第3話 魔物
「もうすぐで着きます」
夕日、シャルネア、マルグリアの隊員は、だだっ広い荒野を駆けて行く。といっても、夕日はシャルネア達の足の速さについていけず、シャルネアに抱えられている。
「あ、すいません。急いでいたものですから名前も言わずに。私の名前はセルフィス・オッドガルド。御存じの通り国家の最高戦力である魔法部隊マルグリアの隊員です。私たちマルグリアは、街に魔物が現れ、人をさらい、強きものしか入れないと言われる森に帰って行ったと王都に報告があったものですから、あの森に入れる強きものである、私たちがここまで来たというわけです。ですが、全く歯が立たず仲間たちが近くにシャルネアという武術の達人がいると隊長が、それで私に助けを呼んでこいと。今は仲間たちが魔物を足止めしている、はずです」
セルフィスは、家を出る前に応急処置を施し、満足に動けるようになったとはいえ、シャルネアと走る速度は変わらない。ここら辺は流石、国家の最高戦力だ。だが、そんなセルフィスの表情は暗い。
「セルフィスか。私は、まあ言うまでもないがシャルネア・タース。私が抱えているこいつは龍崎夕日。とある事情で今、私の家に泊めているんだ」
ものすごい速さで走りながら、会話をする2人。
(いや、この速さで走りながら会話するってなかなかにきついと思うんだけど。なんで2人とも息上がってないの?)
これだけでシャルネアとセルフィスがどのくらい強いのか分かるような気がした。
「ところでセルフィス。マルグリアと対峙した魔物の詳細を教えてくれるか?」
「体長は約3メートルほどの人型の魔物で、力が強く、スピードがものすごい速くて、そして何より魔法が一切効かないという感じです。」
今、ありえない速さで走っているセルフィスが、速いと言ってしまうほどの速さとは一体。それに、力も強く、更には魔法が効かないときたわけだ。
(全く勝てる想像が出来ない。まあ、戦うのはシャルネアなんだけど、誰が戦っても勝てないんじゃ)
「まあ、久しぶりの相手としては申し分ないんじゃないか」
夕日の思考は見事に霧散していった。
(正気かシャルネア。どこをどうしたら勝てるという発想にいくのやら。でも、この自信もしかしたら本当に)
「本当に勝てるのか?」
「う~ん。わからん。でも、まあ、大丈夫だろ。見てれば分かる」
「・・・」
(結局勝てるかわからないんじゃん。見てれば分かるとか言い始めちゃったよ。絶対勝つ気でいるよ。もし、勝てなかった時どうすんのよ。)
「もうすぐって言ってから結構経ってるけど、まだ着かないのか?」
「あ、あのー。俺ってそもそも森に入れるの?強いものしか入れないんでしょ?」
「あー、まあ、なんとかなるんじゃないか?」
「・・・」
(なんかシャルネアって無責任過ぎないか?)
夕日がシャルネアにあきれていると、目の前に樹々が見えてきた。
「ここから森に入ります。」
樹々の中に入っていく。すると、体を何かがスゥーっと通り抜けていく感じがした。
「あ、入れた。」
森に入れたことに驚く俺と、ドヤ顔をするシャルネアの光景がそこにはあった。
(俺って一応強きもの、ってことなのか?まあ、今はそんなこと考えてる場合じゃないな)
「目的地である湖までもうすぐです。もう見えてくると思うんですが・・・」
そうセルフィスが言うと目的地周辺から謎の声が
『グアァーーーーーーーー!!』
「な、なんだ?」
急いで目的地に向かうと目の前には、目的地である湖があった。
ただ、その湖は血で赤く染まっていた。湖に浮かぶのは、白鳥ではなくところどころもげた屍。何人死んだのだろうか。その湖の中に佇む人影。ただ、それは人ではなく人の形をした魔物であった。見慣れない大量の血と死体を目にし、吐き気を催す。
「お、おぇー」
吐き気に耐え切れず、吐こうとするが何も出てこなかった。7日間も寝ていたため胃の中には何も入っていないからだろう。
「あれが、敵か?」
「そうです。魔法が効かない魔物です。」
『グアァーーーーーーーー』
俺たちに気づき、雄叫びをあげながらこっちにものすごい速さで迫ってくる。
「うわぁっ!!」
(やばいやばいやばい!!)
