第14話 協力者
夕日とシャルネアは王城にある王様の部屋にいた。夕日は武術大会で優勝し、その褒美として王様に何でもお願い事を聞いてもらえることになっている。それで、夕日たちは王様の部屋に来るよう言われ、今ここに至る。
「まさか君が優勝するとはな。本当に驚いたぞ」
夕日が部屋に入り王の正面に立ったとき、王は夕日に称賛の言葉を送った。
「ディルナンド相手によく勝てたものだ」
王は夕日が勝つとは思っておらず、夕日が優勝したことに大変驚いていた。
(本当によく勝てたよな。もし魔法を使っていいルールであったならば、俺は一瞬で負けていただろう)
夕日は王の発言に納得していた。そして、それと同時にダナトリアに恐れをなしていた。魔法どころか「纏魔」を使っていなければ夕日は負けていた。それほどまでにディルナンドは強かった。そしてダナトリアのあの動き、明らかに武術をやっている者の動きだった。
(あの若さであの強さ。まだまだ成長するとなると・・・)
そう考え夕日は身震いする。だが、夕日にとってそんなことはあまり関係ない。夕日にはやらなければいけないことがある。その期限は刻一刻と迫ってきている。その期限までに夕日が神を倒さなければ、地球は瞬く間に終わりを迎えるだろう。
「まあ、何にせよこれでこの国の武術のレベルはわかった。はっきり言ってひどい。そうだろう?」
王様はそう言うとシャルネアの方を向く。シャルネアも同意見とばかりに頷いた。
「教える立場からして、これは少々骨が折れそうです。見るからに武術を齧ったことすらもない者たちばかり」
「こんなことになるなら魔法だけでなく武術にも重点を置くべきだったな」
王は軽いため息をし、苦い顔をした。シャルネアはそのまま話しを続ける。
「そこでディルナンド。彼にも武術を教えるのを手伝ってほしいのですが」
「それは構わないが」
「それは助かります。彼の武術のレベルは相当高いです。彼に鬼麻纏流の奥義「纏魔」が加われば国力アップにも繋がるかと」
「ふむ。確かにその通りかも知れん。彼に伝えてみよう。それと、その鬼麻纏流だったか。武術の流派というより鬼麻纏流こそ新しい武術ということになるのではないか。そこでなのだが鬼麻纏流の新しい武術としての名前を考えたいのだが、何かあるか?」
「新しい名前ですか・・・新しい名前・・・」
シャルネアは少し考える素振りを見せ、何か思いついた顔をし口を開く。
「纏道というのはどうでしょうか?魔力を纏うことが鬼麻纏流の奥義。奥義習得の為に修行をし、心と体を鍛える人間形成の道。それが纏道」
「纏道か、ふむふむ」
王は顎に手を付き目を瞑って考える。
「・・・良かろう。今度から鬼麻纏流のことは新しい武術として纏道と呼ぶこととする」
こうして新たな武術である、鬼麻纏流改め、纏道が生まれたのだった。そして王は視線を夕日に移した。
「早速本題に入ろうか」
夕日はある目的を持って武術大会に参加した。もちろん体の調子を確かめるというのも理由の1つだがそれはほんの些細な理由だった。
(信じてもらえるかわからない。でも、国の協力を借りるのが1番いい。勝って協力をしてもらうためにこの大会に出たのだから)
王は神妙な面持ちをし、口を開く。
「龍崎夕日。君が望むものは何だ」
「・・・俺が望むのは」
夕日は、その言葉の続きが出てこない。口に出そうとしても遮られてしまう。
(怖い。・・・でも、言わなければ)
そうして夕日は、ゆっくりと言葉を出す。
「神を・・・神を倒す手助けをしてほしいんです」
瞬間、空気が変わった。部屋の中が一瞬で冷たくなる。夕日のその発言に王は口をワナワナさせ始めた。
「何を言っとるかこの馬鹿者!!」
王は声を荒げる。夕日が地雷を踏んだのは明らかだった。
「神を倒す?何を言っとるかわかっているのか!!」
部屋での騒ぎを聞きつけた王の家族が、何事かと部屋に入ってくる。部屋に入ってきたのは妻と娘。王は家族が入ってきたことにより、ごほんっと咳をして頭を冷ます。そして再び喋り始めた。
「何でそんなことを思うようになった?」
「王様。実を言うと・・・俺はこの世界の住人ではないんです」
「は?」
王様は驚きに声をあげ、その場に立ち上がり固まった。途中ハッとし、椅子に座る。椅子に座った王はどういうことかと説明しろと目で促してくる。それを確認し夕日は喋り始めた。
「俺は地球と呼ばれるこの世界とは違う別世界。地球から来ました」
「地球・・・」
「俺が天球に来た理由は地球に天球の神が攻めてきたからです」
「なんだと!?」
「天球の神はたくさんの魔物を地球に送り込んできました。誰かが神を倒さなければ地球は滅んでしまう。そういう理由で俺は地球の神にこの世界に転生させられました」
夕日は地球から天球に転生した経緯を話した。ただ、転生する前のことは伏せて。話を聞いていた王は疑惑の目で夕日を見ていた。
「何を言い出すかと思えば」
大きいため息を放ち、肩を落とす。
「そんな作り話し誰が信じると言うんだ?そもそも神がそんなことするわけ無いだろう?」
王は全く信じていなかった。王の妻も王と同じ意見のようだ。だが、娘の方はそうでもなかった。
(やっぱり信じてもらえないよな。・・・これから俺はどうなるのだろうか)
悪い想像が夕日の頭の中を駆け巡る。だが、その思考はすぐに遮られた。
「お言葉ですが王様」
「なんだ?」
「夕日が言っていることは本当です」
シャルネアが王に進言した。夕日はシャルネアの声を聞き、暗くなっていた表情を少し明るくさせた。
(シャルネア・・・)
だが、シャルネアの言葉も虚しく、王様は一向に信じようとしない。駄目かと思ったその時、王に発言する者がもう一人いた。
「お父様」
とても透き通る、天使のような声。身長は150センチくらい。とても愛らしい顔立ちをしている。
「その者は嘘などついておりません」
(えっ!?)
