第21話 孤児院
教会から修道服を着た若い女性が出てきた。その女性は真っ直ぐこちらを見据えている。
「いつもありがとうございます」
女性はいきなり俺たちに向かって腰をおり、感謝の意を表す。だが、女性の感謝のベクトルは俺たちではなくリフッシに向かっていた。リフッシは少し困った顔をした。
「別にいいんですよ。それよりも、顔を上げてください。感謝されてるとしても女性に頭を下げさせるのは気が引けますから」
「ほ、本当にありがとうございます!!」
俺たちはふたりのやり取りを聞いていたが、なんのことだからさっぱりわからなかった。俺たちがどういうことかと思っていると、それを見たリフッシがこちらを向いた。
「この人はこの教会のシスター。カプリティーナさん」
「えっと、リフッシさんのお知り合いかしら。私はカプリティーナ・フィストと言います。歳は24です」
顔から判断して若いと思ったが本当に若いな。シスターっていったらお婆ちゃんがやってるイメージがあったからな。それにしてもリフッシがここまで来た理由がわからない。ここに何かあるのだろうか。
「はい。これ」
リフッシがそう言いカプリティーナに何かを渡した。その何かを受け取ると、ものすごく申し訳なさそうな顔で
「いつもありがとうございまーーーーす!!!!!」
そう言い、カプリティーナは勢い良くジャンプし、土下座をした。すると、リフッシの顔が再び困り顔になる。今度は少しではなくものすごく困っている。
「リフッシさんには感謝してもしきれません」
「カプリティーナさん、顔を上げてください。さっきも言ったとおり女性に頭を下げさせるのは気が引けます。それにこれは僕が勝手にしていることですし、逆に感謝を言うのは僕の方ですよ。受け取ってもらえて嬉しいです。ありがとうございます」
「・・・」
リフッシにそう言われゆっくり顔を上げるカプリティーナ。ほのかに顔が紅かったのは気のせいではないだろう。こんなイケメンに、こんなこと言われてしまったらそうなること必至だ。隣にいるリサの目がキラキラしている。こんなこと言われてみたいとでも思っているのだろうか。そんなことより、今はここに来た目的が知りたい。そう思いリフッシに聞いてみることにした。
「なあ、リフッシ。ここに来た目的って何なんだ?」
「ここに来たのはこの孤児院に寄付をするためさ」
「リフッシさんはもう長いことこうやってお金を寄付してくださるんです。そのおかげで今は特に何不自由なく孤児の子供たちは過ごしていられるんです」
リフッシの説明に、先程まで土下座していたカプリティーナさんが補足説明を入れてきた。リフッシはそんなことをしていたのか。本当に何から何までイケメンだなと関心するばかりだ。そんな会話をしていると教会の扉が開き、中から子どもたちが出てきた。その数15人。子供たちはこちらに目を向け、勢い良く走ってきた。
「わーい。リフッシだー」
「リフッシー」
「遊ぼー、遊ぼー」
リフッシはあっという間に子どもたちに囲まれてしまった。相変わらずというか、なんというか。また、リフッシのことをイケメンだなと思わされたのだった。子どもたちがリフッシと遊ぶとのことで、鬼ごっこをしようということになった。俺たちも一緒にということだったので参加することにした。俺は鬼ごっこなんて懐かしいななって思い出にふけっていた。すると、鬼ごっこの開始を告げる男の子の声が聞こえた。
「それじゃあ、鬼ごっこはじめー」
皆一斉に動く。最初の鬼も動き始めた。
「はい。お兄ちゃんタッチー!!」
俺は鬼にタッチされていた。
「え?」
お兄ちゃんと呼ばれたことに驚いているのではない。お兄ちゃんは俺しかいない(リフッシは名前で呼ばれている)から、特に何も思わなかった。それよりもこの子供の速度に驚いていたのだ。俺は鬼ごっこと聞いたから相手は子供だし手を抜かなきゃななんて考えていた。だが、実際はどうだろうか。子供は普通ではありえないスピードで俺に追いつきタッチをしたのだ。俺はタッチされてから気づいた。あ、これ魔法だ、と。この鬼ごっこは俺の知っている鬼ごっこではない。言うなれば鬼そのもの。これをこっちの世界では鬼ごっこ、ただの鬼に模した遊びというわけだ。こっちに鬼がいるとすればどんな強さなのだろうかと身震いを禁じ得なかった。さて、俺もこのままでは負けていられない。もう次は油断しない、そう固く決め、俺は『纒魔』を発動する。これにより移動速度は魔法に引けを取らないはずだ。近くにいた男の子に狙いを定め、一気に間合いを詰める。男の子も即座に反応するが、時すでに遅し。魔法を発動する前に俺はその男の子にタッチした。思わず俺は口から声が漏れる。
「はいタッチー!!」
それを見ていたリサとリフッシ、そしてカプリティーナが声を揃えて
「「「大人気なっ!!」」」
と言ってきた。俺はそう言われ途端に自分の行動が恥ずかしくなってきた。俺は立ち止まる。するとすぐさま男の子がタッチをしてきた。
「はいタッチー!!」
「くそーやったなー」
俺は恥ずかしさなど忘れ、純粋に楽しんだ。
「ふふ、楽しそうですね」
「そうだな。まあ、これもいいかもしれないな」
「大人気ないですけどね」
俺が子どもたちと遊んでいる中、他の大人三人衆はそんな会話を交わしていた。
「こら待てー」
「待たないよーだ」
俺は今、男の子を追いかけている。もちろん孤児の中に女の子はいたが、流石に狙いはしなかった。
「もらったー」
「へっ!!甘い」
「うわっ。痛ってって。・・・なっ!?」
男の子が逃げていた先はリサたちがいるところ。俺がもう少しでタッチできるというところでキレイにかわされた。そこまでは良かったのだが、その後勢い止まらずにリサに突っ込んでしまった。それもリサの胸に。
「あ、、、えーと」
「夕日さん。ちょっとそこに座ってください」
「は、はいーーーー!!」
「はしゃぐのは構いませんけどもっと節度をもってグチグチグチグチ・・・」
俺がリサに説教を受けていると、横から遮るように
「まあ、別にいいじゃありませんか」
「別に良くは」
「お姉ちゃん大丈夫?怪我してない?」
子どもたちに心配そうな目を向けられ口から出ようとしていた言葉を飲み込む。
「だ、大丈夫」
「良かったー」
「・・・はぁー、まあ子どもたちに免じて許して上げます」
「本当に申し訳ございませんでしたーーーー!!」
俺は渾身の土下座を繰り出した。子どもたちが俺のことを気にかけてくれたのか声をかけてくれた。
「お兄ちゃんも顔を上げて。僕たちお兄ちゃんと遊べて楽しかったよ。だから、ね!!」
「うん」
あーなんて優しい子どもたちなんだ。
「それじゃあ、今日はこのくらいで」
「今日は本当にありがとうございました。リフッシさんだけでなく夕日さんにリサさんまで」
「いえいえ」
ここでお決まりの言葉を3人声を重ねて言う。
「「「当然のことをしたまでですよ」」」
俺はリフッシに会えて確実に心が成長していると感じた。そうして孤児院の皆に別れを告げようとした直後、また新たな事件が舞い込んできたのだった。