第16話 緑の大地ミステス
時刻は12時。
王城の門をくぐり、そのまま俺たちは王都を出発した。王都から出て数分、特に会話もなくただただ時間が過ぎていく。このままでは気まずいということでなんとか会話をしようとする。
「リサ、そういえば俺の自己紹介をしっかりしていなかったね」
「そうですね」
「それじゃあ、改めて。俺の名前は龍崎夕日。気軽に夕日って呼んでくれ。そして、知ってると思うけど地球っていう別の世界から来た」
「それじゃあ、私も。私はティリサ・キャストレ。名前の通り人間の国であるキャストレの国王、ビルディスト・キャストレの娘です」
ビルディスト・キャストレというのは国王の名前である。国王との食事会の時に国王が名前で呼んでいいと言った時に聞いた名だ。お互いに自己紹介をし、俺が抱えている不安をリサに問いかける。
「なあリサ」
「はい?」
「本当に俺に着いてきてよかったのか?こっちの世界にはあまり関係のないことなのに巻き込んでしまって」
「よかったもなにも私が着いて行きたいんですから、夕日はそんなこと考えなくていいんです」
彼女はとても無邪気な笑顔で言う。
「逆に外の世界に行きたいっていう私のわがままに付き合ってもらってるんですから私が夕日を巻き込んでしまったんです」
「いや、俺がリサを巻き込んで」
「私がです」
「いや、俺が」
互いに譲らず、ぐぬぬと声を出しながら見つめ合う。少しして変な事で意地を張っていることに二人共気づき、互いにプッと吐き出してしまう。
「はぁ、はははは」
「あは、ははは」
互いの間に流れていた冷ややかな風は今はもう流れていない。
「ふーう、今ので結構緊張取れたかも」
「実は私も」
互いに緊張していたと知り、顔を見合わせ苦笑いをする二人だった。その後、休憩を入れつつ5時間ほど歩いた。目の前には雄大な自然が広がっていた。
「ここがミステスかー」
俺たちはミステスの前にいた。ミステスまでの道のりは補整されていないものの道があり、遠くが見渡せるほどどで、どちらかといえば土とか岩が多かった。だが、ミステス緑で溢れている。
「あ、すごい空気が美味しいですね。お父様の言っていた通り」
「そうだな、こんな空気吸ったことない」
この空気を吸ってしまえば、地球の空気はものすごくまずいものだったとわかる。これが本来の空気か。地球は工業とか発達してるから空気がものすごく汚かったもんな。
「それにしてもここまで来るのに5時間もかかるとはな」
「そうですね。お父様は直ぐに着くと言ってらしたのに」
俺たちは王様が南に少し行けば着くと言ったから徒歩で行くことにした。今思えば、王様が余所の都市に行くのに徒歩で行くはずがない、絶対に馬車を使うはずだ。王様の少しとは馬車を使っての少しだったのだ。そのことに気づいたのはミステスにつく前、つまりたった今さっきというわけだ。
「リサ大丈夫か?」
「少々疲れました」
俺は鍛えてあるからどうともないが、日頃運動をすることがあまりないリサにとってはかなりきついものだっただろう。疲れの色が顔に出ている。
「着いてからそうそうに人探しってのも疲れるからとりあえず宿でもとって休むか」
「お願いします」
そうしてミステスに入っていく。ここも王都同様、審査があった。特に何もなくすんなり通ることができた。移動の疲れを癒やすため宿を探す。ミステスの街並みは王都ほどでないにせよ綺麗に道が舗装され、都市の中心には噴水があった。
「リサ、宿あったぞ」
「そうですか」
リサは疲労で簡単な返事しかできなくなっていた。これは早く休ませてあげたほうがいいな。先程探した宿に入る。
「すいません部屋を2つ」
宿の受付の人に部屋を2つ取りたいんですがと言いかけた時、リサが俺の服を軽く引っ張ってきた。
「部屋は同じでいいです」
「え?なんで」
「私のスキルの特性上、生活はできるだけ一緒にいたほうがいいと思うんです」
リサのスキルというのは『他人と感情が共鳴すればその人の魔法が使える』というものだろう。聞く限りチートかと思いきや、そんな甘くはなく、感情が共鳴しても感情が強くなければとても使えたもんじゃない。常日頃から一緒に過ごしていれば感情も共鳴しやすくなるというこだろう。そうかもしれないがいかんせん俺は男だ、部屋に男女2人っきりというのはいささか気が引ける。(シャルネアと2人っきりは大丈夫。欲よりも恐怖心の方が勝ってしまうため何もできなかった)
「男女が部屋に二人っきりだぞ、本当にいいのか?」
「はい。私、夕日さんのこと信頼してますから」
なんで俺はリサから信頼されてるんだ?先程考えていたことはもう考えないようにしていた。
「わかりました。これが鍵です」
渡されたのは極平凡なの鍵。だが俺はその鍵からは微かに魔力を感じ取ることができた。おそらく部屋の鍵穴が魔道具なのだろう。それでこの鍵を使い、部屋の鍵を開けるというわけだ。魔力がない鍵を使うと何か起こるのだろうか。それにしても鍵を渡されたのはいいが、受付の人が異様にニヤニヤしていたのは気が付かなかったことにしておこう。リサと話した結果、ここにきた目的であった爽やかイケメンを探すことにした。移動の疲れでリサは部屋に行くなりベットに倒れ込む。ベットは2つあり、救われた気持ちになった。これでベット1つだったらどうなったことか。考えたくもない。俺は宿で夕飯をとり、リサに次いでベッドに倒れる。俺の隣にリサが寝ている。俺の隣と言っても、俺の隣のベットにだが。隣に異性がいると思うと、色々考えてしまうのが男の性。だが、俺は好きな子のことをまた思い出し、すんなりと眠ることができた。