第1話 始まり
「おーい」
闇から声が聞こえる。聞こえた声は低く、おじいさんのような声をしている。辺りは暗くここがどこかも分からない。
(俺は死んだはずだけど。何で声が聞こえるんだ?)
「おーい」
再び聞こえる声。
(やっぱり聞こえる。ああ、そういうことか。この声は天国から俺を呼ぶ声か)
「おーい」
またしても夕日を呼ぶ声が。
(まだ聞こえる)
「わかったから。今そっちに行くよ」
夕日は闇に話しかける。
(もうすぐで天国かな)
次第に夕日を呼ぶ声が近くなっていることから天国はもうすぐと予想する夕日。途端、夕日は何かが顔に触れているような感覚がした。触れられた場所は頬。場所を特定できるほどはっきりとした感触が残っている。
(あれ?死んでるのに感触がある。どういうことだ?)
「起きろー」
さっきまで夕日を呼んでいた声が急に口調を変える。
「・・・さっさと起きんか!!」
その大きく尖った声は夕日を目覚めさせるのに十分だった。
「なんだ、ここ?」
目を覚まし、目の前に広がっていた光景に目を疑う。目の前には天国、ではなく一面星のように光り輝く点が。でも、宇宙というわけではなく、しっかりと床がある。
「ようやく起きたか」
キョロキョロと見回していると、再び声が。その声はさっき俺を呼んでいたものと同じ声だった。声のした方に目を向けると髭を生やした70歳位のお爺ちゃんがいた。その他に人はいない。
(誰だ?)
「ああ、わしか?わしは神。といっても力はほとんど無くなってしまったが」
考えていることを言い当てられ驚くのもつかの間、目の前にいるおじいさんが自身のことを神と言ったことに更に驚かされる夕日。
(何で、俺の考えている事が・・・。それに神って・・・)
「なぜかって?それは、ここがお前さんの意識の中じゃからじゃよ」
(え?俺の意識の中?)
ここは、夕日の意識の中。夕日たちは意識の中に作られた部屋にいた。
「そうじゃ。だからお前さんの考えている事は全て筒抜けじゃよ」
(俺の考えてることは全て筒抜け。そんなこと・・・神だったら出来る、のかもしれない)
人の考えていることを完全に理解するという芸当は神にしかできないだろう。そう考え目の前にいるおじいさんは本当に神なのだと認める。
「じゃあ、俺の聞きたいこと分かりますよね?」
「ああ、分かるとも。では、最初になぜ死んだ筈なのに生きてるのかについて、それは、お前さんの魂をわしが作った体に入れたからじゃよ」
(は? 今、何て言った? 俺の魂を他の体に入れた?)
神の口から出た言葉は夕日の理解を絶するものだった。
「じゃから、わしが作った体にお前さんの魂を入れこんだんじゃよ。地球に危機迫った時におまえさんの心臓にわしが作ったナイフを刺し、こちらの体に魂を転移させるようあやつに言っておいたんじゃがな」
突拍子なこと過ぎて何を言っているのか分からない夕日。
(何を言ってんだこの神様は?)
「何を言ってるもなにも、あのナイフはわしが作った特別製で魂を転移させることができるんじゃよ。あと、お前さんが気になっている、なぜお前さんの魂じゃないといけないのかという疑問についてだ。それは、その体がお前さんの魂にしか合わないんじゃ。まあ、他にも色々理由はあるのだが」
(それだけの理由で俺は死んだのか?いや、死んではいないのか)
夕日は今、自身の体を離れ、神が作った体に入れられている。だから、死んだのではなく転生したというのが正確には正しい。
「何を言っておる。お前さんはあの生物に食われて魂もろとも消えるのが良かったのか?」
(良くないけど。というかあの生物はなんなんだ?)
