第7話 魔法と特殊スキル
「・・・」
セルフィスの左腕が完全に治った。いや、この場合治るよりも再生って言った方がしっくりくる。一部始終を見ていたシャルネアと、その本人であるセルフィスは口を開けたまま固まっていた。数秒経ってシャルネアはハッとし、夕日に詰め寄る。
「おい、夕日、今のはなんだ。見間違いかな?レベル6の回復魔法である、『不完全回復』を唱えたように見えたんだが」
シャルネアの顔が恐ろしい形相に変わり、詰め寄られ、問われる。なにかまずいことでもしたかな?あれか。もしかしてレベル6の魔法がすごいとか?いや、でも、不完全回復だもんな。別にすごくはないか。じゃあ、なんなんだ?
「まあ、そうだけど。俺、なにかした?」
「なにかしたかじゃないだろ。『不完全回復』を使ったんだぞお前」
「うん。それがどうしたの?別にそんなすごいものでもないでしょ。だって不完全回復だぞ?」
そう言う夕日に酷く呆れた様子で溜め息をつき、肩を落とす。
「レベル6の魔法っていうのはな。この国で使える奴はそういないんだ。正確にはレベル5以上の魔法から極端に発動するのが難しくなるんだ。そして、レベル1の魔法は基本魔法と言われ、誰にでも使うことができる。家で使った『ヒール』は、レベル1だ。だから、魔法の扱いに秀でていない私でも使えたってわけだ。でも、基本魔法は誰にでも使える分、魔力の消費の燃費が悪く、デメリットが大きい。レベルが上にいくに従って燃費が良くなり、デメリットもどんどん少なくなっていくんだ」
基本魔法。アンス様が言ってたな。シャルネアは魔力はあるのに素質がなくて魔法が使用できないって。
「それと、セルフィスが使った『聖焔」は、光属性の浄化魔法のレベル5だ。レベル5っていってもレベル5を使える奴もそう多くはいない。それなのにお前という奴は」
シャルネアは「ぐぬぬ」と声を漏らし、悔しがっている。あっさりレベル6の魔法を使われたらそうなるわな。ましてや魔法が全く使えないシャルネアだし
「まあまあ。それで、レベル6で不完全回復ってことは完全回復もあるってことだよな」
「ああ、あるよ。でも、完全回復はレベル9の回復魔法だ。昔は扱える者がいたそうだが今はレベル7の回復魔法が限界だな。それと、『不完全魔法』ってのはな、別に完璧に治らないわけではない。完璧に治るが近くに失ったものがなければ治す事ができない。反対に『完璧魔法」は、失ったものが近くになくても治す事ができる。まさに完璧。非の打ち所がない回復魔法だ。」
ん?レベル9で完全回復ってことはレベル10とは一体・・・。
「レベル10の回復魔法ってなんだ?」
「わからん。それについては全くと言っていいほど情報がない。そんなことよりなんでお前が『不完全回復』を使えるんだ?」
「ああ。それはな俺の特殊スキルが関係しているらしい。なんでも感情や、気持ちの深さや強さによって使える魔法のレベルが変わってくるらしい。それに、魔力消費はゼロ」
シャルネアはそれを聞き、ポカンとする。まあ、無理もないか。自分で言うのもなんだが特殊スキルがチートすぎるような。すると、シャルネアが口をワナワナさせ始めた。
「そ、そ、そ、そう・・・なのか。魔力の消費もぜ、ぜ、ぜろねー。へ、へー」
動揺しすぎて呂律が回っていない。カミカミだ。『武術の達人』のシャルネアの面影は一切なくなっていた。俺自身ですら自分の特殊スキルのチートさに動揺してしまって、手がめっちゃ震えている。動揺をなんとか抑えようとシャルネアから視線を外す。すると、セルフィスが視界に入る。・・・セルフィスはまだ固まっていた。恐らくさっきからずっとあの状態なのだろう。頬に汗が流れるが何も反応がない。試しに目の前で手を振ってみるが、やはり反応がない。なので、名前を読んでみることにしてみた。
「おーい。セルフィス。現実に帰ってこーい」
「・・・」
「おーい。おーい。セルフィース」
ここまでしても戻ってくる気配がない。仕方ないので肩を揺さぶる。揺さぶると首に力が入っていないのか頭がグラグラものすごい勢いで揺れる。大丈夫か。これ。もしかしてショック死!?いきなりなくなった腕が復活したという事実を目の当たりにして