発言したのは王の娘だった。それも夕日の話しを肯定する内容だった。予想外の発言に夕日とシャルネアは驚きを隠せなかった。
「ほう。だが、先ほども言ったように神がそんなことするはずがないだろう?」
「お父様。私のスキルのことはわかっているはずです。嘘を言っているのかわかるということも」
「そうだが、しかし、そんなことあるはずが・・・」
言葉を途中で切り、王はしばらく無言になった。そして再度口を開く。
「・・・もし、君が言うことが本当だとしたらこれは非常に問題だ。この世界の神『ガゼイン』様はとても神聖で高貴なものとして崇められている。決して人の命を故意に奪おうなどとしない。逆に人間の命を大切にする心ある神なのだ。そしてこの世界の神は『ガゼイン』様だけ。信者もごまんといる。もし神が人を殺めているとあれば、信者たちを裏切ることでもあるからな。・・・それで君は私に何を望むんだ。手助けと言っても王様という立場上、やってやれることは少ないぞ」
「そ、それは」
夕日は王に事の顛末を話せば何とかなると思っていた。だが、神のこととなると王と言えど何をすればいいのか全くわかっていなかった。
「お父様。私にその手助けをさせてもらえないでしょうか」
「ティリサ。何を言うか!!」
「私は第二王女、家督は継がなくていいはず。それに、私は外の世界を見てみたいです」
王様の娘、ティリサは夕日はを見て喋ったあと、王様に向き直しそう言った。娘からの切実な願い。王はまたしても考える素振りを見せる。
「・・・どうせ行くなと言っても行くのだろう?」
王のその言葉は肯定を表すものだった。
「お父様!!」
ティリサの表情がパアッと明るくなる。だが、今の今まで傍観していた王の妻、王妃は顔を
「ちょっと貴方。それでいいの!?」
「お前もわかってるはずだ。あのスキルを持って産まれた時点で
いずれこうなることは。戦いの道具になって欲しくなかった。そうして長い間城に閉じ込めていたが、それも今日で終わりだな。王ではなく親として思う。ティリサには縛られずにもっと自由に過ごしてほしい。その方がティリサは幸せになれる」
「貴方・・・」
王妃様もその事について否定はしなかった。
「お父様、お母様。ありがとうございます」
「だが、ティリサ。身分は隠すように」
「わかりました」
夕日もティリサが旅に着いてくることに異論はなかった。だが、使えるかは別だ。使えなければあまり着いてくる意味はない。夕日は先程から気になっていたスキルのことについてティリサ話しかける。
「えっと、ティリサさんだっけ?」
「はい、ティリサ・キャストレです。歳は18歳です」
ティリサは夕日と同じ18歳だった。そこに妙な親近感を覚える。
「それで、君のスキルっていうのは?」
「私のスキルは『親しい者の魔法が使える』というものです」
「つまり、どういうことですか?」
「そのまんまの意味ですよ。私と親しければその親しい者が使う魔法を私が使うことができるんです」
「えっ!?」
ティリサの夕日以上に規格外なスキル。そのスキルは悪用されれば国を滅ぼし得る力となってしまう。それを王は恐れていたのだろう。
(なるほどな。だから城に匿っていたのか。1番安全な王城に)
だが、今日、王は一国の王としてではなく、親としての選択を選んだ。
「でも、条件があるんです」
「条件ですか?」
「はい。魔法使用時に心が通じ合っていなければ魔法使えないという点です」
「魔法が使えない?」
「そうです。私のスキルは少々厄介でしてまず親しい者であること。それと親しい者の使う魔法を私が使うとき、その人と感情が通じ合っていなければならない」
「でも、その条件さえ達成できれば魔法はなんでも使えるということですか?」
「そうなりますね」
条件あるとはいえやはり強い。だが、そのスキルは夕日のスキルと相性が非常に良い。夕日は言っていなかった自身のスキルのことについて話すことにした。
「王様」
「ん?なんだ」
「実は俺もスキルを持っているんです」
「何と!!君もか」
「はい。と言ってもこの体にもともとあったんですけどね」
「君が転生した体にか?」
「そうです。俺たち地球人は魔力を持ちません」
「そうなのか」
「なので魔力を持たない俺こちらで生きていくには魔力を持つ体にしないといけません。そこで地球の神は俺の魂をこの体に入れることによってこちらで生きていけるようにしたわけです」
