第20話 鍛冶の手伝い
早朝6時
「もう朝だよ。起きて」
「んー」
声に反応し、伸びをする
「もう朝ですか」
リサも起きたようだ。声の主、リフッシの声で俺たちは目を覚ました。昨日俺はリサと一緒のベットで寝たが(俺は床で寝ると言ったがリサが一緒に寝ると聞かなかった)決して手は出してないと神に誓おう。あの神に誓ってもあまり意味はない気がするが。
「ん?なんかいい匂いがする」
いい匂いが部屋の中に入ってきた。食欲をそそる美味しそうな匂い。朝ごはんを食べるためにベットからでようとした時、隣にいるリサから可愛らしい音が聞こえた。
「ぎゅるるるる」
その音のするリサの方へ視線を向けると、赤面しお腹を押さえていた。俺はその光景を見て、プッと吹き出した。俺が吹き出したのを見て、リサが睨んでくる。
「な、なんですか」
「いやー、何も」
そうはぐらかす俺にリサはプーっと頬を膨らませる。そのやり取りを見ていたリフッシはというと終始微笑んでいた。
「とりあえず朝食を取ろうか」
「そ、そうですね」
俺はこの空気をどうにかするためにリフッシの提案に即座に答える。というよりさっきから美味しそうな匂いを嗅いで、俺も腹の虫が鳴きそうだ。早く食べたいという思いの方ぶっちゃけ強かった。部屋を出て、リビングに向かう。昨日夕食を食べた机と同じところに朝食が置かれていた。2つ椅子を引き、「どうぞ」と手で促してくるリフッシ。俺たちは椅子に座り、朝食を取り始めた。今日の朝食は焼いたパンに、スープ、そして野菜炒めみたいなやつ。
「この料理なんて言うんですか?」
「これかい?これは野菜炒めって言って、まあただし野菜を炒めて味をつけるだけの料理なんだけど」
「野菜炒め!?」
もろ同じ名前だった。
「じゃあ、昨日の肉と野菜が入ってたあれは?」
「あれかい?あれは肉じゃがって言って材料を油で炒めてから調味料で味をつけたものだよ」
「やっぱり肉じゃがか」
「やっぱりって?」
「い、いやこっちの話だ」
リフッシが訝しげな表情で見てくるのを何とか誤魔化す。リサはというと俺たちの会話などまるで聞かず、食べることに集中していた。どんだけ腹減ってたんだよ。昨日の夕食のことを思いだす。ここである疑問が俺の中に湧き上がった。こっちの世界は和洋中の食文化が混ざっているのかな?もしそうだったらあっちの世界にある食べ物もこっちの世界にあるかもな。これからの食事を楽しみにしつつ、今の食事を楽しんだ。食事が終わったのは6時20分くらい。鍛冶屋での仕事は7時からとのことなのでそれまでの間はゆっくりしておくことに。そして、時間は経ち、6時50分になった。昨日は色々あったから帰るのに結構な時間がかかってしまった。家から鍛冶屋まで10分くらいで着く距離。俺たちは家を出発し、鍛冶屋へと向かった。それから10分ほど歩き、鍛冶屋まで無事につくことができた。ここで無事にとつけたのは言うまでもないだろう。それにしてもまさかリフッシがこんなに人気だなんて。ここまで来る間、リフッシは色々な人から「おはよう」や「いつもありがとね」などの声が次々とかけられた。俺は妙に誇らしい気持ちになった。
「それじゃあ、早速手伝いをしてもらおうかな」
「了解」
「わかった」
そして、今。工房まで来て、早速手伝いをすることに
「で、何をすればいいんだ?」
「僕と夕日で鉄を交互に叩くんだ。僕が叩いたら、次は夕日が叩くって形で」
「わかった」
「あのっ、私は?」
「リサは見ておくだけでいいよ」
「へ?」
「いや、だってこんなこと女性にさせるわけにいかないだろう」
「まあ、仕方ない。それじゃあリサ。そういうことで」
「うーん。わかった」
リサが申し訳なさそうな顔を見せる。俺だけにさせて気が引けるとでも思っているのだろうか。
「リサ。別にそんな顔しなくていいぞ。これは俺がやってみたいことでもあるからな。つまり、これは手伝いでもなんでもなく俺が勝手にやってるだけだ。」
実際そうでもあった。昨日、おやっさんの仕事っぷりを見て、やってみたいと思ったし。本当にそれだけなんだ。多分。
「ふふっ」
「どうしたんだ?」
「いやいや。夕日もやれば出来るじゃないか」
「??」
リフッシが笑った意味を俺は理解出来ずにいた。それと、リサの頬が紅くなった理由もわからなかった。
「それじゃあ、始めようか」
「了解!!」
それからは暑さと腕力との戦い。俺は幾ら腕力を鍛えたからって鉄を叩き続ければいつかは疲れがくる。にしてもリフッシがこの暑さをものともしないことに驚いた。
「リフッシ、暑くないのか?」
「まあ、もう慣れたしね。それよりも夕日は大丈夫かい?」
リフッシが涼し気な表情で心配をしてくる。俺がかいている汗の量を見れば嫌でも言いたくなるか。
「大丈夫だ」
「ならいいんだけど、もし辛かったらしっかり言うんだよ」
こうやって気遣いをしてくれるのはありがたいものだな。
「それにしても、よく叩けるね」
リフッシが俺に問いかける。
「僕でもそんなに叩けないよ。何か特別なことでもしてたの?」
「体を鍛えてたからな」
嘘ではない。体は鍛えていた(強制的に)。だが、このことについて問われると俺がここの世界の住人でないことがバレる可能性がある。早々にこの話を終わらせないと。
「それよりもリフッシの方がすごいよ。全然疲れているようには見えない」
「これでも結構疲れているんだよ。でも、女性が見ている状況で疲れている所なんてあまり見せたくないからね」
すごい徹底ぶりだ。こんなところまで気を使ってるなんて。
「それじゃあ、ラストスパートいくよ」
「はい」
こうして開始5時間くらいで今日の作業は終わった。リサは5時間ずっと俺たちの作業を見ていた。いや、俺たちの作業というよりも俺を・・・いや、これは自意識過剰すぎだろう。多分、俺の近くにあった花でも見ていたのだろう。そういう結論に至ったが、こんなところに花なんてあるはずないなと思い、このことについて深く考えないようにした。今日の日程として、鍛冶屋での作業と、寄るところがあると言っていた。作業は終わったため、今はリフッシの後をついていっている。どこに行くのか教えてくれなかったので目的地に着いてからじゃないとわからない。鍛冶屋を出て、噴水の方に行き、右に曲がる。右に曲がったら南の大通りがあり、そこから南の入り口近くまで進む(時々リサのことを気遣って)。入り口近くまで来たら、大通りから行ける小さい道を進んでいく。それから20分経った後、何か建物が見えてきた。あれは教会?俺が建物を見ていると、中から人が出てきた。出てきたのは修道服を着た、若い女性だった。