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第2話 新世界

(ここはどこだ?)

目が覚めると見知らぬ天井が見えていた。体に力が入らず体を動かそうとするがびくともしない。動くのは口と目だけで、首が動かないから周りの状況を確認しようにもできない。声を出そうとするが声は出ず、口をパクパクとさせるだけ。



「ん?目が覚めたか」



(誰だ!?)

なんとか声を出そうと口をパクパクする。だが、やはり声は出ない。



「全然起きないから、もうダメかと思ったよ。なんせ7日も寝てるんだからな」



(7日・・・俺はそんなに寝ていたのか)

首は動かず天井しか見ることができない。だが、得られる情報は何も視覚からだけじゃない。コツン、コツンと女性がこちらに近づいてくる足音が聞こえてくる。そして夕日の顔を覗いてきた。視界に入ったのはとても美しい大人の女性。表情からとても心配そうにしていることが理解できる。



「どうした?何か喋らないか。さっきから全然動かないし、口をパクパクさせて・・・もしかして体が動かないのか?ちょっと待て」



「ちょっと待て」と言うと彼女は夕日に手を向けてきた。



「『回復ヒール』」



彼女が言葉を発した瞬間、見たこともない模様が空中に浮かび上がる。すると、夕日の体を突然、温かい光が包み込んだ。



「よし、これで大丈夫だ。動いてみろ」



(さっき動かなかったのに動くわけがないだろ)

動くわけがない。そう思いつつ軽く手を動かす。



「!?」

「声も出るはずだ」

「あー、あー、⁉︎」



(嘘だろ!いくら体を動かそうとしても全然動かなかったのに治ってる。それに声も出るし・・・いったいなんなんだ。それに、いったいここはどこなんだ?)

自分のいる場所、ましてやなぜここにいるのかもわからない。だから夕日はその女性に聞いてみることにした。



「ここはどこなんだ?」

「ああ、ここか?ここはエンデェステリアだ」



(エンデェステリア?どこだそれ?・・・あれ、そういえば俺は今、異世界にいるんだっけ?)

夕日はこの世界に転生させられてから意識がない。だが、意識がなくなる前に女性の声を聞いた。その声は今目の前にいる女性と同じ声。おそらくこの女性がここまで運んでくれたのだろう。



「そういえば自己紹介がまだだったな。私はシャルネア・タース。この小さな村で農業を営んでいる。あなたは?」

「俺は龍崎夕日」

「リュウザキユウヒ・・・珍しい名前だな。出身は?」

「出身か」



(ここで、実は異世界から来ましたと言っていいものか、どっかの村から来たとか、そんなことを言えばいいのか?)

異世界から来たと言って信じてくれる人などいないだろう。それに何をされるかわかったもんじゃない。



「ま、まあ、そんなことよりさっきのはなんだ『回復ヒール』って」



夕日は良い言い訳が思いつかず、話題を反らすことに。だが、その話題を反らすための話題が良くなかった。シャルネアからため息が漏れる。



「まさかとは思ったがやっぱり知らなかったか。さっき魔法を使ったときものすごく驚いてたからな。それで、『回復ヒール』は魔法の一種だ」



(魔法。そういえば神が言っていたな)

あの部屋の中での話しを思い出す。



「魔法は、魔力を触媒にしてあらゆる事象を改変することだ。まあ、簡単に言えば魔力を使い、普段出来ないことが出来るようになるということだ。そして、その魔法の中の基本魔法『回復ヒール』は、かけた者の自然治癒力を向上させる魔法。基本魔法っていうのは、まあ、誰でも使える魔法ってこと。誰でも使えるからこそ効果は薄く、『回復ヒール』をかけると自然治癒力を無理やり向上させることにより、付与者の体力がごっそりなくなる」



(魔法の説明はまあ、なんとなくわかった。簡単に言いすぎな気もするが、シャルネアが言ったように普段出来ないことが出来るということなのだろう。魔法の説明についてはわかったけど、結局なんで俺は7日も寝ていたんだ?)

