第22話 疾風
「動くな!!」
いきなり響いた声。子どもたちが大勢の男に捕らえられた。子供たちは先程の鬼ごっこみたく体を動かすことができない。それほどの恐怖が子どもたちを襲っていた。すると、男の子が口をパクパクさせてきた。恐怖で声も出なくなっている。だが、なんて言っているのかはしっかりと理解できた。男の子が言ったのは「助けて」。俺の隣にはリフッシがいる。昨日みたいに泥棒を速攻で無力化した時見たく、すぐ行動にでるかと思っていた。だが、そうはならなかった。リフッシは動こうとしていたが動かない。否、動けない。
「動いたらどうなるかわかってんだろうな」
リーダーらしき男は男の子の首筋にナイフを突きつけていた。少し肌に刺さり、血が流れる。またしても男の子が口をパクパクする。今度は言葉ではなく叫びだった。それを見た瞬間行動に出ようとするリフッシ。だが動けない。助けたいのに助けられない。そんな思考がリフッシの中を駆け巡る。
「こいつらを開放して欲しければ有り金全部よこしな。なあ、リフッシさんよ〜」
その男はリフッシのことを知っていた。リフッシはそれを聞き、考えることなく今ある全財産を渡す。
「ありがとよ。でも、本当に開放するとは言ってないんだよな」
「なっ!?」
男に騙されたとわかり思わず声が漏れ出てしまう。すると、女の子を取り押さえていた中肉中背の男がリーダー格の男に話しかける。
「なあなあこの女、ヤってもいいか?」
「ああ、いいぜ。どうせこいつら奴隷にするんだ。今更傷がついたって構いやしない。あ、もう傷つきかもな、ここ孤児院だし」
「「「ゲラゲラゲラゲラゲラゲラ」」」
女の子が悲鳴を上げている。だが、声は出ていない。そんな会話を聞かされたリフッシは怒りに顔を崩していた。だが、怒ってところで自分にできることはない。
「くっ!!どうすれば」
俺はたった2日とはいえ、リフッシが爽やかイケメンたる所存をほとんど理解していた。それは何事も当然にする、ということだ。だから昨日も当然のように人を助けるし、当然のように寄付もする。俺はそんなリフッシに感化されたのか、リフッシ同様当然のように子どもたちを助けようと思っていた。俺は今、爽やかな気持ちになっている。すると、何日かぶりの声が聞こえた。
《えー、風属性の移動系統魔法の使用許可が降りたぞ》
〈えらく適当になったな〉
《なんか堅苦しいのあんま好きじゃないんだよなー》
〈そうなのか。まあいいや。それでなんの魔法が使えるんだ?〉
《えっとなレベル5の移動魔法だな。魔法名は・・・》
意識が現実に戻る。俺は先程アンス様から教えてもらった魔法名を唱える。
『疾風』
俺がボソッと呟いたその言葉にリフッシが驚く。が、リフッシが驚いたのと同時に全て終わっていた。男たちが全て床に倒れ悶ていた。
「え?」
俺が何をしたかというと、魔法を唱える前に『天魔』を使い、体に魔力を纏う。この時俺が纏った魔力は緑色を帯びていた。武道大会の時と同じで、風属性に染まった魔力を纏ったからだろう(武道大会の時は闇属性)。だが、あの時は普通の魔力の時と比べ、特に何も変わっていないように見えた。今回も特に変わった点はなかった。だが、魔法を唱えた瞬間にわかった。風属性の移動系統魔法である『疾風』は、自身の背中から風を吹かせ、加速させるという魔法だ。この魔法のおかげで男たちを一掃できた。が、明らかに魔法だけではあのスピードは出ない。相手に一切気づかれない速さで攻撃をするなんて到底無理である。それも一瞬のうちに。では、なぜ無理なものができたかというと、それは『天魔』で纏った風属性の魔力の影響だとすぐに気がついた。
「はあ、はあ、はあ」
乱れた息を整える。流石にこれは疲れた。一瞬のうちに敵を一掃するなんて芸当を可能にしたのだ。相当無理をしなきゃできない。俺が疲れているのを子どもたち、リサ、カプリティーナ、リフッシが見ていた。驚愕の目で。
「「何が起こったんだ?」」
「あれ?私たち助かったの?」
「・・・」
カプリティーナとリフッシは何が起こったのかわからない様子で、子供たちは助かったなかわからず、リサは固まっていた。
「いや、今はそんなことどうでもいい。子どもたちが無事なら、それで」
リフッシは子どもたちが無事なのを心から喜んでいた。それを見てカプリティーナも縦に首を降る。
