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スキルなしのリディはリアスに追放された

 今日もだ。今日も僕は不幸のどん底にいた。なにが不幸のどん底かと言えばそれは……。


「たく。今日もスキルなしかよ。お前は」


 そう。僕には皆がある筈のスキルがなかった。はは。リアスの言う通りだ。僕はなんでスキルがないんだろう。で、でもここは……。


「そ、そんなこと、言わないでさ。噂でさ。ここの裏路地に古びた鑑定屋があるのを見つけたんだ。だからさ。そこに――」

「馬鹿か! お前は! そこはな! 一般客お断りなんだよ!」


 え? リアスの言った言葉は僕にとって衝撃的だった。なぜだろう。凄く泣きたい気分になった。


「もういい! お前はスキルなしのゴミクズだ! 今日からお前を稼業パーティから追放する! いいな? これはリーダーである俺が決めたことだ。んじゃあな。スキルなしのリディ」


 リアスには頭が上がらない。そもそもあの時のリアスは凄く優しかった。なのに今のリアスは鬼のようだ。


「そ、そんな……。ちょっと待ってよ。ねぇ? ねぇってば!」


 あ……駄目だ。完全に見捨てられた。それもそうか。この世界はスキルがあって鑑定師に発現させて貰うのが当たり前だから。こんな……こんな……スキルなしの僕じゃあ追放されて当たり前じゃないか。


 あー途方も暮れたしどうしよう? 名残惜しいしここは最後の賭けだ。行ってみよう。そこで駄目なら僕は……僕は……もう生きれないかも知れない。死を覚悟するってこんな感じなんだ。凄く孤独だな。


 で、でも一縷の望みを捨てちゃあ駄目だ。そうだよ。きっとなにかの間違いなんだ。そうだよ。僕に……僕にはきっと皆が驚く程のスキルが……。って考えてもしょうがない。ここはさっさと行ってみよう。



 えーとここはお店だから扉を叩く必要性はないよね? いつもどおりでよさそうだな。んじゃあさっさと入ろうかな。ここは。


「失礼しまーす」


 僕はお客様の筈なのになんでこんなにも恐る恐るなんだ。もっと……もっと堂々と出来ればな。いいんだけど。にしてもだれもいな。


「だぁー! もう! だから違うって!」


 僕の背筋が一気に上に伸びた。びびった。なんだ? なんだ? 声からして女の子っぽいぞ。僕は恐る恐る中にさらに入り込んだ。すると。


「ああ! もう! 違う!」


 僕の心がドキリとした。なんとそこには美少女が立っていたからだ。今にも紙に埋もれそうな山の中で巨人が急に立ち上がり雄叫びをあげているみたいだったけど。それにしてもこの女の子しかいないような。


「そう! そうよ! アイリーン! 私なら出来る筈! そう! そうよ!」


 だ、駄目だ。独り言がでかい。一人しかいない筈なのになんて声のでかさなんだ。で、でも僕も見習わないといけないよな。とその前に話し掛けなくちゃ。

 

「あのぉう」

「うーん。難しい。なんて難易度なの?」


 あ……聞こえてない奴だ。これ。うーん。どうしようかな。さりげなくリトライしようっと。


「あのう」

「くっそ~。今日中には達成したいわね。知恵の輪を」


 なんだ? なんだ? 独り言が大きいな。ここの店主が彼女なんだろうか。だとしたら確かアイリーンさんだったけな。自分で言ってたもんな。ってそれよりも今は。


「あの!」

「ううん? だれ? 私の遊びを邪魔する奴は」


 やった。僕の声がようやく届いたぞ。あ……でもこの感じは。


「君か! 私の遊びの集中力を途絶えさせたのは! 一体どうしてくれるの? ええ? 君って奴は本当に――」


 ぐは! なんだか初対面とは思えないくらいに怒られたよ。なんだろう。もう帰ろうかな~。ってそれはないよ! ない! ない! だから。


「あのう! 僕を鑑定してください!」

「あのね! まずは謝りなさい! 話はそれからよ。絶対に」

「そ、そんなことを言わないで今の僕にはスキルがないんですよ~」


 僕が最後まで言ったらなぜかしら美少女の両目がキラリと光り始めた。余りの光具合に僕は畏怖した。


「スキルがない? それは本当なの? その……」

「リディです。僕の名前はリディです」

「そうか。リディ君か。……いいだろう。今日は特別にスキルを無料で最後まで見てやろうじゃないか」


 え? 嘘? やった! 僕は人一倍は喜んだ。凄まじい心変わりだけどあとで高額請求されないよな? されたらどうしよう。今の僕は一回スキルが発現出来るか出来ないかの貧乏人だ。はぁ~。大変だな。自立は。とそれよりも。