1つの疑問が解決し、すぐさま1つの疑問が浮かび上がる。それは夕日がここにいる理由にもなる。



「なあシャルネア、なんで俺は7日も寝ていたんだ?」

「ああ、そのことか。それはな魔力の枯渇だ」

「魔力の枯渇?」

「魔力はみんな、少なからず持っているもの。そして、自分の体内にある魔力が尽きると最悪死に至る。夕日は魔力を放出し続けた結果、疲労が襲い、気を失った。魔法は、魔力を触媒にして事象を改変することが出来る。だから、魔力そのものが体外に出ることは本来ありえない」



シャルネアはそう言うと夕日を黒色の澄んだ瞳で見る。その瞳は夕日に何があったのか話せと言っているようだった。

(そんなに見られても何も出てこないのだが)



「すまないが、それはわからない。あの時頭に血がのぼって、そしたら辺り一面火の海に・・・」

「なるほど。怒ったら魔力が溢れ出た、か・・・もしかしたら、特殊スキルが関係しているんじゃないか?」

「特殊スキル?」

「稀に生まれながらに普通の人が持っていない特殊な力を持ってることがある。それが特殊スキルだ」



特殊スキルについては神が話していた。夕日は自身の特殊スキルについて思い出していた。



「確か、『感情によって使える魔法が変わる』っていう特殊スキルを持っているはずだ」



シャルネアの開ける。口は顎が地面につきそうなほど大きく開かれている。それほどまでに驚いているのだろう



「夕日、あなたは何者だ?特殊スキルを所持しているだけでも凄いのに、その規格外な特殊スキル。だが、そういう特殊スキルなら魔力が溢れ出るなんてことも説明つく」



まだ何かあるのだろうとシャルネアが夕日の心を透かしたような目で見てくる。

(正直信じてくれるかわからない。でも、俺はシャルネア助けられた。あのとき助けられなければ死んでいた可能性だって十分あり得る。命の恩人に隠し事はしたくない)

最初言わないつもりだったが言う覚悟を決めた。



「わかった。理由を話すよ」



シャルネアは今までにない真剣な眼差しで夕日が話すのを待っている。



「だけど、今からする話は俺たちだけの秘密。誰にも言わないでください」



首を立てに振り肯定の意を示した。それを確認し、夕日は口を開いた。それから話しは3分ほど続いた。たかが3分の話し。だが、その3分は濃いものであり、シャルネアをだんまりさせるのに十分だった。



「・・・」



話を聞き終えたシャルネアの顔は青ざめ、じっと口を閉ざしている。

(話したところでこんな事信じてもらえるとは思えないが)



「いろいろ・・・あったんだな。これが私だったらと思うと正気を保っていられるかわからないな」

「信じるのか?俺が嘘を言ってる可能性も・・・」

「私には夕日が嘘を言っているようには見えない。それにあの惨事を見たら誰でも信じるだろう」



夕日はこっちの世界に来たときの事を思い出す。怒りに我を忘れ天災を起こした事を。



「夕日の話から察するに感情が『怒り』 の状態になったのが気絶した原因だと思う。感情が『怒り』の状態になり、魔力が漏れ、天災が起き、ものすごい速さで魔力を消費し、魔力障害が起きて気絶したというわけだ」

「・・・」

「だとするとこれから怒るのは止めといたほうがいいな。貴重な一週間を棒に振るうことになるからな」



期限である3年のうち1週間、つまり1095日ある内の7日を無駄にした事になる。その事実を夕日の無言がものがたっていた。だが、夕日が無言になっていたのは決して何も言えなかったからではない。次にどう動くべきかを考えていたからだ。

(俺はこれからどうすればいいんだ?やはり仲間を集め、鍛錬に勤しむのが先決か・・・取り敢えずなにか行動を起こさなければ)



「シャルネア。助けてもらって悪いけど、俺はもう行かないと」



夕日がこの世界にいるのは神を倒すため。だから、こんなところにずっといるわけにはいかない。ましてや神の倒し方、そもそも神がどこにいるのかすら知らない。そこから調べなければならない。そうなると時間はいくらあっても足りない。そう考え夕日はシャルネアに早い別れの挨拶を告げる。



「凄いな夕日は」



シャルネアが返したのは夕日に対しての賛辞だった。今にも消え入りそうな声は夕日にしっかりと聞こえていた。



「え?」



だが、なぜシャルネアがそう言ったのか理解ができていなかった。

(どうしたんだ?)



