第4話 弱さ
セルフィスの仲間たちの遺品を探す。さっきまで泣いていたセルフィスはもう泣いていなかった。湖の中から遺品を探していく。血で染まった湖は、水みたいに透けないため手探りで探すしかない。幸い浅瀬だったため、湖に肘くらいまで浸ければ地面に届く。それにしても鉄臭い。
(この鉄の匂いがフツーの鉄の匂いだったらよかったんだけど)さらに、遺体も湖に浮いているため、見ないようにしているがそれでも視界にはいってしまう。だから余計にキツイ。吐き気を堪えるので精一杯だ。早々に遺品を回収しなくては自分が持たないそう感じ血の湖を手探りで探していると何か硬いものが手に当たった。遺品だろうか2人の名前が彫られたペンダントを見つける。途端、夕日は胸が締め付けられるような気持ちになる。
(この2人は幸せな生活をしていたんだろうな。出会って、付き合って、結婚して。これからもずっと死ぬまで一緒に・・・)
そう考えていたら胸の締め付けが一層増した。地球の遺品回収業者もいつもこんな想いをしているのだろうか。夕日は血の鉄臭い匂いも相まって、頭がクラクラしていた。頭のクラクラに耐え切れず手を付き、目を瞑って耐える。
「大丈夫か夕日?」
「あ、ああ。頭がちょっとクラクラするだけだ。血とか、死体を見慣れていないから」
目を開け、夕日はセルフィスとシャルネアを一瞥する。血や死体に特に臆することも無く遺品を探している。
(すごいな。やっぱりこういう世界だから)
「慣れてんのかな」
考えていたことが口からポロッと出る。夕日はその事に気づかずそのまま遺品探しを再開する。すると、突然空気が変わった。
「慣れるわけないだろ!!」
鋭く大きな声を上げるシャルネア。いきなりの大声に体がビクッと跳ねる夕日。そのまま
「血や死体を見てどうも思わないわけがない。死体を見るたびにキツイ思いをいっぱいしてる。だけどこの世界じゃこんなこと当たり前に起こってる。だから!!」
ハッとして「す、すまない。少し取り乱した」と一言。夕日は、唖然としていた。シャルネアは「ただな、夕日」と続けざまに
「人間には心がある。そして『慣れる』ことができる生き物だ。苦手なものでも『慣れれば』得意になるし、できないことも『慣れれば』できるようになる。でも、死に関してだけは慣れてはいけない。死に慣れてしまうと、人間として終わってしまう」
シャルネアの迫力に圧倒され言葉が出ず夕日は後ずさりしてしまう。
「・・・ごめん。俺、無神経だった」
「い、いや。こっちこそすまん。急に」
2人の間に静寂が訪れる。すると、さっきの会話を特に気にすることなくセルフィスが話しかけてくる。
「これで遺品は最後です」
どうやら最後の遺品を回収したらしい。
(こういうときセルフィスの様な明るいキャラがいると助かるな)
セルフィスの登場により2人の間にあった静寂は消えていた。遺品は全てセルフィスが持っており、大事そうに手に握っている。
「あ、そうだ。ちょっと花摘みに行ってきます」
「わかった。」
(花摘み。ああ、墓に供える花を摘みに行くのか。俺もちょっと気分悪いし空気を吸いに行くついでに花を摘みに行くか)
「シャルネア。俺も花摘みに行ってくる」
「え?ちょ、ちょっと夕日・・・意味わかってんのか?」
シャルネアの声は夕日に届かない。夕日はそのまま、セルフィスが行った方向に向かって歩いて行く。少し歩くと真っ白な花があちらこちらに咲いていた。
(セルフィスはこの花を摘みにきていたのか。えーっとセルフィスはどこだ?)
「おっ、いた」
セルフィスを見つけ、彼女に近づいていく。するとある程度近づいたところで声が聞こえてきた。夕日は咄嗟に木に隠れる。
(隠れる必要ないんだけど、なんか反射的に隠れてしまった)
「ぐっす、ぐっす」
(ん?泣き声?・・・もしかしてセルフィス泣いてるのか?でも、さっき見た時は特に何ともなさそうだったけど)
セルフィスは花の咲いているところに座り込み泣いていた。
「シリス、コトゥエ、エリスト、ウリガド、ソーシャ、ゴドス。みんなゴメンね。私に力がないばっかりにみんなを死なせてしまった」
遺品を胸にギュッと抱きかかえ、謝辞を述べる。エリスト。
(さっき俺が拾ったペンダントに書いていた名前だ。ということはセルフィスが言っていた名前は亡くなったもの達のことか)
「・・・」
夕日はその場を後にし、シャルネアの元へ引き返す。
(シャルネアには何て言おうか。たどり着く前に考えておかなきゃな)
花があった場所は湖から2分ほどかかる。夕日は色々考えているうちに、湖にたどり着いた。シャルネアは遺体を埋葬するようの穴を掘っている最中だった。集中しているのか全然顔をあげようとしない。
「早かったな」
シャルネアが夕日の気配を察知したのか問いかけてくる。なので、夕日はこっちに帰ってくるまでの2分間で考えた言い訳を言うことに。
「いや、あんまり良いのがなかったんだよ」
「あんまり良いの!?どういうことだ?」
「いや、良い花がなかったってことなんだけど」
すると、急にシャルネアの手が止まる。少し停止してから再び作業に戻る。
「えっと。夕日たちは花を摘みに行ってたのか?」
「どうしたんだ?最初からそう言ってるじゃないか」
また動きが止まる。
「本当にどうしたんだ?」
「べ、別に花摘に行くって言ったからトイレに行くのか、なんて思ってないからな」
変なやり取りをしているうちにガサガサっという音が聞こえた。
草木を掻き分け出てきたのはセルフィスだった。手には遺品と花を持っている。
「ああ、セルフィスか。結構長いこといなかったな」
またしても気配を察知したシャルネア。そのシャルネアはまだ穴を掘ることに集中している。
「なあ、セルフィス。なんか知らないがシャルネアが花摘に行くっていうのをなんか別のことと勘違いしてたんだけど」
「別のこと・・・あ、もしかしてトイレのことですか!?花摘みって別にトイレのことじゃないですよ。本当に花を摘みに行っていただけですから!!」
セルフィスが赤面し、シャルネアの勘違いを訂正する。と、ようやく穴を堀り終えたのか顔をあげこちらを見る。すると、シャルネアはセルフィスを見て
「ああ、なるほど。長くなるはずだ」
と一言。それもそのはず、赤面し真っ赤になった顔でも隠しきれないほど目元が赤かったのだから。
今後の参考にしたいので、どんなことでもいいので感想、要望等々くれると助かります。