俺、転移したから幸せになる!
「おお! これが転移の感覚か!」
・・・
俺こと渋先涼也は高校二年生だ。クリスマスに彼女に振られ、絶望のどん底に叩き落とされていたとき、神は舞い降りた!
「哀れなる男よ、優しい僕が君にチャンスをやろう! クリスマスという素晴らしい日に男を振る最悪な女がいるこの世界で生きていくか、新たな世界で生きていくか、選ぶと良いよ!」
「か、神様!? どういうことですか?」
「君はそんな下らないことを聞いてチャンスを無駄にするんだね。あまりにも可哀想だったから手を差し伸べてあげたのに」
「行きます! 俺、異世界に転移して、彼女作って、幸せになります!」
「よく言った! 男はそうじゃないとね。じゃあ、今すぐ送るよ。君のこと、死ぬまで見守っててあげるよ」
「そんなに長く俺を見ててくれるんですね! 捨てる神あれば拾う神ありってやつですね、うぅ……泣けてきます…… 期待に応えられるよう、頑張ります!」
「アハハ、うん、そうなのかもね。期待してるよ、せいぜい頑張ってね」
神様は爽やかな笑顔で俺を送り出した! よし、やってやるぜ!
・・・
「ここは、草原か?」
丈が5cmくらいの草が見渡す限り生い茂っている。町はあるかなーっと、
「おっ、建物が2つあるな。真反対に建ってるってことは、ちょうど街と街の間か、ここは。よし、涼也の冒険、第1章の始まりだぜ! 待ってろ、未来の俺の彼女!」
意気揚々と歩き出す俺、何たって1歩目だからな。これからの楽しみに胸が膨らむぜ!
えーと、まずはチート能力で名声を高めるだろ? 次に、勝ち取った信頼と現代知識無双で大金持ちになるだろ? 多分この辺りで超絶美人の子と付き合い始めるんだろうな、完璧だぜっ!
……俺異世界チート能力もらってなくね? ぐがー! 神様に言っておくこと忘れた! 俺の計画成り立たねぇじゃん!
いや、待てよ。神様確か、見守っててあげる、とか言ってたよな。つまりだ、今はあげないけど、ピンチになったらあげるよ、ってことだな! 粋な演出してくれるぜ!
それで、次の現代知識無双だな。……俺特に何も知らなくね? なんかよくある、紙を作ってー、とか知らないけど大丈夫? 俺今まで使えるのが当たり前だと思って過ごしてからな、どうしようもないよ?
まぁ、何とかなるだろ! 最悪現代知識無双は出来なくても名声を稼ぐだけで十分だ。上手く行けば伯爵とかになれちゃったりして、へへ。
っと、だいぶ近くまで来たな、ってあれ? これ町じゃないじゃん? 何ていうの、砦? ちぇっ、アテが外れたぜ。
おっ、上から覗いてる人がいる。ここら辺のことについて聞いてみるか。
「すいませーん! 一番近い町って、どっちに向かえばいいですか?」
「―――――?」
? 何を言ってんのか分からないぞ?
「はっきり喋ってもらえませんかー!」
「――――――――――――!」
ダメだ、音は聞こえるけど聞き取れない。もう少し近づこう。
「――――――――――――――!」
「おわっ! いきなり何するんすか!」
突然足元に矢を打ってきやがった! 意味がわからねぇ、って、おい! 今度は完全にこっちに狙い定めてるよ!
「すいませんでしたって! 出ていくから怒んないでくださいよ!」
俺は元来た道を走って行く。ったく、何だったんだあいつ? もうちょい滑舌良くしろよな。
仕方ない、もう一つの方にでも行くか。
・・・
うん、知ってた。元来た建物が砦で、それと同じ形をしているってことは、これもまた砦ってことだよな。
はぁ、でも町の場所もわからないし、行って聞いてみるしかないよな。
「すいませーん!」
「―――――――?」
またか! マジで聞き取れないな、こっちの言葉……って、そうか! 異世界言語理解も貰ってないってことか!
「―――――――――――!」
コミュニケーションを図ることすらできないっていうのは、本当にマズイ。ものすごくピンチだ……つーまーりー?
「神様、今こそ俺に異世界言語理解を!」
おぉ! 一瞬自分の体が光った気がする!
「お前はさっきからなんの言語を話している! 早く出て行かないと撃つぞ!」
おー、ちゃんと聞こえる、分かる!