「夕日、私の弟子になる気はないか?」

「で、弟子?何の?まさか、農業?悪いけど俺にそんな時間は」



シャルネアはかぶりを振る。そしてシャルネアは澄んだ瞳で夕日の目を真っ直ぐに見る。



「武術のだ。タース家は名の知れた魔法の名家でね、魔法が強いもの同士、結婚をするそういう習わしだったんだ。私の両親は二人とも国で上位に入る魔法使いでな、産まれてくる子供もさぞ期待されたことだろう。その二人から産まれてきたのが私と私の姉だった。私の姉はとても優秀でな、魔法を教えるとすぐものにしていたよ。でも、私は魔法の扱いにあまり秀でていなかった。その為、家ではいない者として扱われ、私は家が窮屈になってしまい、5歳の時に家を出た。そんな時、ある道場を見つけたんだ。酷く廃れていて誰も近寄らなさようならそんな所でな、私は行く所も別になかったからその道場を少し覗く事にしたんだ。するとそこには、1人の若い男性が居た。その男性、今は私の師匠なんだが師匠と話を結構な時間した。何回かその道場に通ったある日、師匠が稽古をしているのを見た。私は師匠がひどくかっこよく見えて、それから道場で稽古をするようになった。師匠は鬼麻纏流きまてんりゅうという流派の武術らしくてな、何でも奥義が魔力を纏うというものらしい。ある日、師匠から弟子にならないかと言われたよ。私は、魔法を教えられてもろくに扱えず、いつも両親に叱られていた。それに、姉にだって嫉妬した。なんで、姉ばかりにってね。でも、私にも出来ることがあった。だから私は弟子になることにした。私は、鬼麻纒流の教えに合っていたのかすぐに、色々な技術を習得していった。師匠に会ってから10年の月日が流れた。私は鬼麻纒流の奥義を引き継ぎ、師範代になり、これから、門下生を増やしていこうって時だった。両親が道場を潰したのよ。名の知れた魔法の名家が、魔法ではなくそれも、外見は悪く誰も寄り付かないような道場に娘が通っていると知られたらタース家としては堪ったもんじゃない。そういう理由よ。私の心の支えでもあった道場を壊され、何もかも失ったわ。唯一残ったのは、鬼麻纒流の武術だけ。でも、武術だけで何が出来るわけもなく、私はそのまま農家としてひっそりとこの村で暮らし始めたわ。私はね、逃げたのよ。せっかく師匠がずっと守り続けた鬼麻纒流の武術を持っていながら、戦える力を持っていながら。私が生きている限り家は嫌でもついてくるってのに、私は幼かったからそのことに気づいていなかった。それから、私はとにかく家から離れた。そうして辿り着いたのが今、住んでいるこの村ってわけ。私なら逃げ出してしまいそうな状況にあっても、前を向き、正面から闘おうとしている夕日を見ていたらなんだか自分が情けなくなってしまった。だからこそ夕日、君の力になりたい。魔法のことはあまり良くはわからない。でも、君に力を与えることはできると思うんだ。もう、逃げ出したくはないからな」



夕日はシャルネアの話を聞き、終始驚いていた。まず、シャルネアが魔法の名家ということ。凄い武術の使い手で、家ではいない者にされてたり。夕日は幼い頃の記憶を掘り起こし確認する。記憶にはしっかりと家族からは愛されていたと言える記憶が次々と見つかった。だから、夕日には親から居ないものとして扱われるなんて経験はないし想像すらしたくもない。

(俺を弟子にしたいんだっけ?なんか、話から聞いてる通りだと相当修行がきつそうな。そもそも、武術の最終奥義を体得するのにシャルネアで、10年。俺には、あと、3年も残ってないんだから。武術を体得するとしないのとで全然違ってくると思う、けど3年も残ってない。それに武術が役に立つのかもわからない。そんなことしてるくらいだったらさっさと魔法なりなんなり力をつけていったほうがいい)

