきだ! 丁度いい。リディ。お前さんもくるがいい」
え? ギルドの酒場に行こうと思ってたのに? そこで仲間を集めてどうにかこうにかしようと思ってたのに? うーん。でも確かにこの事件は王国に報告するべきだ。もしここで報告に行かなかったら絶対に後々に後悔することになる。それは絶対に嫌だ。
だからここはしっかりしよう。うん? 王国ということは王と会うってことなの? うん? そんな簡単には会えないよね。会えたら逆に怖いや。きっとここは王の側近が出迎える筈だ。というか。そもそもオルディンさんって本当に何者なんだ? 謎だ。
とそれよりも……先々にオルディンさんが行ってしまいそうだ。それに今の僕は借りている装備品だ。つまり装備品を返し終わるか。それとも買い取るかのどっちかだ。答えはもちろんのことで買い取るだ。多分だけど銀貨一枚で買い取れるよね? 絶対に。
「あ! ちょっと待って下さい! オルディンさん! ……アイリーンさん! 銀貨一枚でこの装備一式は余裕で買えますよね?」
僕の大きな声が響いた。ついうっかり考えに耽っていたらオルディンさんは店から出る途中だった。ふぅ~。危ない。危ない。あともう少しで置いていかれるところだった。まぁ一緒に行こうと言い始めたのはオルディンさんだから置いていくはないか。
オルディンさんの方からアイリーンさんへと向きかえると僕は慌てて言い始めた。これは多分だけど銀貨一枚でこの装備一式は余裕で買えると思った。だからこそに僕はアイリーンさんに訊いてみた。答えは多分だけど買えるだと思う。どうなんだろうか。
僕は計算が苦手だ。だから一体……どうなるかなんて分かんない。ここはアイリーンさんに計算を任した方がよさそうだ。だから僕は闇堕ち竜のことと稼業に集中しよう。うん。それが一番だ。だからこそに僕は……僕はもっと強くなりたいんだ。絶対に。
「ええ。買える。あ! それで買えばいいのね? 分かった。リディ君」
よかった。買えるんだ。だとしたら僕の持っている銀貨一枚をアイリーンさんに渡さないとな。という訳で僕はアイリーンさんの元へと行き銀貨一枚を渡した。よし。これでよし……だ。これで残りは銅貨が三枚に初めから持っていた銅貨十二枚を足そう。
合計で……んーと銅貨十五枚かぁ。はぁ~。ここは節約路線だな。当分は。うん。それもいいかもな。僕はアイリーンさんと一緒にいられて幸せだからな。ここは貧乏でもってそれは駄目だよ! 僕は……なにを言っているんだ! 家賃が払えないとな。
でもアイリーンさんのことだ。ぼったくりはしないだろうな。う。急に不安になってきた。高額請求や怖い人が出なきゃいいけどな。って! それよりも今は! オルディンさんのところに行かないとね! だからこの時の僕は異常な気分だったと思う。
「はい! 宜しくお願いします! アイリーンさん! それじゃあ!」
こうして僕は装備一式の支払いをアイリーンさんに任せてオルディンさんの元へと走った。本当は店内だから走っては駄目なんだろうな。これから起きることを僕は畏怖しながらアルガディアン城をオルディンさんと共に目指したのだった。