「宜しくお願いします!」

「うん。んじゃ奥に移動しようか。ここだと色々と邪魔だから」

「はい!」


 僕は美少女ことアイリーンの後を追った。すると広い部屋に出た。真ん中には椅子がポツーンと置いてある。


「ささ。この椅子に座って。リディ君」

「はい」


 僕は素直に椅子に座り込んだ。なぜならどこの鑑定屋もこんな感じだからだ。するとアイリーンが僕の目の前に立ち両手を頭にかざし始めた。


 もしここも普通の鑑定屋ならなんで一般客お断りなんだろう。そこがかなり不思議だな。後で高額請求されなければいいけどな。はぁ~。


 ちなみに鑑定時間はそんなに掛からない。だからもうすぐに終わると思う。……お? どうやら終わったっぽいぞ。なにか進展がありますように。


「なんてこったい!」


 僕の目の前にいるアイリーンの表情は凄く楽しそうで興奮していた。なんだ? なんだ? 一体……どうしたんだ?


「リディ君! 君って奴は! なんと君はSSS級のシークレットスキルの持ち主なんだよ!」


 ふへ? なに? それ? 美味しいの?


「リディ君! 私はね? 実はシークレットスキルを見て発現させる専門科なのよ!」


 え? そうなの? うーん? それって凄いの? 分かんないや。


「もっと言うとね? 私はこの日の為に一人でここを切り盛りしてきたんだ! 凄いでしょ?」


 へぇ~。それは凄いな~。ってそれよりも僕のスキルってなんなんだろうな。ここは思い切って訊いてみよう。


「あの! アイリーンさん! えーと……僕のスキルを教えて下さい!」

「んーとね。君のスキルはね。浪漫覚醒って言うんだ」


 ん? 浪漫……覚醒? もっと訊かないと分からないや。だからここは。


「浪漫覚醒ってなんですか。アイリーンさん」

「それはね。君が冒険をするやら色んな経験をつめばつむ程に強くなると言うスキルだよ」


 え? んじゃ僕って……凄く冒険者向けだったんだ。それなのに……シークレットスキルのせいで。なんだろう。すっごく泣きたい気分だ。いや。もう既に泣いてるよ~。


「な!? どうしたんだい!? リディ君?」

「だってぇ……だってぇ」

「ふむ。なんか凄い訳ありみたいだね。リディ君。ここは話してくれないか。君の事情って奴をさ」


 ああ。なんて優しいんだろう。でもきっとこの人も後から高額請求してくるんだぁ~。うう。


「ああ。その眼は私を信用してないか。ならいいよ。今日は特別に教えてくれたら発現料金をタダにしてあげるからさ」

「う、嘘だぁ~。そう言って後から怖い人が出てくるんだぁ~。うう」

「はぁ~。あのね。リディ君。ここは私一人で切り盛りしているの。だからそんな人は出てこないの。分かった?」


 うう。そうなのかな~。


「いい? 教えてくれたら発現料金がタダになるんだよ? こんなにも美味しい話はないと思うけどな」

「僕は……僕は……追放されたんです。今日からどうやって生きればいいんですか~」

「え? 追放って? もっと詳しく聴かせてくれないかな。リディ君」

「稼業パーティを追放されたんですよ~。スキルがないからって~」


 泣きじゃくりながら懸命に言い続けた。これがどうなるのかなんてどうでもよかった。ただ僕はただ単に人の優しさに触れたかっただけなんだぁ~。


「リディ君。君は凄く不遇な人生を送ってきたんだね。でも今日からは大丈夫。私がいるからさ」

「どう言うことですかぁ~」

「なぁあに。三週間だけ私の店の二階を使うといいよ。ただし三週間を過ぎたらちゃんと払って貰いますからねぇ? リディ君」


 ふへぇ。たった三週間で出来るのかなぁ~。こんなついさっきまでスキルなしだった僕がそこまでの活躍を出来るかな。分からないや。で、でも……身寄りのなくなった僕にこんなにも優しくしてくれるなんて……アイリーンさんは女神様だ。


「分かりました! それでいいです! 僕はアイリーンさんに付いていきます!」

「よし! よく言った! んじゃあさっさとスキルの発現をするよぉ~?」

「はい!」


 こうして僕は事情を話したお陰で本当にタダで発現させて貰った。はぁ~。よかった~。高額請求や怖い人が出てこなくてぇ~。


 それにしてもこれで僕も立派な冒険者稼業を始めれそうです。それも全てアイリーンさんのお陰です。だから僕は一生アイリーンさんに付いていこうと思った。だって僕の恩人なのだから。

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