夕日は焦っているのも束の間、敵は目前まで迫っていた。突然時間が止まっているように感じた。
(ああ、死ぬ前って本当に時間がゆっくりに感じるんだな。終わった)
夕日はそう思った。
(流石にこれは無理だ)
時間がゆっくりになった世界で死を覚悟し目を瞑ると横を突如、突風が吹き荒れる。
「!?」
突風が収まったと思ったら、魔物の首が飛んでいた。シャルネアの手によって切断された魔物の首が。
(シャルネアは夕俺の隣に居たから、さっきの突風はシャルネアが動いたために起こった突風?・・・いや、どんだけ速いんだよ)
「まあ、こんなもんか」
シャルネアがちょっと残念そうに呟く。
(シャルネア強すぎないか?国家の最高戦力でも、全くかなわなかったのに。なんだよ、余裕じゃないか)
「何が勝てるかわからないだよ。余裕じゃねーか」
「何を言っているんだ。動くのが0.1秒遅れてしまった。体が鈍ってるな。」
はぁーっとシャルネアが溜息を漏らす。
(鈍っててそれって頭おかしいだろ。シャルネアのそんな態度を見ていたら、魔物に殺されると思い、死を覚悟していた自分がバカらしくなってくる)
さっきまでの緊張感の張り詰めた雰囲気がまるで嘘のように消えていた。その光景を信じられないというような目で見ていたセルフィスは
「みんな・・・」
ドスンと音をたてセルフィスはその場に座り込む。急に座り込んでしまったセルフィスは、涙を流していた。それもそのはず、湖に浮かぶ屍は連れ去られた人達であり、そしてセルフィスの仲間たちでもあったのだから。
「セルフィス・・・」
夕日は、15の頃両親を亡くしている。夕日には12の妹がいた。ただ、妹は3000万人に1人といわれる難病を患っていた。親戚たちは厄介事を避けるかのように夕日たちを引き取ることをしなかった。夕日は妹と2人で生きていくことを決め、妹の治療費を稼ぐためバイトに日々明け暮れていた。まあ、それもあって少々性格に難ありかもしれないが。夕日も両親を亡くしているからセルフィスの今の気持ちが少しはわかっている。ここで少しは、といったのは完全に相手の気持ちがわかるほどの心を持っていないし、完全にわかられてもセルフィスにとっては嫌だと思ったからだ。魔物を瞬殺したシャルネアがこっちに話しながら歩いてくる。
「とりあえず、セルフィスの仲間の遺品を回収しよう」
「遺体はどうするんだ?」
「これじゃあ誰が誰だかわからんからな。普通なら王都に送ってやるのが普通かもしれんがこの状態じゃ可哀想だ、早く土に埋めてあげた方がいいだろう」
すると、さっきまで涙を流していたセルフィスが涙を拭き、立ち上がる。
「すみません。・・・もう、大丈夫です」
(驚いた。魔物に全く敵わず、仲間を殺され、ましてや仲間の仇も取れず、力の無さを思い知らされ、心はズタズタのはずなのに、もう目の色が変わってる。シャルネアを訪ねてきたときは今にも泣きそうなそんなかんじだったのに、今はなんかいい目をしているな)
「・・・」
すぐに立ち直ったセルフィスを見て、シャルネアが夕日と同じように驚いている。
(まあ、当然だろうな)
「それじゃあ、遺品の回収からしましょう」
「「お、おう」」
(でも、なんか引っかかるな)
吹っ切れた様子のセルフィスだったが無理やりテンションをあげているように思えるのは気のせいだろうか。
今後の参考にしたいので、どんなことでもいいので感想、要望等々くれると助かります。