「あの生物は地球ではないもう一つの世界の生物。天球からきた魔物じゃよ」
またしても何を言っているのかさっぱり分からない夕日。だが、ここである事に気がつく。
「てことは、こんなことしてる間にも地球が」
「それには心配及ばんよ。何せここは意識の中、こんなに喋っておっても時間が進むことはない」
(良かった。地球は無事か)
ホッと息をつく夕日だが今まで考えないようにしていたある出来事を思い出す。
「ああ、その事か。あやつが抵抗するもんじゃからわしが操りお前さんを刺した」
(どういうことだ?綾香が俺を刺すのを抵抗した?それに綾香は神の事を知っている?)
綾香は夕日の彼女。今さっき恋人になったとはいえ、綾香は夕日の彼女だ。その綾香が神と繋がっていることを聞かされ、夕日は困惑していた。
「それと地球と天球では、時間の感覚が違い、地球での一秒は天球での一年に相当するんじゃ。先程天球の神が地球に干渉してきて、沢山の魔物が送られてきた。が、しかし今はわしの力で地球、いや地球の存在する世界そのものの時間を止めておる。じゃがわしの力はほぼ失われてて地球を三秒しか止めれないんじゃ。天球の神と地球の神とじゃ、まさしく天と地ほどの力の差があるんじゃよ。天球の神の干渉から三秒間も時間を止めるんじゃ、誉めてほしいくらいじゃよ」
(何で、天球の神が地球に干渉してきてるんだ?それとなんでそんな事を俺に言うんだ?)
夕日は神が何故こんな話をするのかその疑問に対し、ある仮定が浮かんだ。
(まさか・・・)
「元々天球と地球は1つの世界だったんじゃよ。その世界の神が今の天球の神だったんじゃが、突如その世界が2つに割れ、今の天球と地球が生まれた。そして、わしは地球の神になったんじゃ。それから何事もなかったんじゃが今、あやつが地球を取り戻そうとしてきておるんじゃ」
あまりに現実から離れたその話を聞き、仮定は確信に変わる。
(それって・・・)
「じゃから、お前さんにはその体を使って天球の神を止めにいってほしいんじゃよ。3秒で神を倒してこい。わしが止めれることのできるその3秒という時間でな。と言ってもあっちの世界では3年分になるがの」
(・・・)
夕日の立てた仮定は合っていた。だが、その仮定はあまりにも最悪だった。夕日はこれからどうなるのか不安になり、言葉が出ない。
「それと、その体には地球には存在しない『魔力』というものがある。天球で生きるためには必須じゃ。それにその体にはお前さんだけの特殊スキルがあっての、そのスキルはお前さんの感情によって使える魔法が変わるというやつじゃよ。まあ、どの道行かせる予定だったんだ、それが早まっただけじゃ。それに、わしが説明するより実際に見た方が早いじゃろ。それじゃーのー」
「お、おい、ちょっ、待って・・・」
神はその場からいなくなる。神がいなくなった瞬間、意識の中の空間が消えた。
「なんだここは?」
目の前には広大な自然が広がっていた。夕日は見知らぬ大地に置き去りにされていた。
「なん、なんだよ!!!!!!!」
夕日は怒りに我を忘れ、叫び続ける。夕日は確かに見た。綾香が泣きながらそして、苦しそうに夕日の心臓にナイフを刺しているのを。夕日は綾香にあんな顔をさせた神に対し激しい怒る。自分の置かれた状況よりも綾香のために。辺りは夕日の怒りに呼応するように燃え、どんどん強さを増していく。草木は一瞬で灰に変わり天球にある全ての物を焼き付くしてしまうのではないかと思われた。だが、夕日は急な脱力感に襲われ、全身に力が入らなくなっていく
「なん、だ、これ」
夕日の意識が朦朧としていくなか
「大変。人が・・・」
誰かの声がする。
(なんだよこれ。こっち来た途端に俺、死ぬのかよ)
自分の置かれた状況に苦笑いを浮かべ、目が閉じていく。夕日の意識はそこで途絶えた
今後の参考にしたいので、どんなことでもいいので感想、要望等々くれると助かります。