そう考えた夕日はシャルネアに断りの返事を言おうとした。



「シャルネア。その、非常に申し訳ないんだが、俺には3年しか残ってなくてだな・・・」



シャルネアが何かを思い出したかのように、はっとしたような顔をする。



「そうだった。3年しかないんだったな。普通に修行をしてたんじゃ間に合わないか。・・・1つ手っ取り早い方法がある」

「本当か!?」

「ああ、命を削って鬼麻纒流の最終奥義を体得する方法があるんだよ」

「命を・・・削って?」

「そう、命を削ずるんだ。正確には寿命を縮めるということになるな」

「寿命を、縮める」

「安心しろ。痛みは全くない・・・多分」

「多分ってなんだよ。めちゃくちゃ不安になってきたわ!!」

「実はそれやったことないんだ。でも、大丈夫だ。死ぬことはない」



必死に言うシャルネアを見て夕日はシャルネアを信じてみることにした。

(とりあえずシャルネアを信じてみるか。力が簡単に手に入るんだ。やる価値はある)



「寿命を消費すればいいんだな?」



シャルネアは夕日に手の平を向ける。手から光が発せられ夕日の体を包んだ。



「ふむ。夕日の寿命はあと、78年あるな。寿命を70年削って体得することができるが、やるか?」



(寿命・・・わかっちゃうんだな)

寿命を知ることができる。そんなことができるのは魔法しかない。だが、シャルネアがその魔法を使えていることから、基本魔法なのだろうか。それとも鬼魔纏流の技なのか。

(いや、でも寿命を知ることができるのが基本魔法の訳ないよな。・・・まあ、魔法についてはよく知らないからなんとも言えないな。とりあえず寿命については3年分残ってればいいから、75年はいらないよな。・・・それなら大丈夫か)



「シャルネア。よろしくたの」



同意の返事をしようとしている途中コンコンと、家のドアが叩かれる音が響いた。



「誰だ?ここに来るやつは余り居ないのだが」

「たす、けて」

「ちょっと待て。今、開ける」



ゆっくり歩いていたシャルネアだが、ノックと同時に聞こえてきた「助けて」という声に焦りを覚え、駆け足でドアに向かっていく。「ガチャ、キー」っとドアと家を繋ぎ止めている鉄製の蝶番が音を立てる。そうして訪問者を視野に収めたシャルネアだが、目に入ってきた光景は悲惨なものだった。目の前には血だらけで、右腕が無い女性がいた。



「ど、どうした?大丈夫か?・・・これは酷いな。いったい何が・・・ん?その服にある紋章はもしかして」



シャルネアが見たものは、国家の最高戦力を誇る魔法部隊『マルグリア』の紋章。その紋章が女性の服に刺繍されていた。



「何があった?」

「実は、ここの近辺に魔物が現れたと聞き私たちマルグリアに撃退命令が下されました。いつも通り、 魔物を倒そうと魔法を放ったはいいんですが、魔物には一切ダメージが入った様子はありませんでした。私たちが呆気にとられている隙にこの有り様です。恐らく、あの魔物に魔法は効かない。誰か倒せる人はいないか考えていたら、昔、鬼麻纒流という武術の道場があったのを思いだしました。噂でその道場にはとても強い武術の達人がいると聞き、今現在この村にいると知り、ここに来ました。武術の達人『シャルネア・タース』に」



ゴホッ、ゴホッと咳き込む女性。その際に傷が疼くのか女性は苦痛に顔を歪める。その苦しむ様子を見ているだけでキツイのが否応なく伝わってくる。傷の手当てはしているようで流血はしていなかった。



「ありがとう。キツイところを。・・・よしっ、わかった。その場所を教えてくれ」



苦痛で歪んでいた女性の顔は希望が生まれたことによりパアッと明るくなる



「ありがとう。ありがとうございます!!」

「行くぞ夕日」

「え、でも」

「夕日は私の戦いをしっかりと見ておけ」



夕日はシャルネアから物凄いオーラが放たれ近づく事が出来ない。

(なんだこれは。体がビリビリする)

『農家』のシャルネアはもう、そこにはいない、そこにいるのは『武術の達人』のシャルネアだけだ。どうやらこっちが素らしい。



「よし、行くぞ」



(魔法が効かない魔物相手にどうやって戦うのだろう?武術というくらいだしやっぱり素手なのか?本当に勝てるのだろうか)

一抹の不安を抱え、夕日はシャルネアの後に続き魔物退治に向かていった。

今後の参考にしたいので、どんなことでもいいので感想、要望等々くれると助かります。

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