第11話 武道大会(1)
武道大会予選当日。時間にして11時ちょうど。これまでは自分の体感でおおよその時間を出していたが、この世界にも時計と似た魔道具がある。形も大きさもほぼあっちの世界にあるものと同じ。魔法に携わるものならほとんどが持っていて、価格は比較的安いということなのでシャルネアに買ってもらった。俺は金を持っていない。故にセルフィスには服を買ってもらい、シャルネアには魔道具を買ってもらった。いつか代金を返すと言ったのだが、いらないと言われてしまった。なんにせよ、これで正確な時間がわかるようになった。今いる場所は王都内の闘技場。マルグリアはここで日々魔法技術の研鑽を積んでいる。そんな闘技場で、武道大会は2日間行われる。予選開始は11時15分。エントリーは闘技場に来る前に皆済ませている。だから、今ここにいる人は全て敵ということだ。その数516名。予選形式は完全トーナメントとなっており、当然シードとかはない。2日前に開催するといったのにも関わらず、なぜこんなに人が集まったのかというと、やはり優勝特典が最大の理由だろう。そんな中、王様に願いを聞き入れてもらうためには全516名の頂点に立たなければならない。
俺は辺りを見回す。見る限り、直感で強いと思うやつはいなかった。ただ、これは直感での話。実際に闘ってみないことにはわからない。そうこうしているうちに予選1回戦の選手が次々呼ばれていく。参加選手には各々番号が振られており、俺は78番だった。
俺が呼ばれるのはまだまだ先かな。呼ばれるまでの間、皆がどれ程の強さなのか判断するため、今行われている試合を観ることにする。
「!?」
なんだこれは?
シャルネアの記憶を共有している今の俺ならわかる。はっきりいって酷い。この国の武術のレベルの低さがここまでだったとは。呆れて溜め息を漏らしてしまう。シャルネアはこれを観て、どう思ってんのかな?俺はシャルネアがいる観客席に視線を動かした。この闘技場は、真ん中に闘技スペースがあり、それを囲うように観客席がある。シャルネアを視界に捉える。シャルネアも俺と同じように溜め息を漏らし、ひどく呆れていた。試合は直ぐに終わった。ほとんど子供と子供の試合。特に面白味もないまま着々と予選は続く。
「130番と78番 試合コートに入ってください」
俺の番号が呼ばれた。試合は12メートル四方のコートの中で行われる。俺はコートに入る。少し遅れて相手もコートに入る。
「勝利条件は相手に参ったと言わせるか、再起不能にさせることです。なお、相手に致命傷を与えることは禁止とし、一発退場とさせて頂きます。あと、もちろんですが魔法の使用は禁止です」
場の緊張感が高まる。
「それでは始め!!」
「よっ・・・」
審判の女性が試合の始まりの合図を言ったのと同時に試合は終了した。
「え!?」
審判の気の抜けた声が静かなコートに響く。
それもそのはず俺は試合開始と同時に相手の懐に飛び込み、顎を下から殴り、一瞬にして意識を奪ったのだ。その証拠に相手はコート上に倒れ、何も発しない。否、発することができない。
それとなんか相手さん、喋ろうとしていたけどまあいいか。
「え、え、えっと、勝者78番 龍崎、夕日」
「「おーーーーーーーーー!!」」
闘技場内は今日一番の歓声が上がる。と言ってもその前の全ての試合、レベルが低すぎて歓声すら上がっていなかったのだが。
俺は勝ったことに対し特に思うこともなくそのままコートを後にする。と、誰かが俺に鋭い視線を送ってきていることに気づいた。敵意を持っている視線だ。気配のする方向を見るも誰も居らず、俺に対する鋭い視線もなくなっていた。
それから30分後、第1回戦は終わり人数は半分の
258名になった。
続いて第二回戦の開始。これまた特に面白味もなく進んでいく。と思ったが突如闘技場内に歓声が響く。俺と同じくらいの歓声の大きさだ。俺は興味が湧き、その歓声の中心を見る。するとそこにいたのは18歳位の顔立ちの良い青年。その青年は勝つなり、観客に手を振る。
「「キャーーー!!」」
女性の甲高い歓声が響き渡る。その青年に群がっている男衆は、「隊長さすがです」などと言っていたのが聞こえた。察するにマルグリアぼ隊長なのだろうか。青年とその男たちの服にはセルフィスにもあった刺繍が入れられていた。だが、明確に違うことが1つ。セルフィスの刺繍と違い、青年の刺繍は金色の糸が使われていた。セルフィスの刺繍は赤色の糸が使われていた。多分だが色によって階級が分けられているのだろう。
「270番と78番 試合コートに入ってください」
と思考を遮るように2試合目を告げるアナウンスが流れる。俺はその場を後に、試合コートに向かった。
2試合目も1試合目と同じ様に一瞬で終わった。特に面白味もないので説明は省くとしよう。
その後も試合は進み、無事3試合目に突入。ちょうど先程から気になっていた青年の試合を観ることができた。結論から言うと、勝てるかどうか怪しい。なぜなら彼も俺と同じように相手を一瞬で倒しているからだ。こうなると正直どのくらいの技量があるか判断が難しい。幸いにも彼とは決勝戦でしか当たらないため、まだまだこの後の試合でも判断する時間はある。でも、その前に全試合勝たなければいけないのだが。まあ、大丈夫だろう。これは別に油断とかではなく事実から導き出されたものだ。色々試合を観た結果、あの青年以外特に強いやつはいなかった。
「45番と78番 試合コートに入ってください」
俺はコートに向かう。すると先程試合が終わった青年とすれ違った。
「楽しい試合にしましょう」
すれ違い際に彼はそう言った。
楽しい試合か。
コートに入り3試合目が始まった。
その後も俺は勝ち続け、遂に準々決勝まで来た。
準々決勝からは明日行われる。シャルネアと合流し、宿に戻る。
その時シャルネアが
「あの青年は強いぞ」
と一言。それ以降シャルネアは喋らずに黙々と歩く。多分、シャルネアが黙っているのは俺が疲れていると思い、配慮してくれたのだろう。だが今日は特に疲れていない。まあ、それでもシャルネアの配慮はありがたいなと思った。
そんな夕日の思考とは裏腹にシャルネアはただ、皆の武術のレベルの低さに驚きを隠せず、喋ることを忘れていただけだったのだが。
帰り道の途中、また銭湯に行った。その時に昨日会ったおじさんがいて、散々息子のことで励まされ、精神的に疲れ、宿に帰り、夕食を食べるや否や、直ぐに寝たのだった。