「いや、すみません。町はどっちにあるのかなぁ、と思いまして。教えてもらえませんかね?」
「先にこっちの質問に答えろ! なぜ急に言葉が通じるようになった!」
「えっと、それは……さっき向こうの砦で撃たれそうになって、パニクってたんですよ」
本当のことを言うよりは理解しやすいだろ。
「なに? 貴様向こうの砦から来たのか?」
「そういうことですね」
「おい! あいつらが仕掛けてきやがった! そこにいる変な服の野郎は、向こう側の間者だ、捕らえろ! その後、すぐに出陣だ!」
えぇ! 何でそういうことになるのさ! あの人鬼気迫る顔になってるし、冗談ってわけじゃなさそう!
に、逃げなきゃ!
「くそ、逃がすか!」
ドスッ! 左肩に焼け付くような痛みが! 痛い熱い痛い熱い! で、でも今は、逃げの一手が正解のはず! 逃げろ、俺はこんなところで死んでいられない!
はぁ、逃げきったな。といっても、初期転移位置、両砦の間まで戻ってきただけだけどな。
少し落ち着ける場所に来て、肩の痛みに考えがまとまらないながらも、一つの疑問が湧き上がる。
「さっきのは、十分ピンチだったんじゃないのか? どうして能力付与がない……」
考えられるのは二つぐらい。あの場はどうにか異世界言語理解だけで乗り切れる場面だったってことか、今のがピンチじゃないくらいのピンチがこれから待ち受けているか、だ。
前者ならいい、いや、良くはないけど、俺のミスで話が終わる。
だけど、仮に後者だった時、俺はその時与えられる能力でどうにかできるのか? いや、違う、どうにかしてみせるんだ。異世界転移何ていうありえないことが出来たんだ、どうにか出来ないわけがない!
2番目に行った砦から、軍隊が出発しているのが見える。最初に行った砦からもだ。そうだよな、2番目と同じことを最初にも言われてたはずだよな。
やばい、確かにやばい状況だ。だがしかし、だからこそここを打ち破れれば、俺は成長できる! やってやるぜ!
俺を中心として、両軍が対面する。こっからどうなっていくのかは、俺の交渉と、与えられる能力を使いこなせるかどうかだ。
「両軍聞いてくれ! 俺は異世界から転移してきた人間で、どっちかに属するものというわけではないんだ! 俺は何もしないから、そっちも俺に何もしないでくれ!」
さぁ、どうなる?
「イセカイってどういう意味だ! 通じない言葉を話したと思ったら、今度は意味のわからない言葉を発するか!」
「お前がスパイであるというのは、こちらの忠告を無視し、敵側の砦へ逃げていったことから明らかである! この期に及んで不干渉を要求するとは、虫がいいにも程がある!」
気が立ってる相手に交渉っていうのはどだい無理な話か。まぁ、それならそれで仕方ない。じゃあ……実力行使だ!
俺は近かった方の軍に向かって全力で走り、殴りかかる。反対の軍は……傍観するつもりらしいな。
「大人しく引き下がらなかったことを後悔させてやるぜ!」
思いっきり振り切ったところで、倒れる……俺の体が前に。
「離れろ! あれだけの自信を持って殴りかかってきて、それがあの素人丸出しの大振りパンチなわけがない! 罠だ!」
す、すげぇ恥ずかしい! けど、ここは、何度でもやってやるぜ!
「隊長! あいつ起き上がりました、顔が真っ赤です!」
「うむ、やはりそうか。油断して近づいてきたところに、炎熱系の術を当てるつもりだったのだろう。目論見が外れて、貯めたエネルギーを発しないために、必死に押さえ込んでいる、というのが今のやつの状況だろう」
確かに恥ずかしさで顔から火が出そうだけどな! 実際に出るもんじゃねぇよ!
「うおぉぉぉ!」
ひょい!
「やぁぁぁぁ!」
ひょい!
・・・つ、疲れた。当たらねぇよ、俺の拳……いつになったら能力付与が来るんだ。
「隊長、あいつめっちゃ疲れてます。今なら攻撃しても問題ないのでは?」
「わかった、反撃には十分注意しろよ」
「イエッサー!」
やばい、近づいてくる。殴らねぇと!
「ガァ!」
「そんなテレフォンパンチ当たるかっての!」
「ぐぇっ!」
これがただのボディブロー?背中まで衝撃が突き抜けた気がするぞ…… この世界の兵士はどれだけ強いんだ……
「問題なさそうだな。十分弱らせてから、首を落としておしまいだ」
「イエッサー!」
「ガッ! グッ! ごぇ! ゲボッ!」
も、もう無理。立ってらんねぇ……
「お前は結局何だったんだ? こんだけ弱いくせにイキリやがって、イセカイって言うのが関係してるのか?
