第12話 武道大会(2)
武道大会2日目。準々決勝は、12時からとのことで俺は11時50分くらいに闘技場に着いた。場所は昨日と同じ。だが、昨日とは違いここにいるのは勝ち上がった8名と観客のみ。闘技場の中は緊張感で針積めている。そんな中、緊張感のないやつがいた。今は仲間とおぼしき人と喋っている。昨日の青年だ。観客席には青年の応援団?らしき人たちがいた。そんな人たちに青年が手を振るとたちまち歓声が上がる。俺と青年を除いた6名は、青年を疎ましそうな目で見ていた。
「ただいまより準々決勝を始めます。勝ち上がった者はトーナメントに従い、各コートに分かれてください」
準々決勝の始まりを告げるアナウンスが闘技場内に響き渡る。先程まで仲間たちと喋っていた青年も今は口を閉ざしている。仲間たちが頑張ってください等と言っているが返事をしない。それほどにまで集中をしている。
俺たち8名はトーナメントに従いコートに分かれる。コートは全4コート。各々決められたコートに入る。そして、最後の1人がコートに入った。
「それでは準々決勝を始めます」
最後の1人が入ったことを確認してアナウンスがそう告げる。
「それでは、始め!!」
こうして大会2日目の準々決勝が始まった。
と同時に2つのコートで決着が着いた。1つは俺のコート。そしてもう1つはあの青年のコートだ。もちろんというか勝ったのは俺と青年。俺はいつも通り試合開始と同時に相手に詰め寄っい顎を殴り、意識を奪おうとした。だが、相手もバカじゃない。俺の試合を見て対処法を考えたのだろうか、一発で終わらないように両腕をきっちり合わせ、顎へのパンチをガードする体制をとっていた。攻めを止め、守りに入る。それは良いことだが守りに入った時点で相手の負けは確定している。俺はすぐさま相手の背後にまわり、首を絞める。相手が落ちるのはそう早くはなかった。こうして俺の勝利が決まった。
青年の方はというと、青年が何かした瞬間に相手が地面に倒れ、腹を押さえて悶えていた。審判に再起不能と判断され青年の勝利となった。俺は青年が何をしたかわかっている。ただ腹にパンチをしただけだ。しかし、そのパンチは俺にもギリギリ見える速さで繰り出したパンチだった。これは厄介だな。それに彼は終止笑顔だった。試合が終わった今も彼は笑顔だ。彼がこちらを見る。俺はそのにこやかな表情を見て、戦慄を覚えるほかなかった。
少し時間がたって他の試合も終わった。残ったのは4人。このまま行けば問題なく決勝には行けるだろう。がしかし決勝で勝てるかわからない。
決勝に上がってくるのはほぼ確定であの青年。彼の武術のレベルとしてはシャルネアにひけを取らない。そんな化け物(シャルネアのことは断じて化け物とは言っていない)と闘わないといけないのだ。
「準決勝に残った4名は各々決められたコートに入ってください」
一抹の不安を感じながら決められたコートに入っていく。相手もコートに入ってきた。
「!?」
俺は驚きを隠せないでいた。それもそのはず相手の身長は優に2メートルを越えていた。さらに横にもデカイ。筋肉隆々で全身ムキムキ。俺は今からこれを相手にするのか。この大会初めての焦りが生まれる。シャルネアの記憶にもここまでデカイ相手とは闘った記憶がない。ここからは俺が考えなければ。
「これより準決勝を始めます」
色々考えているうちに試合が始まりそうになっていた。
「それでは、始め!!」
俺はいつも通り相手に詰め寄る。ただ、このパターンは何回も試合で見せてきた。当然相手も対処法を考えているはず。だから、一か八か相手に賭けることにした。俺は相手を信じ、詰め寄る。相手はそれを待っていたかのように筋肉隆々の右腕を後ろに引き、思いっきり前に突きだしてきた。俺はこれを待っていた。俺は賭けに勝つことができた。相手の力あるパンチをそのまま避ける。相手がその反動でバランスを崩した。すかさずれは相手の足を引っかけ仰向けに倒した。
