第19話 追い風
鍛冶屋からの帰り。この後、俺たちはリフッシの家に泊めてもらうことになっている。俺たちがここまで来て、リフッシと一緒に住みたい(特に深い意味はない)と言った理由を俺たちは嘘をついた。リフッシは俺たちが嘘を言ったことに気づいていたが、何か言えない理由でもあるのだろうと特に詮索はせず、快く許可してくれた。顔だけでなく性格までイケメンだ。今日の夕食の材料を買い終え(俺たちの分の材料費まで払おうとしたため何とかして自分たちの材料費は出した)、今はリフッシの家まで歩いているところだ。このままあとは歩くだけだったのだが、突然事件が舞い込んできた。
「きゃー、どろぼー」
今は18時。密かに賑わう中、突然響いた悲鳴。どうやら泥棒に何かを取られたようだ。
「どけどけー」
すると俺たちのいる方向に声が近づいてくる。声からしてこっちに来ているのが泥棒であることはわかった。姿が見えたら速攻で泥棒を無力化するために魔力を纏う。少しして賑わい、昼ほどではないが人が行き交っている道が2つに裂ける。少しして泥棒の姿が見えた。泥棒の移動速度はなかなかに速いものだった。だが速いと言っても見えないほどではない。何か魔法を使っているのだろう。まあ、そんなことを考えている暇はないな。泥棒の姿が見えたため、無力化するために動こうとする。だが、俺が動くよりも速く、リフッシが動いていた。俺以上の移動速度で、文字通り一瞬で泥棒を無力化した。泥棒は何が起こっているのかわかっていない様子だった。他の人にもおそらくわかっていないのだろう。だが、俺には見えていた。俺よりも速く動き、泥棒の背後に回り、腕を後ろにキメ、膝を蹴り、無力化した。泥棒の状況は今、星座をしている。その光景を見ている人たちは特に驚く様子を見せない。どういうことだ?驚くどころか泥棒を見向きもせず皆リフッシを見ているような。すると、先程悲鳴を上げたと思われる女性がリフッシのところへ来た。
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ、当然のことをしたまでですから。それよりも大丈夫でしたか?お怪我は?」
「まぁあ!!怪我はしていないので大丈夫です」
これを当然のことと言えるリフッシ、マジまじカッケーです。さらに女性を気遣う態度もまた。相手の女性も俺と同じことを感じたのか、リフッシを見て頬が紅潮している。
「それじゃあこれで」
「あ、あのっ、、、ひっ!!」
「ん?どうかした?」
「い、いえ何も」
「そう?ならいいんだけど」
女性はリフッシに何か言おうとしたが止めてしまった。それもそのはず、周りで見ていた女性たちが何かを発しようとした女性を一斉に睨みつけたからである。そのことをリフッシは知る由もない。リフッシは行こうかと俺たちを見てくる。それにしても、リフッシのああいう女性を気遣うの見習わなきゃなと思うのであった。程なくしてミステスの警備員が来て、泥棒を引き渡し事なきを得た。引き渡したあと、家に向かってまた歩き始めた。
「それにしてもリフッシがあんなに強いなんて思っていなかった」
「いや、そんなことないよ。今回は相手が弱かったからうま行っただけさ」
「そりゃそうかだけどあの速さはなかなかものだったよ」
「あれは、風属性の移動系統魔法『追い風』っていうレベル4の魔法さ。俺を後ろから押す追い風を発生させて移動速度を上げるという魔法なんだ」
「レベル4?それってすごいんじゃ」
「レベル4っていっても移動系統の魔法じゃ、意味はあまりないからね」
「じゃあ、あの腕をキメたやつは?」
「あれは護身術さ。本来は自分を守るためのものだけど、僕は他の人を守るのに使っているよ」
自分のためではなく、他人のためか。本当にイケメンだな。会話をしていたらリフッシの足がとまった。目の前には一軒の家。どうやら家に着いたらしい。
「どうぞ我が家へ」
ガチャりと開いた扉の中に入るように促すリフッシ。俺たちは家の中に入っていった。
「「お邪魔します」」
部屋の中はリビングとキッチンと寝室があった。時刻は19時。夕食の準備をするとのことだったので、俺たちはリビングで待つこととなった。
「リサ、ごめんな」
「別に大丈夫ですよ」
「疲れてないか?」
「疲れていないと言えば嘘になりますが休むほどではないです。それに疲れも吹き飛ぶくらいとても楽しいんです」
「楽しい?」
「私は王女ということもあって、家からはあまり出られませんでした。それもあって全然体力がないんですが。私はずっと外の世界に憧れていました。それで何度も何度も外に行こうとしました。ですがその都度捕まえられて、結局、外に出ることができたのは国王主催で行われた貴族の中でもさらに上の人たちを集めたパーティーくらい。パーティー会場は王城より少し離れたところだったため、外に行かなければなりませんでした。その時の移動で見た外の景色は今でも忘れることができません」
そういうことだったのか。リサがここまで外の世界に憧れている理由が聞けてどことなく嬉しい気持ちになった。
「料理できたよー」
リフッシが料理を手に取り、リビングに来る。リビングにあるテーブルに置き、夕食を取ることとなった。出された料理は肉じゃがのようなものとパン、それとスープ。
「ごめんね。こんなものしか作れないけど」
「いやいや、十分すごいですって」
「すごいです」
リサが勢いよく頭を縦に振っていたことは触れないでおこう。味はとても美味しいものだった。何か懐かしいそんな味だった。明日は鍛冶屋に行って仕事をして、仕事が終わったらよるところがあるということなので一緒に行くことになった。明日から俺たちは鍛冶屋で手伝いをすることになっている。ヘマだけはしないようにしなきゃな。朝は早いとのことなので風呂に入ってから寝ることに。風呂に入り終え(もちろん一人ずつ)、リサと俺はリビングで寝ようとした。だが、リフッシが客人をリビングで寝させるのは気が引ける、自分のベットを是非使ってくれと一向に引かないので、仕方なくベットで寝ることに。その時、俺とリサが一緒に寝ることに少し戸惑っていたが自分の中で答えを出したのか「ほどほどにね」などと言ってきた。いちいち突っ込むのもあれなのでスルーしておくことに。明日は早い。俺はあの子のことを頭に思い浮かべ深い眠りについた。