まぁ、いい。せめて苦しまないよう一刺しで殺してやるよ」
ずっと殴ってきてた兵士が剣を抜いて、俺に振り下ろす。そんな絶体絶命の時、俺は……笑っていた。
(命の危機! これに勝るピンチはねぇ! 一体どんな能力が付与される!?)
剣先が俺の首の皮を少し突き破った時……世界が止まる。
振り下ろされていた剣も、風にそよぐ草花も、空を飛ぶ鳥も、全てが止まっていた。
(いよっしゃぁ! ついに来た! しかもこれは、最強と名高い時止め能力! これは勝った、人生バラ色確定だ!)
俺は間違っても剣が首に刺さっていかないように、慎重に動こうとする。
しかし、動かない。
(は? なんで俺の能力で止まってんのに俺が動けねぇんだよ! これじゃ状況の打開だなんて出来るわけねぇだろ!)
「はぁ、まだ気づかないのかい?」
(神様、来てくださったのですか! 気づかないのかい、とは何のことでしょう?)
「この世界の時が止まってるのは、君の力じゃなくて、僕の力によるものだってことだよ。
大体おかしいとは思わなかったのかい? クリスマスに彼女から振られたぐらいの不幸で、転移のチャンスが貰えるだなんてさ」
神様が突然変なことを言い出す。
(それは、神様の気まぐれじゃないんですか?)
「気まぐれ! 君は面白いことを言うねぇ。じゃあ、そういうことにしておいてあげよう。
他にも、異世界転移の時に与えられることが当たり前みたいになってる異世界言語理解が与えられないこと、街の近くに下ろしてもらえなかったこと、ましてや戦争中の地に下ろされたこと」
(戦争中? ここって戦争中なんですか? 俺が怪しいから討伐隊が出されたとかじゃないんですか?)
「服装が変わっている以外普通の君に対して、軍隊が出されることがあるとでも思ったのかい? おめでたい頭をしているね。
まぁ、だからこそ最初から間違えるんだろうけどね」
(間違える? どういうことですか?)
「だーかーらー、言っただろう? 振られるぐらいで転移が出来るわけがないって。そんなことで出来たら元の世界の人間は今頃いなくなっているだろうね。
つまりだ、転移するか、世界に残るか、の選択で、転移が誤った選択だと考えることがあったのかい? 無かっただろう? と言っているのさ」
(てめぇ! 俺を騙したな!)
「騙すだなんて人聞きの悪いこと言うなよ。僕がいつ、君を騙したっていうんだい?」
(神様が意図的に不幸な目にあわせるっていうのは、約束違いじゃないのか、って言ってんだよ!)
「あぁ! 君はまだ僕のことを神だと思っているのか、本当に可哀想なヤツだなぁ、君は」
(はぁ? 何言ってやがる!)
「僕は1度も自分が神だ、なんて言った覚えはない。君が勝手に勘違いしていただけだろう?
僕の正体はただの悪魔だからね、君は悪魔が悪いことをするだなんておかしい、とかいうふざけたことを言い出したりしないだろうね?」
(じゃ、じゃあ、俺はあれか? 悪魔の誘いに乗ってしまったってことなのか)
「文字通りね。まぁ、新しく与えられる選択肢がいつも素晴らしいものだ、っていうわけではないことを学べただけ良かったんじゃないかな?
君は少しばかり自分にとって都合がいいように考える癖があるみたいだからね」
(これから死んでいくっていうのに、どうやって学んだことを活かせって言うんだよ! この悪魔!)
「だから、悪魔だって言ってるじゃないか。でも、せっかく僕が教えてあげたことが無駄になってしまうっていうのは、悲しいなぁ。
そうだ! 僕と取り引きをしないかい?」
(取り引きだぁ?)
「そう、君も知っているんじゃない? 悪魔と取り引きする時の代償くらいは」
(……魂か)
「ご名答! といっても、君一人の魂ぐらいでそんな力を授けてやるつもりなんて、さらさらないけどね」
(じゃあ、何が必要なんだ! からかってるだけなのか!)
