第26話 親切
温泉に入ったあと、俺たちは朝食を食べに昨日屋台のあった通りにいた。夜は屋台でいっぱいだったが、今は屋台は無く、普通のお店が並んでいるだけである。おそらく夜だけ屋台が出てくるのだろう。
「リサ、何を食べようか」
「うーん。そうですねー」
リサはそう言い、何を食べるか決めあぐねている様子だった。あまり思いつかなかったのか次第にキョロキョロ店を見始めた。
「あのお店でいいんじゃないでしょうか」
「わかった。そこにしよう」
リサが指で指し示した店は、どこにでもありそうな大衆食堂だった。俺はあっちの世界で大衆食堂に行ったことあるので特になんともないが、王家の一族であり、ましてや王女様が大衆食堂を選んだことに若干驚いていた。まあ、昨日ラーメン食べてたし、あまり庶民的な食べ物を食すことは気にしてないのかな。それにしても、リサって口調とかは王女様っぽいけど行動とかはそこらへんにいる一般人と何ら変わらないな。リサに妙な親近感を覚えつつリサの後に次ぐ。
「いらっしゃい。お客さんは二人かい?」
「ひゃ、ひゃい」
んんん?リサ、どうしたんだろうか。
「それじゃあ、適当に座って」
「わ、わきゃりましたっ」
店主にそう言われ、俺たちは近くにあった席に座る。俺はリサの様子がおかしいことに気づき、どうしたのか聞いてみた。
「リサ、大丈夫か?」
「大丈夫って何がですか?」
「いや、ものすごく噛んでたから」
「あ、、、それは、、、その、、実は私、極度の人見知りなんです。あんまり人と関わることがないって前に言ったじゃないですか。それもあって初対面の人と喋るのはちょっと苦手で」
「あー、なるほど」
だからさっきあんなに噛んでいたのか。そういえば俺が誰かと喋る時はー、リサは全然喋っていなかったな。あれはそういうことか。リサは全然ただの人見知りで、店主と喋るのに緊張していただけだった。そう考えると、なんか可愛いく思えてきた。もちろんこれは愛玩動物に向ける可愛いと同じである。決して好きな人とかに向けるような目でなど見ていない。と俺はここにはいないあの子に必死に弁解するのであった。
「とりあえず、何か頼もうか」
俺は席に置いてあったメニュー表をリサに見えるようにして置く。リサは俺の反対側に座ってる。メニューはリサに見えるようにしたため俺は逆さになったメニューを見て何を食べるか決めることに、メニューには流石に画像は無く文字だけだったが、その数はあっちの世界の大衆食堂に引けを取らない品数だった。その逆さになった文字を見て、「あ、やっぱり」と思った。それもそのはず、あっちの世界にある大衆食堂が、こっちの世界にも来たと言ってもいいくらいメニューが同じだった。だが、少しの違う点が一つ、あっちの大衆食堂は和食、日本料理中心のメニュー構成となっているが、こっちの大衆食堂は和洋中ごちゃまぜになっていた。やはりこちらの世界は和洋中という概念が無いようだ。
「じゃあ、俺は生姜焼き定食で」
「私は、この豚カツ定食で」
「よし。決まりだな。すいませーん」
メニューが決まると店員を呼び、注文することに
「生姜焼き定食と、豚カツ定食で」
「承知した。少し待ってな」
リサが人見知りだと知りリサに注文させるのもどうかと思ったため、俺が注文をすることに。いつかリサの人見知りが治るといいな。俺は密かにリサを応援することにした。
それから十分たち、料理が運ばれてきた。
「どうぞ」
「いただきます」
「いただきます」
生姜のいい匂いにそそられ、自然と箸が生姜焼きを掴む、そして口の中に入れすぐさま米を頬張る。
「うまい」
美味しいのは生姜焼きに飽き足らず、米までも美味しい。にしてもこっちの世界で米を食べたのはこれが初めてだ。久しぶり過ぎてなんだか目から水が出てきそうだ。
「美味しいです」
そう言うリサの目は輝きに溢れていた。それから完食まであまり時間はかからなかった。今思うと朝食に生姜焼きとか豚カツとか良く入ったな。俺はいいとして、女性であるリサも完食とは一体どんな胃をしているのやら。こうして朝食を終え、食堂を出る。時刻にして8時。朝とはいえもう店は開いていて、人もポツポツとこの道に集まっている。すると、道に男性がうずくまっているのが見えた。どうしたんだろうか。俺は気になり、その男性の方へ。
「大丈夫か兄ちゃん」
「ほら、立てる?」
「兄ちゃん、水だ飲め」
その男性の周りに数人集まっており、えらくその男性を心配していた。
「あのどうしたんですか?」
「こいつ朝まで酒飲んでて、結構飲みつぶれて、それで今この道路で倒れてるって状況だ」
なんかあっちの世界でも良くある光景だな。俺は東京に住んでいたが、こんなに親切な人はいなかった。皆大体が見て見ぬふりをする。だが、この人たちは見て見ぬふりはしなかった。
「すまん。ありがとう」
「そんなのいいから。家帰れるか?」
「なんとか大丈夫かと」
水を飲み落ち着いた男性は親切な人たちに感謝を述べる。だが、その人たちは感謝などどうでもいいようで、ただただ男性を心配するのみ。とても心の清い方たちだな。俺だったら見て見ぬふりをしてしまうかもしれない。男性は立ち上がり、ゆっくりと家へ帰って行った。その姿を見て、まだ心配するその人たちは素直にすごいと思った。
「すいません。なんでそんなに親切なんですか?」
「親切も何も、人として当然のことだろう。それにほっとけない質なんだ」
親切な人の中の男性がそう言うと、残りの人たちも同意見とばかりに、縦にうなずいた。すごいな。リフッシならこの人たちと同じように困っている人がいたら助けるんだろうな。俺はリフッシに敬意を表するとともに、自分の愚かさを感じた。俺はリフッシのことをわかっていたようです全然わかっていなかった。その人たちは俺たちに「何か困ったらいつでも言えよな」と言い、去っていった。この件で俺は何か大事なものを学ぶことができた。リサも俺と同じで何かを学ぶことができた。そう思わせる表情になっていた。そうして俺たちは確かな達成感を持って店を回ることとなった。
次でこの都市での話は終わります。