「なるほどな。転生してきた、か。・・・それでは、君はここがどこかもあまりわかっていないのか?」
「そうですね。色々あって聞く暇もなかったといいますか」
「そうか。それでは改めて。・・・私はこの国『キャストレ』の王だ」
「『キャストレ』・・・」
夕日は、天球に来て初めて国の名前を聞いた。
「ざっと教えたところで話しを戻そう。それで、スキルはどんなものだ?」
「『感情により使える魔法が変わる』というものです」
「なんと!!それはすごいな」
夕日のスキルについて聞いた王は、驚きに目を見開いている。それは王妃もティリサの同じだった。
「そうか。それはなんとも相性がいいな」
「そうですね。まさか夕日さんもスキルを持っているなんて驚きです」
彼女、リサはとても明るくて元気な笑顔でそう答えた。
「それで、くれぐれも神を倒すなどと他の者に知られてはならんぞ」
リサの笑顔を打ち切るように王様は真剣な面持ちで夕日たちに警告を入れる。急に変わった空気に夕日も気を引き締めた。
「心に刻んでおきます」
「・・・それでこれからどうするんだ?神を倒すと言っても全く検討もつかないが」
それは夕日にもわからない。だが、とりあえず力はつけなければならない。その過程で神を倒す方法を見つければいい。そう思う夕日だったがティリサの言葉で考えを改まらせる。
「そういえば神話の中にこんなことが書かれてありました。魔界のさらに奥に神界と呼ばれる場所があると」
この国、人間の国の北側には魔界がある。人は魔界があるというのは知っているが、行ったことのあるものはほとんどいない。さらにその北のほうとなると未開拓地帯だ。
「神話によると神界には絶対神『ガゼイン』が住んでいて、さらに天使と呼ばれる存在もいると。そして魔物と魔族が住んでいる魔界。ここを通らないといけません」
「それじゃあ、神を倒すためには魔界に行ってから、神界に行かなければならないのか。海から天界まで行けないのか?」
「神話には天界は陸からではないと入れないと書いてあります。おそらく何か魔法的な力が働いているのでしょう」
神を倒すだけじゃなく、魔界にまで行かなければいけない。だが、ここで1つ夕日は疑問に思う。
(なんでそんな魔物とか魔族とかがいる魔界が近いのに、こちらに攻めて来ないのだろうか)
「大方話もまとまったところで夕日君。今日はもう遅い、ぜひ夕食をどうかね?」
呼び方が変わった。王が夕日に気を許したのだろう。夕日王様から食事のお誘いに、外を見る。話していて気づかなかったが今は19時。辺りは真っ暗だ。
「そのいいんでしょうか」
「いいもなにも夕日君には私の娘を預けるのだから、色々娘のことについて知ってほしくてな」
「そ、そうですか。まあ、特に断る理由もないですし。いいですよ」
「そうか、そうか」
その後、夕日たちは王様たちと一緒に食事をとった。その時、夕日はずっと王様からリサのことを生い立ちから今まで、たっぷりと聞かされていた。夕日はその話を聞き、ティリサがとても親に愛されてると思った。と同時にそのことがとても羨ましく感じた。食事を終え、宿に戻った。夕日は早速明日から力を身につけるため旅に出ることにした。夕日は、感情を知ることが神を倒すの近道考えた。夕日のスキルである「感情によって使える魔法が変わる」という性質上、感情を知ることが力をつけることに繋がる、だから色々な心のスペシャリストに会い、一緒に過ごし感情を学ぼうという訳だ。明日から旅に出るということは今日はシャルネア過ごす最後の日ということになる。シャルネアは夕日と一緒に旅には行けない。彼女は王都で纏道を教えることになっているからだ。
「シャルネア」
「なんだ?」
「短い間だったけど・・・その・・・ありがと、な」
「礼を言われる筋合いはないよ」
その返しにシャルネアらしさを感じ、夕日は胸が苦しくなった。
(シャルネアらしいな。・・・これで最後か)
「・・・おやすみ」
「ああ、おやすみ」
シャルネアと交わす最後のおやすみはひどく悲しいものだった。
ついに第一章終わりました。第一章最後にしてヒロインが出てきましたね。やっとですよやっと。それにしても結構強い予感。そして、次はいよいよ第二章。これから色々な感情を学ぶため旅に出ます。感情を知ることこそ夕日の力になっていきます。