「ここにいる人間全員の魂、それが条件だ。達成出来なかった場合、君には死んでもらう。
もちろん楽に倒せるぐらいの力はあげるよ、これは約束だ。僕の魂に誓おう」
正直、俺を騙してた奴と取り引きだなんて、クソくらえだ。
しかし、死ぬほど嫌ではない、俺が死ぬぐらいなら、他のやつが死ねばいい!
(分かった、それでいい)
「いい返事だ、じゃあ、力をさずけよう」
ぐっ! 体の奥底から、ものすごい力が湧き出してくるのを感じる。これなら、負ける気がしねぇ!
「準備は出来たみたいだね。君の覚悟を見ることが出来て、僕は嬉しいよ。
今君に突き刺さりかけている剣に関しては、気にしなくていい。その程度なら弾けるような体の硬度にしておいたよ。それじゃあ、行ってらっしゃい」
俺をこっちに送り出した時と同じ笑みを浮かべて、悪魔は言う。だが、今はそれでいい。とりあえずは、こいつらを殺し尽くしてからだ!
「なっ! 剣が刺さらないだと!? ぐぎゃっ!」
俺をさんざん殴ってきやがった雑魚を、拳1発で消し飛ばす。あァ、人を殺すっていウのは、こんなに気持ちがヨかったのか!
「マズイ…… 何をしたのかは分からんが、雰囲気、いや、姿が急に変わった! 全員でかかれ!」
雑魚がまとわりついてきて、ウザってぇなぁ、おい!
オレは、尻尾を振り回し、ザコを吹き飛ばす。きんもちいぃぃぃ!
「オラ! もっトかカってこいよ! ツマンねぇんだヨ、おイ!」
しゃラクセぇ! ツッコンでブットバス!
オレは、ツバサデ飛んデ、テキを、コロス。コロス。コロス。
アァ? モういやがラネェのカ?
「素晴らしい! なんて凄まじい力なんだ!
ご苦労だったな、その力の秘密も気になることだし、私たちの砦についてきてくれ」
アー! マダ、後ろ二、イタ! オモチャ、マダアッタ! ヒャッハー!
「オモチャ、コワス、タノシイ! オレ、コワス!」
「ちっ、既に自我が無くなっていたか。仕方が無い、兵士諸君、あいつを殺して連れ帰り、研究するとしよう!」
「おおっ!」
ムカッテクル! ソレ、ラク! タノシイ! アハハハハハハ!
「おーおー、随分と派手にやったね。それでも、兵士を殺しきることには成功したようだね」
「キタカ、悪魔。契約、マモッタ。オレ、幸セ、ナル!」
「ん? じゃあ、君は、もう全員殺したって言うんだね? 間違いないかい?」
「ソウダ! 兵士、全員、コロシタ!」
「はぁ、君は契約を違えるんだね。それじゃあ仕方がないよね、死んでもらうよ」
「待テ! オレ、全員、コロシタ!」
「いやいや、一人忘れてるって。
僕は、人間全員って言ったんだよ、分かる?」
「ダカラ! コロシタ、イッテル!」
「本当に分かってないみたいだね。まぁ、分かってたらあんな契約受けるわけないから、知ってたけどね。いいよ、教えてあげる。
残っている1人は、君だよ、渋先涼也君」
「オ、レ?」
「そうだよ、君は人間だろう? それなら君も範囲内だ、君が認めればね」
「グ、グギャァァァァァァ!」
「認めたようだね、渋先君。君の道化っぷり、楽しかったよ」
「しかし、与えられる選択肢が素晴らしいものだとは限らない、って教えてあげたすぐ後に、僕の差し出した選択肢に乗っかるっていうのは、どういうことなんだろうね?
全く、人間っていうのは、理解できないものだ。
それに、まさか彼本当に死んじゃうとはね。あまりにも滑稽で見てて楽しかったからこそ、『悪魔になる能力』をあげたって言うのに。
自分で人間だと認めるだなんて、実は彼、自殺願望の持ち主だったのかな? 僕のあげたチャンスをふいにするだなんて、やっぱり人間は罪深い……」
読んでくださった方、ありがとうございました。
なんの能力も、確かな覚悟も持たない一般人が転移したら、実際はこんな感じにしかならないだろう、と思い、書いてみました。
もう一つの短編小説、KFCの方を見てくださった方へ。こっちの渋先君と向こうの渋先君は、同じ時期のクリスマスに彼女がいたか、いないかぐらいの違いしかない設定ですが、一応別人です。
「下剋上少女」という作品を毎日更新していますので、もし宜しければ、そちらもご覧ください!