「わっ!?え、え?どうしたの」
「ふ〜う。よかった。生きてた〜」
セルフィスが生きてたことによる安堵の溜息を漏らす。
マジで死んでなくてよかった。
「いや、なんかずっと固まってたから死んじゃったんじゃないかと思って」
「いやいやいや、左腕が復活して少し驚いただけです。別にいきなり失った左腕が治ったからってショックで死にそうになったとかそんなんじゃないですからね」
と言いつつペタペタと左腕を触るセルフィス。
少し経ってからセルフィスがなにか落ち込んだように下を向く。
「私だけ生き残って、しかも失った左腕まで治って・・・本当に良かったんですかね」
「セルフィス・・・」
「でも、そんな事言われたって死んでった仲間達に失礼ですよね」
「どうしてそう思うんだ?」
「さっきみんなを灰に帰る前にみんなが私に言ってくれたんです。俺たちが死んだのはお前のせいじゃない。だから、俺たちの分まで生きてくれって。だから、私は前を向いて生きていこう。そう思えるんです」
セルフィスとそんな会話をしていると、また心がポカポカ温かくなる。
《光属性魔法の使用権限が降りまし・・・降りさせるかー。おい、お前》
〈な、なんでしょうかアンス様〉
《いちいちいちいち反応すんな。お前の心に何かしら変化が起こるとこっちが仕事しないといけなくなるのわかる?あ、低脳のゴミ以下にはわからないわね。わかりやすく言うとね。私に仕事をさせるな。という事よ。わかった?》
うっ!これはキツイ。いくら優しい俺だからってこれは堪忍袋の緒が切れたぞ。ここはビシッと言ってやらないと。
〈おい、アンス。お前いい加減に〉
《ん?なんか言った?》
アンスがものすごい笑顔で言ってくる。ような気がした。実際は声が聞こえるだけで姿は見えない。でも、口調からしてそんな感じだろうなと思った。とても怖い。
《それと、なんかアンスとか聞こえたんだけどアンス様って呼べって言った気がするんだけど。まさか、忘れてないでしょうね?》
もう、ゴミ以下でいいや。アンス様に勝てる気がしない。
〈いいえ〜、何も言っておりませんよアンス様〜。そんなことより、何で光属性魔法が使えるようになったんですか?〉
《それはお前の心が温かくなったからだ。お前、セルフィスを見て心がポカポカしてきただろ。あれはお前が無意識的にセルフィスとその仲間達の絆を感じとっていたからだよ。その仲間との絆を感じとって、心が温かくなり、光属性魔法が使えようになったって事だ》
〈心が温かくなるなると光属性魔法が使えるようになるのか?〉
《まあ、そうね。心が温かくったら、回復系統の魔法が使えるようになる。他に色々あるけどまあ、大まかに火属性は心が熱くなった時。水属性は心が冷静な時。木属性は気持ちが爽やかになった時。光属性は、心が温かくなるなった時。闇属性は心が暗い時。こんな風に別れているの。でも今あげたのはたくさんある内の少しでしかないからまあ、自分で探すしかないわね。とにかくお前は心を鍛えろ。色々な感情を知ってこい。そうすれば神を倒す力になるだろうなんてな。それじゃ》
そこで会話は終わった。まあ、アンス様もなんだかんだ言って仕事してるし。案外、悪いやつじゃないのかもな。
「それでセルフィスこれからどうする?」
先ほどまでカミカミだった「農家」のシャルネアは『武術の達人』に戻っていた。
「私は、これから王都に戻ろうかと。それで、今回の参考人として私と一緒に王都に来てもらえませんか?」
「別に構わんが・・・」
そう言い浮かない表情をするシャルネア
「どうしたんだシャルネア?」
「いや、何でもない」
「?」
何でもないようには見えないけど。その時セルフィスはというと仲間たちの死に場所で手を合わせていた。仲間たちへの弔いを終え、セルフィスは灰を袋のなかに入れていく。明らかに灰が全部入りそうもない袋なのに全て入ってしまった。多分魔法道具の類いだろう。こうしてみるとやはり異世界だなと感じる。
「それでは行きましょうか」
灰を入れ終わったセルフィスが言う。こうして俺たちは王都に向かうことになった。