第24話 まわり道
ミステスを出発して三時間がたった。一日馬車を走らせれば、ちょうどディヌスに着くような距離にミステスは位置していた。
「リサ、大丈夫か」
「だぁぁぁぁいじょぉぉぉうぅぅぶぅぅぅぅでぇぇぇすぅぅ」
「うん。大丈夫じゃないな。でも、我慢してくれよ。これ以上どうにもならないから」
「はぁぁぁいぃぃぃ」
馬車の猛烈な揺れによりリサの声が震える。俺は慣れている(シャルネアの記憶があるから)から、特にいつもと変わらないがリサは王家の一族。馬車に乗ったことはあっても、フカフカの椅子の上に座っての移動だろう。だからこんな素材むき出しの硬い板の上に座ったことはこれが初めて。地面からくる揺れがもろに伝わるためリサは今の今まで、揺れに耐えるようにずっと壁に手をついていた。
「まだ着かないんですか?」
「あと、20時間くらい走らせれば着くと思う
よ」
この情報は馬車を買った店の男から教えてもらった情報だ。もちろん本物の。ここを少し進んだら大きな山があるらしく、その山を超えるのが一番の近道だと教えてもらった。ついでにディヌスまでの地図も。
「リサ、キツかったら言ってくれよ」
「はぁぁぁぁいぃぃぃぃ」
リサの我慢が続いている間にとっとと山を超えたいな、と思いつつ馬車を走らせる。それから一時間たち、目の前に大っきな山が薄っすらと見えてきた。俺は馬車を止め、山の全貌を見る。
「でかっ!!」
「大きいですねー」
例えるなら富士山と同じくらいの大きさ。標高3776メートルくらいはありそうな巨大な山がそこにはあった。山を超えるために再び馬車を走らせる。少し走らせると、何やら前から声が聞こえてきた。
「え、土砂崩れが起きて、道路が通れない?おいおいまじかよ」
「ああ、先日の大雨で地盤が少し緩くなってたからな、まあ仕方ないか」
声の聞こえる方に行くと、山にかけての道に馬車の列ができていた。俺は列の最後尾に馬車を止める。さっき聞こえてきた話も何か声が聞こえる程度くらいだったのであまり把握できていない。俺は思い切って前にいる厳つい男性に聞いてみることに。
「すいません。この列はなんの列ですか?」
「ああこの列はな、唯一山を超えられる道があるんだが昨日の大雨でその道が通れなくなってしまったからそれでここに列を作ってしまったってことだ」
「そうですか・・・」
困ったな。このまま山を超えて今日中にはディヌスに着く予定だったんだが。いや、仕方ないか。山を超えずにディヌスに着く道を探さないと。と言っても探す手段はもらった地図のみ。にしてもこの地図大まかな道しか書かれていないな。でも、この地図をもらえただけでもいい方か。仕方ないのでさっきの人に聞いてみる。
「すいません。僕たちはこのディヌスっていう都市に行きたいんですが、ここから行ける道ってありますか?」
「ああ、それならこの山を避けるように大きく迂回すればその後はこの地図を見ればたどり着けると思うが」
「本当ですか。ありがとうございます」
「いいってことさ」
男性は地図を指でなぞり迂回するルートを示してくれた。その優しさもあって、俺は人は見かけによらないなと思った。ここから大きく迂回すれば行けるとのことだったので先程大まかに教えてもらった道を馬車で進む。五時間ほどかかりようやく山を迂回できた。山を超えれれば一時間くらいで行けたが、四時間もオーバーしてしまった。今日はディヌスに着けないだろう。それに外も暗くなってきた。今日は野宿かなと思い、進めるところまで馬車を走らせた。と、急に明かりが見え始めた。もしかしたらこの先に都市でもあるのかも、そう思いその明かりの先に向け馬車を走らせる。予想は当たった。明かりの先には大きな都市があった。俺は野宿しなくてすむとほのかに安心していた。馬車を走らせ、都市の入り口に到着した。この都市は他の都市と同じで、壁で覆われており、入り口には門があった。門には門番が。これも他の都市と同じだ。