「助かったんだ、、、やったー」
「ありがとお兄ちゃん」
「えぇーん」
子どもたちは恐怖から開放されたからか涙を流し、俺に感謝をしてくる。こういうのも悪くないな。さて、リサはというと
「おーいリサー」
「あの、夕日すごくないですか?」
俺の強さがリサの予想を超えていたらしい。
「うーん。でもこれたまにしか使えないし」
たまにしか使えないのは俺の心がまだまだ未熟なせいだ。だから何かきっかけがないと魔法は使えない。いつでも魔法を使えるようにするには感情を知ることともう一つ感情のコントロールが必要となってくる。それをできるようにするのがこの旅の目的でもある。
「それじゃあ逆にリサはどうなんだ?」
「私ですか!?」
「確か感情が共鳴すればその人の魔法が使えるってやつだよな。そっちも十分すごいんじゃないのか?」
「それはそうなんですけど、今まで共鳴したことある人全然いないんです」
「えっ!?」
「そもそも私は王女。外に出ることはあまりなかったものですから人との関わりもあまり」
なるほど。って、リサなんで着いてきたの?力になると言ってたけどこれじゃあ
「だから、私も夕日と感情について学んでいければなと。私も夕日と同様、感情を知れば強くなれます。だから見捨てないでください」
「いやいやいや、見捨てる気なんて全然ないけど。それじゃあ、この旅で心も体も強くなろう」
「はい!!」
俺とリサがなんかいい感じになっていると、カプリティーナとリフッシが手を上げ、声をかけてきた。
「あの〜お取り込み中のところすいませんが、こいつらどうします?」
上げていた手を床に倒れている男どもに指を指す。
「とりあえず口を塞いで、縄で縛ろう。それじゃあ警備員を呼んでくれるかな」
「それじゃあ、私が呼んできます」
カプリティーナはそう言うと警備員を呼ぶため、大通りの方へ小走りで向かっていった。ここには今、俺とリサ、子どもたちとリフッシがいる。俺は教会から縄を取ってきて男たちを縛ったり、口を塞いだリしていた。リフッシは泣いてる子をあやしたり、喋ったりして何とか安心させようとしている。数分してようやく子どもたちは落ち着いた。疲れたのか皆寝てしまった。それをいいタイミングと見たのかリフッシが頭の中にある最大の疑問を投げかけてきた。
「君たちは一体何者なんだい?」
「俺たちは鍛冶屋を目指す若者ですよ」
「・・・そうか」
俺たちは結局自分たちの正体を明かすことはしなかった。リフッシを俺のゴタゴタに巻き込みたくなかったからだ。それに王様との約束もあるしな。
「リフッシ。たった2日だったけどありがとう」
「急にどうしたんだい?お別れみたいなこといって」
「俺たちの目的は達成しました。だから、次にいかないと」
「わかった。じゃあ、このあと鍛冶屋まで来てくれるかな」
「いい、ですけど」
それから言葉を交わすことはなかった。それから十分後くらいにようやく警備員が到着した。男たちを引き渡し、この大事件は終わりを迎えた。子どもたちとカプリティーナに別れを告げ、俺たちは鍛冶屋に来ていた。時刻にして17時。夕日が落ち始め街は所々に緑を残し、紅く染まっている。鍛冶屋の前、リフッシにちょっと待っててと言われ待っているとリフッシが中から何かを持って出てきた。
「はい、これ」
「重っ!?なんですかこれ?」
「これは剣だよ。長剣。お近づきの印にって感じかな」
「もらっていいんですか?」
「当然だよ。その剣で、目的を果たしてきなよ」
「恩に来ます」
もしかしたらリフッシは俺たちの目的が普通ではないことがわかっているのかも知れない。俺はこの出会いを忘れることはないだろう。
「リフッシ」
「ん?なんだい」
「リフッシ知っている中で、この人はすごいって思う人はいるか?」
「すごいね〜、うーん。・・・・・あ、いる」
「それは?」
「ミステスから南東に100キロくらい進んだ所にある『ディヌス』っていう都市に僕がすごいと思う騎士がいるよ」
「そうか。ありがとう」
「いえいえ」
「・・・それじゃあ、行くよ」
「うん。行ってらっしゃい」
「行ってきます」
こうして次の目標であるすごい騎士に会いに行くことに。その騎士がいる都市『ディヌス』までの道のりは長い。今日は東の入り口近くの宿に泊まることに。明日はいよいよ『ディヌス』に向け歩みを進める。