「参った」
俺の右手の突きが相手の顔面寸前で止まっていた。相手が負けを認めたことにより俺は勝った。
何とか勝てた。ただ、正直危なかった。あの賭けが外れていたと思うと不安で胸が潰れそうになる。だが、そんなことを考えてる暇はない。隣で行われている試合は終わっていた。勝ったのは青年。これで決勝は青年と俺の一騎討ち。正直勝てるかもわからない。だが、俺は勝たないといけない。相手が強かろうが俺は絶対勝つ。少し休憩の入ったのち遂に決勝戦が始まる。
「・・・」
「・・・」
決勝のコートには俺と青年。先程わかったことだがどうやら青年はディルナンド・クルシェというらしい。名前からしてイケメン感と強者感がする。俺たちはお互い睨み合っている。ただ、俺は無表情でディルナンドはにこやかにだが。
「これより決勝戦を始めます。なおこの決勝戦は国王も観られますので、お粗末な試合はしないよう心掛けてください」
そんな念押しされてもな。まあ、俺と青年以外の試合がお粗末だっただけに仕方ないのかなとも思う。
俺とディルナンドの間に緊張感が生まれる。
「それでは、始め!!」
俺が攻撃を仕掛ける前にディルナンドが攻撃を仕掛けてきた。ギリギリ見える速度で放たれる右の正拳突き。腹目掛けて放たれる。俺は即座に後ろに飛び退く。そして、直ぐに反撃に出る。一瞬で間合いを詰め、顎に狙いを定め拳を放つ。だが、拳は顎に届く前に下に叩きつけられた。そこからは一進一退の攻防戦。だが、徐々にディルナンドに押され始めていた。ディルナンドが俺に生まれた隙にここぞとばかりに左の正拳突きを放つ。俺は反応が遅れる。ヤバい負ける。そう思ったときにふとディルナンドの顔が見えた。案の定彼は笑顔だった。その笑顔を見て俺はあることを思い出す。
『楽しい試合にしましょう』
俺はこのまま普通にしていたら負けてしまう。そう普通のままなら。俺はまだ、鬼麻纏流の真骨頂を出していない。今まではただ、己の鍛えた体とシャルネアから共有してる記憶を使い、相手と闘い倒してきた。だから、俺は鬼麻纏流の奥義を使うことにした。
「もらったー!!」
ディルナンドが放った拳は空を貫く。
「え?」
彼が驚くのも束の間、彼は腰から折れ、地面に倒れる。
「な、、に、、、が」
こうして彼は意識を失う。
この光景を目の当たりにしていた観客たちは
「・・・」
しばし沈黙に包まれたのち、今までにない歓声を上げた。
俺が使ったのは魔法ではない、自身に魔力を纏い、身体能力を上げた。そして、ディルナンドの背後にまわり、後は素早く首裏に手刀を入れ意識を奪ったのだ。俺は「ふぅ」とため息をつく。色々不安はあったもののなんとか勝つことができた。俺は真っ先にシャルネアがどんな表情をしているか気になった。シャルネアのことだし当然だろみたいな表情でもしているのかななんて考えていた。観客席を見る。シャルネア昨日と同じ場所にいるはずだ。そう思いシャルネアを探す。
「いた」
シャルネアに声を掛けようとしたが、直ぐに止めた。シャルネアはこっちを見向きもせず、誰かを見ている。ただ、シャルネアの表情がとても強張ったため声を掛けるのを躊躇ったのだ。
「誰だあれ?」
シャルネアが見ているのはダンディーな男性とその妻と思われる女性、そして、その娘らしき人。娘と言っても子供ではなく大人だ。その娘はどことなくシャルネアに似ている。しばらく眺めていると視線が合ったような気がした、というかずっとこっちを見ていた。その男性は急に座っていた椅子から立ち上がり、こちらへ向かってくる。なんだなんだ?何か俺に用かな?いや、でも俺に頼むような事なんてないだろ。彼はどんどん近づいて来る。そして、俺の目の前に立ち止まった。時刻は16時。日が沈みかけ、町並みが真っ赤に染まるなか俺の頭は疑問でいっぱいだった。