「すいません。馬車ごとお願いします」
「馬車保有証をお持ちでしょうか」
「馬車保有証ですか?」
「馬車保有証がないと都市には入ることができません」
「え、そうですか」
門番に話しかけると、馬車保有証なるものの提示を言われた。だが、俺はそれを持っていない。あの男そんなもの渡さなかったぞ。
「無いのであれば新しく発行するための発行料がかかります。発行しますか?」
「お願いします」
俺は、どれくらい取られるのだろうと軽く身構えた。
「それでは銀貨三枚いただきます」
「あ、はい。わかりました」
よかった。銀貨三枚だけだった。銀貨三枚といえば三万円の価値がある。それが一瞬で消えたのに特に何も思わなかった。やはり金銭感覚が麻痺している。
「どうぞ」
発行はすぐに終わり、門番から鉄製のカードを渡され、都市に入ることができた。この馬車保有証は馬車に何が起きても都市は一切責任を取りませんというのに許可をしたという証であるらしい。門番がこれを発行してから教えてきた、だから俺はそれ発行する前に教えろよと心の中でツッコんだ。どちらにせよこの都市に入るのには馬車保有証がなければならなかったのだから今となってはもうどうでもいいことだ。
「リサ、とりあえず夕食にするか」
「はい」
リサは慣れたのか、馬車の中でぐっすり寝ていた。今は目が冴えている。逆に俺は寝ずに馬車を走らせていたから、俺はすぐに寝たい気分だったが、リサが腹をすかせていると思い、夕飯を取ることを優先した。都市の中は屋台がたくさんあった。この光景を見ると、あっちの世界を思い出す。
「リサは何か食べたいものはあるか?」
「食べたいものですかー。うーん」
リサが悩んでいると、屋台か男性の声が聞こえる。
「そこのお二人さん。ここで食べていかないかい」
そこのお二人が誰かはすぐわかった。俺たちのことだ。俺たちを呼んでいるのはラーメンと書かれた暖簾のある屋台。そこの店主は頭に白タオルを巻いている。
「ラーメンか・・・」
ラーメンという言葉に反応し、今にもよだれが溢れそうな俺を見てか、リサが夕食を決めたらい。
「ここでいいです」
「いいのか?」
「はい。私、食べてみたくなりました」
リサに夕食を決めさせるつもりが結局俺の食べたいものになってしまった。俺たちは屋台の暖簾をくぐり、椅子に座る。今はちょうど客はおらず、俺とリサ、そして店主だけだ。
「お二人さん何にしやすかい」
「俺は豚骨ラーメンで。リサは?」
俺はメニューを見ずに注文をした。ラーメンのメニューはあっちもこっちの世界も同じだろうと思ってのことだ。店主が「あいよ」と言ったことにより俺の予想は的中したことを確認できた。リサはメニューを見ていたが、どういう料理なのかわからずにアワアワと慌てふためいていた。
「リサは味噌ラーメンとかどうだ。もし口に合わなかったら俺と交換すればいいし」
「う、うん。じゃあそれで」
「あいよ」
店主はそう言うと早速作り始めた。このただ待っているだけというのはとても地獄だ。スープのいい匂いにやられた。早く食べたい早く食べたいという気持ちが先行し、箸を構える。リサも同じような状況だった。ラーメンを作り終え、俺たちの前に器をドンとおいた。
「さあ、召し上がれ」
その店主の声を合図に俺たちはラーメンを啜る、啜る、啜る。気づけばもうラーメンはなくなっていた。リサに至ってはスープまでなくなっていて、とても満足そうな顔をしていた。俺はというとラーメンに懐かしさを感じていた。そうしてお金を払い、屋台を出る。胃も満たされ、あとは寝るだけ。出発は明後日にすることに。これは馬の疲れを癒やすためと、俺たちの疲れを癒やすためでもある。それに観光もしたい。今まで行った都市では観光なんて一切できなかったからな。そうして俺たちは宿を取り、深い眠りに入った。
ラーメン食べたくなってきた